見出し画像

マッチ一本歌事のもと(最終話)

これまでの物語。


次の決戦へ!

オレは次の日、俳句部から抹消された。フミコとのメールも途絶え、フミコも行方知らずだ。そんなオレの情報源は柳棚だけになっていた。あの後、俵田が圧倒的に相手をのした後に反省会が開かれてオレの除名が尺八から伝えられたという。誰も抗議するもんは居なかったのか?それがお前らの「絆」だろうと思った。人のことは言えない。オレもフミコを見殺しにしたのだから。いや、フミコが身を捨ててオレの歌道を開いてくれたのだ。今も。

オレは公園で残りのマッチを擦っていたところを放火犯として通報され警察に捕まった。それはフミコを求めていたのだと思う。そのマッチの燃えカスをノートに書き付けていたのだから。

警官が柳棚の知り合いだったらしく、柳棚は尺八と母を連れて警察に来てくれた。そこでオレは無実の証明ということで、短歌の提出を警察に求められたのだ。柳棚がマッチの秘密を告ったのだ。アイツは革命を起こすときは真っ先に切らねばならないと思っていた。オレは釈放の交換条件として、それを証明するものとして、短歌ノートを提出したのだ。どうせノートも燃やすつもりだった。

オレはノートに書いた短歌五首と引き換えに釈放された。その後にどういうわけだか夏の高校短歌甲子園に個人枠で出場することが決まっていた。昨日の歌会の相手校の在原業平という爺さんが協会の偉い人のようで、オレを推薦したと聞いた。尺八は除籍した者を出場するわけには行かないということだったが、個人戦ならばそれもいいでしょうと言って、警察から預かったノートを協会に提出していた。それが理事会で通ったという柳棚の話だった。頭加塚(ずかづか)の主催する短歌誌が後日送られてきた。オレの短歌が掲載されることになって、その批評を頭加塚がしているのだった。高校四天王の誕生と囃し立てていた。

おれが注目したのはそれよりもオレとマチコ・マッチングペアとあと一人の四天王で名前なのである。神上フミとかいう者だった。その短歌を観た時にオレは震えた。それはオレに宛てたフミコのメール短歌だったのだ。フミコは神上フミという名前で個人戦に出場することが決まったという。頭加塚は我が短歌部の伝統は、伝統を外れた者にもチャンスを与えたことだとまとめていた。フミコにもう一度会えるのだ。

オレはフミコの一首を声に出して詠んでいた。

オオカミの遠吠え月突きて闇夜の風は光を通す  神上フミ

そして、おれがフミコに答えた短歌を大声で読み上げたのだ。

放火魔やマッチ一本歌事のもと闇世を燃やせ月読命(つくよみ)の穴  寺川修一


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?