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恋人と別れるなら好きなうちに

元カノの顔は美人がいい

これは友達が言っていた話なのだが、元カノは性格が悪くても美人がいいらしい。
ふとした瞬間に思い出す時があったとしても、美人であれば風景として美しい一方で、ブスだと思い出の風景すら台無しになるのだ。
そもそも選べるのか、とか別れる前提なのか、とかはさておき、いずれにしても顔がいいと言うことには恋愛のみならず生活をする上で絶対的なアドバンテージがある。
イケメンと美人はとりあえずいるだけで相手に好印象を与えているのでズルい。これは個人の主観だが挨拶を返される確率もブサイクとイケメンで何だか違う気がしているし、誰かと顔が合うだけで相手が笑顔になるのがイケメン美人の世界なのだ。
おっと間違い。その様に友達が言っていた。

さて、私にも美人の元カノが居たらしい。
長いまつげに白く透き通る肌、たおやかな立ち姿。冷静に思い返して美人さんの元カノとはデートのほとんどがいい思い出になっている。お互いに歴史が好きなので史跡巡りをしても面白い話が出来たし、美術館に1日中いたり、勢いで無茶目な日程を立てて讃岐うどん屋を巡ったりもした。会話はほとんど途切れなかったが沈黙も愛おしく、私たちはお互いに驚くほど気が合った。向こうが年上だったのでよく叱られたが、それも可愛らしかった。
私は当時大学生だったが、付き合い始めた当初は勉学への情熱をすっかり失っていた。4年間で十数単位しか取得できておらず、死ぬかコンビニの店長にでもなろうかと言う状態からなんとか立て直して卒業に目処がつき始めた。
元カノは心を病んで退職した後長らく実家暮らしで契約社員を細々としていたが、私と付き合いはじめた後に一念発起し資格を取り正社員として就職した。この人とずっとパートナーとして高め合えるのかなあ。なんて事を考えた時もあった。
結局付き合ってから1年半ほどで別れたのだが、別れた理由は今思うと「怖かった」ではなかったかと思う。
結婚の適齢期だとか、相手に対する責任を取るだとか、あんまり子供が好きじゃないだとか。色々理由を付けていたけれど、私の中で元カノとの関係性は「2人の間でだけ」あまりにも完璧で、それ以上を望むべくもなかった。

「抱けなくなったから」とか言う曖昧な理由を付けて、出来の悪い映画のように二人の関係はあっさりと幕を閉じた。別れてから、元カノとは連絡を取っていない。
(その後、元カノが変名して活動しているのを別の所で「見つけて」しまったかもしれない可能性を考えているのだが、可能性の域を出ていない。)
「付き合い始めた時は、こんなに好きになるなんて思ってもなかった。」「aotoさん、誕生日おめでとう。」別れてから3か月後に不意に貰ったメッセージを最後に、私は思い出に蓋をし、この枝を刈り取った。

恋人と別れるなら好きなうちがいい

こんな文章を書いておきながら、私自身もう別の人と結婚して10年以上経っている。つまりこの話はとうの昔に刈り取られた枝だ。
今思うと選んだ結果、元カノと結婚した未来も全然あったのかな、と思う。あるいは、返事をする事が当時の恋人へ不誠実だと考えなければ……。

しかし、私は選べる時に、別の未来を選んだ。
泥臭いが、木を剪定して、確実に自分自身がここまで育ててきた枝だ。

元カノの顔は美人が良い。
本のしおりには、美しいドライフラワーがよく似合う。

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