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自分を大切にする価値と方法を脳科学より

自分を大切にするとはどういうことで、なぜそれが大切なのでしょうか?脳科学(正確には、神経科学)の観点から、その価値と方法を探求していきたいと思います。

自分を大切にするというと、自己中心的なイメージが強くなってしまうかもしれませんが、結論からいうと、自分を大切にできない人が、他人を大切にすることは脳的には非常に難しいと考えられます。自分を大切にすることで、他人を大切にでき、それがゆえ、他人からも大切にされていくという循環が得られると考えられます。

あなたが自分の違いをお祝いすると、世界も同じようにお祝いしてくれます。あなた自身が自分を表現することは自分を労るための行動、そして自己表現するための選択、これらがまさに世界の信じるあなたなのです。あなたが世界の不思議を体験し、その喜びを広めるためにやってきた唯一無二の存在であることを世界に伝えてください。そして受け入れられることを期待してください。

ヴィクトリア・モランさん

1. 自分を大切にするとは?

自分を大切にするということは、まず自分と向き合っているということ。そして、単に向き合うだけでなく、ありのままの自分を受け入れるだけでもない。

自分を大切にするということは、自分と向き合って、自分を育んでいくこと。

ありのままの自分でいい。それはもしかしたら聞こえはいい。しかし、不変は退化。とりわけ、VUCA時代、変化の時代と呼ばれる今、そのままであることは、進歩をしていないということ。

人間、ともすれば変わることにおそれを持ち、変えることに不安を持つ。しかし、すべてのものが刻々に動き、一瞬一瞬にその姿を変えつつあるこの世の中。「うまくいっているのだから十分だ」と考えて、現状に安んずることは、即、退歩につながる。今日より明日、明日よりあさってと、日に新たな改善を心がけたい。

松下幸之助さん

2. 自分を大切にする人とそうでない人の真逆の循環

自分を大切にする人は、自分に対して否定的な言葉を使ったり、自分の存在を軽んじたりしません。例えコミュニケーションの一環として謙遜したとしても、うちに確固たる自信を宿しています。日々、自分の成長、進歩に注意を向けているから、新しい挑戦、難題や障害がやってきても、それらからも大きな成長や進歩を信じることができ、前に進むことができます。

一方、自分を大切にしていない人は、自分を卑下したり、自分の至らないところばかりに注意が向き、自分の脳に、自分の至らなさを強く書き込んでいきます。自己肯定感や自信を持つことができず、新しい挑戦、難題、障害に学ぶ意欲は湧かず、いかに回避するのかを算段し、成長が停滞してしまいます。

また、自分を大切にする人は、自分の進歩、成長に注意を払っているため、成功・失敗にばかり囚われていません。成功・失敗に一喜一憂することもいいですが、それだけでなく、そこから何を学ぶのか、それが自分を大切にしている人の脳の使い方と言えるでしょう。

それとは反対に、自分を大切にしていない人は、失敗を恐れるがあまり、成功や失敗、結果の奴隷になってしまいます。結果至上主義になり、結果が出ることには挑戦できるけれど、結果が出ないことには挑戦しない。最初から結果が出ることだけをしていることは、挑戦とは呼べませんし、そこから学べることは多くはないでしょう。それは、自分を育むという観点では、物足りない。

自分を大切にできない人は、自分の失敗を受け入れ、学ぶことができないという特徴があると言えるでしょう。

そして、普段から自分の進歩、成長、学びに注意を向けている人は、他者のそれに注意を払いやすくなり、他者の可能性を信じやすくなります。当然、人を惹きつけます。他人からも大切にしてもらえる確率を高めます。

ところが、自分を大切にしていない人は、他人の粗探しも得意になり、ついつい至らないところばかりをみてしまう。他者に否定的になったり、警戒的になったり、相手の可能性を信じられないどころか疑い、否定しまうことも多い。当然そのような場合、他者から大切にしてもらえる確率も下がってしまうでしょう。

また、自分を大切にする人は、自分の健康、感情、精神などの状態を大切にします。それらが乱れている時には、そのケアに投資することを恐れません。そして、時に他者からの申し出にもしっかりとNOと言えるでしょう。

自分を大切にしていない人は、自分と向き合うことが少なく、自分の健康、感情、精神の状態に関する基準が曖昧で、ケアを怠り、そして相手からどうみられるか、相手から嫌われないか、などを気にしがちであり、無理をして相手に合わせたり、NOと言うべき時にNOと言えなかったりする可能性を高め、結果そのような状態ではパフォーマンスも出しづらく、相手にとっても良くない結果になることも少なくないはずです。

よって、自分を大切にできるか否か、は単に自己肯定感を持てるか否かということのみならず、成長意欲、他者との関係、パフォーマンスと多岐に渡り我々に影響すると考えられるのです。

3. 脳的になぜ自分を大切にすることが重要なのか

神経科学の観点から見ると、自分を大切にすることは、脳とその機能に直接的な影響を与えるため、とても重要です。様々な研究により、自分自身や自分の能力についての肯定的な信念、考えを持つと、意思決定、問題解決、その他の認知プロセスを担当する前頭前野での活動が健全に働きやすくなることが知られています。

逆に、自己否定的な話をしたり、自尊心が低い場合、恐怖や不安などの感情を処理する扁桃体での活動が増加し、前頭前野が働きづらくなることが知られています。そしてその反応は、ストレス反応を増大し、全体的なウェルビーイングを低下させる可能性も大いにあります。

さらに、自分を大切にすることは、快楽や動機付けの感情を調節する報酬系にも変化をもたらすことが期待できます。自分の価値観に合った活動を行い、喜びや充実感を得ることができると、報酬系が活性化され、快楽や動機付けの感情が生じる可能性があります。これにより、個人の成長や発展が促進されることがあります。

同時に、自分の価値観や自分の活動を大切にしている人は、他者の価値観や活動にも寛容になりやすいといえるでしょう。自分の価値観と向き合い、受け入れてきているからこそ、他者も受け入れることができます。自分を受け入れられない人には、なかなか他者を本心から受け入れることは難しいと考えられます。これは前頭前野の認知的柔軟性という能力が関わると考えられます。

全体的には、自分を大切にすることは脳の機能にとって重要であり、認知的および情動的処理の肯定的な変化、動機付けと個人的成長の増加につながる可能性が高いといえるでしょう。他にもいくつか、脳的にみる自分を大切にする価値をご紹介しておきます。

  1. レジリエンスを促進する:自分自身と丁寧に温かく向き合い、理解を深めることで、脳のポジティブ感情に関連する領域の活動を増加させ、ネガティブ感情に関連する領域の活動を減少させることが示されています。これにより、レジリエンス、折れない心を持ちやすく、ストレスや逆境に対処する能力が向上する可能性があります。(Self-compassion promotes resilience: Neff, K. D., & Germer, C. K. (2013). A pilot study and randomized controlled trial of the mindful self-compassion program. Journal of Clinical Psychology, 69(1), 28-44.)

  2. 自己肯定感が身体の健康を改善する:自己肯定感が高い人は、心血管疾患の発生率が低く、免疫機能が良好であることが研究で示されています。これは、ポジティブな感情が脳と身体のストレス反応システムに与える影響によるものと考えられます。(Positive self-perception improves physical health: Häusser, J. A., Schulz-Hardt, S., Schulte, M., & Mojzisch, A. (2010). Ten years on: A review of recent research on the Job Demand-Control (-Support) model and psychological well-being. Work & Stress, 24(1), 1-35.)

  3. 自己肯定感を高めることでストレスを軽減しパフォーマンスを高める:自己肯定感を高めることでストレスを軽減し、さらにストレス下での認知能力を改善することが期待できることが研究によって示されています。(Self-affirmation reduces stress: Creswell, J. D., Dutcher, J. M., Klein, W. M. P., Harris, P. R., & Levine, J. M. (2013). Self-affirmation improves problem-solving under stress. PLoS ONE, 8(5), e62593.)

  4. 自己評価が動機付けと目標指向行動を促進する:自分自身や自分の能力をポジティブに評価することで、動機付けや目標指向行動が増加する可能性があります。これは、自分の価値観に合った活動に取り組み、喜びや満足感をもたらすことで、脳の報酬系が活性化やすくなるからと考えられています。(Valuing oneself promotes motivation and goal-directed behavior: Higgins, E. T. (2012). The neuroscience of motivated cognition. Oxford University Press.)

4. 多くの偉人も自分を大切にしてきているかもしれない

科学的にみても、一般的に言われるように、やはり自分を大切にすることは、我々の心の豊かさ、人間関係、パフォーマンスにも大切そうです。世界に多くの価値を生んできた偉人と呼ばれる方々も、きっと形はそれぞれ違えど自分自身を大切にしてきたのかもしれません。

アルバート・アインシュタイン:アインシュタインさんは、自分の好奇心や既成概念に疑問を持つ意欲を尊重しており、「私には特別な才能はない。ただ情熱的に好奇心があるだけだ」と語っていますが、好奇心とは、人それぞれの内側の大切な反応であり、好奇心を大切にするとは、自分を大切にすることの最たる例かもしれません。

セレナ・ウィリアムズ:セレナさんは、史上最高のテニス選手の1人で、23ものグランドスラムシングルタイトルを持っています。彼女は自分の努力や仕事に対する献身性を尊重しており、「私には非常に優れた職業倫理があり、一生懸命働くことを恐れません」と述べていますが、自分で自分の職業倫理を持ち合わせている人はどれだけいるでしょうか?自分の在り方をまさに確立しており、それは自分と深く向き合い自分を大切にしていることの表れなのかもしれません。

オプラ・ウィンフリー:ウィンフリーさんは、貧困や虐待など、人生に大きな逆境を乗り越えたメディア界の巨頭であり、慈善家でもあります。彼女は自分の強さや障害を乗り越える力を尊重し、「私たちが思いをめぐらせることこそ、私たちがなる人物であることが分かっている」とおっしゃっています。自分が思いを馳せること、それは自分の脳が気になっていることであり、それは人それぞれで、それを大切にすると、そういった人物になっていけるということを教えてくれているのかもしれません。アインシュタインさんの言葉とも通じますね。

マヤ・アンジェロウ:アンジェロウさんは、幼少期のトラウマや人種差別など、人生に大きな挑戦を乗り越えた著名な詩人、作家、そして人権活動家です。彼女は自分自身と自分の声を尊重し、書き物を通じて人々を力づけ、インスピレーションを与えました。「私は私に起きたことで変わることはできるが、それによって私自身が小さくなることは拒否する」と述べていますが、どんなことが起きても、それが自分を縮こませるものではなく、自分を成長、育むために重要であることを教えてくれているのかもしれません。どんな体験も成長に変える、それは自分を大切にしているからできることでしょう。

5. 脳から考える自分を大切にする3つの方法

1. 自分の違いをお祝いする

あなたの特徴、ユニークネスはなんでしょうか?そんなのない、、、だなんて思わないでください。きっとあるはずです。

あなたが没頭するもの、好きなもの、大切にしているもの。そして客観的に自分を見た時に、それらと向き合っている時の自分が好きと思えるもの、それを棚卸ししてみてください。

ポイントは、あなた自身が、自分で自分を見た時に好きかどうか、他者の目線は気にしないでください。そんな、自分自身を受け入れる、いや楽しみ、お祝いできる人は、きっと周りからも、その違いを祝福されるに違いありません。

2. 進歩・進捗・成長に囚われる

結果も大事です。でも、結果には否が応でも注意が向きます。そこに一喜一憂するだけでなく、大切なことは、成長に注意を傾けるということ。

うまくいっても、もっとうまくいく方法や情報を、うまくいかなければ、どうやって改善できるかを考える。どちらも成長につながります。

日々の生活、結果が出ていないくても、進んでいることはあるはずです。その進歩を感じてください。例え、資料10枚を仕上げるのに、1枚も書けなかったとしても、見かけ上は進捗がなくても、あなたの頭であれやこれやと考えたという進捗があります。その時間は、必ずその先に繋がるのです。

そして、成長というのは、時間軸で見ると、点ではありません。定点観測が必要です。メタ的に、俯瞰的に自分を見る必要があります。あの時できていなかったけれど、できるようになった、少なくともその2定点を脳で同時に想起することで、できないこともできるようになるという記憶があなたの脳に刻まれます。

ポイントは、同時性です。失敗した、うまくいった、点での振り返りは多いですが、脳に、できないこともできるようになるということを結んで学習させることは少ない。意識して、自分自身の脳に俯瞰的な成長の軌跡を書き込んでいってください。そうすることで、自分の成長可能性を信じられるだけでなく、他者の成長に注意を向け、他者の可能性を楽しめるようにもなるはずです。

3. 好奇心に蓋をしない

アインシュタインさんの言葉ではないですが、好奇心を大切にするということは、自分の内側からの声を大切にするということです。

その直感的、心の声というのは、曖昧なものでも、非科学的なものでもありません。脳がこれまでの体験から、生物学的なパターン学習をし、その結実です。

ボトムアップから脳が求めるものは、脳が集中しやすく、記憶力を高め、あなたの脳にその情報を豊かに保存しやすい。そして、その好奇心のありようは、人様々。それを大切にするということは、誰とも一緒ではない、あなたならではのユニークな情報をあなたの脳に刻むことになり、ユニークブレインを育むと言えるのです。

その個性豊かな脳は、あなた自身の好奇心を愛でているからこそであり、その背景には、自分を愛でているということがあると言えるでしょう。

というわけで、脳の観点から、自分を大切にするとはどういうことか、なぜ大切か、そして自分を大切にすることで、どんなメリットがありうるのか、ということをまとめさせていただきました。少しでも何かの気づきや発見に繋がったなら幸いです。

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