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風と木の詩

竹宮惠子さんの風と木の詩。


ギムナジウム系といえばこれとトーマの心臓が圧倒的に有名だと思う。
同性愛と性癖の要素が多く強すぎるので書こうか少し躊躇うくらいで、悩んだ末…
やっぱり好きな作品なので書いておく。
誰にでも勧められるものではないけれど、本当によく描かれた物語だと思う。


風と木の詩は、絵もとても綺麗で
花や服装や建物が華やかで、絵本みたいなデザイン性の強いカットも多い。


名シーンや好きな言葉がたくさんあって

一番好きなのは、オーギュに洗脳されて退廃的に生きてきたジルベールがセルジュから本当の愛情をぶつけられて

ぼくには今まで翼がなかったんだ
だからいいなりになってやった
でも今は生えてる

と言うシーン。


真っ当な愛を知らずにオーギュしか支えのない状態を造られ、その美しさゆえに普通には生きられなかったジルベールは
一見するとオーギュに仕立てられた美のように見えるけれど
持って生まれた美意識や気高さと不器用な愛が最後に残っていったようで
過飾を無くしても真の美しさを失くさなかったところが作品の真髄かなぁと思う。


詰め込まれたものがたくさんあるので上手く言葉にならない。




夏休みにジルベールとセルジュが打ち解けていくところが好きで、
ジュールヴェルヌの月世界旅行の絵の月に、それが青だと決めつけて本に色を着けたのが印象的だった。

ほら、かげろうがたっている
春みたいだ

かげろうというのはなんだか虚しい
見ているとまわりの風景まで溶けてしまう

というやりとりを見てから
ラルクの予感を聴くといつもこのジルベールを思い出す。


現実に生きていくことを理解できるセルジュの強さと
幻を現実に食い潰されていく残酷さを知っているジルベールの強さは
それぞれ片翼だったからふたりで両翼になった。



自分が文章を書くのは子供の頃からだったけれど
snsで日記を書いたりするのが普通になって
その頃に、この作品の中に入っているセルジュの父親アスランの物語が自分の書く気持ちを強めたと思う。


いつも街を並んで歩いていた友人がもういないことに気付いたアスランのシーン。

同じ時はもう二度とない瞬間は
瞬間につながって消えていく
時を止めたい
せめて記憶の中なりと
この時間を無駄にはすまい
散りゆく枯れ葉の一瞬の吐息にも耳を傾け
ほおにさす陽のしみとおる暖かさにも目を向けよう
そしてそれをこれに書き記そう
過ぎ去りし日を後悔することのないように


高級娼婦だった母親のパイヴァが


この時がどこまでも続いてほしいと思うことがよくあるのよ
でもそれは絶対に実現しないことね
だからそう望んだ瞬間いつも悲しくなる
夜明けの港はいつでもそういう思いにさせるわ
今日一日はとても静かでやさしいように思えて
もう一日生きようって気になるの
でも太陽が昇りきると
いつもと同じ現実にかえってしまう

と言うシーンも綺麗。


ぼくはぼくだ
足りなくても知らなくても
ぼく自身だと

両親も友だちも世間も正しい
だけど ぼくも
ぼく自身もおなじように正しいんだ


だいじなのは罪をおかさないことではない
罪をおかすまいとして真実を見誤ることだ

積み木をひとつ積み上げることが平らでありたいまわりの人にとってどんなに迷惑かぼくはわかっています

でもぼくは
この世に生まれて
積み木をひとつでも多く積みあげたいと思った
ぼくは誰かが悲鳴をあげるのを聞くのが怖かった
僕は臆病な卑怯者です
きれいごとでは生きぬくことはできません
知りながら
自分を主張しとおすことができなかった
才能があっても財力があっても地位があっても
それを持つ者の内に力が無かったら
なんにもなりはしません
ぼくに欠けたものはいっとう大切なものでした

アスランはパイヴァに救われて力を貰い、ようやく小さな積み木を積みました、と終える。




このまえ糸の切れるような感覚があって
それからずっと世界が遠く静かになって
物音ばかりが大きく近く聞こえるようになった。生活音や、風の音。

その時に、ジルベールが


風の音はきらいだ
ものすごく退屈してることを思い出させる
身体中からっぽなことを

と言っていたのを思い出した。



逃げ道のあるものはいい
それとも逃げ道を
自分でつくるのが生きることなのか

そう言っていたオーギュの過去を引きずった後ろ向きな箱庭みたいな生き方の気持ちが全くわからないわけではないので
最低な人だけどオーギュも嫌いになりきれない。
子供らしさを奪われた人間は、一生大人になれず子供をかわいがれないことが多い。
でもそういう柵を飛んでいく人間もいる。

ラストのシーンは本当に綺麗だった。


連れて帰って
海の天使城へ
まだだれをも知ることのなかった
あのころ
花 咲き誇る 春へ


これまでサポートくださった方、本当にありがとうございました!