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ネタバレ 映画「マイレージ、マイライフ」

マイレージ、マイライフ
2009年作品
所有した者だけが喪失感を味わえる
2010/4/5 21:55 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

就職は自分の適性をよく考えないといけません。人気の公務員も、人と接することが苦にならない人でなければ、つらい仕事になります。公務員は奉仕者ですから、事務職というよりもサービス業です。それが苦になる人は、窓口も電話もない工場に籠り、黙々と仕事が出来る、例えば職人などを選択した方が、安らかな人生を送れるかもしれません。

主人公のライアンは、どうもこの仕事には向いていませんね。繊細で優しい男だからです。しかし、この仕事だからこそ、そんな男に働いて欲しいのが社長の気持ちでしょう。そんな、なんだかんだで、けっこう長くこの仕事をすることになってしまったライアンなのでした。

でも、その代償は大きかったのです。ライアンは仕事で神経をすり減らすため、OFFタイムは1人丸まって、心の傷を舐めて癒すことで過ぎてしまうのでしょう。婚活などするエネルギーは無いのです。彼のサナトリウムは飛行機と高級ホテルのサービスなのでした。

そんな彼だから、リストラの話をするときに、「君は本当は、別にやりたいことがあったのではないか、今からその夢を追いかけたらどうかね…」などと話をしていましたね。あれは「自分の気持ちの吐露」でもあったのだと思います。

そんな彼も時に人恋しくなるので、ガールフレンドぐらい作ります。でも、つい本気になってしまったのですね。しかも彼女は人妻でした。

考えてみると、新人社員のナタリーは彼の娘役、恋人のアレックスは妻役、みたいでしたね。ライアンは二人と出会い、3人家族の様な濃密な時を過ごし、そして二人とも同時に失ったのです。

ライアンに残されたのは、所有したものだけが知る喪失感でした。ライアンは再び飛行機や高級ホテルの癒し世界に戻ることが出来ますが、もはや、そこは空虚で、家庭の代役にはならないことを知ってしまったので、色あせて見えるのでした。これがラストの飛行場でのシーンですね。

きっと彼は転職するのでしょう。

そして自分の適性にあった所に再就職して、婚活を始めるのでしょうね。ハッピー・エンドでした。浮気もバレナケレバ悪いことだけではないぞ、という大人の世界のお話しでしょうか。

遅くなりましたが、この映画の主題は、上司が唐突に便秘の話をしたことでも、見えてきますね…。

★★★★

追記 
2010/4/9 21:57 by さくらんぼ

ライアンは内心、仕事を辞めたいと思っていました。でも人間は体裁を繕いますので、それは、もし妻がいれば、妻ぐらいにしか察知できないものなのかもしれません(ときに妻でも無理か)。友人知人はライアンのことを順風満帆な人生を送っていると思っているのでしょう。

でも、いろいろな事情で直には退職できない人の中には、その代わりの行為として、身辺整理をしてスッキリしたいと思う人もいます。旅行の荷物、家財道具の類は、ほとんど所有しないライアンには、その症状が出ていました。特に空港で、新人ナタリーの荷物から、マクラなどを問答無用でゴミ箱に捨てるシーンは、紳士らしからぬ発作的なヒステリー症状だと思います。

ゴミといえば、この反対の症状が、いわゆる「ゴミ屋敷問題」です。ニュース報道にても、ゴミを捨てられない人の中には、ある種の喪失感を抱えた人がおり、その心の隙間を埋めるためにゴミを集めると解説されておりました。

再びライアンの話に戻りますが、もしも身辺整理をする事が叶わなかったり、その気力も無いときは、自分を坊主頭にすることもあります。べつに坊主頭にしても苦悩が解決するわけではありませんが、髪の毛さえも抱えていることが負担でならない心理状態に追い込まれている証明なのです。もちろん坊主頭の人が全員そうではありません。

ライアンにとっては苦悩に満ちた地上を離れ機上に居るときが天国なのでしょう。ならば機長とは神様なのかもしれません。ライアンがマイルをためる理由は、癒しの守護神に逢うためなのです。事実、夢が叶い面会できた機長は優しい神様の様でした。しかし「話したいことを忘れてしまった」と言うライアンの言葉に、彼の心の変化が透けて見えましたね。

彼は恋人(癒しの女神)に逢いに行く途中でした。誰かがこんな言葉を言っていたのを思い出しました。「女は天国ではない。天国の代わりにあるものだ」。

この映画は、退職したくても出来ない男が他人を退職に追い込む仕事をしている、という皮肉な物語でもありました。どんなことにも終りがあります。そう思えば大抵な苦しみにも耐えられます。ライアンにとっても、やっと、その時が来たようですね。

追記Ⅱ ( 休肝日の爽快感を味わう ) 
2016/6/7 21:33 by さくらんぼ

よく「週に2日、休肝日を取りましょう」と聞きます。

「2日あれば体から完全にアルコールが抜ける」からだと言われています。私も若いころは毎晩飲みしましたが、ここ2~3年、お酒は二日おきにしてみました。

そうすると①断酒一日目は「朝だるく、夕方になると今日も飲みたくなる」。

でも②二日目になると「朝は爽快、夕方になっても飲みたくない」。

そんなことに気づきました。

つまり、①一日目はアルコールの「軽い二日酔いと、禁断症状みたいなものが出ている」のではないでしょうか。②二日目にはそれが「抜けた」のです。

②になると晩酌はいらなくなります。暑い夏はノンアルコール・ビールでOK。それでも、映画を観た日など、頭が疲労した日とか、心が落ち込んだ日にはアルコールが欲しくなりますが、そんなときには我慢せずに飲めばよいのです。せいぜい月に数回程度でしょうから。

おじさんになって、やっと「アルコールを飲まない爽快感」の中に生きていた方が楽しいことに気づき始めたようです。

追記Ⅲ ( 「ジェット・ストリーム」でライアンになってみる ) 
2017/7/3 21:43 by さくらんぼ

エフエム東京の人気長寿番組「ジェット・ストリーム」が50周年になるそうです。おめでとうございます。私も若いころからよく聴いていました。さすがに最近は、NHKの「ラジオ深夜便」と、どちらにしようか迷う年齢にもなりましたが。

ところで、ライアンが飛行機の中を天国だと思っていた気持ち、あの疑似体験が、私たちも「ジェット・ストリーム」で出来ていたのかもしれません。

追記Ⅳ 2023.7.11 ( 映画「コラテラル」 )

自分の仕事に苦しんでいたという点では、トム・クルーズさんの映画「コラテラル」の主人公もそうでしょう(詳細はあちらに)。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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