駄菓子屋

 俺はお小遣いを握りしめて、駄菓子屋へ行った。
 この店はおばあちゃんの動きが鈍くて、万引きし放題で良い店なので、中学生になっても通っている。
 店へ着くと、いつも店番をしているおばあちゃんがいなかったので、とりあえず物色を始めた。
 しょっぱい棒のお菓子に、甘いポン菓子、キャラメルに、キャンディも魅力的、目をキョロキョロさせながら歩いていると、俺は何かに当たった音がしたと思ったらすぐ何か床のほうで音がした。
 何だろうと思って見ると、なんと、ねじりきなこ棒の箱が床に落ちてしまい、その場にばら撒いてしまったのだ。
 蓋も緩かったらしく、開いてしまって、何本か中身がそのまま床に落ちてしまっている。
 そのきなこが床のアスファルトに舞っている姿が何だかエモく感じたので、俺はスマホを取り出して写真を撮ることにした。
 こういうハプニングの写真って結構ウケるんだよなぁ、と思って、内心ウキウキした。
 さて、写真も撮り終えたことだし、正直に謝るか、それとも無かったことにするか、を考えた。
 正直に謝るとなると、何だか面倒だし、すぐに無かったことにする方向で固めた。
 というわけで、落ちたきなこ棒は近くの用水路に投げ入れて、手を払いながら駄菓子屋に戻ってきた。
 おばあちゃんがいなくて助かったなと思っていると、ちょうど全部を終えたタイミングでおばあちゃんがやって来た。
 するとおばあちゃんが俺を見るなり、
「何かあったかい?」
 と言ってきたので、心臓がビクついたけども、言わなきゃバレないだろうと思って、
「何でも無いです、別に」
 と塩対応っぽく答えておいた。
 おばあちゃんはニッコリと微笑んでから、
「ならいいんだ」
 と言った。
 どうやらバレていないらしい。
 どうせおばあちゃんはSNSを見ないだろうし、そもそも俺のアカウントも知らないだろうから写真は後でアップしようっと。
 俺は駄菓子屋でしょっぱい棒のお菓子をたくさん買って、後にした。
 それにしてもまあ、きなこ棒は比較的人気の無いお菓子だし、ああやって捨てちゃって多分大丈夫だろう。
 そう思いながら家に着いた。
 ちょっとしたハプニングもあったけども、それが逆に映える写真が撮れることになったので、俺はウキウキでベッドに寝転びながら、その写真をSNSにアップした。
 こういうミスの写真はバズりやすいから楽しみだと思っていると、急に体が痛くなってきた。まるで全身がつっているような。
 これはヤバイと思っていると、体全体がつっている時に感じる、ねじれてくるような感覚になってきて、本当に激痛が走ってきた。
 というかもはや本当に、何者からか強くねじられているような、キリキリとした痛み。
 俺が雑巾になって誰かに絞られているような気分だ。
「痛い! 痛い!」
 つい声を上げてしまったけども、自分の部屋の中なので、誰にも気付かれず。
 体は自由がきかなくて、ただただ、どんどん体が捻られていく。
 何だかもう体全体が細長くなってしまいそうなくらい、ねじり曲がった時だった。
 急にフケのようなモノが頭から出てきたのだ。
 ただのフケじゃなくて、ちょっと茶色でサラサラの砂のようなフケ。
 何で急にこんなモノが、俺はいつも綺麗に頭を洗っているのに、と思っていると、今度は皮膚の至るところからそれが出始めて、一気にベッドの上は茶色いフケだらけになってしまった。
「誰か助けてぇ!」
 と大きな声を荒らげたその時だった。
「おもしろっ」
「ウケる」
「撮っちまおうぜ」
 大勢の人の声が聞こえ始めた。
 なんとか顔だけ上げると、なんとそこにはボヤーっとした人の影のような存在たちがスマホを持って俺のことを撮影していたのだ。
 俺が痛がるところをバンバン撮っていき、その度に、
「笑える」
「バカみたいだな」
「でもエモくね?」
 と口々に言っている。
 明らかに俺のことをバカにしている。腹立たしいが、それ以上に全身が痛くてそれどころじゃない。
 一体何なんだと思った時、スマホの通知が鳴り、それが目に入るとなんと、今、目の前にいる人の影のような存在たちが次々と俺のアカウントをフォローし始めたのだ。
 気味が悪いし、そもそも今どういった状態なんだと思ったところで、急に俺のベッドが濡れ始めた。
 まるで水没してくるような状態で、俺のスマホは防水じゃないので、画面がプツっと切れてしまった。
 ベッドが水を含んでたぷんたぷんになっている状態で、さらに俺はねじられ始め、なんとうつ伏せになってしまったのだ。
 水分のせいで呼吸ができなくなって苦しい、誰か助けてくれ! と強く願ったその時だった。
 俺はなんとか動けるようになり、ベッドから逃げるように脱出した。
 床に座って眺めるベッドはずぶ濡れだし、砂のような粉まみれで汚くなっていた。
 その粉をよくよく確認すると、何だか、きなこの香りがしてきた。
 というか、えっ、じゃあ、今のは、ねじりきなこ棒の祟り……?
 ねじりきなこ棒が落ちた写真を撮ってアップロードしたから? ねじりきなこ棒を用水路に捨てたから?
 俺は部屋の真ん中で、混乱した状態でボーッと座っていた。

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