青い春とはよく言ったものだ

不思議なことに、良い記憶というのは時が経てば経つほどに美しく彩られていくものである。
かく言う私にも、平凡ではあるが良い記憶というものが存在している。

あれは、女子高生という総称が当てハマるうら若い時分。青春に相応しいはずの登下校時、青春には程遠く1人で過ごしていた。
語弊が無いように補足しておくと、数人の仲の良い友人はいる。

学校から駅の道中15分、父親に買ってもらった赤いMP3ウォークマンを制服のポケットに入れ、ダウンロードした100曲以上の曲をシャッフルして聴きながら、まるで自分がミュージカルの主役にでもなった気持ちで過ごしていた。
もしくは、地方と呼ばれる場所でも、田舎に位置している私の故郷は、登下校時に田圃から殿様蛙の大合唱が聞こえるので、その音を搔き消すためだったかもしれない。よく覚えていない。

私が利用していた駅は、ほぼ無人駅だった。駅員がいるかいないか分からないほど出てこないので、ほぼ無人駅。その駅はちょうど、道路を挟んで向こう側にあった。これぞ田舎の駅と呼べるその駅は、改札の手前に2人座れるくらいのベンチが置いてある。

それは、風が気持ちの良いある日の帰り道だった。
そのベンチに、2人の男女がいた。
その日は、どこぞの狐が嫁入りしていそうな天気だった。
男子学生がおもむろに制服のベストを脱ぎ女学生へ渡す。女学生は笑いながらそれを受け取り、着用した。
私はその様子を傘をさしながら、道路を挟んだ向こう側から見ていた。

奇しくもその時、シャッフルされた曲は愛唄である。
そしてうら若き私は思った。

ああ、青春だなぁと。

ちなみに私自身の高校生活にそんな美しい記憶は今のところ無い。

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