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Novelber/11:時雨

 女王国首都の地下迷宮『獣のはらわた』には未だに解明されていない不思議が山ほど詰まっている。
 例えば、地下であるにもかかわらず、四季と呼べるものがある、だとか。
 ぽつん、とフードに何かが落ちてきた感覚に『ヤドリギ』は少しだけ視線を上げる。見れば、ぽつ、ぽつと天井から水滴が不規則に降り注いでいるようだった。
「そうか。もう、そんな季節だったな」
 誰にともなく『ヤドリギ』は呟く。
 地下迷宮にも雨が降ることがある。もちろん、天蓋から降り注ぐ雨とは異なり、ごつごつとした天井から水滴が落ちてくるというだけの話なのだが。常にそうなっている、もしくは不定期にそうなる、というならともかく、どうもこの「雨」はとある時期になると、特定の場所に降り注ぐものであるらしいことが、長い『はらわた』暮らしでわかってきた。
 故に『ヤドリギ』はそれを「時雨」と呼んでいる。外の暦では実季に降る雨。何故かここでも同じくらいの季節に降る雨。
 かつて、この場で女王エリアに打ち倒されたという名もなき巨大な鉱物獣は、果たして季節を感じるような魂魄を持っていたのだろうか。『ヤドリギ』が胸の内で問いかけてみても、獣の死骸たる『はらわた』は答えない。ただ、ただ、『ヤドリギ』の外套にしとしとと雨を降らせ続けるだけだった。
 
(地下迷宮『獣のはらわた』にて)

あざらしの餌がすこしだけ豪華になります。