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イケウチオーガニックと付喪神

草も木も国も土地も人間も

 仏教に「草木国土悉皆成仏」という言葉がある。草も木も国の土地もことごとくみな仏になる素質を持っているという意味だ。物も人も根本は同じであるという考えは、百年使い続けた道具には魂が宿るといわれる「付喪神」にも見られる。

マーケティングを通して付喪神化する

 お得感で物が売れる時代は終わったと言われる。わたしは十年以上ウェブサイトの企画や制作に携わってきた。その中で、物を売る際に求められる情報の質がみるみる変わっていくのを実感している。インスタントなものよりも、長く愛着が持てることが重視されるようになり、物を大切に使うために「相手」を知りたいとする傾向が見られる。

 人形に目を入れる際には「魂をこめる」。無機物に命が宿る瞬間だ。そもそも魂など目には見えないが、魂がこもった、と意識することで無機物が生き物になる。まじないの一種だ。効力を強めるには、権威のある人に「生き物になった」と宣言させる、文字を与える、名前を与える、物語を与える。
 ここまでくると、現代の販売方法とつながる部分が見えてくる。
 マーケティングの一環として、影響力を持つ人に宣伝してもらう、ブランディングを企画してパッケージなどの文字情報でイメージを伝える、ネーミングをする、物語を与える。商品を付喪神化していくのだ。

イケウチオーガニックは大魔法使い?!

 先日SNSで「今治タオルのイケウチオーガニック」に出会った。毎日投稿を拝見しているが、日に日にイケウチオーガニックのタオルが欲しくなる。毎朝毎晩タオルに触れるたびに、ああ、あのタオルはどんな感じなんだろう、と考えてとまらない。いつの間にか「チャーム(魅了)」という魔法にかかってしまったよう。
 本物の魔術師は息をするように呪文を唱える。まじないを掛けられたと気づかれたら跳ね返されて命を取られてしまいかねないからだ。それは広告や宣伝も同じで、魅力のある写真だなと読み込んでいたら、「プロモーション」と表示されて、商売だったんだねと思う。一瞬でも運命の相手ではと思ってしまった自分の浅はかさに気づいて恥ずかしくなってしまうのだ。

付喪神化が毎日をやさしくする

世の中にもっと付喪神化の「まじない」が広まったらどうなるだろう。
誰もが手にした物に命を吹き込んで、無機物と助け合いながら生きていく。物を大切にすると、それを作った人たちを大切にできる。物を売る人たちが、きっとそれに自分たちで気づいて切り開いてくれつつあるのだと思う。わたしはやっとそれに気づいて、物を大切にしていこうと思わせていただいた。まずは身の回りにすでにある物について知ることから、わたしも「まじない」入門していこうと思う。

名古屋在住。祖母と飼い犬を愛する三十代。 生まれも育ちもマイナス思考だったが、パワハラ上司に対処しているうちにすっかり図太くなる。 物事は常に陰謀論的に考えることで、人の数倍楽しめるという秘儀を身に付けた。