花散里というより橘の香
『源氏物語 11 花散里』(翻訳)与謝野晶子( Kindle版)
『源氏物語』で一番短い帖だという。その前の血族どろどろの怨念合戦から、田舎で箸休め的な章なのだろうか?後の帖で再登場するようだがあっさりし過ぎて感想もない。橘の和歌のやり取りに華やかな匂いを感じるぐらいか?
橘の和歌は紫式部も詠んでいたのじゃないか?ライバルの和泉式部だった。敦道親王が橘の花を持ってきてそれに返歌したのであった。橘には『伊勢物語』や『古今集』で有名な歌があった。
和泉式部も紫式部と同じ道長の娘藤原彰子の教育係だったのか、そのサロンが女宮文学が花盛りし頃なのであろう。道長から紫式部が投げられたのは女郎花だった。このへんもライバル意識剥き出しのような気がする。ただ『源氏物語』はすでに書かれていたので、この帖は後から書き加えられたのか、それよりやっぱ『伊勢物語』の影響の方が強いのかもしれない。
橘の香が全編に漂う帖だった。
マルグリット・ユルスナール『東方綺譚』の「源氏の君最後の恋」は、老いた光源氏と再び寄りを戻して世話をしたい花三里の物語。
盲目寸前なのに欲望の絶えない光源氏にも笑ってしまうが、そんな光源氏に嫌われてもなお寄り添おうとする花散里の奥ゆかしさというより図々しさのように思える。女がこのぐらい積極的になるほどの光源氏の魅力だと思えばいいのか?
やっぱこの思考は西欧のものだと思う。花散里は橘の匂いぐらいで留めておくべきだろう。
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