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日記 コーヒーいい匂い ヤバいおもい

 朝。いつもより少しだけ早く起きて、本棚から『続・北村太郎詩集』を手に取った。ときどき、無性に北村太郎の詩を読みたくなる。生活のにおい、濃いめ。死のにおい、濃いめ。さびしさ。透きとおった孤独、みたいなものを感じるのだ、北村太郎の言葉からは。そしてコーヒーが飲みたくなるのだ。淹れて、飲んだ。飲みながら、つらつらと読んでいた。

コーヒーいい匂い
ヤバいおもい
さんさんと日は昇りつつある
いかなる情念にとりこまれようともゆるせ
かなたにひかる海よ

北村太郎『五月の朝』


 本を読みたいな、詩を読みたいな、次の休みは文喫に行きたいな、なんてことを考えながら、レジを打っていた。乱れた棚を整理していた。お問い合わせの対応をしていた。労働は、ものすごくつらくて身も心も疲弊する日と、そんなにつらくない日があって、今日は後者だった。だからいろんなことを考えていた。考える余裕があった。ラグビーW杯のガイド本がよく売れていた。バスケも面白かったから、まだまだしつこく売っていきたい。高校野球関連の重版分もようやく入ってくる。その次は、阪神タイガースのアレ関連かな。関西では大大大フィーバーだろうけど、九州ではどうだろう。そういえば、もうすぐ岩波文庫から左川ちかの詩集が出るのだ!

 スーパーで買い物をして帰宅。夫が作ってくれた夕飯、豚肉と茄子炒め丼、わかめスープ、キムチ。ラグビーのW杯を観ながら食べる。4本のトライを決めたところまで見届けて、途中からバスケの決勝戦に移動。ドイツ対セルビア戦を観る。セルビアの選手は名前に〜ッチが付く人がとても多い。ヨビッチ、グドゥリッチ、ボグダノビッチ、マリンコビッチ、アブラモビッチ。たまごっちみたいでかわいいなァ、なんて呑気なことを考えながら観始めたものの、序盤から凄まじいシーソーゲームで、なにしろ点差が全く開かない、片方が決めたらもう片方も決める、そんな状態が延々と続き、やっぱり決勝戦は互角の戦いになるんだな〜と思っていた、しかし後半になってからはドイツの押せ押せ状態になり、じりじりと点差が広がり、これはセルビア厳しいか、と思ったら最終クォーター、セルビアが3本のフリースローをもらったところでわあああああ、と興奮はMAXになり、あまりにも面白くて、これは今とんでもないものを観ているのでは、と思った。これが世界一を決める戦いかあ、と思った。ゲームセットまでの僅かな時間、永遠のような一瞬を観ていた。優勝はドイツ。コート上で抱き合う人々、笑顔の人々、涙を流す人々。熱気。ほんとうに面白かった。興奮した。


 寝る前、北村太郎ひらく。興奮した心を鎮めるために。

また、口笛のように風が吹きだすとしても、きょうは、
きょう、生きるに値する幻があればいいのだ
たとえば、白いコーヒーがなみなみと
茶色の茶碗につがれる、ある夜の!

北村太郎『白いコーヒー』

むろん空は青かったし
水は
そのためにあったようだった
愛する人の体じゅうからあんなに汗がしたたるなんて
思いもしなかった
コップを持っていく自分の指が
とってもあお白くみえた

北村太郎『33』

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