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心中に誘う物語

『曾根崎心中冥途の飛脚心中天の網島現代語訳付き』近松門左衛門(著)、諏訪春雄(その他) (カワソフィア文庫 51)

歌舞伎や文楽でお馴染みの近松の傑作が、あらすじ付きで読みやすい!
徳兵衛とお初(「曾根崎心中」)、忠兵衛と梅川(「冥途の飛脚」)、治兵衛と小春(「心中天の網島」)。恋仲になった男と女たち。女はいずれも苦界に堕ちた遊女。男は女をなんとか救いたい。募る恋情、行く手を阻む浮き世のしがらみ、義理、人情。追い詰められた2人を待ち受ける運命とは……。元禄16年の大坂で実際に起きた心中事件を材にとった「曾根崎心中」ほか、極限の男と女を描いた近松門左衛門の世話浄瑠璃の傑作3編を所収。

現代語訳が小分けしてあるのはいいのだが、原作がまとめて載せているあるために現代語訳を先に読んでしまうと読むのが面倒になってしまう。ただ近松は西鶴と違って当時の口語体なのだ。浄瑠璃という歌謡に近いのかもしれない。リズム感が良く五七調でリフレインを多用し、歌うように読める(意味を汲み取るのは難しいが)。原作の方もぜひ読んでみて欲しい。

太宰治『おさん』を読むのに『心中天の網島』を読みたかったのだが、おさんが女郎のお春に手紙を出して、それでもどうにもならない亭主のシーンが泣ける

実際に起きた心中事件を元にして近松が浄瑠璃にしたのだがストーリー展開が見事。小春という芸者にのぼせてしまう治兵衛がどうしようもない駄目男で太宰のようだ。治兵衛は小春と心中しようとして、その間際になって小春が生きていたいと言い出す。実は治兵衛の女房のおさんが手紙を出して、二人で死ぬことよりも生きることにして下さいと手紙を出したのだ。

その後裏切られたと治兵衛は小春と別れるが小春は嫌な男の元へ身請けしてしまう。おさんの手紙を思ってのことだった。そこで女の義理人情ということで、おさんが今度はそんな小春を思って、治兵衛におさんを身請けしてこいという。有り金すべてか家族の着物まで質入れして身請けの金を工面する。そこに有名におさんの有名なセリフがある。

「女房の懐(ふところ)には鬼が住むか蛇(じゃ)が住むか」

それが身内にバレて離縁させらる。治兵衛はどっちつかずだけど結局は小春と心中することになった。小春はおさんとの身分の違い、どうして同じ女なのに立場が違うのか?こんな世界にはいられないという思い。結局心中するのだけれど最初の心中とは意味合いが違ってくる。

『曽根崎心中』は芸者の哀れさを中心に描いた心中もので、『心中天網島』よりシンプルなストーリーだ。こちらは映画でも有名だけど、今回はパス。

近松の浄瑠璃(戯曲)は、道行という心中に行く場面が素晴らしいのだ。大阪の神社と橋をそれぞれ渡りながら、大阪観光巡りのようになっている。実際は心中する道行で暗澹たるしているのだが、その語りの良さで心中が別世界(浄土)に行くような物語になっているのだ。

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