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ラインマーカーを消す「やり直し」下敷きを持っているか?

『ラインマーカーズ: The Best of Homura Hiroshi』穂村弘 (小学館文庫)

人気歌人・穂村弘 唯一の自選ベスト版歌集

1990年に歌集『シンジケート』でデビューして以来、
短歌、エッセイ、評論、絵本、翻訳と、
日本のカルチャー・シーンのただ中を疾走してきた歌人、穂村弘。

2003年の刊行からロングセラーを続けてきた
自選ベスト版歌集が、
歌集未収録連作「ピリン系」
「手紙魔まみ、教育テレビジョン」を加えて
文庫化された。

日本の短歌シーンを一変させただけではなく、
後続する世代の小説・演劇・詩・俳句・川柳・歌詞などに
決定的な影響を与えた穂村ワールド全開の
「ラインマーカーまみれの聖書」を、
今すぐポケットに入れて、旅に出よう。

解説は歌人、瀬戸夏子氏。

ビー玉が道路をころがってきて、そのあとから子どもたちがやってくる  B・ヴィアン

穂村弘『ラインマーカーズ』

『シンジケート』の頃はまだ70年代短歌の匂いがあったのはアジテーションなのかなと思いました。『手紙魔まみ』になると内輪の世界、SNS的なつぶやき短歌なのかと。解説の瀬戸夏子氏によると穂村弘世代までは前衛短歌の塚本邦雄とか読んでいた世代間(縦の)の格闘があったと思うのですが穂村弘以降になると横(SNS)の共感性なのかなと思う。『手紙魔まみ』は分岐点だったような。それは穂村弘と呼ぶか、ほむほむと呼ぶかの分かれ目なのか。

参照「アフターシックスジャンクションいま読むべき注目"現代短歌"~」

体温計くわえて窓につけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ
「キバ」「キバ」とふたり八重歯をむき出せば花降りかかる髪に背中に
乾燥機のドラムに共用のシャツ回る音聞きつつ眠る
許せない自分に気づく手に受けたリッキドソープのうすみどりみて
五月 神父のあやまちはシャンプーと思って掌にとったリンジョン・ライドンに敬礼を 小便小僧のひたいに角生まれし朝
朝焼けが海からくるぞ歯で開けたコーラで洗えフロントガラス
夜のあちこちでTAXIがドア開く飛び立つかぶと虫の真似して
パトカーと遊ぶ子供らナンバーを色とりどりのガムで隠して
目覚めたら息まっしろで、これはもう、ほんかくてきよ、ほんかくてき
花束のばらの茎がアスパラにそっくりでちょっとショックな、まみより
きらきらと海のひかりを夢見つつ高速道路に散らばった脳

「ゆひら」は第三者が聞けば何を言っているのかわからないが、二人の間にはコトバを超えたコミュニケーションがある。

「キバ」というと「木場」を思い出してしまうのだが、むろんここは部屋の中。大島渚監督『青春残酷物語』の舞台でした。

「乾燥機」で「眠る」はバスで眠る世界の続編みたいだ。「眠る」がポイントかも。
「リキッドソープ」に許せない自分がまだいる。
神父を持ってくることで世界系になる。(注)塚本邦雄や葛原妙子のキリスト教との対峙。
「ジョン・ライドン」だけど「シド・ヴィシャス」じゃない。
「コーラ」で洗えのメッセージ性はもはや戯れとしてなのか?「灰色のコカ・コーラ」(中上健次)以降の世界だと思うのはドライブの情景だということ(村上春樹的?)
『ブレードランナー』の未来都市は手塚治虫の漫画のイメージ。少年時代の夢を持ったまま大人になれない都市に生きるかな。
子供のアナーキーさ。塚本がいうように「革命」ではなくて「遊戯」。それは想像界なのだけど。
手紙魔まみの「ほんかくてきよ」は彼女のリフレインではなく彼の同調なのだ。だから「ほんかくてき」の字足らず。
「まみより」侵食されるコトバの世界。もうどうすることもできない。
それは「高速道路に散らばった脳」なのだ。


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