#ネタバレ 映画「ヒトラーの忘れもの」
「ヒトラーの忘れもの」
2015年作品
誰も眠れない映画
2016/12/28 11:24 by さくらんぼ
( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )
まるで、これは映画「セッション」×「恐怖の報酬」×「禁じられた遊び」のよう。
映画館でタイムスリップし、ぜひ目撃者になるべき作品。
スクリーンの前で、誰も眠れないはず。
★★★★★
追記 ( ビターな童話 )
2016/12/28 11:53 by さくらんぼ
薄幸そうな一人の少女が出てきます。
人形遊びをしていますが、いつも人形が病んでいると気づかっていました。きっと彼女は天使なのでしょう。
天使が気づかっていたのは実は人形ではなく、戦後処理で荒んでいる人々。
捕虜になった少年兵が出てきます。
彼は人形の患部を見つけ包帯をまいてあげました。少年兵もきっと天使なのでしょう。
この天使が探していたのは実は地雷ではなく、戦後処理で荒んでいる病巣。
近くにいた指揮官・デンマークの鬼軍曹ラスムスンの心が、まず癒されていきました。
これは「童話の聖地」デンマークが生んだ、大人のためのビターな童話。
追記Ⅱ ( 「レゴランド・ジャパン・リゾート」 )
2016/12/28 11:57 by さくらんぼ
来春、名古屋市内にデンマークの「レゴランド・ジャパン・リゾート」がオープンします。
追記Ⅲ ( 「連動するように仕掛けられた地雷」 )
2016/12/29 9:22 by さくらんぼ
別の角度から見てみます。鬼軍曹ラスムスンに家を貸し、地雷撤去に協力している民間人の母子がいました。
もちろん他人ですが、年齢的には一見夫婦のようにも見えます。さらにラスムスンは愛犬も飼っています。そうすると少年兵は息子にも見えてきます。たぶん意図的な構成。
しかしラスムスンの上官も含め、おもな登場人物の心は分断されていて、関係は形骸化しています。
ほんものの地雷が埋まってなくとも、人間関係は時にこうなるのです。日本でも「子はかすがい」とか申しますが、ここでも哀しい目をした息子や娘が活躍しているのでした。
そこに、相手を思いやる「双子の少年兵」や、「連動するように仕掛けられた地雷」が象徴的に出てきます。そして形骸化したファミリーも徐々に和解していくのでした。ほんとうは人は分断など求めていない。
追記Ⅳ ( 「影」 )
2016/12/29 18:07 by さくらんぼ
村上春樹さんはデンマークの「ハンス・クリスチャン・アンデルセン文学賞」受賞スピーチで、「小説を書くことは発見の旅だ」と述べ、「小説を書く際、予期していなかった自分と直面」し、「自分の影を率直に」描く感覚を「読者と共有することが小説家の重要な役割だ」と強調した。
( Yahoo!ニュース「<村上春樹さん>影との共生呼びかけ」毎日新聞 10/31(月) 1:06配信 より抜粋 )
追記Ⅴ ( 「天使のハープ」 )
2016/12/30 18:02 by さくらんぼ
地雷撤去を始めてしばらくの後、少年兵の一人が、「四角い木製の窓枠みたいなものに、10cm間隔ぐらいで糸を張った道具」を作りました。
それを地面に置いてから棒を刺していけば、地面を均等に捜索できるからです。
この道具はやがて全員が使うようになります。たぶん実際にも使われたのでしょう。几帳面なドイツ人ですから。
でもこれ、見方を変えれば「天使のハープ」にも見えますね。
追記Ⅵ ( 天使は空を飛ぶ )
2016/12/31 9:17 by さくらんぼ
空を飛ぶから、降臨したばかりの「天使は靴を持ってない」のが記号ですが、この映画では地雷撤去の「ほふく前進」が空を飛んでいるスタイルにも見えます。
ならば「羽」は無いのかと探しましたら…地雷の暴発で両手の肘から先を吹き飛ばされた少年兵がいました。その傷口は「羽が生えたように」大きく裂けていました。彼はまもなく天国へ帰って行きました。
追記Ⅶ ( 敬礼 )
2017/1/2 18:14 by さくらんぼ
( 注・ラストシーンのお話しです。)
映画を観る時には、「ファーストシーン」と「ラストシーン」は特に注意して観る必要があると、かねがね思っておりました。
しかし白状しますと、この映画のラストシーン2~3秒ぐらい、帰り支度のため、うかつにも下を向いてしまいました。自動車で言えば「わき見運転」です。まだラストシーンまで30秒やそこらは有ると思って油断していたからです。でも唐突に終わってしまい、慌てました。
「なにか重要なシーンがあったら…」「いや、そんなことはあるまい」などと、直後の頭の中はぐるぐる状態。そんな苦い経験も忘れたころ、どなたかのレビューを読んでいたら、どうやら「重要なシーンがあった」ようです。その方は「ラスムスンが少年兵に敬礼をしたように見えた」と、そんな意味の話をおっしゃっていました。
この直前からの、あらすじを簡単に述べますと、ご承知のとおり、紆余曲折の後、少年兵たちは地雷撤去のミッションを成功させました。残ったのは確か3~4人。悲惨にも最初の頃に比べて1/3ぐらいに減っていました。
ラスムスンは約束通り、彼らを帰国させるつもりでしたが、仲の悪い上官が、「ラスムスンが食料の件などで少年兵を甘やかしていた」とも思ったらしく、地雷撤去継続のため、少年兵を別の海岸へ転任させようとしたのです。
怒ったラスムスンは上官に、「彼らと約束したんだ、帰国させてやってくれ!!」と直談判しましたが、冷たく断られてしまいました。かわいそうに転任させられる少年兵たち。その海岸は湿地帯で、さらに過酷そう。
絶体絶命のその時、ラスムスンは上官の命令を無視し、当然自分が責めを負うことを覚悟の上で、転任させられた少年兵をトラックに乗せ、奪ったのです。
そしてドイツ国境近くへ走り、少年兵を下ろして、「500m先がドイツとの国境だ、さあ行け、行くんだ!!」と声を上げました。
少年兵は向こうの林に向けて一目散に走りだします。しかし途中で立ち止まり、振り向いて猫のように見つめる者も。
そのときラスムスンは「額に手のひらを付けて」少年兵を長く見送っていたようです。はたして、あれは「逆光で遠くを見るときの仕草なのか」それとも「心の中で敬礼をしていた」のか。
私が観逃したのはこの「手のひら」の瞬間です。
観ないで言うのもなんですが、きっと「敬礼」だったのでしょう。
私も、あのレビュアーの方と同意見です。
あれほどのおぞましい仕事をさせたのです。せめて「少年兵を敬礼で帰国」させなければ「ラスムスンの良心のバランス」が取れなかったのでしょう。
映画「半落ち」や映画「愛と青春の旅だち」のラストにも感動的な敬礼がありましたが、ラスムスンの敬礼も、それに勝るとも劣らないもの、だったに違いありません。
追記Ⅷ ( 壁の内側 )
2017/1/13 8:49 by さくらんぼ
ヒトラーを忌み嫌ったデンマークがヒトラーのような所業をしたのです。しかもリアルタイムでは誰も気づかなかった。
この映画から学んだものの一つは、「敵は国境の外ばかりではなく、国境の内側にも、それと気づかぬうちに出現する」という事です。
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)
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