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(長編童話)ダンボールの野良猫(二十・二)

 (二十・二)ドラッグパーティ
 先ずは盛子のご挨拶。
「そいじゃ、今夜のスペシャルゲストも揃ったところで。みっなしゃーん、お待たせしました。今夜は思いっ切り、羽目外すのよお。TV局が何だ、プロダクションが何よ、広告代理店が何様のつもり。所詮あんたら、ヤクザみたいなもんじゃない。あたしたち、物でも奴隷でもないんだから。あたしたちだって、ちゃんとした人間なのよーーっ」
「そーだ、そーだ。俺たち、人間だーっ」
「乃理香なんか、まだ十六だっしい」
「いつもマリリンの体、弄びやがって。国営放送の助平ディレクター」
「俺だって、好きであんな婆さんの愛人、やってねえし」
「ご静粛に、ご静粛に。みっな様のお怒りは御尤も。あたしたち睡眠時間二時間、三時間は当たり前。聞いてるか、芸能界、マスコミのゴッミども。てめえら、いっつもいっつも、ゴキブリみたく、あたいら、こき使いやがって。ふっざけんな、こんにゃろうーーっ。てな訳で良い子のみなさーん、今宵は日頃の鬱憤、んめ一杯、爆発させちゃいますよーーっ」
 オー、イエーイ。
 余程普段抑圧されているのか、一同大絶叫。みんなのパワーに、ノラ子唖然の引きまくり。一見華やかに見えるみんなにも、何かしら悩みや苦労は、有るものなのねえ。と、ため息を漏らす。
 見るとテーブルの上には豪勢なオードブル、お酒に紛れて、何やら皿に盛られた白い粉。
 どきどき、どきどきっ。何これっ?何かのお薬、それとも調味料かしらん?
 ノラ子はくんくん、くんくん。すると脳ミソが崩れ落ちんばかりにクラーッと来て、とってもハイな、いい気持ち。何じゃこりゃーーっ、うーっ、たまらん。もしかして新種のマタタビ?などと呑気に夢見心地。とろーんとした頭で、盛子のスピーチに耳を傾ける。
「それでは、お待たせしました、今夜のスペシャルゲスト。この人の歌を聴いたら、あたしらの歌なんてただの雑音、こっ恥ずかしくてもう二度とマイク握れません、はい。我らが昭和の歌姫、ノラ子さんでーーす。さ一言、メッセージをどうぞ」

 拍手喝采、一同ノラ子に注目。
 ところがノラ子は既に、らりるれろのラリパッパ状態。何しろドラッグの免疫が一切なく、かつ肺のサイズも猫の大きさ。白い粉のにおいを嗅いだ、ただそれだけでもう、完全にOUT。髪はびんびんに逆立ち、目はとろりんこ、呼吸はハアハア、ゼイゼイ、心臓はパクパク、どきどき。意識朦朧、気持ち良いのなんか通り越して、今にも気絶しそう。椅子から床へと滑り落ちて、そのまんまバタンキュー。あらら。
「きゃーーっ」
「どうしたの、ノラ子」
「もしかして、先に一人でやっちゃったとか」
 一斉に駆け寄り、ノラ子を取り囲む。
「大丈夫?しっかりしてよ、歌姫ちゃん」
「やば!死ぬんじゃね、こいつ」
 顔を見合わせ、焦りまくりのアイドル連中。
「幾ら何でも、平気でしょ。吸っただけなら」
「そりゃそうよ、まったく初心な子ね。マリリン、信じらんない」
 ここでいつもクールな条くじら君が、慌てるみんなに一言。
「急性しゃぶ中ってやつだから、このまま寝かせときゃ何とかなる」
「ほんと?」
「ああ。もし駄目で、このまんま死んじゃっても、俺らのせいにはならないし」
「そうね。汚れた歌姫、あの清純派アイドル、ノラ子が、実はしゃぶ中でした。なあんて、ワイドショーが大騒ぎしたりして。あっはっはっはっは」
 釣られて盛子も盛り上がる。
「ほんじゃ、ノラ子も寝ちゃったことだし、あたしらも、始めますかあ」
 イエーイ!!

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