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軍港の片隅に咲け 冬薔薇(ふゆそうび)

『冬薔薇(ふゆそうび)』(日本/2022)監督:阪本順治 出演:伊藤健太郎/小林薫/余貴美子/眞木蔵人/永山絢斗/毎熊克哉

解説/あらすじ
ある港町。専門学校にも行かず、半端な不良仲間とつるみ、友人や女から金をせびってはダラダラと生きる渡口淳。“ロクデナシ”という言葉がよく似合う中途半端な男だ。両親は埋立て用の土砂を運ぶ海運業を営むが、時代とともに仕事も減り、後継者不足に頭を悩ましながらもなんとか日々をやり過ごしていた。淳はそんな両親の仕事に興味も示さず、親子の会話もほとんどない。そんな折、淳の仲間が何者かに襲われる事件が起きる。そこに浮かび上がった犯人像は思いも寄らぬ人物のものだった…。

高度成長期に船会社を引き継いだ父親の息子は後継者にはならず悪の道に外れていく。夢ばかり語る口先だけで実態が伴わない生活。今の社会を描いているようでもあり、結論めいた方向に、まとめていないのがいいのかもしれない。ハリウッドだったら父親の跡を継ぐ家族映画になりそうだけど、日本の今の状態ではそういうリアリティを持てない。低迷する社会に出口なしの状況。

そんな中で父の船会社も経営難で辞めることに。そこで働く年寄りたちの生き様と若者たちの生き様が対照的に描かれる。例えば古株を演じていた石橋蓮司は、70年代にはそういう若者を演じていた役者なのだ。その姿に味がある。

役者がいいのは。父親役の小林薫にしても母親役の余貴美子もいいのだが愛人役の和田光沙さんが好きなんだよな。なんとなく映画が良くなる助演さんたち。石橋蓮司の歳の取り方とかそうなんだすでに私が親父世代なんだと気付かされる。感情移入してしまうのは息子世代なんだけが。

「冬薔薇」の映像がいい。それでも冬の厳しさに咲くというのは、監督からのメッセージなんだろうな。役者である伊藤健太郎へのメッセージでもあるかのような。阪本順治監督の人情が「冬薔薇」を咲かせた。息子の先行きは暗いけど、父親はどこかで生きていればいいというような。

横須賀という基地の街なのもいい。かつてはそういう軍事景気もあったかもしれない。バブルな社会だったのだが、そこを生きてきた者たちと今の低成長時代を生きなければならない者たちの交差する映画だ。


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