見出し画像

綺麗すぎる戦争映画

『ラーゲリより愛を込めて』(2022/日本)監督瀬々敬久 出演二宮和也/北川景子/松坂桃李/中島健人/桐谷健太/安田顕

解説/あらすじ
第二次大戦後の1945年。そこは零下40度の厳冬の世界…。わずかな食料での過酷な労働が続く日々。死に逝く者が続出する地獄の強制収容所(ラーゲリ)に、その男・山本幡男は居た。「生きる希望を捨ててはいけません。帰国(ダモイ)の日は必ずやって来ます。」絶望する捕虜たちに、山本は訴え続けた。 劣悪な環境のラーゲリでは、日本人同士の争いも絶えなかったが、山本はどんな環境にあっても分け隔てなく皆を励ました。そんな彼の仲間想いの行動と信念は、次第に凍っていた日本人捕虜たちの心を溶かしていく。山本はいかなる時も日本にいる妻や4人の子どもと一緒に過ごす日々が訪れることを信じていた。 終戦から8年が経ち、山本に妻からの葉書が届く。厳しい検閲を潜り抜けたその葉書には「あなたの帰りを待っています」と。女手一つで子どもたちを育てている妻を想い、涙を流さずにはいられなかった。誰もがダモイの日が近づいていると感じていたが、その頃には、彼の体は病魔に侵されていた。体はみるみる衰えていくが、家族と会うことを決してあきらめない山本。そんな彼を慕うラーゲリの仲間たちは、厳しい監視下にありながらも、山本の想いを叶えようと思いもよらぬ行動に出る――。辺見じゅんのノンフィクション小説の映画化。

coco映画レビュアー

全体的に綺麗すぎる作り。北川景子は戦時の顔ではないのでミスキャストだと思う。ラーゲリーの様子も最初は制服が新しかったり、冬のシベリアで穴を掘るのがサクサクすぎて(凍土なのに)リアリズムでないような。戦争ファンタジーなのかな。

ラーゲリーというと石原吉郎を思いだすのだ、内容はだいたいそんな感じだった。ただ石原吉郎の体験したラーゲリーはもっと悲惨に書かれていた。例えば列車の中は汚物垂れ流し状態で、食料はわずかの状態でそれだけしか考えられなかったと。だからこのラーゲリーはそこまで悲惨には描いておらずごく普通の捕虜映画のようにも思えた。

監督が瀬々敬久でオールキャスト映画を作るけど自分の撮りたい映画のためにこういう映画を撮るのだと思いたい。これは綺麗すぎる映画だもの。ラストの手紙のシーンは、泣けるけど4人も繰り返すと飽きてしまう。トイレを我慢する時間が、その分長くなったようで。

例えばハルピンの幸福すぎる家族を思い出させるシーンは、その裏に隠された絶望があるのだ。それはラーゲリーと同様なものなのに、ハルピンの幸福な家族を肯定してしまうラストは問題あるシーンだ。

原作の辺見じゅんは、後に『男たちの大和』を書いた作家だった。一応、モデルは山本幡男という俳句を作る人だった。それで叙情的なんだと思った。俳句や短歌がそういう叙情詩的な面で批判され、大政翼賛のうたになりやすいと戦後は批評されたのだ。その批評の中から出てきたのが石原吉郎の現代詩であった。二人のまるっきり違うラーゲリーの描写はそういうことだった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?