お楽しみ読み物コーナー【正月】

0.初めに

【正月】をテーマに書いたテキスト集です。
全11名+管理人の計12名のテキストが載っています。
多種多様なジャンルのテキストを掲載しています。
それではご覧ください。

募集ページはこんな感じでした。

参加者紹介ページはこんな感じです。


1.加藤万結子 様

正月嫌い
加藤万結子

 子どもの頃から正月が嫌いである。
周りにはあまり話さないのだが盆暮正月その他イベントが実はあまり好きではない。その中でも正月は大嫌いである。
 それはわたしの生育環境に起因する。まずど田舎。そして父は末っ子長男。祖父と同居(祖母は早世している)。この辺りでピンと来た人は鋭い。そう。年末年始には人が集まるのだ。年始回りがあった時代はそれはそれで子どもたちは退屈だった。テレビの部屋には居れないし。地区の新年会に行けば泥酔じいさんが帰ってきて暴れる。しかもそれは世襲しなくていいのに父も近年潰れる。酔ってこけて救急車という不名誉案件もある。わたしは妊娠8ヶ月のお腹を抱えてアイスバーンの中30キロ、街の病院に向かった元旦の深夜だった。なお本人は目が覚めたら病院。高い個室料を払い箱根の往路を堪能したようだ。わたしゃ箱根どころじゃなかったよ!
 年始回りという習慣が高齢化や合理化でなくなっても父の姉たちはくる。いや、当たり前のことではあるのだが、わたしはこの方々を大変苦手としている。小姑鬼千匹とはよく言ったもんだが、この人たちの我の強さ、理不尽さは鬼万匹でも足りない。若い頃の母曰く「鬼の方がまだマシ」だ。歩くトラブルメーカーたちだ。大統領とあだ名された父の伯母似の上の伯母は仕切り魔。実家の近所に嫁いだ下の伯母はなんでも一番が口癖でとにかく陰湿。いとこたちも学校が同じなのでこどものころからいじめ抜かれた。わたしたちきょうだいはお互いを慰めながら泣くのみである。逆らうことは許されなかった。福島は好きだが、実家のある町は近寄りたくないというのはこの辺りに事情がある。奴らは人の皮を被った鬼…いや、悪魔…妖怪?…ケダモノ…とにかく邪悪な生物であることを否定できない。いっそひとおもいに殺してくれと思ったことも一度ではないぐらいに精神的にダメージを受けている。
 そしてこの人たちもまた恐ろしく酒癖が悪い。本来微笑ましいはずの父のきょうだい集合。またこのきょうだいが仲がいい。しかし妻子は仮面を被りつつお付き合いしているのである。会話にも棘やナイフや日本刀が仕込まれている。以前、投稿した詩に「わたしは何回も殺されている」「言葉で殺された」と書いたことがあるが、これはそのネタバラシである。田舎の長男の嫁とその子というのは大概我慢があると思うが、ここまで始末が悪いのも珍しいと思われているようだし、実際そう思う。今も実家周辺で母は「大変だない(福島弁)」と言われる程度に大変そうだ。ただし、生来の気丈さと隠してきた気の強さでかなりざっくり割り切ったようだ。還暦を過ぎてようやく。
 正月に外食なんかしても舟盛りの魚のアラを持ち帰らせろとか訳のわからない要望を店員にぶつけ、断られれても騒いで強行する。しかもそれを持ち帰ってあら汁を作らされるぐらいはまだいい。ただ放置されることもままある。ただただ何か無茶を言っていうことを聞かせたいためだけに暴れ、騒ぐのだ。正気の沙汰じゃない。おいしいものはおいしいが後味は毎回最悪だ。これを回避するために随分骨を折った。大学時代は積極的に正月はバイトしていた。帰りたくないからである。そしてきょうだいから「ずるい、逃げた」と言われる。
 そう。みんな嫌なのだ。弟は引きこもりを続けて本気で引きこもりになったこともある。原因は高校に通う列車で彼より一つ上の近所に住む従姉妹に「バカのくせに汽車なんか乗るな」とホームから突き落とされたことに起因する。なお、弟はごく普通の高校に通っていた。全くバカではない。わたしは姉と比べられたくなくて唯一の女子進学校に進まなかったので翌年そこに進んだ彼女にやはり散々バカ呼ばわりをされた。吹奏楽部の先輩の前でもやらかしてくれて先輩に土下座周りをしたこともある。ほんとのサイコパスだと思っているが今、短大で教鞭をとっているから恐ろしい。育てたように子は育つのお手本だ。
 高校の教科書に干刈あがたの『公務用ボールペン』という物語がある。東北出身の崎口巡査が幼少期の正月を回想する。
化粧をして手もつるつるの信雄の母親が、婆ちゃんの肩を揉んだり珍しい料理を作ったりする陰で、黙っている自分の母親毎日頬や指先を赤くして働いていることを、誰も思いやっていないことも口惜しく哀しかった。
わたしはこれを読んだ時、授業中だというのに涙が滲んで溢れ、止まらなくなったのだ。そう、全て言い当てられたような気がした。母はこの頃我慢を重ねてきたことと祖父の介護で疲れ果て、入院していた。倒れた母に伯母たちは容赦なかった。根性が足りない、と。いやいやアンタたち根性悪すぎるだろうよ!
 経済的に祖父の介護に関して援助していたから両親は強く出れなかったようだ。東京に住んでいたのに祖父を一人にするならと姉たちに連れ戻された両親。しかもアル中。金銭的支援より祖父を見てくれた方が両親は仕事にも打ち込めたし苦労しなかっただろう。入院先から洗濯物をとりに行く。そんなことすら一度も誰もしてくれたことはなかったのだ。近所に住んでいる伯母はよく祖父を入院させた、親を粗末にしたと母をなじったが、一度でも祖父の洗濯物を取りに行ったことも洗ってくれたこともないのである。
 二十歳の冬に祖父が死んだ。普通に老衰で。正直、一つの時代が終わった気がした。実は安堵すらした。両親を思えばこそである。そしてその翌春に介護保険制度が始まった…(恩恵を受けそびれた)。わたしたちきょうだいがバイトを目一杯して学校に通っていたのは祖父の医療費
ゆえだった。両親は人の倍働いていても25年は長かった。なお、祖父が死んでも親を粗末にしたとかなんとか法事や盆暮正月がより面倒くさくなったのは言うまでもない。何があってもめんどくさい人たちだ。もちろん葬式もご乱心でビールかけられた被害者もでた。もうほんと勘弁して。
 父方のきょうだいからしたら母方の実家の新年会なんて平和でしかなかった。問題は父と母の兄の気が合いすぎて飲み過ぎて連れ帰るまでも大変、連れ帰っても大変なことである。正月は禁酒令を出したいと割と本気で思っている。
 さて、現在の正月事情だ。名古屋に越して6年目。1年目の盆に帰省して伯母といとこに親がいない隙にコテンパンに言いたいことを言われ父に伯母たちとの交流を一切断ちたいと大宣言。その次の正月から帰省はやめた。父はキレたが、その後も電話をしてきて色々言われて調子を崩し、ベランダで転倒して救急車で運ばれたりしているうちにだんだん悪質さを認めるしかなくなり、母からの口添えもありようやく諦めてくれた。市内での転居を機に年賀状もやめ、電話も着信拒否した。苦節40年である。もちろん盆暮正月の帰省はしない。しても子どもだけ。その子どもたちも忙しい年頃になった。
 忘れていたがわたしも長男の嫁なのでオット実家の宮城に帰省することもある。しかし義母がスーパー勤めで休みじゃないことと新年会で酔ってくる義父と義母の小競り合い、初売りに並ばされる全く楽しくないお仕事をする。パンツの詰め放題に付き合わされたこともある。いっぱい入るから、と布の面積がほとんどない下着を嬉々として詰める義母を眺めている。そして「アンタ欲しい?」と聞いてくる。いや、いらない。なぜにはかないパンツを詰めるのかよくわからない。こちらの正月も別に楽しいことはなにもない。多少平和だが、まあ普通に嫁業である。義父なきあとは酒嫌いの義母のためビールを一缶飲むだけでそれもますますつまらない。その帰省もわざわざ寒い時に来なくていいとのことでしていない。義実家にいけば実家にもいくことになるが冬の宮城福島ツアーのためにスタッドレスを買う気にもなれない。高速で液体窒素を積んだタンクローリーが倒れて渋滞8時間も正月に経験した。
 そんなわけで辛い正月からは完全解放されて名古屋で家族だけでダラダラと正月を送っている。しかしいまだに正月が好きになれない。食べ物は高いし、テレビもあまり見ないし、どこに行っても混んでいる。友達がいるわけでもないから楽しく会食をすることもなく家で駅伝を眺めながらビールを飲むだけだ。そもそも正月に「楽しい会食」をした経験などあったか考えてみた。一度義実家でタラバガニを焼いて食べたときに生前の義父が
「お!うまい!カニカマの味がする!」とほざき、家族一同で
「お父さんは勿体無いからカニを食うな」とブーイングが起きたとき。それがわたしの唯一の平和で楽しい正月だったように思う。しかし義父は長い闘病の末逝ってしまったし、義弟も仕事で正月には帰れない。大阪でSEをしている彼は会社でカウントダウンしながら0時ちょうどに某大手スーパーなどのホームページを更新する仕事をしているとか。今はきっと部下にそれをさせるために会社にいるのだろう。
 将来、子供達が望まない限り正月に集まりましょうなんて言わないようにしようと思っているし、集まる時には全員が機嫌良く過ごせるようにしてやりたいなと思うわたしである。

 また正月がくる。平和というよりなんにもない退屈な正月だ。おせちを作るのも去年材料費で文句を言われたのでやめる。自分が食べたい数の子と福島名物いかにんじんだけをつくり、ダラダラビールを飲む正月を送ろうと思っている。


2.ゴトウまるまる 様

(パソコンをいじっているまるまる)

まるまる:...あっ、ゴト3youtubeアップしてる。これは見ないと。

ゴト3:どうも。ゴト3ゲームチャンネルです。あけましておめでとうございます。

まるまる: 「おめでとうございまーす!」コメント!

ゴトウ:今年もみなさんに僕の大好きなゲームの素晴らしさ、奥深さをお届け出来ればと思っています。

まるまる:「ゴト3のやり込みハンパないから楽しみ!」

ゴト3:それでは早速やっていきましょう。本日プレイするゲームはこちら。「ドラゴン伝説」です。

まるまる: 「へー知らなーい。」

ゴト3:このゲームのラストダンジョンには、2%という低確率で「ダークラビット」というモンスターが出現します。
このダークラビットを倒した時さらに2%の確率で「モフモフのしっぽ」というアイテムを落とします。
このモフモフのしっぽ、存在すら知っている人は少ないということで今日はこれを手に入れるまで終われないという企画です。

まるまる:うわー大変そうだなあ。

ゴト3:さあそれではダークラビットに会うためにウロウロします。
...よし敵出た!あーダークラビット居ないか~まあ2%ですからね。この場合は逃げます。またウロウロします。
...お!きた!ダークラビット!2回目で出たのはツイてるよ!
これを倒します。よし倒した!落とせ!あー落とさない!2%だもんなあ。これを繰り返していきます。

まるまる:うわーマジで大変そう!

(6時間後)

.....................

ゴト3:出ないねぇ~...

.....................

まるまる: ...いや俺正月からなにを見てんだ!!!!
人類史上最もムダな1月1日の過ごし方!!寝て体力回復という訳でもなく!
同じモンスターと出会って逃げるだけの動画6時間見てしまった!
ダークラビットもあれから1回も出てないし!!つまんねぇゲーム実況!
いやもうゲーム実況でもないし!さっきの出ないねぇって5時間ぶりの発声だし!
結構早めに心折れて以来5時間無言だった!
年賀状の返事書くのも中断して初詣行きたいって泣いてる娘無視してなにを見てんだ!!

ゴト3:...いやオレ正月からなにやってんだろ!!!!

まるまる:うわゴト3もキレた!!

ゴト3:これ正月にやる企画じゃないよな!?見てる人居るのか!?居ないよなそんな変態!!

まるまる:うわゴト3キレ過ぎて視聴者変態呼ばわりした!!

ゴトウ:まあこれは収録で今は12月22日だからまだいいけどさ。

まるまる:え?え?え?え?え?え?これ収録なの!?生配信じゃないの!?
うわホントだ動画進められるじゃん!!!なんで気が付かなかったんだ!!一生の不覚!我が生涯に一片の悔いあり!!
通りでいくらコメントしても反応しないなと思ったわ!
「おいなんとか言えよ!」って5時間で650回コメントしても全無視だった!いややっぱ俺なにやってんだ!!!
俺が1番の異常者!650回も罵倒コメントして!視聴者俺1人だし!

ゴト3:ヤベエ早くしないと彼女とのデートに間に合わない!

まるまる:こいつ彼女いんのか!!ふざけんな!!いや俺妻と子供居たな!!

ゴト3:あ!出た!ダークラビット!倒す!来い!来たー!!モフモフのしっぽー!!

まるまる:運もこいつに向いてくんのかよ!!いや俺いつから人の幸せ喜べなくなった!?
ダメだこんな人生!変わろう!ねぇみんなーもう夕方だけど初詣行こうー。俺神様に懺悔して変わると誓いたいんだよねー。


3.エキノコックス 様

はじまり(おわり)

終の日の入り 去年のあたしが死んだ
君をわすれない
たぶん想像以上に道は険しいけど
今までよりちょっとだけ遠くで見守って
だれかの物差しじゃ あたしを測れんわよ
be大人不安なんじゃ あたしは諮るんだよ
初日の出
今年のあたしが生まれた
おわり(はじまり)


4.ちゃも月 様

「かがみもち」
+
大晦日の夜
こっそりとタッチ交代劇

神様の国から
かがみもちの門をくぐって
新しい年神さま

「一年間お疲れさま」
「それじゃあよろしく」

新しい年神さまと
今年の年神さまと

かがみもちの門を挟んで
ハイタッチ

今年の年神さまは
一年分のあれやこれやを
袋に詰めて
門の向こうに帰っていく

新しい年神さまは
かがみもちの中に寝そべって
少しの間家の中を観察する

どんな幸をもたらそうか
どんな福を呼び込もうか

ホクホクしながら考える
かがみびらきまではゆっくりと

年神さまが寝そべったかがみもち
叩いて割ってみんなで食べる

かがみもちが
ちょっと甘い味がするのは
そのせいかもしれない

年神さまはそれから一年
ずっと家族のそばにいる
+


5.辻島治 様

N 或る年のお正月のことで、ございます。

【登場人物】

 息子(ヨウスケ) ーー
 母親 ーー
 父親 ーー
 N ーー

(※ーーの箇所は、役者が決まり次第。加筆修正すること)

一、年明け

   息子が、目を覚まし。父親を起こす。

息子「起きて、父さん。明けましておめでとうございますなんだよ、新年なんだよ」
父親「うん、おめでとう……もう少しだけ、休ませてくれ」
息子「ええ、父さん。今日は、お正月なんだよ。初詣に、ぼくと、ままと、ぱぱと、みんなで行くんだよって言ったでしょう?」
父親「わかった、わかったからね。そう引っ張るなよ。居間へゆこう。母さんが、待っているよ」
息子「うん、わかった。父さん。あのね、あのね、夢は、見た?」
父親「初夢か?」
息子「ぼくはね、とってもいい夢をみたのさ。父さんにだけ、教えてもいいんだよ」
父親「いい夢は、大事にとっておきなさい。叶った時にでも、教えておくれ」
息子「うん、わかった。じゃあね、あのね……」

二、居間

   父親と息子は、様々に会話をしながら階段を降り。居間に入る。

(フラッシュ※瞬間的演出)
 息子は、居間に入るやいなや庭に駆け出していった。
 下駄を履いて外へ行ってしまう。
 父親は、咄嗟のことで止められなかった。
 あっと言葉をこぼし、唖然と見つめる。

 庭で世話をしていた花が咲いたのを息子がみつけたことを父親は、発見した。
 息子は、心の底から嬉しいらしい。
 庭につながる大きな窓は開け放したままで、風が吹き込んでくる。下駄を履いた息子はその前で朗らかに、ふふふと声に出して微笑むように笑っている。
 父親は、あの花は、確か……と、考え込んでいると、後ろから母親がやってくる。

母親「明けましておめでとう、ヨウスケ。あなた」
父親「うん、おめでとう」
息子「まま!!! 見てみて、咲いた!!」
母親「あらあら、良かったわね」
息子A「あっ、忘れてた。いけない、明けましておめでとうございます」
母親「ふ、今年もあわてんぼうさんね」
父親「今年は大人しくしてておくれよ」
息子「ぼく、まだ大人じゃないよ!!」
母親「ふふ、おせちを持ってくるわね」
息子「まま、手伝うよ。だって、今年からお兄さんだもん。ぼく」
母親「あら、そうね」
父親「君は少し休んでいいよ、俺が持ってくるから」
息子「ぱぱね、おっちょこちょいさんだって、ままが言っていたから、ぼくがもってゆくよ」
父親「危ないからいいよ」
息子「やだ、ぼくがする」
母親「お正月から喧嘩はだめよ。ふたりとも、ね」
父親「よおし、父さんが台所に一番乗りするぞ!!」
息子「まってよぉ」

 父親が台所へゆく、それに庭にいた息子が慌ててついてゆく。窓は閉めたつもりが、締め切らず隙間から少し風が入り込んだままである。

母親「ふたりともちょっと慌てないでちょうだい。後は、お重とおしるこを持ってくるだけなのよ」

 母親も、その二人の後を追いかけて台所へゆく。

N 庭で咲いたあの花は、福寿草。

N 風にそよそよ揺らいで、微笑むよう庭で咲いている。それを年明けの陽の光があたたかく包み込むように花や庭、部屋の中を照らしていた。

 三人が戻ってるまで、その居間はひっそりと静まり返る。戻ってきて賑やかにおせちを分け合い食べていると、息子がぐるぐるあたりを見回す。
 大きな鈴が揺れたような音がしたのだ。が、息子は黙する。福の神が微笑んだような気がして黙っていようと思った。

 部屋の中には依然と隙から少し風が吹いたままだった父親は、くしゃみを大きくした。

 父がしっかりとその窓を閉めた。

 母親は、息子の食事の世話を焼いている。

 それを手伝いったりしながら父親は、手元のおしるこを啜る。


6.内海サンフクロウズ 様

新春自慰礼讃
内海サンフクロウズ
 

   1  
 信心の足りない僕のような人間でも、お正月には不思議と神妙な気持ちになる。
 元日の早朝、ひとり外に出てみれば、冷え切った空気に自分というものの存在がくっきりと象られるのを感じて、これが自分なのだ、これからもこの肉体と精神で生きていくのだ、などと、御来光に照らされる吐息にくり返し目を留めたりしながら、妙に哲学的な思いに駆られたりする。

   2
僕には、かつて、精神を病み、生きるのか、死ぬのか、その選択に深く苦しめられていた時期がある。
もう、いい。もう、止めよう。
そう思いながら、イキテイサエスレバヨイノダと思い直してやり過ごした夜は数えきれない。
僕は、いまだに、自ら死を選択し、決行し、完遂した人達に心のどこかで畏怖の念を抱いている。僕が生きているのは、それができなかったからに過ぎないという思いがある。

   3
あの頃、生きることを止めたい、止めるしかないと思いつめ、だけど本当に死ぬ勇気なんて僕にはないじゃないか、という葛藤の渦中にいるとき、逃げ場を失った感情を吐き出すようにして、ノートに繰り返し「大丈夫」と書くことがあった。
何ページも、何ページも、「大丈夫」とだけ書く。書き続ける。
何が大丈夫なのか。なぜ大丈夫なのか。根拠も理屈もなかった。
   
   4
最近、自慰は自然な行為、という新聞記事を読み、そうだよねと思いつつ、今更ながらホッとした。
誰かの詩を批判するとき、「自慰に過ぎない」という言い方をする人がいる。
僕の詩は、あの頃書いていた「大丈夫」が原点。
あの「大丈夫」は間違いなく自慰だったと思うし、いま書いている詩も自慰なのだと思う。
あの記事で語られていた自慰は肉体的なものだったが、精神についても同様に当てはまると思っている。肉体と精神は連動しているし、精神だって動物的なものだと思う。

   5
晴れれば何だか気分が良いし、雨が降れば沈んだ気持ちになる。
自分の精神世界を「自分の心」とか「自分の気持ち」などと呼んでみたところで、心や気持ちが自分の所有物のように思い通りになるわけではない。
思い通りにならない精神世界を抱えながら生きていくうえで、詩を書くことはとても自然な行為だ。少なくとも僕にとって。
 TPOとか論理性とか合理性とか、人間らしさとか大人らしさとか、そういうもので縛ることが当たり前ではない場所に、僕の精神を連れ出したい。僕の精神の動物的な部分を取り戻したい。
 いいじゃないの、自慰で。

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「握手」

世界から僕を切り取ってくれ
皮膚に沿って世界と僕を切り分けてくれ

いのちいっこぶんの苦悶を背負っている
それだけで、きみは立派にきみだ

嘘から本当を切り取ってくれ
その輪郭に沿って嘘と本当を切り分けてくれ

いのちいっこぶんの歓喜を宿している
それだけで、きみは立派にきみだ

死から生を切り取ってくれ
いま、いっとき死と生を切り分けてくれ

いのちいっこぶんの連帯
いのちいっこぶんの連帯

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「残り火」

きみは誰だ
何者だ

何が欲しい
何を求める

(あげるよ)
(それ、あげる)

嗚呼
アア

つけこまれる
ひきずりこまれる

嗚呼
アアア

(いいでしょ)
(気持ちいいでしょ)

天国に
幸福に
誘拐されていく

アアア
アアアア

(光を帯びる恍惚の被害者)
(まばゆい死出の旅)

ここはどこだ
どこだ

満ち足りた相貌で
きみがきみではなくなっていく

アア
アアア

(死への道程)
(金色の死への道程)

誰だ
誰なんだ

刺され
撃たれ
弄ばれる

アア
アアアア

(手渡された)
(何もかも)

がんばった、きみ
よく生きた、きみ

誰なんだ
誰だ

(もういいよ)
(いいんだよ、もう)

アア
アアア

遠ざかるきみ
きみだった、きみ


7.入間しゅか 様

『正月は』
入間しゅか

正月は
年越しそばを食べ損ね
カウントダウンに寝てしまい
友達からの
新年の
挨拶LINEも
既読無視
初夢なんか忘れたし
初日の出は見なかった
初詣にも行かずじまい
それが毎年のことだから
困ることではないけれど
年越しそばは伸びていく
カウントダウンの続きなど
数える人はいやしない
友達からの挨拶は
返す機会を逃してた
初夢が例え
面白かったとしても
初日の出の美しさや
初詣の賑わいを
知らないままで時はすぎ
サラミを食べて
ニューイヤー駅伝とか見て
でーんと座椅子に腰掛けて
父がくつろぐ実家を脱出し
ああ、正月だ正月だ正月なんだと呟いて
やって来たのは
年中無休の喫茶店
窓辺の席で
本を読み
珈琲を飲んで
トーストを頬張りながら
贅沢に
時間を潰して
そのざりざりと潰れ行く様を
贅沢に見届けるひととき
である。

□□□□□□□□□□□□□□□□□

正月短歌

正月はお出かけしないと約束を自分としたの
喫茶店にて

正月はおどけてしまう誰よりも皮が散らばるコタツのみかん

正月は特番ばかりつまらないけれどテレビをつけては消して

正月は雪でも降ればいいものの花の匂いを思い出したい

正月は地べたで踊る夢を見た夢占いに載ってなかった

正月はカレーライスをチンしたり儚い夢と絵に描いた餅

正月は正月らしくあるために明日やろうを許してやろう

正月はぼくに優しくしてくれて喜びひたるパジャマのままで

正月は何でもかんでもハッピーでにっちもさっちもいかないようだ。

正月はどれもこれもがハッピーでおみくじ凶でも笑けてしまう


8.椎名きょく 様

『一夜の幻影 漫才/一日が街に恵む 日射しに呟いている君 終わりと始まりとが 祈りを変えてゆくという 誰かが壁に歌を刻み込んでいる 風がそれを歌ってる』

向井:正月って言ったらやっぱり百人ウィッシュだったよな。

真中:そんなBREAKERZのライブみたいなのを授業でした覚えはありませんね。百人一首ですよ。

向井:百人で一つの首とかアルティメット版ヤマタノオロチかよ。

真中:書いて字の如く間違えるんじゃないですよ!何ですかその気色悪いバケモンは

   そうじゃなくて飛鳥時代から鎌倉時代までの百人が読んだ短歌を一首ずつ纏めたカルタですよ。

向井:そっちか。ちはやふるでやってた奴か。過去にスラダンパクった作者が描いた。

真中:知ってるなら遠回りしないで下さい!!で最後の作者の黒歴史を掘り起こさない!!

向井:百人一首扱ってる今なら「本歌取り」で誤魔化せるぞ。

真中:シーッ!!!蒸し返して余計な事言うんじゃないですよ!!

向井:でも百人一首って大昔から変わらんよな。入ってる句がみんな同じ。そろそろ新しい風を取り入れよう。

真中:要りませんよ!百人一首ってそういうモンなんですよ!

   逆に統一されてなかったら覚えられないし後世に残らないですよ。

向井:「むすめふさほせ」はキラ加工。

真中:取り易い句を更に取り易くするとか!悪目立ちが過ぎるよ!

向井:ほんでデッキの他にブースターパックを販売してな。君だけのオリジナル百人一首を作ろう!って触れ込みで。

真中:トレカじゃ無いんですから!作った所で詠まれなきゃ意味無いでしょうに!

向井:読み札と絵札は別売りだ!

真中:販売がえげつない!!スラダンパクったのと同じ位冒涜してる!

向井:30パック買うと今だけ俵万智の「サラダ記念日」の句が貰えるぞ!

真中:限定もあるんですか!?しかも比較的新しい作品だからアンバランス!!

向井:「むすめふさほせ」は取り易いから、エラッタ導入して1デッキ7枚の内2枚までしか入れられない。

真中:サラダとかエラッタとか百人一首に相応しくない用語を入れるんじゃないよ!!

   着実に違うカードゲームへの道を歩み始めてる……。アルティメット版ヤマタノオロチの方の百人一首がまだ可愛く思える……。

向井:で次から次へと改定されるから、国語の教科書もその度買換えなくちゃならない。

真中:二重に儲けようとするんじゃないですよ!!こんな百人一首僕認めませんからね!!

向井:でも俺の百人一首改革の野望は止まらないぞ。成功を願おうじゃないか。ウィッシュ!!

真中:「エデンの花」みたいに全部回収されて即刻打ち切られろ!!もう結構!!


9.藍殿TT 様

漫才/Border of Pref.

R:はいどーも!漫才コンビ・バトルロワイRです。

?:よろしくお願いします!

R:実は最近、平和のための活動に精を出してるんだよね。

?:へぇ~、それは凄いねえ。

R:というのもね、まずきっかけは数年前のお正月。
  俺は東京に出てきてから毎年 お正月だけは帰省して実家で過ごしていたんだ。

?:ほう、年1だけは必ずな。

R:でもその年はな、コロナ禍が始まって、ちょうど県を跨いだ移動は控えるようにって。
  そのせいで俺は年1の帰省ができなかったんだ。

?:あらら、そんな時代もあったね。

R:それをきっかけに俺は思ったんだ。日本に県境があるからこうなるんだって!
  もしこの世界から県境が無くなったら日本は平和になるんじゃないかって!

?:えぇ… そんな考えに至るぅ…?

R:だから俺は県境を無くすために頑張るんだ!だって、県境さえ無ければ、
  そもそも県を跨いだ移動なんてできないんだから、あのお正月に俺は実家に帰れたんだぞ。

?:まぁ、そうだけどなぁ。でも県境を無くすってなぁ。

R:というか県境なんて人間が勝手に引いた線に過ぎないんだぞ!
  こんな線があるから争いが起きるんだ! だから俺は主張を通すべくデモをしている!

?:なぁさっきからそれは国境でやるような話なんだよ!
  なんだよ県境が消えたらって、スケールが一気に小さくなるなぁ!

R:衛星写真でも良い。飛行機の窓からでも良い。日本を上空から見てみてください!
  ……そこから県境は見えますか。

?:たまたま見たとこが千葉県と茨城県の県境だったら一気に説得力無くなるな。
  県境、利根川だから。

R:そうです。そうやね。そうだす。そうじゃ。そうたい。
  ……同じ言語を使う者同士でまとまるための県境? だったらそんなものは不要だ。

?:いや、方言並べて色んな国のこんにちはみたいだなじゃないんだよ。

R:お雑煮に入れる人参は星形にくり抜く人種とか、麻婆豆腐にオートミールを入れる人種とは線を引きたい?
  何故 自分と違う者を線の向こう側にしたいんだろうか。違いを受け入れましょうよ。

?:お前、秘密のケンミンSHOWの大嘘回でも見たのか。

R:魅力度の高い県だとか、総理大臣を多く輩出した県だとか、巨乳が多い県だとかさ。
  もう大人の争いに巻き込まれる子どもたちの泣き顔は見たくないんだ。

?:大丈夫、平和を再認識できる争いだ。

R:だから千代田区の平河町でよくデモをしてるんだ。あそこの都道府県会館の前でね。

?:各県庁とかの東京事務所がまとまってるとこじゃねえか。
  国の中枢との連絡調整や広報のために設けてる県の拠点を各国大使館前みたいに使うなよ。

R:今こそ廃県置無を!

?:県を廃して、置くものは無し、じゃないんだよ。置かないなら廃藩置県みたくするな。

R:と、まぁ、こんな活動をしているんだ。

?:やべえな。そんな活動する時間あるなら、お正月以外ももっと実家に帰れば良いのに。
  そういえば実家はどこなんだっけか。

R:八王子。

?:いやお前がそもそも東京を23区とそれ以外で線引くタイプじゃダメだろ。


10.星野灯 様

祝いごとの翌日さんたちの声。

12月26日くん
え、クリスマス終わって、何このアウェー感
364日ぶりの僕の出番よ!
昨日まで盛り上がってたから
「待ってました!」くらいのテンションやったのに、なにこのアウェー感。拍手喝采、スタンディングオベーションくらいあると思ってたわ。

せやのに、
クリスマス終わったらもう年越したみたいな用無し感。
惰性でテレビつけながらこたつで年越し待ってるだけの日々。

「良いお年を」なんて勝手に今年終わらすな!
あと、"6日間も"残ってんぞ!

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1月4日くん
なんなんだ、この空虚感。
人の目が人の目ではない。
目の奥が黒い。

いつまでも正月気分ではいられないのだ、と我に帰る者もいれば
三ヶ日は混んでるからちょっとずらそうなどという者も多い。
そんなこともあって、どこに行っても言うほど空いてなくて、それについてクレームを言われても困る。
正月の尻拭いをする日ではない、と声を大にして叫びたい。

新年4日目の今日は、明けまして感もおめでとう感も薄れてしまったが、みかんを剥きながらこたつでゴロゴロしておくことを推奨しておこう。


11.木葉揺 様

「もち山先生の特徴」 木葉揺

「もち山先生!」
6年女子がもち山先生の腕を引っ張ると伸びた。わかっていたとはいえ、女子は泣いてしまった。もち山先生は伸びた腕を直しつつ、自分の不甲斐になさに居たたまれなくなり走り出した。砂場へダイブ!ごろごろ転がり、自らを砂でトッピング。困ったときはいつもこう。元気が出るらしい。

「け、もち山カッコわり~」
やんちゃな4年男子が踏んづけて来た。足形が体中につけられ、もち山先生は怒りに震えぷーーーと三倍ぐらいに膨らんだ。
パーン!案の定弾ける。さっき付けたトッピングの砂たちが飛び散り4年男子の目に入った。「痛いよう、見えないよう。」男子は目をこする。

アメーバのように地べたに張り付いたもち山先生が、人間の形に戻ろうとした時、さきほどの6年女子やってきてもち山先生を丁寧に丸めた。

「食べてもいい?」6年女子の言葉にもち山先生は恥ずかしそうに焦げた。


12.青西瓜/伊藤テル

『とらさんの正月』

はい、
とらさんの詩、正月バージョン収録中~、ほほほほー、いいでしょー。
本当はまだ12月中旬なんだけども、正月用に今作っちゃうとらー。
とらさんは餅はあんまり食べないとらー、危険だからねー。
フグとかも全然好きじゃないとら、
あんな危険なモノ食べなくても、美味しいモノはいっぱいあるとら。
果物に野菜、あとはほんの少しの魚と鶏卵があれば大丈夫でしょー。
誠に異例ながら鶏卵は食べるとら、プリンがどうしても食べたいとらー。
ゼラチンは認めないとらー、とらさんは良い意味で頑固とらー。
とにかく餅は危険とら。
ぬいぐるみは基本的にぬいぐるみの食べ物のオーラを食べるんだけども、
オーラでも喉が詰まりそうになるから食べないんだとら。
アンチ餅とら、もちのいもうとには悪いけども、餅は食べないとら。
あっ、”もちのいもうと”というのは、とらさんの妹で、
とらさんが妹を欲しくなって「妹よー!」と叫んだら、
最初に駆け寄って来てくれたから、そこからもちのいもうとは妹とら。
もちのいもうとは鏡餅なんだけども、残念、食べる気はしないとら。
そもそもとらさんはおせちもあんまり食べたくないとら。
伊勢海老は殻を剥くのが大変とら、オーラでも全然殻剥きはあるとら。
テルは伊勢海老のぬいぐるみとか買ってきてくれたけども苦手とら。

とらさんは今度トウモロコシが欲しいとらー、いいでしょー、
ほほほほ……本気でトウモロコシが食べたくなってきたとら、真冬に……。
もう!

≪≪トウモロコシよー!≫≫

ほほほほ、もちのいもうとが寄ってきたとらー。
今日からもちのいもうとがトウモロコシとら。
頂くとらっ、オーラをかじらせてもらうとら、
うむ、うむむむ、もちもちしている、でも甘いとら。
やっぱり無いなら自分で作ればいいとら。
自分で作るという行動力を失ったら終わりだと思うとら。
とらさんも行動したからこそ、トウモロコシを得たとら。
何か思っていたトウモロコシとちょっと違うけども、
これから考えていけばいいとら。
まずは行動してそれから考えればいいとら。
アンチ机上の空論とら。
アンチ絵に描いた餅とら。
アンチ餅とら。
勿論とらさんは餅食べないとらー、
今まで一度も食べたことないとらー、ほほほほー、いいでしょー。

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『高速餅つき』

高速餅つきをされた
私の目の前で
【臼の中の餅を二匹の天狗が鼻で高速突きしている、絵】

あんな辱めを受けたことは無い
あんな目の前でペチペチと音を立てられるなんて
【バスローブの天狗が恥ずかしそうにホテルの廊下を歩いている、絵】

咀嚼音じゃん ヌーハラじゃん
攻撃的じゃん 放ってるじゃん
劇場型じゃん 巻き込むじゃん
【芋煮会の大きな鍋の中に落ちてしまった天狗、の絵】

周りは盛り上がっている
私がおかしいのかな
【拍手している大勢の人たちの手はいちごジャムでベタベタ、という絵】

私がおかしいから 嫌に感じるのかな
だったら嫌だな
私はおかしくありたくないから
【いちごジャムベタベタの手で草むしりをしている町内会、の絵】

この世は誰基準で行なわれているの?
ちゃんと気持ちを平均化されているの?
【天狗の鼻の長さが全部揃っている町内会、の絵】

何で町中に門松なんて飾られているの?
門松なんて設置したら竹の中に壊れた傘を捨てられても文句言えないよ
【門松の竹の中に天狗のお面が捨てられている、絵】

私の感性ってズレているのかな?
だったら嫌だな
私はこの世で一番一般的な存在でありたいのに
【いちごジャムまみれの天秤、の絵】

ブレたくない
ズレたくない
フレたくない
【いちごジャムまみれの天秤の両皿に天狗がアゴを乗っけている、絵】

真ん中の位置に留まりたい
個性なんていらない
いる個性があるとしたらそれは一般的だけ
【一般的な天狗、の絵】

普通になりたい
普通でありたい
【一般的な天狗が軍手をしながら草むしりをしている、
 周りの町内会はいちごジャムベタベタの手で草むしりしている、絵】

高速餅つきに対して盛り上がることが普通なら私はそれがしたい
でも今はどう考えても辱め
目の前であんなペチペチペチペチ
【臼の中の餅を二匹の天狗が鼻で高速突きしている、絵】

ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ
ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ
ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ
ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ
ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ
ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ
ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ
ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ
【絵無し】

苦しくて泣いていた
【顔にいちごジャムをぶつけられた天狗、の実写】

16小節のペチペチ音の圧に負けてしまった
【芋煮会の大きな鍋の中に落ちてしまった天狗、の実写】

何これ
正月なのに
正月から何なの?
無礼講過ぎじゃない?
【姪っ子に吹き飛ばされて、おせちに座ってしまった天狗、の実写】

私はこんなことまで認めていない
こんなことも認めないといけないならもう普通なんていらない
【夜の東京タワーに天狗の面が刺さっている、合成写真】

逃げ出した
三が日から
富士山は逆さになって
初日の出は線香花火のように黒くなって落ちていった
門松はロケットになって宇宙の果てに飛んでいき
鏡開きのおじさんたちが溶けだした
終わり 終わり
全部終わり
【新宿の夜景、航空写真】

だから始まるんだ
【天狗がいちごジャムで滑って転ぶ映像の逆回しGIF】

一年の計は元旦にあり
私は生まれ変わるんだ
【町内会レベルの芋煮会、の実写】

なりたい自分になれなかった自分も生きている
心臓が高鳴っている
【つきたての餅が階段からずり落ちそうになっている、絵】

めでたい色に染まっていく
【練乳をゆっくり顔の上から垂らされている天狗、の実写】