溺れてゆく老ナルキソスの世界
『老ナルキソス』(2022/ 日本)監督・脚本:東海林毅 出演:田村泰二郎、水石亜飛夢、寺山武志、日出郎、モロ師岡、津田寛治、田中理来、千葉雅子、村井國夫
最近ゲイの映画も増えてきたが、世間にあまり公表できなかった時代にゲイコミュニティのなかで青春時代を過ごした老人と今風のウリをするゲイの青年の話。家族の問題を扱っているのだが喜劇的に処理している。
先日観た『波紋』と似た所があると思うのはゲイ老人がナルキッソスの幻影を夢見るシーンが水面で波紋を広げながら溺れていくイメージか。このシーンは繰り返し出てきてインパクトがある。「ナルキッソス」はカラヴァッジオの有名な絵の世界をモチーフにしている。ただ水面に移る姿は老いたる身体ということだった。
田村泰二郎という役者が良かった。ゲイ絵本作家の雰囲気が出ていた。また最近の若者は美しいなあ、とこっちもゲイ気分を味わえる。さすがにベッドシーンはへんな汗が出るけど。
ベッドシーンと言っても老ナルキッソスは尻を叩かれるのが好きな人だから。自分を痛めつけることが快感になるという。それは厳しい父親から認めてもらえなかったので自分で自分を認めるしかなかったので、ナルキッソスになったということだ。かなり自己中なのだが、それは芸術家肌なんだろう。
ナルキッソスの感情がなんとなくわかってしまうのは家族を持たないからであろう。家族に対してのトラウマは若者にもあって世代の違う二人を結びつける。老人の過去の精算というテーマもあるようだ。ゲイの元彼を尋ねに行くのだが相手は結婚して子供までいるのだ。ゲイと家族問題。最近できたパートナシップ制度のことなども詳しく知れた。そのへんの時代の移り変わりなのだが、二丁目のゲイバーのママさんがいるいるパターンだった。ゲイバーは行ったことないけど。けっこうママさんのゲイ老人に対する観察眼は鋭いと思ってしまった。
ゲイ映画だけど家族映画だった。
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