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人類が「技術」に置いていかれる日

諸悪の根源?ブルーライト

 厚生労働省の調査によると、2006年の時点で日本人の5人に1人が「何らかの不眠を感じる」と答えている。原因の多くはスマホのブルーライトなどの強烈な光によって目が刺激されたり、脳が勘違いしてしまうからだと言われている。

 ここで一つ疑問がある。寝る前の数時間ブルーライトを眺め続けるだけで、人の脳は影響をうけるのだろうか。人生の代表的なトラウマと言われる失恋でさえ、次の日の朝に駅で素敵な人を見つけたら「大した事なかったかも」と思えるのに。そんなに刺激が強いのなら、人間にとって失えば死を意味する睡眠時間を削らせる危険物質として、さっさと人類の目の前から消すべきだ。そうしないのは、現代の人類にとって、夜間の十分な灯りが必要不可欠だと考えられている、または本能的に感じているからではないだろうか。

人は心底ほっとできるだけの灯りを手に入れた

 人類の進化からも考えてみよう。1879年に夜の暗さを照らす電灯が発明されてから、わずか100年ほどしか経っていない。それより以前、頼りになる灯りは炎のゆらぎだけだった。人類にとってどちらが不安だろうか。
 灯りがない生活は、まず夜間の移動を難しくする。それは何も屋外だけの話しではない。数メートルごとに段差があり、その隙間を埋めるように物が不規則に置いてある部屋をスピーディーに移動することは危険ですらある。
 十分な灯りが得られて不安が減ったはずなのに、脳が安心しないと考えるのは本当に正しいのだろうか。
 ひょっとして、強い光を手に入れた人類は代わりに何かとても危険なものを招き寄せてしまい、それが人類の睡眠力に悪影響を及ぼしているのではないだろうか。

情報が与えてくれる安心感

 夜間に安全に無限の情報を収集することができるようになった。この場合の情報とは、ニュースや勉強だけではない。テレビドラマも漫画もSNSも全て知識と情報で成り立っている。人は「情報が足りていない!」と感じ、トイレや風呂場で「メインの仕事」をしている最中でさえ、脳が「情報を吸収しろ怠け者!」と駆り立ててくる。なぜここまでして情報を求めてしまうのだろうか。

 わたし個人の感覚としては、「疲れた時にチョコレート」と同じ原理だ。体や心がとにかく情報を欲しがってしまう。ついつい甘い物に手が伸びるように、我慢できない。恐怖心や不安感とは違う。夜の山道で迷った時、遠くに人家の灯りが見えた時の「ああ何とかなるかも」と思える安心感を情報が与えてくれるのだ。
 例えば病気になった時。WEBツールで検索すると、同じ病気になった人の闘病ブログ、薬や民間療法の情報、病院の口コミや予約システムなど、無限に思える「街の明かり」が見えてくる。途端に安心感に包まれて、なんとか頑張れそうだと思う。

情報が溢れている事は悪なのか

 情報過多が人を不安にしているという声もよく聞く。わたしが思うに、不安になるものは「情報」ではなく「ノイズ」だ。夜中に誰かわからない人が、危険だ!悪者がいる!と叫んでいるのが聞こえたら不安になるに決まっている。
 では「ノイズ」に対処する方法は?WEBの世界ではなんでも隠すことができるし、楽しんで騙そうとする人はどの世界にもいるし、無意識に間違った情報を拡散してしまうこともある。だからといって、そんな世界は悪でしかないとは言い切れない。むしろ、匿名性があって当たり前の世界なんだという前提さえ持っていればいいのではないだろうか。
 たしかに、SNSやWEB上に溢れるさまざまな情報はその重要性が日々増している。一方で、それが匿名性の上に成り立っていることを知っている人たちも増えてきている。あとは現実世界でその情報の精度を保てばいいのではないだろうか。

技術に使われる人間の幸福

 わたしは「技術」が大好きだ。その反面、それを使う人間を信用することができない。何か事故が起こると、道具のせいにされることがある。果たしてその道具の使い方は正しかっただろうか。技術が人間の生活に追いついていないのか、人間が技術に置いていかれているのか分からなくなることがある。
 シンギュラリティはすでに起こりつつあると思わずにはいられない。フィクションの世界ではAIの反乱がさまざまな作品で取り上げられている。その多くでAIは人類を排除する決定を下し、抵抗する人類を「絶対的な管理」で制御しようとする。それはまさに、WEBの世界の匿名性を排除し、それがもつ無限の素晴らしさを制御しようとする虚しい世界。そのシナリオを作ったのが、本当に生身の人間だと言い切れる人が一体どこにいるだろうか。


名古屋在住。祖母と飼い犬を愛する三十代。 生まれも育ちもマイナス思考だったが、パワハラ上司に対処しているうちにすっかり図太くなる。 物事は常に陰謀論的に考えることで、人の数倍楽しめるという秘儀を身に付けた。