ドラえもんのポケット

くもった窓ガラスのむこう
葉を落とした
針葉樹の枝のすき間を
木枯らしがかけ抜けてゆく

どこかで聴こえる鳥のさえずり
人影のない路地のたたずまい
すべての生命が
今はいねむりしていそうな

そんな冬の午後のしずけさ
ふたり見ていた

くもった窓ガラスにかいた
ドラえもんの顔が
少しずつこわれてゆくのを
それがどうしようも
ないことだと
知らないふりをしながら

ドラえもんの顔が
とうとう泣き出しそうな
顔になったので

ふたりして笑った

けれどほんとうは
すき、とかきたかった
くもったガラス窓に

わたしはやっぱり
ドラえもんの顔をかいた

すき、とはかかずに
ドラえもんをかいた
幸福そうな
ドラえもんをかいて

わたしたちは黙って
冬の街を見ていた
涙を落とすのは
ドラえもんにまかせて

わたしたち
ドラえもんのポケットにも
いまを閉じ込めておく
道具はないと
知っていたから

くもった窓ガラスにかいた
ドラえもんの落書き

すき、とかかずに
幸福そうに笑う
ドラえもん、かいた
遠い冬の日

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