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敗戦日向こう側よりひっそりと

『戦争童話集』野坂昭如 (中公文庫)

戦後を放浪しつづける著者が、戦争の悲惨な極限に生まれえた非現実の愛とその終わりを「八月十五日」に集約して描く、万人のための、鎮魂の童話集。

どの童話も「昭和二十年 八月十五日」と始まる童話が12編。それは物語の終わりでもなく、ある者の死で終わるのだ。そして語られた戦争という物語。酔っ払っているだけの作家だっと思っていた野坂昭如の『戦争童話集』は悲しい。焼夷弾の焼け野原を素面で語るのはあまりにも酷いものなのか?

「凧になったお母さん」の空襲でのリアリティ。焼夷弾で水分を奪われるために自らの唾や汗や乳を幼い子どもに塗ってあげる母親がいたことを童話として語る。それらの分泌物は、生きていくために必要なものだったのだ。そういう物が奪われていく過程で、もはや言葉しか残らない。あとは涙で蘇生させることが出来るのか?

子供と共に動物たちに託された命が仕草となってファンタジーとして語られる。「小さい潜水艦に恋をしたでかすぎるクジラの話」は、自爆する潜水艦に寄り添うために。「干からびた象と象使いの話」は、餌の見返りとして体力を振り絞って曲芸をしようとする。「青いオウムと痩せた男の話」では防空壕でオウムが亡き父の声を繰り返し、息子を励ます。

ここでは兵器でさえ、童話的に語られているのだ。「赤とんぼ」と呼ばれる訓練式の旧型飛行機で特攻を命令される「赤とんぼ、あぶら虫」。「八月の風船」では、ジェット気流に乗せてアメリカ本土を爆撃しようとする風船爆弾(「ふ号兵器」と名付けられたことさえファンタジーのような)を作り続ける女学生や少年の夢。永遠に完成しなかった秘密兵器「青木光線」を信じさせた者は誰だったのか?(「ソルジャーズ・ファミリー」)

アニメ 戦争童話集 https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B00FS2VMFC/ref=atv_dp_share_r_tw_3a735eb4416d4


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