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タル・ベーラのリアルな映像美

『タル・ベーラ 伝説前夜』

タル・ベーラ
1955年ハンガリー、ペーチ生まれ。哲学者志望であったタル・ベーラは16歳の時、生活に貧窮したジプシーを描く8ミリの短編を撮り、反体制的であるとして大学の入試資格を失う。その後、不法占拠している労働者の家族を追い立てる警官を8ミリで撮影しようとして逮捕される。釈放後、デビュー作『ファミリー・ネスト』(77)を発表。この作品はハンガリー批評家賞の新人監督賞、さらにマンハイム国際映画祭でグランプリを獲得した。

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『アウトサイダー』(1981年)

解説/あらすじ
ブダペストの映画芸術アカデミーに在籍中に製作された長編2作目。社会に適合 できないミュージシャンの姿を描いた、珍しいカラー作品。タル・ベーラは本作に対し、「当時のハンガリー映画に映っているのは嘘ばかりだった。本当の人々の姿を撮りたかった。これは映画に対するアンチテーゼだ」と語っている。

ジプシー的なアウトサイダーの男のドキュメンタリータッチなドラマ。最初精神病院でバイオリンを弾いて患者たちに接する看護師なのだが奔放すぎて首になる。実際の精神病院で撮ったのだろうか?かなりヤバい映像だった。患者に説教する神父風の精神科医が精神病者だったり、境界がはっきりしないシーンを映し出す。

これはこの映画にも言えることで、ドキュメンタリーなのか演技なのか境界があやふやなのだ。実際に現場が映画の舞台そのものとなっているような。そこに映し出されるハンガリーの現実が映画を通してリアルに伝わってくる手法は、すでにこの映画でも見られる。

アウトサイダーの主人公は仕事を探したり結婚したり自由気ままな生活を送っているがある日、徴兵の知らせがくる。身勝手な男なんだが憎めない性格。施設育ちだからそういう生活になったのか彼の兄と親友もそんなアウトサイダーだった。

勝手気ままな貧乏暮らし。子供もいるんだけど違う女と結婚して、生活のことで揉める。バイオリンで生活が成り立たずディスコでDJをやったりするのだが生活苦で妻に責められる。貧乏暮らしは彼の生活スタイルだが、妻は豊かな生活を求める。そして、兄との不倫。泥沼な環境。

薬物中毒の親友も野垂れ死にしていく。出口のない若者たち。アウトサイダー的な生き方をしか出来ないのだが、徴兵に取られて末路だ。酒場ではそういうジプシー非難の客たちがいて市長を囲んで彼らを馬鹿にする。その店のマスターがジプシー楽団にとびっきりの演奏(リスト「ハンガリー狂詩曲」)をしてくれと言って終わる。貧しいリアルなハンガリー映画。

『ダムネーション/天罰』(1988年)

解説/あらすじ
『サタンタンゴ』原作者であり、本作以降すべての作品で共同作業を行う作家クラスナホルカイ・ラースローがはじめて脚本を手がけた。さらに「秋の暦」から音楽を手がけるヴィーグ・ミハーイが本作にも携わり、”タル・ベーラ スタイル”が確立された記念碑的作品。罪に絡めとられていく人々の姿を「映画史上最も素晴らしいモノクロームショット」(Village Voice)で捉えている。

アート的映像作品。後の『サタンタンゴ』につながる映画。説明的なストーリーはないので、けっこう耐える時間が多いかと。それでもオープニングのケーブルカー(炭鉱かな?)の映像や集団ダンス(フェリーニの即興性を彷彿とさせる)などの見どころは多い。貧困の村でのある男の生きざま(貧困の恋愛映画なのか?)。不倫めいたことをしてストーカー男になる。浮気女に殺してやると脅される。

それでもなんとか生き延びていくという映画。ラスト近くで野良犬に吠え勝つシーンが壮絶さを物語っている。全編雨のシーンといようなやるせなさ。酒場も水浸しになる中での刹那的などんちゃん騒ぎ。



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