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習作、1段落で完結する物語、性描写等が苦手な方は #エロくない  やつをどうぞ。Follow me, please! フィクションです。実在の人物や団体、出来事などとは一切無関係で… もっと読む
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#恋人

夜の中に

 わたしは朝が嫌いだ。ごみ収集車の音も嫌いだし、子供達が通学する音とか、街行く通勤する会社員たちの姿とか、モーニングメニューしか売っていないマクドナルドとか、人がぎゅうぎゅうに詰まった満員電車とか、そういうのがとにかく嫌いだと、いつも思う。なぜ嫌いなのかはあまり考えたことがなかったが、わたしはそれでもやっぱり朝が嫌いで、朝の中にいると、嫌な気分になることが多い。基本的に、夜型だからなのかもしれない。朝というのは、新しい一日の始まり、というよりも、わたしにとってはただの夜の終わ

下田のツタヤ

 伊豆とか下田とかに旅行に行くことがここ数年はなんだか多くて、よく目の前を通るような気がするが、中に入ったことは一回しかない。何年か前に一人で車中泊で旅行に来た時のことだった。もう今は別れてしまったが、当時付き合っていた彼女と、ほんとうに些細なことで喧嘩していて、しかも仕事もあまりうまく行っていなくて、オレはなんとなくいろんなことが嫌になって、いつものように旅に出た。と言っても、旅、と言えるほどたいそれたものではなくて、数日分の着替えと、助手席と後部座席をつなげて寝るための寝

明け方、むき出しの肩

 若かった、そのたった一言で片付けてしまうことができるものなのかどうか、いまひとつ自信がないがそれでもとにかく、当たり前のことかもしれないが、あの頃のオレは、今のオレよりも若かった。何年前になるのだろうか。飽きもせずに明け方まで互いのからだを触り合ったり、キスをしたりして、過ごした夜があった。その頃、美穂とはまだ付き合って二週間くらいで、いまにして思えば、オレの美穂への気持ちが最高に高まっていた時期だったのかもしれない。まだ付き合いたてで、お互い知らないことも多かったし、オレ

検査薬のよる

 いつもしっかりコンドームを使っていたし、生で挿れたことだって一度もなかった。それに、妊娠しにくい体質だと婦人科の先生に言われたことがある、と奈苗もいつか自分で言っていた。奈苗の生理周期はもともと不安定な方だったし、長いと一週間くらい前後することはいままでにも何度かあった。それが、今回はもう予定日から二週間を過ぎていて、そのせいで、会う度にオレは詰め寄られていた。ねぇ絶対絶対妊娠じゃないよね? いま妊娠なんてしたら親にも園長にもたぶんなんて言われるかわかんないから。ほんとにほ

ホワイトノイズ

 べつにうつ病になったりしたとか、そういうわけではないと思うが、ホワイトノイズばかりを聴いて過ごしていた時期があった。youtubeで、ホワイトノイズ、と検索すると本当にホワイトノイズを延々と再生するだけの動画が出て来る。それを部屋のスピーカーからただただ再生して、ただただ聴いていた。本来、ホワイトノイズというのは、能動的に聴くようなものではないのかもしれない。作業効率を上げたり、集中しやすくしたり、といった意図で無音よりもディストラクションにならない音、として再生されること

昼下がりの蕎麦屋

 女々しいのはいつだって男だ。男の恋愛は名前をつけて保存、女の恋愛は上書き保存。よくそんなことを言ったりもする。とにかく、過去の恋人のことをウジウジといつまでも思い出したりしているのは、いつだって男の側だ。いつまでも別れた恋人のことを考えていたって仕方がないし、もう駄目だと思って別れを決意したのは他ならぬ自分自身なんだから、どんなにそう自分に言い聞かせていても、ちょっとでも精神が弱っていたりすると、別れてもう半年以上が経つというのにも関わらず、オレはいまだにさゆりのことを思い

いとしさ

 熱を孕んだテツの掌に力が篭もる。ねぇ、急にどうしたの。テツの腕が私の裸の肩を包んでいる。すごいなぁ、って思って。暗がりでテツが言う。私は首を持ち上げてテツの顔を見た。テツは目を閉じてゆっくりと息をしている。なにがすごいの? もう一度テツの顔をよく見ながら私は聞き直す、そう、私が好きな男の顔だ。うーん、いまさ、リンと、こうしてることがさ、うまく言えないんだけど、なんかさ、うーん、すごい、なんだろう、こう、尊い、そう、すごく、尊いことだなあって、急に思えてきて。言葉を選ぶように

真夜中のチーズオムレツ

 深夜二時を過ぎたがユウキはまだ帰らない。今日はそんなには遅くならないと思う。夕方のユウキからのラインにはそう書いてあった。さっき、深夜一時を過ぎた頃にまたラインを送ってみたが、返事はないし、まだ既読もついていない。ユウキと二人で暮らすようになってもうすぐで半年になるが、お互いを知れば知る程に、二人の間の距離が拡がっていく、そんな風に思うことがたまにある。まだ今ほどお互いを知らないころは、同じものを面白いと思ったり、同じものを良いと思ったりすることが、単純に嬉しくさえもあった