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高校野球におけるフレーミングの是非について考える

著・原島(監督) 編・梅村(部長)

こんにちは!青山高校野球部です。前回までは学校や部活について紹介してきましたが、今回は少し路線を変えて、首脳陣の考えについて書いてみたいと思います。ぜひご意見、ご感想いただければ幸いです。


1.フレーミングの定義とそれに対する見解


 フレーミングは捕手のキャッチング技術の一つです。日本の野球界ではたびたび「審判をだます悪の権化」のような扱いをされることも多いかわいそうな子です。

キャッチャーの捕球にはいくつか名称があるらしく、キャッチング・ビタ止め・ミットずらし・フレーミングなど様々なものがあります。これらの定義については厳密なものがありませんが、いくつかの記事や野球関係者の発言をあたると、捕球すること全般を「キャッチング」と言い、その中で「ビタ止め・ミットずらし。フレーミング」と分類されていくようです

つまりフレーミングはキャッチングというカテゴリーに含まれる一つの技術だということができるでしょう。

 また、良い→ビタ止め、悪い→ミットずらし、賛否両論→フレーミングという分類もできるように思います。これらを見ると、まだ日本野球の中では浸透しておらず、検証が進んでいる最中なのでしょう。

 では、フレーミングが一般的技術として定着しているMLBでの定義はどうでしょうか。公式サイトの用語集から引いてみましょう。

“Catcher framing is the art of a catcher receiving a pitch in a way that makes it more likely for an umpire to call it a strike -- whether that's turning a borderline ball into a strike, or not losing a strike to a ball due to poor framing.”
「フレーミングとは、球審がストライクと判定しやすいように捕手が球を受ける技術であり、ボーダーラインのボールをストライクにしたり、フレーミングが悪いためにストライクをボールにしないようにしたりすることである。」

 https://www.mlb.com/glossary/statcast/catcher-framing
(日本語部分はDeepLによる翻訳を元に著者改変)

 フレーミングは「ボールをストライクにする技術」との理解が先行しがちかと思いますが、「ストライクをストライクと判定してもらうための技術」という側面も存在するということがわかるのではないでしょうか。

 ただ、日本野球にこの解釈がそのまま伝わっているかというと、そうでもなさそうです。日本球界におけるいくつかの見解を見ていきましょう。

 野口寿浩氏の見解(2020)元NPB審判の山崎夏生氏の見解(2021)とこれだけでも「解釈」は分かれます。最近で有名なものは谷繁元信氏の見解(2022)でしょうか。Short動画の再生数もけっこうありますね。ただ、どちらかといえば否定的な考え方のほうが強いようにも見えます。

 もっとも、解釈の正誤は抜きにして、元プロ野球選手や元プロ審判の中でも見解が異なるというのは興味深いものです。

 見解が分かれているということは、まだまだ日本では議論の余地があると考えてよいでしょう。MLBでは肯定的にみられているという前提があるとはいえ、フレーミングについて議論をしていくことで理解が深まっていくと思います。


2.MLB・NPBのデータで見るフレーミングの客観的価値



 ただ、データで見る限り、フレーミングの価値が高いことはもはや十分に証明されたと見ていいでしょう。今後機械判定が導入されるまでの約10年(もしくはさらに長い期間)、フレーミングは捕手の守備にとって最も重要な要素の1つであり続けると考えられます。

 たとえば2022年のMLBでは、フレーミングによる得点貢献が最も大きかったJose Trevino(ホセ・トレビーノ/ヤンキース)と最も小さかったRobinson Chirinos(ロビンソン・チリノス/オリオールズ)との間では31点もの差がつきました。

 ワンバウンドのボールを前に止めて後逸を阻止する「ブロッキング」では1位のAdley Rutschman(アドリー・ラッチマン/オリオールズ)とMJ Melendez(MJ メレンデス/ロイヤルズ)で10点差しかついていませんし、盗塁阻止やフィールディングも10点~15点程度の差しかつきません。現在確認されているさまざまな捕手の守備評価の中で、フレーミングは最も大きな差がつく指標といえます

↓はBaseball SavantやFangraphsの守備指標データです。キリがありませんので今回は詳細な説明を割愛します。

 また、NPBにおいても同様の傾向が確認されています。プロ野球データの分析を行っている株式会社DELTAの宮下博志氏による分析を見ると、ブロッキングや盗塁阻止ではそれぞれ2点程度しか差がつかないのに対し、フレーミングでは20点近い差がつくことが指摘されています。少なくとも選手のフロア(最低レベル)がある程度担保されているプロリーグにおいて、フレーミングが重要であることはもはやほぼ疑いようのない事実であると言っていいでしょう。

 

(編注・なんか僕が書くと異様に親しみにくい文体になってアレですね。)
 

3.高校野球にフレーミングってどうなの?



あくまでも監督の経験ではありますが、一般的に高校野球界においてフレーミングは悪です(断言)。

NGの理由としてよく聞くのは次の二点でしょう。

  1. 高校生なのにミットをズラすとかいう生意気なことをするな

  2. 審判をだまそうとするなんてあり得ないことだ

 フレーミングに対する見解の是非は別にしても、どうしても高校野球には、トリックプレーのような相手をだますプレーは批判されるべきだという「清く正しいプレー」が求められるようです。もちろんルール違反は批判されるべきですが、そもそもフレーミングをルール違反とするような規則は見当たりません。この点を考慮すると、論理的には批判されるべきではないように思います。

 少し視点を変えてみましょう。こちら(YouTube)の動画を見てください。動画内に出てくる中川勇斗(阪神)選手は、高校生でありながら素晴らしいフレーミングをしています。そして、いくつか中川選手の動画を見ていて気付いたのですが、中川選手を称賛するコメントのほとんどは「キャッチング」という言葉で表現されている傾向があります

 一般的には「フレーミング=悪」が成立するように思われる高校野球界でも、中川選手のフレーミングには文句をつけられないように思われます。もしかすると、「フレーミング=ミットを動かす悪いやつ」で「キャッチング=ミットがズレない素晴らしい技術」という認識が世間で広がっているのかもしれません。

 もしそうだとすれば、「フレーミングが悪い」のではなく「キャッチングが下手なせいでミットが動いていているように見える」ことが、審判をだますという神聖な高校野球界にとってあるまじき行為であると断罪されるのではないのでしょうか。

 つまりフレーミングが上手ければ何も文句を言われないわけです。

 あるいは上手いフレーミングは「ビタ止め」と認識する傾向もあるのかもしれません。

 なんにせよ、見ている人からしたら「ミットをどれだけ作為的に動かしているか」が評価基準になるようなので、それが上手ければ良し。下手だったら批判されるという所でしょうか。

 ちなみに本校はフレーミング肯定派です。

 キャッチングという観点でもそうですが、「ミットがボールゾーンに流れないようにする」という技術は大切だと思っています。だったらフレーミングではなく、例えば谷繁氏のようにミットを全く動かさないという方法で良いのではないかというご意見もありそうですが、監督は「ミットを動かして止める」という考えなのでフレーミングを推奨します。

 この辺りはどこかで書けたらいいなあと思っています。

4.おまけ



 フレーミングを行うことへの反論として「投手が投げにくくなるからミットを下げるな」というものがあります。

 これには反論が来る覚悟で申し上げるのですが…。仮にミットを下げることで投手が投げにくくなるとしたら、MLBの大半の投手は投げにくいと思いながら投げているということになるのでしょうか?

 MLBではフレーミングをするキャッチャーが多く、またその多くがミットを一時的に下ろします。仮に「投手が目標を見失って投げにくい」ということであれば、MLBの投手は1球ごとに目標を見失っていることになります。しかし、NPBと比べてあらゆるスタッツはMLBの方が優秀です。

 「日本はミットを目掛けて投げる習慣ができているからだ」ということであれば、その習慣を投手が直せばいいのではないでしょうか?投げる目標を明確に決めるということは大切ですが、そもそも目指す先はミットである必要はないわけです。レガースやキャッチャーの面であってもいいはずです。

大切なのはグラブに投げる能力ではなく、狙ったところに投げる能力ではないでしょうか。



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