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ネトウヨおやじのドン・キホーテ

『ドレのドン・キホーテ』セルバンテス, (イラスト)ギュスターヴ・ドレ , (翻訳)谷口 江里也

ヨーロッパの古典をドレの絵入りでわかりやすくし、さらに谷口江里也が訳しなおした本シリーズは、『旧約聖書』『新約聖書』、『神曲』(ダンテ)、『失楽園』(ミルトン)、『昔話』(ペロー)に続き6冊目となります。ドレは『ドン・キホーテ』を制作するにあたり、もっとも信頼していた彫り師と組み、178点の版画すべてをひとりの彫り師に任せています。版画作品としての質の高さと名人の自在なタッチが味わえます。

図書館で『ナボコフのドン・キホーテ講義』を読んでいて気になったところがあったので図書館で借りた。こういう時は図書館は便利ですぐ本を調べられる。『ドン・キホーテ』は文庫本で買ってあるのだが積読状態のまま今日まで来てしまった。前編だけはこの本でもいいかと思う。ドレの版画のイラストもなかなか迫力あるし面白い。

ドレの絵がいいので、『ドレのドン・キホーテ』はお勧め。文庫本もあるようだが、単行本の方が絵が大きいからいい。Amazonで中古で600円は安い。前編だけだから安いのかもしれない。

風車を相手の我らが騎士のとんでもない冒険

セルバンテスの騎士道物語は騎士道物語がけしからんからパロディとして書いているうちに面白くなってしまってミイラ取りがミイラになったような。

考えてみたらドン・キホーテみたいなオヤジはいるよなと思ってしまった。そうだネトウヨだった。アニメの戦争ものを見て日本を守らねばとイキってしまって現実と虚構との線引がわからなくなる。それは十分今の時代にあることだった。

後半に式典僧が出てきて芝居(創作)談義になる。そこで最近のフィクションがなってないという話になるのが物語批評的なメタフィクションとなっている。

またムーア人やイスラムは敵であるというキリスト教的騎士道精神がドン・キホーテの中にあり(それはセルバンテスの当時のスペイン人としては当たり前の思想だったのか)、がちがちの保守主義者のそういう精神が希薄になった頃の喜劇なのだ。思ったより今読むと考えさせられる。

行き過ぎるとコスプレだったり、三島ゴッコをするかもしれない。ドン・キホーテは他所で散々な目にあって、それで騎士道物語の本を焼かれるのだが、そういうのも現実にありそうだ。妻とか娘がオヤジの本棚を見てそういう右翼本をゴミ出しするとか。それでもサンチョ・パンサを伴って第二回の遠征に行くのだ。いつの間にか従者が出来ているのだった。

『ナボコフのドン・キホーテ講義』によると主人公のドン・キホーテとサンチョ・パンサ意外の挿話がエピソード(枝葉)的に入っているのだが、そういうのは読み飛ばしていいという。ただそのエピソードが後のドン・キホーテの行動パターンに影響してくるのだが、それらはよくある騎士道物語のロマンスなのだ。そういう物語が繰り返されるからドン・キホーテは物語の魔法にかかって現実と虚構が混線してというよりほとんど虚構を現実だと信じてしまう。現実の方が悪魔に魔法にかけられた世界なのだ。ネット右翼のオヤジの悪の帝国の陰謀論と同じような。

それでも唯一サンチョ・パンサのドン・キホーテの従属ぶりはドン・キホーテの愛と言ってもいいかもしれない。

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