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温泉旅館

 ふと背後に気配を感じたその次の瞬間には浴衣の帯の結び目が解かれていた。わたしはぼんやりと鏡の奥を眺めながらドライアーで髪を乾かしていて、ユキくんが後ろにいつのまにか迫ってきていた事に全く気づかなかった。髪の毛はもう殆ど乾いていて、わたしはドライヤーのスイッチを切った。ドライヤーを洗面台の大理石の上に置いたら、コトン、という音がした。ユキくんに浴衣のヒモが解かれてしまったので、合わせていた前がパラりとずれる。鏡の中のユキくんの目が、鏡の中のわたしの目を見ている。すこしドキドキしてきて、わたしは思わず顔をそらした。鏡の中のユキくんの手が、鏡の中のわたしの顎を持ち上げて、またわたしたちは鏡の中で目があった。インターネット予約の特典で貸し切り風呂が無料でついてきたので、それでさっきわたしたちは一緒に温泉に入ってきた。ユキくんはとにかくお風呂が長くて、いっしょに温泉に行ったりすると、なかなか出てこないからわたしはいつも退屈してしまう。きょうは一緒に入れたので、ユキくんは相変わらず長湯だったが、わたしはそんなに退屈しないで済んで、ずーっと露天の湯船に浸かっているユキくんを尻目に、お湯から出て遠くの空に浮かんでいる星を眺めたりして過ごした。温泉に浸かっているとわたしはすぐにあつくなってしまってお湯から出るのだが、少し外に出ているとひんやり冷たい夜風が火照った身体を冷やしてくれる。すっぱだかで夜空の下にいることなんて、普段の暮らしではあんまり無いから、なんだかそのことが不思議に思えて、ユキくんにそう話したら、ユキくんはニヤっと笑っただけで、何も言わなかった。ユキくんの指先がそのままゆっくりとわたしの首筋をつたって降りてきて、はだけた浴衣の中に入ってきた。ブラと素肌の隙間にユキくんの指先が入ろうとしてきて、わたしは思わずユキくんの腕に手を添えた。べつに本気でやめてほしいわけではないのに、つい、やめてよ、と口走ってしまう。もちろんそんなんじゃユキくんは絶対にやめてくれないのをわかっているから、それで、たぶんわたしは安心して、やめて、って言えるのかもしれない。乳首に触れそうで触れないところでユキくんの指が止まる。鏡の中を見ると、わたしのブラに手を突っ込んだユキくんの目が、わたしの目を見つめていた。ユキくんの身体がわたしの前に回り込んできて、それから抱きしめるようにしてわたしの身体を抱えてわたしはそのまま布団に押し倒された。手首。短くユキくんがそう言って、わたしはそれがさも当たり前のことかのように、両手首を揃えてユキくんの前に腕を突き出した。さっきわたしからほどきとった浴衣の帯で、ユキくんは器用にわたしの手首を縛り上げる。ほどけないのにきつくないし、痛くないのに動けない。浴衣の帯で手首を上手に縛る方法なんて、いったいユキくんはどこで習得したのだろう。何をされるのかはなんとなく想像がついていたが、ユキくんはわたしの上に膝立ちでまたがると、片手でわたしの腕をバンザイするときのポーズみたいになるようにして布団に押し付けて、もう片手で浴衣の前をめくってはだけさせた。恥ずかしくて電気を消してほしかったが、ユキくんに電気を消すように頼んでも、ユキくんはいつも通り全く聞きいれてくれなかった。そんなに嫌なら目隠しすればいいじゃん、と言ってユキくんは枕元に転がっていたユキくんのTシャツをわたしの顔にかぶせた。そうじゃないの! 視界を失って、わたしは余計に恥ずかしい気持ちになった。ユキくんのベロがわたしの脇に触れる。くすぐったいし恥ずかしいし、本当にやめてほしかったが、ユキくんはもちろん全く聞いてくれない。脱毛はちゃんとこないだいったばっかりだし、べつに脇をまじまじと見られても困ることはないはずだが、それでも恥ずかしかった。顔にかぶさっているTシャツからはユキくんの匂いがする。脇の下を念入りに舐めると、ユキくんのベロはそのまま上に上がってきて、鎖骨のあたりを舐めた。背中と布団の間にユキくんの手が潜り込んできて、あっさりとホックが外されて、わたしの胸を守っていたブラは無残に敗北して上にずらされた。乳首に触れそうで触れないところをユキくんは舐め続けて、わたしはショーツのなかがじっとり濡れてきているのを感じた。やめて欲しいし、やめないで欲しいし、終わりにして欲しいけど、もっとちゃんと舐めて欲しい。どうしたいのかとか、どうしてほしいのかとかがよくわからなくなってきて、そのせいでいろんなことがもうわけがわからない、というような気分になってきたときに、ユキくんのベロがついに乳首に触れて、その瞬間に身体に電気が走るみたいな感じがして背中がビクンっと伸びて、そのあとでお腹の奥のほうがなんだかじんわりと熱をもってしびれてきたような気がした。そのまましばらく胸を舐められているうちに、ショーツの中がぐしょぐしょになってまたわたしはあたまがおかしくなりそうになって、上手く息ができなくなったが、ユキくんがわたしの身体をバンザイしたままの体勢で急にひっくり返して、浴衣を裾からまくりあげた。ユキくんの唾液でべとべとに濡れた胸が布団に押し付けられてすこしだけひんやり冷たくて、そしてじっとりとシーツを湿らせているのが皮膚から伝わってくる。ユキくんの手がわたしの脇腹のあたりからすーっと下に降りてきて、一気にショーツがずり降ろされて、足から抜き取られた。腰のあたりを持ち上げられて、自分がいましているマヌケなポーズが、他人から見たらどう見えるのかを頭のなかで想像した。顔と腕を布団に埋もれさせたまま、膝立ちになってお尻を突き出しているといういまの自分の姿勢は、正座してご飯をたべたり、まっすぐ立って歩いたりしている普段の姿勢にくらべて、どう考えてもおかしかった。股の間のところがぐっしょりと濡れているのが自分でもわかって、出てきた液がそのうち太ももに垂れてきそうな気がした。ユキくんがわたしのお尻に手をそえて、ぐいっと足の間をひろげた。それからわたしのお尻にユキくんの顔が近づいてきて、股の間のところに向かって、ふっ、と息を吹きかけて、そのあとで、わたしのスリットをベロで縦に舐めた。ユキくんの顔が離れても、わたしの足をユキくんの手はぐいっと広げ続けていて、濡れた部分に部屋のすこしだけ冷えた空気があたって、冷たく感じた。ユキくんが浴衣を脱ぐ音がして、それからたぶん、コンドームの袋を破いた音がした。心臓がドキドキしたままわたしはお尻を突き出してユキくんが入ってくるのを待っていた。ユキくんは後ろからは入ってこなくて、乱暴に、でも優しく、わたしの身体を起こして、帯で結ばれたままのわたしの腕を自分の首にひっかけて抱きかかえるようにしてわたしの身体を持ち上げて、それから、わたしの中にユキくんのかたくなったのを入れた。ヌルヌルと音が聞こえそうなくらいに、ねっとりとわたしのスリットはユキくんをぴったりと覆い包んでいる。下からわたしのことを串刺しにするみたいにしてユキくんはわたしのことを貫いて、そしてきつくわたしの身体を抱きしめた。気持ちいい、ってユキくんに伝えたかったけど、わたしがなにか喋ろうとするとユキくんの唇はわたしの口を塞いでしまう。前歯の裏側のあたりをユキくんに舐められながら、わたしはいま自分がすごく幸せだと心から思えて、なんだか泣きそうになった。ユキくんの腕は、わたしの背中を、力強く抱きしてめていて、ふたりがつながっている部分からは、ぬるぬると濡れた音がしていた。そして、頭の奥がクラクラとしびれるみたいな感じになって、それからまた全身に電気が走ったみたいにわたしの身体の芯が震えた。(2018/01/30/07:01)

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