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新国立劇場バレエ団「ホフマン物語」レビュー


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構成がやや複雑。
簡単に説明すると「ホフマンを主人公とした4つの失恋物語」。
失恋の原因はいずれも悪魔の邪魔による。

構成はいわゆる「枠物語」。
物語の大部分はホフマンの3つの失恋についての回想だ。
第1幕、第2幕、第3幕でそれぞれホフマンは1回ずつ失恋する。
それをサンドイッチするプロローグとエピローグが「現在」で、
最終的にエピローグでホフマンは4回目の失恋を経験することになる。
第1~3幕はE.T.A.ホフマンの短編小説を原作としている。
バレエ「ホフマン物語」では原作者のホフマンが主人公として登場し、3つの物語を渡り歩いていくという洒落た構成だ。
 
バレエを鑑賞したことのない人のために一応書いておくと、バレエのストーリーラインを知識なしで追うのは困難だと思う。
ミュージカルと違って台詞と歌がないため。
準備なしで楽しめるミュージカルに比べると若干とっつきにくいかもしれない。
(ミュージカルも慣れていないとストーリーを追うのが難しい作品はあるけど)
踊りの美しさを楽しめればいいならそのまま観に行ってもOK。
でももし、ストーリーラインを追いたいのであれば舞台を観に行く前に原作小説や公演プログラムを読んだり、事前にあらすじを調べることをおすすめする。
小説で例えるならそれぞれミュージカルはエンタメ小説、バレエは純文学小説に近いかもしれない。
ミュージカルに比べてバレエは能動的な鑑賞姿勢を要求してくる。
私の感覚だけど。

「ホフマン物語」の公演プログラム。劇場でもらえる。


 
さて「ホフマン物語」の話に戻ろう。
以下、ストーリーの詳細。
 
【プロローグ】
ホフマン(奥村康祐さん)の現在の恋人はオペラ歌手のラ・ステラ(渡辺与布さん)。
ホフマンは友達と酒を酌み交わしながらラ・ステラを待っている。
テーブルの上にはホフマンの過去の恋にまつわる3つのアイテム。
ホフマンの友達は「それなに?」としきりに聞いている様子。
ところがホフマンは話したがらない。
ラ・ステラは恋人のホフマンに手紙を書いて侍女に届けさせる。
ところが手紙はホフマンではなく、ホフマンの恋路を邪魔する悪魔の手に渡ってしまった!
悪魔はこのプロローグのパートにおいてリンドルフ議員(中家正博さん)の姿をとっている。
悪魔(リンドルフ議員)はどうやら今回もホフマンの恋路を邪魔しようと考えているらしい。
友人たちに酒を飲まされて酔ってしまったホフマンは、ついに3つのアイテムにどんな失恋物語があるかを語り始める。
 
【第1幕】
1つ目の失恋物語。
なんとホフマン、人形のオリンピア(奥田花純さん)に一目惚れしてしまう。
悪魔から渡された魔法のメガネのせいで人形が人間に見えてしまったのだ。
ホフマンはオリンピアを作ったスパランザーニ(正体は悪魔)に「オリンピアと結婚したい」と申し出る。
スパランザーニはホフマンが騙されていることに大喜び。
スパランザーニから結婚の承諾を得て有頂天のホフマンは、オリンピアと踊る。
ところが踊っている最中に魔法の眼鏡をなくす。
するとオリンピアがばらばらになってしまい、ホフマンはオリンピアが人形であることに気付いた。
人形と恋する人間を描くストーリーはバレエ作品「コッペリア」に似ている。
 
【第2幕】
2つ目の失恋物語。
人形に恋をした10年後。
ホフマンはアントニア(小野絢子さん)に新しい恋をしている。
アントニアはホフマンの音楽の師の娘。
師に隠れてホフマンはピアノを弾き、それに合わせてアントニアが踊る。
今回の恋人は人形ではない!
しかし2人を見つけた師はホフマンを追い出す。
アントニアは謎の病気を患っていて、過度な運動は危険らしい。
そこに現れたのがドクター・ミラクル(正体は悪魔)。
彼は「アントニアを治す」と言って催眠術をかけ、アントニアに「自分はすばらしいバレリーナだ」と思い込ませる。
アントニアは踊りたくてホフマンに「ピアノを弾いて」と頼む。
ホフマンはピアノを弾き、アントニアは踊り、ホフマンの腕の中で息絶える。
……なんて美しく幻想的なストーリー。
と思うのも、類似のバレエ作品があるからかもしれない。
「ジゼル」だ。
死ぬまで踊る女性とそんな女性に恋する男性。
この「死ぬまで踊る」系のストーリーってなんか人気あるよね。
アンデルセン「赤い靴」もそうだし。
アンデルセンはバレエファンだったから「ジゼル」の影響を受けたって説もあるかな。
 
【第3幕】
3つ目の失恋物語。
歳を重ねて分別のある大人になったホフマン。
なんと過去の恋愛での傷を癒すため出家していた。
ある日ホフマンはダーパテュート(正体は悪魔)のサロンに行く。
そこに現れたのが高級娼婦のジュリエッタ(米沢唯さん)。
禁欲的な信仰生活をしていたホフマンだが、ジュリエッタにどうしようもなく惹かれてしまう。
ところがダーパテュートはジュリエッタを連れて鏡の向こうに消えていく。
この第3幕の解釈が1番難しかった。
公演プログラムにはこう書いてある。
「彼女(ジュリエッタ)はホフマンを誘惑し、彼は信仰を放棄するが、鏡の中の自分の姿が消えているのを見て、自分の不滅の魂が失われたことを知り、正気に戻る。苦悶のうちに許しを乞い祈るホフマン。彼の姿が再び鏡の中に現れるとダーパテュートはジュリエッタと共に鏡の中へと消える」
……誰か解釈できますか?(教えてほしい)
(後日、原作小説を読んだ。
ホフマンには妻子がある。
ところがジュリエッタは圧倒的魅力でホフマンを誘惑。
ジュリエッタはホフマンに「あなたの鏡像をちょうだい」と言う。
ホフマンは了承してしまい、鏡に映ることができなくなってしまった。
「自分の不滅の魂が失われたことを知り」の部分は舞台版オリジナル?
ホフマンは敬虔な信仰心のために不滅の魂を手に入れたけど、
ジュリエッタに鏡像(魂のかけら)を奪われたことで、
老いて死ぬ人間に戻ってしまった、ってことかな。
「苦悶のうちに許しを乞い祈るホフマン」は、
神様に「もう二度と誘惑に負けません!だから不滅の魂を返して!」と祈ったけど、
時すでに遅し…みたいな意味ということで、納得することとした)

バレエの類似作品は……思いつかなかった。
「禁欲的な生活を送る聖職者が魅力的な女性にどうしようもなく惹きつけられてしまう」ストーリー。
小説ならスタンダール「赤と黒」が近いかな?
もっと「これ」ってものありそうだけど。
 
【エピローグ】
……というような具合で、酔いに任せて過去の失恋物語を語り尽くしたホフマン。
そんなホフマンのもとに現恋人ラ・ステラが到着するが、ホフマンは酔い潰れてしまう。
「さあ行こうか」とリンドルフ議員(正体は悪魔)はラ・ステラをエスコート。
リンドルフ議員はラ・ステラと舞台を去っていく。
目を覚ましたホフマン。
「まさか今回も悪魔が!?」
呆然と舞台にたたずむ。幕が降りてくる。エンド。
 
バレエ「ホフマン物語」では一貫して悪魔がホフマンを陥れる。
悪魔が人間の男性を騙すストーリーはバレエ作品「白鳥の湖」にも描かれる。
バレエの名作をぎゅっと詰め込んだような演目だった。
 
ちなみに原作はE.T.A.ホフマンによる3編の短編小説。
第1幕の原作は「砂男」。
第2幕の原作は「クレスペル顧問官」。
第3幕の原作は「大晦日の夜の冒険」。
 
バレエ「ホフマン物語」の初演は1972年、グラスゴーにて。
ピーター・ダレル(1929-1987)の振付だった。
ダレルは「オネーギン」「マイヤーリング」など男性主人公の演劇的な作品が得意らしい。
(「マイヤーリング」は宝塚で舞台化されている。詳細は以下を参照。
宝塚花組「うたかたの恋」レビュー|青野晶 (note.com))
 
「ホフマン物語」はホフマンの小説を贅沢にバレエ化した舞台だった。
ストーリーも衣装もミュージカル感が強くて好み。
それにしてもバレエダンサーはみなさん本当に美しかった……。


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