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『レッド』を読む

『レッド』山本直樹

この物語の舞台は1969年から1972年にかけての日本。ベトナム戦争や公害問題など高度成長の歪みを背景に、当たり前のように学生運動に参加していった普通の若者たちが、やがて矛盾に満ちた国家体制を打倒するという革命運動に身を投じていく様と、その行き着く先をクールに描き出す、若き革命家たちの青春群像劇である。

レッド(1)

1969年、革命者連盟に所属する谷川、吾妻らは外相の訪米を阻止するため羽田で火炎瓶を投げ逮捕される。保釈された2人は赤城らとともに、獄中にいるリーダー筑波を奪還するため、交番から銃を奪う計画を実行に移すが…。一方、東北地方の大学で遅れて学生運動に参加していた岩木は、過激な闘争で知られる赤色軍に誘われて上京するが、デモの最中に逮捕される。出所した岩木を待っていたのは女性活動家たちとの共同生活だった。

浅間山荘事件とその過程の連合赤軍リンチ事件を描いた劇画。先日TVで山本直樹のインタビューでやっていたので興味深く読んだ。登場人物の頭にあるナンバリングは死亡する順番。あるいは、逮捕されるまでの日数(死亡日数も)と、そのときの年令が描かれドキュメンタリータッチだ。永田洋子をモデルとした赤城さんは26歳の年長者で周りが学生ばかりのクラブ的なノリの緩んだ中で、身体的に弱い(妊娠→中絶)こともあって人一倍健気に頑張らければやっていけない中でリーダーとして自己批判せよとか言わなければならなかった。子供を生んでいたら違ったかも。(2017/10/15)

レッド(2)

ついに銃砲店から銃を奪取した革命者連盟だったが、それ故に権力からの追及は厳しさを増す。来るべき闘争のため彼らが辿り着いた潜伏地は厳寒の北海道だった。一方、赤色軍の岩木たちは闘争資金強奪作戦・通称『G作戦』を成功させるが、同時に全国に指名手配されてしまう。それぞれ緊張を強いられる状況での逃避行だったが、そこにはごく普通の青春があった。決して特別ではない若者たち。彼らの欲しかった未来とは何だったのか?

表紙が指名手配の人物紹介。革命の為に武器を手に入れるために猟銃店を襲ったり資金調達の郵便局強盗をしたり。そして指名手配されて変装とか。赤城さんの変装姿はあまり様になっていない。変装って還って不自然に見えてしまうもの。いろいろ思い通りに事が運ばずに失敗も。警察も公安もあまり上手く事を運んでいない。そういう中での青春時代という感じで、仲間との食事や男女関係のセックスとか楽しい想い出もあったのだ。そこには当たり前のように彼らの日常もあったのだ。どこで違ってしまったのか?(2017/10/15)

レッド(3)

1972年1月、日本に革命を起こすために山岳ベースに集結した赤色連盟のメンバーたち。しかしそこで展開されたのは『総括』と称した自己批判、相互批判の応酬だった。それはやがて援助としての暴力・リンチへとエスカレートし、数日のうちに6人の死者を出してしまう。それでも上層部による暴力的総括要求の嵐はとどまるところを知らず、幹部だった安達には明確な“死刑”の宣告がくだる。あのあさま山荘事件にいたるまでの60日間を緻密に描いた話題作、いよいよ佳境に!

山岳ベースで武闘訓練に入るがどこかクラブ活動的な雰囲気が恋愛模様になっていく。結婚しても刑務所に入っているから別の男と恋愛したり子供を妊娠したり。赤城は最初に堕胎しているのでどこか弛んだ空気を感じて引き締めていく。自由恋愛は非合法の障害になると自己批判をメンバーに求める。文学青年のテロリストのロマンチシズムなど抱いて集団でのゲリラ活動にはとてもついていけないと逃亡者が出始める。

巻末の70年安保の全学連の成功体験からの高揚感が解説されている。60年安保世代は選ばれたエリートで大衆のリーダーとなって引き上げるという気持ちがあったが、70年になるとみんなが大学に行くようになって大学もマスプロ講義で大量生産化していく。その中でそれぞれの大学の自治活動での闘いというものも細分化されていく。個別の党派性。その中でより武闘派闘争を求めて行ったのが連合赤軍なのかな。

レッド(4)

1972年1月、革命を目指していたはずの赤色連盟は、極寒の山岳ベースに集結し、『総括』と称する同志への激しい暴力的追求に明け暮れていた。一人また一人と力尽き、こと切れていく仲間たち。恋人や、自分の子供を身ごもった女性までもを総括にかけてしまう不条理。そして次第に狭まる警察の包囲網。追い込まれた組織はどのように瓦解し、どこへ向かうのか?『最後の60日』編完結、そしてあさま山荘へ!

とうとう最初の処刑者が出てしまう。空木さんは我がままなお嬢さんタイプなのかな。最初に逃走したのは勘違いな文学青年の五竜君だったけど、脱走してから公安と酒を飲むとか放置しておけない状態に。このままではスパイに成りかねないと殺害を言い出したのは元恋人の白根さん。赤城さんが率先していたわけじゃなかったが武闘路線なので引き下がることは出来ないリーダーとしての役割。男以上に厳しくなければならなかった。本当はお酒も弱い人なのに断れない。(2017/10/25)

レッド(5)

武闘闘争として殲滅戦を仕掛ける赤(色)軍。鉄パイプ爆弾の作り方とか交番に襲撃して警官を殺害する作戦。殲滅戦は交番を襲撃して死んだ仲間の復讐ということもある。あまり上手く行かないのは杜撰な人選と訓練不足。やたらと自動車の自損事故が多い。それで山岳ベースで赤色軍と革命者連盟が合同訓練に入るのだった。その中で過激になる運動から脱走する者が出て来る。巻末の元赤軍派だった人のインタビューがあって結構楽しかったような。赤城さんも山岳ベースに夫婦部屋を作って革命戦士の子供を育てようとか夢見がちなんだが。

この巻は殺人はなし。黒部三兄弟が登場してくる。あと薬師姉妹。黒部次男と薬師妹が高校生でエッチするが結婚する気はない。そんな無責任なことで革命戦士としてどうなのみたいな赤城さんから説教される。結婚しろと。やったらとカップルも出来るけどゲリラ隊にいた男がやってきて雑魚寝中に痴漢行為とか。自己批判しなさい!と赤城さんに責められる。薬師姉は反抗的な態度で山を降りるというから赤城さんにも目をつけられてしまう。そんな中で栗駒♂、明星♀が脱走、逮捕。赤城さんはリーダーとして頑張ってしまう。(2017/11/10)

レッド(6)

このあたりでますますやばくなってきたのは、赤色軍派と革命者連盟が合同訓練で、すでに革命者連盟はリンチ殺人事件を起こしていた。それを赤色軍はどことなく緩みきっている感じの仲間ばかりで革命者連盟のリーダーである赤城さんが引き締めにかかる。その中でターゲットにされてしまうのが髪を伸ばしてパーマをかけ化粧している天城さん(赤色軍の最高幹部)なのだ。赤城さんと天城さんはライバル関係みたいな。他の仲間は若い子が多いので締めなければと思ってしまったのだろうか?

当時の週刊誌では美人の天城さんを妬んだ赤城さんという構図だったが巻末の関係者の証言では違うらしい。(2017/11/11)

赤城さんは、ご存知の通り永田洋子で、ライバル関係があった天城さんは遠山美枝子。

レッド(7)

観念が具象を越えるとき、命はとても軽くなる。『共産主義化』という言葉が、徐々に若者たちの性と生を蝕み始め、若き革命家たちを悲劇へと誘う!

革命同好会の革命ごっこが体育会系の革命運動に収斂されていく感じ。北(森恒夫)の涙の総括は感情的に嫌な部分を感じてしまうのはマルクス理論が合理的なものなのに精神論をもってくる体質はあきらかにかつての旧日本軍隊気質。そもそも武装蜂起自体が絵空事になってしまう日本の戦後なんだよな。それでもそこから凄惨な事件になっていくのはなんでだろう。同調圧力を生み出し止めることが出来ないのは彼らだけではないはず。(2017/12/16)

レッド(8)<完>

1971年、日本で革命を目指す赤色軍と革命者連盟は急接近し、『赤色連盟』を結成。銃を手にした彼らは、山岳ベースを転々とし、合同軍事訓練を経て榛名ベースへ続々集結する。しかし、そこで展開されたのは革命への行動ではなく、『総括』と称した、立派な革命戦士になるための、各自の過去の言動に対する自己批判、相互批判の応酬だった。総括要求はエスカレートし暴力になり、大晦日にはついに伊吹が力尽きて死に至る。山岳ベースでの最初の犠牲者を目の当たりにした彼らは、一体どこに向かおうとしているのか!?

<完>とあるけどそれは新たなる展開の始まりに過ぎないのか?「リンチ」という言葉を連合赤軍事件のニュースで知ったのだが彼からすればそれは革命戦士になるための「援助殴打」に他ならない。それだから周りの仲間から「頑張れ、頑張れ」の声援が飛ぶ異常さ。彼等の死は「リンチ殺人」ではなく「敗北死」だという認識。痴漢行為から制裁はわかるとして、痴漢された側もすきがあったと制裁される。男に殴られると快楽になるから女同士で殴る展開に。パンタロンを買ったからとかプチブル思想だからと「援助殴打」は出てくる。

黒部三兄弟の兄が弟二人に「殴打総括」される。そのシーンは映画『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』でも凄惨なシーンだと思ったが。彼らの多くは世界を良くしたいと参加した普通の学生だったわけである。女子だったらパンタロンを2千円で買うような。子供も産んでその世話をしながらその隣ではそうした凄惨なリンチが行われていたことに誰も止められなかったのか、それが集団というものの怖さなのか、連合赤軍だけではない(日本の軍隊であったり今の相撲界の事件も)集団殺人ということを考えて見る必要がある。(2018/01/28)

レッド 最後の60日 そしてあさま山荘へ(1)

あの連合赤軍事件をモチーフに、1969年の学生運動から、山岳ベースにおいて総括が始まりリンチによる“敗北死”が起こる1971年12月までを描いて、文化庁メディア芸術祭優秀賞も受賞した「レッド」(全8巻)。その「レッド」の続編となる、1972年2月のあさま山荘事件へ向かう当事者達最後の60日を、山本直樹が徹底した取材を基に丹念に描く衝撃作! あの時代と連合赤軍事件とはなんだったのか? 総括、敗北死、そして昭和史の大事件『あさま山荘事件』を知る為の必読書!

『レッド』のときより悲惨なリンチが続く。正月3日で三名の仲間が総括の名でリンチを受けて死ぬ。最初の頃は部活の合宿みたいな楽しい雰囲気もあったのだが北の独裁制裁という感じ。そんな中で疑問を持ちながら死んでいく者。三兄弟の兄も悲惨な死だった。

レッド 最後の60日 そしてあさま山荘へ(2)

1972年1月、日本に革命を起こすために山岳ベースに集結した赤色連盟のメンバーたち。しかしそこで展開されたのは『総括』と称した自己批判、相互批判の応酬だった。それはやがて援助としての暴力・リンチへとエスカレートし、数日のうちに3人の死者を出してしまう。それでも上層部による暴力的総括要求の嵐はとどまるところを知らず、その矛先は黒部一郎、天城、磐梯の3名に向かうのだが…。果たして3名の運命は? そして兵士たちの葛藤と集団心理を描く新章第2巻!

女子二人のリンチはさらに悲惨だ。死にたくないために死体にも憎しみを向けるけっこう人気者と思われる女子のリンチの壮絶さ。自分で自分の顔を殴れって、髪の毛を切られ(長い髪はブルジョアだ)、鏡に映された醜悪な姿を見せられる。リンチもますますエスカレートしていく。(2018/06/18)

レッド 最後の60日 そしてあさま山荘へ(3)

1972年1月、日本に革命を起こすために山岳ベースに集結した赤色連盟のメンバーたち。しかしそこで展開されたのは『総括』と称した自己批判、相互批判の応酬だった。それはやがて援助としての暴力・リンチへとエスカレートし、数日のうちに6人の死者を出してしまう。それでも上層部による暴力的総括要求の嵐はとどまるところを知らず、幹部だった安達には明確な“死刑”の宣告がくだる。そして総括は新たな段階に突入する…。

暑いのでネットカフェで続きを読む。だんだん革命そっちのけで総括という名のリンチがエスカレートしていく。安達は幹部ということもあり北の感情的な敵愾心もあるのかもしれない。それまでのリンチと違って死刑という名のアイスピック攻撃。なかなか死なないから痛いよ。総括で引き出したいのは人間の欲望だったりする。安達はアホなのかハーレムを作ってとか言ってしまうんだよね。女性メンバーを愛人にして。それだから嫌わものとなってしまう。でもどうせ死しかないのだったらそんな夢想をしたのかも。(2018/07/08)

レッド 最後の60日 そしてあさま山荘へ(4)

1972年1月、革命を目指していたはずの赤色連盟は、極寒の山岳ベースに集結し、『総括』と称する同志への激しい暴力的追求に明け暮れていた。一人また一人と力尽き、こと切れていく仲間たち。恋人や、自分の子供を身ごもった女性までもを総括にかけてしまう不条理。そして次第に狭まる警察の包囲網。追い込まれた組織はどのように瓦解し、どこへ向かうのか?『最後の60日』編完結、そしてあさま山荘へ!

桐野夏生『夜の谷を行く』と重なるシーンの回でした。リンチ制裁をした妊婦の女性メンバーから赤ちゃんを引き出そうという案。実際には死んでしまったからそれは叶わなかったのだが。そこまでの異常性はどこから出てくるのだろう。山本直樹の絵も秀逸。黒バックの中で女性メンバー(可愛いく描きすぎだ。感情移入してしまう)が死にたくないの呟きの中で死んでいく。そして次のページで真っ白な雪山。そこから脱走劇も始まって、一応連合赤軍がバラバラになったところで終幕。浅間山荘事件へ。(2018/07/08)

レッド 最終章 あさま山荘の10日間

革命を目指していた武装組織・赤色連盟は警察の捜査に追い込まれ、最後に残った5人は1972年2月19日、あさま山荘に押し入り、管理人を人質にとって立てこもった――。昭和の日本を震撼させ、攻防戦の模様を中継したNHKと民放を合わせた最高視聴率は89.7%を記録したという『あさま山荘事件』。連合赤軍が起こしたこの事件をモチーフに、山本直樹が緻密に描き切ったドキュメント。『レッド』シリーズ完結の一冊!

「浅間山荘事件」はダイレクトにTVで観ていた記憶がある。何日間もTVはそれだけだったし、NHKと民放を合わせた最高視聴率は89.7%というのが物語っている。「浅間山荘事件」で世代間の線が引けてしまう(三島の割腹自殺もそうだけど、こっちは記憶にない)。

山本直樹もその世代だからほぼ事件通りの内容だ。「浅間山荘事件」は人質の管理人の奥さんに危害を加えなかったのと奥さんの証言も比較的好意的だったので、事件の大きさに比べて連合赤軍はそれほど非難されたわけではなかった。むしろある部分映画的なロマンを感じたかもしれない。家族が説得するとかドラマ的だよね。

むしろその後のリンチ事件が明らかになるにつれてマスコミも国民も赤軍派に非難ゴーゴーだったと思う。特に女性リーダー(永田洋子)の残忍さばかり報道されて。そういう当時一面的見ていた視点とは明らかに違う視点が『レッド』全編にはあったと思う。(2018/12/14)



関連書籍

大塚英志『「彼女たち」の連合赤軍 サブカルチャーと戦後民主主義』

大槻節子『優しさをください 《新装版》 連合赤軍女性兵士の日記』
















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