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小説詩集「これがわたしの最終手段」

新幹線の自由席車両をうろうろして、ここいいですか、みたいに会釈してすわった。

パソコンを開いて、文字打ち爆走させて閉じた。

「研究ですか」

てお隣さんが聞くから、わかりますか、みたいに微笑んだ。

「どんな?」

「ロボットと非ロボットに対する人間の反応深度の違い、みたいなことです、」

つまり会話のしやすさの違いみたいなこと。とか言いながら、惨憺たる実験だったことを思い出す。

「じつは準備段階からつまずいてしまって」

「というと、」

「人間の聞き役は弟に依頼したんです。アルバイト代はずむからって、」

それで、会話のリラックス度、解放度、理性度の違いを観察をしたかったんです。

「弟さんが引き受けてくれなかった?」

「いえ、快諾してくれたんです。けど、ロボが、」

「ロボが?」

ええ、引き受けてくれるロボが見つからなかったんです。親しい白ロボに声をかけましたが、通常業務が過密なので、それ以外の時間は充電に当てたいとか。

「ちかごろのロボは人間なみに権利を主張してきますね」

「ええ、でももっともなことなんです。彼にだって休息は必要ですから」

で、青ロボにも声をかけてみたんです。

「どうでした?」

「快諾でした」

ただ、オレはウンウン、そうなんだ、みたいには人の話聞かないぞって言うんです。言いたいことは、ズバズバ言って論破するっていうんです。

「それでは、ロボというより人間ですね」

「そうなんです、だから、」

「だから?」

だから、弟がロボの着ぐるみをきて一人二役をすることになったんです。

「それが弟の苦難の始まりで、」

だって弟が人間のままでも、ロボの着ぐるみをきてても被験者たちの反応はおなじだったんです。満たされるか、蝕まれるかの相剋です。

「どうゆことです?」

「語ることは、」

吐き出すことなのに、ひどく人を満たすんです。それがどれほど荒唐無稽な話でも虚しくなることさえありません。

「じゃ弟さんは、」

「疲れ果てていました」

ところがそんな愚痴を聞いてくれる被験者が突如舞い降りてきたんです。あっという間に恋に落ちた弟はアルバイトも放り出したわけで、この実験が頓挫してしまったというのも仕方なかったんです。

「では、ここで降りますので」

とか言って一駅分の切符しか買っていなかった私はおもむろに席を立った。それは本当におもむろだった。

「聞き手はさ、君がやって実験を続ければいいんじゃないのかなあ」

とか歩きはじめた背中に声をかけられたけれど、じつは人の話聞くのが苦手なもので、えっへへ、とも言えず私は振り返って曖昧ににやけてみせた。

「言い訳したってゼミの締め切りはのばしませんよ」

とか学会に向かう教授が私に鞭打ってくるものだから、やっぱりだめですか、て肩をおとすして降車する私なのだった。

おわり

❄️まさに、これがわたしの最終手段、的仕上がりに絶望と憤りを感じますが、仕方ありません。ダラダラとひらすらダラダラとすごした一週間が、きっと鋭気をやしなってくれてるはず、みたいなことに期待してまた書きます。ろば










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