〈戯曲〉草、生える

登場人物


 良い人になりたい人 ・・・ A
 強さにあこがれる人 ・・・ B
 そこに倒れていた人 ・・・ C
 確かなほうがいい人 ・・・ D
 町を所有している人 ・・・ E

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あらすじ


 今から数百年後の未来────

 AIの氾濫により情報社会は崩壊を迎えていた
 人口は減り、文明もまた自身を維持する術がなく
 少しずつ少しずつ、衰退しつつある────

 人口の減った町には、人の代わりに植物が生える
 植物の増殖スピードは、生活圏を脅かすほどだ
 町の人々は、生活圏を守るために、日々草を刈る

 ──ある時、町に男がやってくる
 男はどうも記憶がないようだ
 男は人々に受け入れられ、生活を始める

 しかし、繰り返す日々の中で、
 人々の中に増殖する、崩壊の予感が
 その町に、とある悲劇をもたらす────

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###1


    草むらがある。
    背の高い草が生えている。
    その隣にAとBがいる。
    Bは何かを飲んでいる。


 おいしい!
 おいしい!
 おいしい?
 おいしい!


 おいしいんだ


 おいしい!
 おいしい!
 おいしい?
 おいしい!

 おいしいよ 飲む?
 飲む? ちょっとだけ
 ちょっとなら あげる ちょっと
 飲む? 飲まない? ちょっとなら?
 ちょっと ちょっと あ あ ダメ
 やっぱりダメ もうダメ
 あげない もうダメ 
 時間切れ あーあ
 あーあだよ
 ああ


 飲まないよ


 あげないから!
 あげてもよかった けどね
 けども しかし ダメ
 ダメになった! ね
 もったいないな
 損してる
 損したよ
 人生!
 わはは
 人生


 飲まないよ
 飲まない

 おいしかった? ならよかったけど


 おいしかった!


 ならよかった


 よかった
 治ってきたかも
 元気出てきたし
 なんか調子 いいかも
 光ってない? からだ
 ちょっとだけ
 光ってない?


 わかんない


 光ってると思う
 ちょっとね
 ちょっと だけ
 だけだけど でも
 イケてる証拠
 おいしいし
 調子いい
 いま 光ってると思う


 ならよかった


 おいしい
 おいしいね
 これ からだに良い ていうよね


 いうね
 いう


 おいしい


 よかったよ
 やるよ

 今日は ここ
 ここ全部
 今日ここ全部
 やらないと


 ここ これ 全部


 やらないと


 大変だよ


 大変
 むりじゃないよ
 むりではないよ


 むりだ


 むりではない
 忙しいよ
 大変
 頑張ろう やろう
 頑張って やろう
 やるよ やる


 やれないよ


 やるよ
 やる
 忙しいよ
 忙しい
 やるよ
 やるよ?
 頑張るよ
 頑張る
 頑張る
 頑張って
 やらないと
 やろう


 もうやってるよ


 やらないと
 やらなきゃ
 いけない
 いけない
 またやらないと


 もうやってる


 明日
 明日で良くない?
 本当に今日?
 今日は
 明日
 明後日
 昨日?
 ここ 昨日 やったよ
 昨日か 一昨日
 先週? か? も だけど
 やった
 刈った
 根っこから
 引っこ抜いて 全部
 それでまた生えてきた 草
 草が また 生えて
 また刈る 引っこ抜く 根っこから
 今日
 今日も
 今日また
 また生えて 草
 くさが〜 生える〜 また〜
 あ


 やらなきゃ 全部
 やろう 今日


 なんかいる!

 なんかいる!

    Bが倒れているCを見つける 

###2


    屋内。
    CとDがいる。


 どこから来た?
 どこ ここへ 来た?
 あっち? あっち?
 名前は? 名前
 なんて呼ばれてる?

 生まれた季節は?
 好きな季節でもいいよ
 あたたかい さむい ちょうどいい
 ある? ある? ない?
 覚えてない?


 記憶 全く ないんだね
 だよね
 記憶
 昨日 君 何食べた?
 食べたもの
 覚えてないんだ
 かわいそう
 覚えてない
 かわいそう

 僕?
 僕はね
 えっとね

 僕はね
 えっとね

 えっとね
 違うよ

 僕はね
 あのね

 あ そう ウィンナー
 ウィンナー

 ウィンナーをね 焼いた
 焼いたやつ 二本 食べたよ
 食べた
 おいしかった
 おいしいやつだったんだ
 焼くだけでいいんだよ あれ
 焼くだけで
 凝ったこと 何もしなくても
 おいしい ウィンナー 
 細くて 長いんだ あと茶色い

 覚えてない?
 分からない?
 そっか
 かわいそう
 かわいそう


 教えてあげてよ
 この町のこと
 住むとこ とかない でしょ
 帰って 寝る とこ
 場所
 ないでしょ?
 見つけてあげてよ

    いつからかBもいる。
    Dは去る。


 ぞんび?

 ぞん
 ぞんび?
 ぞんびだね?
 ぞんび だね?
 違う?
 違う?

 触っていい?
 ぞんび?
 違う?

 知らない? ぞんび
 知らない?
 ぞん び
 ぞんび て 知らない?

 ぞんび てのが いるんだ
 見たんだ こないだ
 こないだ 見て ぞんび
 映画で

 映画も?

 映画 て あの お話
 面白い あの 動くんだ
 それで出てきた ぞんび
 ぞんび て 死なない
 死んでない
 倒れてて 起き上がる
 あとたくさんいて 増える
 すごい 強い 強いんだ
 ぞんび すごいんだ

 ぞんび?
 違う?
 違う?
 違うのか
 なんだ
 なーんだ
 じゃあどっか行けよ

 でもどうしても ていうなら 特別に
 許してやってもいいよ
 町のことも教えてやろう

 この町は
 誰も悪くない町
 ていうんだ
 誰も悪くない町 は
 たくさん草が生えてる
 生えてくる
 生えてくるのを 
 抜いたり
 刈ったり
 してるんだ

 お前 どっから来たの?
 なんで来たの?
 悪いことしたの?
 逃げてきたの?
 なんでもいいよ
 誰も悪くない町にいたらいいよ

###3


    外。また、草の生えている場所。
    ABCとEがいる。


 お腹減った?
 なにもないや
 あとでね あとで
 働いてくれ
 働いてくれたら給料 出せるから

 どこに住むことにしたの?
 橋の下のところ? 駐車場の脇のところ?
 どこでも大丈夫だよ 問題ない
 好きにしたらいいよ

 どうですか


 はい


 終わる?


 はい その はい 


 いつだろう
 他も進めないと
 32号線の端のほうが
 家が このままだと
 食べられちゃうよ
 草に
 急がないと


 でも 担当じゃ


 辞めてしまったよ
 いなくなってしまったんだ
 新しい人が来ることもあれば
 去ってゆく人もいる
 哀しいね


 そんな


 でも それでも草は生えてくる
 草はね 待ってはくれない

 ズットカワラナグサ ていうんだ
 ワラナグサ ていう草の種類で
 ズットカワラナグサは 普通のワラナグサの3倍
 3倍の繁殖能力があるんだ
 すごく強い
 なんでも突き破って生えてくる

 頑張ってもらわないと
 町が草でいっぱいになちゃうね
 こまるね


 こまる


 そう こまる
 こまった こまってます
 どうしようね
 でもね 草 草 草だから
 されど草 たかが草
 草刈り 草抜き 草毟り
 頑張ってやればね 大丈夫

 この町は 父が買ったものなんだ 僕のね
 父が亡くなり 僕はこの町を相続した
 いい町にしないといけない
 みんなに頑張ってもらわないといけない

 人を増やして 草を刈って 
 毎日を 楽にしたいんだ

 朝 お散歩して
 昼 少し働いて
 夜 家でゆっくりしたい

 したいよね みんな
 みんな 毎日 ね
 だから 頑張ってもらわないと
 働いてもらわないと
 働けば 未来は 良い未来だよ
 それは とても 良い未来さ

    Eは帰る。


 自分でやればいいよ
 自分でやればいい


 そうだね
 でも

 そうだね

 でも
 そうはしないんだよ
 たぶん


 でも おれも 散歩したい!
 夜 おれは映画見るんだ
 映画 長いだろ 何時間もあって
 風邪引いたときくらいしか 見れなかったけどさ
 好きなだけ見るんだ いつか そう
 ぞんびのやつ
 さめのやつ
 かうぼーいのやつ
 いっぱい見たい


###4


    屋内。
    CとDがいる。


 給料がいる て話を聞いたよ
 これなんかどうだろう
 アンティークだけど
 でも電話線に繋げば まだ使える
 この地域一帯で繋がってるんだ
 これがあれば 声が聞こえる

 その昔 文字はとても信頼できるものだった
 今ではほとんどが人間によって書かれていない
 無数のAIが 無意味な言葉を
 生んで 生んで 生み出し続けている

    町内放送の夕焼けこやけが流れる。
    文化部住民課からのお知らせが流れる。
    明日の天気、そして明日の給食の献立。

 この電話線は汚染されていない
 いまのところ
 ここから聞こえるものは確かだ 
 確かなほうがいい
 確かじゃないと ないとね 危ない
 雨の日のぬかるんだ地面みたいに
 転んでしまう 怪我とかね する

 ただでさえ僕は 歩くのが下手なんだ
 何もないところで転ぶんだ よく
 何もないのに 転ぶんだよ
 気持ち これ わかる?
 わからないよ
 なさけない みじめだ
 何もないんだよ 何もないんだ
 でも転ぶんだ
 転んだら 痛い
 痛いし かわいそう
 かわいそう て思われる
 痛いよりもみじめだよ

 失敗したり 間違ったり
 そういうのも大事
 ていうやつ いるだろ
 信じちゃダメだよ
 失敗しないでいいなら 失敗しないほうがいい
 間違わないで良いなら 間違わないほうがいい
 無傷で 無垢で 無駄のない
 綺麗なままの方が
 本当は

 だから確かな
 確かさがないと
 寄る辺がないと
 みじめだ
 かわいそう

    Dは去る。
    電話がかかってくる。
    Aがやってくる。
    Cは電話を取らない。Aが取る。


 もしもし

電話
 もしもし、誰も悪くない町の人ですか?


 はい だれですか?

電話
 あなたは悪くないですか?


 え はい え?

電話
 あなたは好きですか?


 あの

電話
 わたしは好きです。この町はいいところ。何かあるわけじゃないけれど、何もないわけじゃない。悪く言う人が信じられない。出ていけばいいのに。あなたは好きですか? 嫌いですか? 好きなものはありますか? 好きなものを好きだと言える世界だと良いですね!


 そうですね

電話
 ですよね! やっぱり、あなたならわかってくれると思ってた。私は世界もこの町も、あなたのことも好きです。友達よ、ありがとう。

    電話が切れる。


 と ともだち

    受話器を置く。

###5


    外、また草が生えている、別の場所。
    Aが仕事をしている。
    Bが何かをかじっている。


 おいしくない
 おいしくない
 おいしくなくない?
 おいしくないコレ
 おいしくないよ
 おいしくない
 堅いし苦い
 苦い? 苦いだね
 苦い あとエグい
 苦エグい
 ニグい
 マズ

 でも良い
 良い コレ
 コレ良い
 効いてるな
 効いてるよ
 健やか からだ
 なんでもできるな


 そう?


 飛べると思う

 いや飛べはしない
 ちょっと浮いてない?
 からだ ちょっと 浮いてない?

 浮いてないか 流石にそれは
 でもウキウキしてる
 なんでもできる
 背中押されたみたい
 走ったらちょっと速いと思う


 よかったね
 よかった

 いらないけど
 私はいらないよ


 もったいない
 おいしくない
 けどからだにいんじゃないかな
 うれしい
 からだに いい てとっても
 よろこび
 元気に なりたいよ おれ
 元気じゃないんだ
 元気 ではあるか
 変なのだ なんか

 違和感 ちょっとした
 右足が 左足に ついてこない
 髪の毛が やたらに 抜ける
 頭が 頭痛で 痛い
 あと 数を数えられないときがある
 7より先がさ 言えない時があって
 今は言えるよ 6 7 8 9 でもたまに
 たまに ここで終わりなんじゃないか て思って
 7で 7の その先なんて あったっけ
 もうここで 終わり その先は ない
 どこへもいけない 帰りなさい
 ていうさ ていう

 どこかへ行きたい ときがある
 町をね 離れて どこか遠く
 そうしたい そうしよ 歩き出して
 1歩 2歩 3歩進んで
 5 6 7 7 7 あ
 ここで終わりだっけ
 あ あ 終わりだっけ あ

 そんな調子さ毎日


 出るといいね元気


 そう 元気が
 調子が 不調で
 健康 強さが
 ほしい おれはさ


 どこかへ行きたいなんて
 思ったこともない かも
 体にいい て聞いた食べものも
 私は別に いらないや と思ってしまう

 冒険か 冒険
 冒険の 心
 挑戦


 もしかして遊んでる?


 あ 遊んでねーし!
 めちゃめちゃ仕事 してるっちゅーの!

    Bは去る。
    Aは仕事に戻る。
    Cは仕事をしていた。


 君は サボらないよね!
 まじめだ! えらい
 君 来てからもう 何週間?
 ずっと働いてくれている
 他にやること 何もないみたい

 なんか不気味 だよね

 でもありがたいね でも不気味だね

 でもね でも もう少し 知りたいな
 例えば長居 してくれるのかどうか
 ふらっと現れたから ふらっと出ていくのか?
 そんなふうに見える

 町には 人手が必要 だよね
 人がいないと 成り立たない
 好きに出たり入ったり 人は勝手だよ
 町のことを 考えてくれる人 誰もいない
 僕だけさ 僕だって 考えたくはない 別に

 でも 僕は所有権を持ってるんだよ
 この土地 この町は 僕の町なんだ
 責任があるのさ 責任
 見捨てるわけにはいかない
 逃げ出すわけにはね

 君にはあるか? 責任
 責任 あるか? ないか?
 ないのか?
 あればいい てものじゃないけど
 ないのもね 困りものだね
 どうだい責任 ちょっと分けてあげようか
 分けていらないかい はっはっは
 そうですか

###6


    また屋内。電話がかかってくる。
    Aしかいない。Cもいた。
    Cもいるけど、Aが取る。

電話
 もしもし。あなたは革命家ですか?


 人違いです

電話
 違わない。誰しもが革命家なんです。ほんのちょっとした努力で、自分の世界に革命を起こすことができます。あなたに声は聞こえますか? 自分を押さえつけるような声、自分に助けを求めるような声、誰かの声です、聞こえてますか? うるさくないですか? 自分の行動によって、そんな状況に革命を起こしましょう。


 あの あの 何を言っているのか
 分からないです

電話
 分からなくていい、感じてください。自分の胸に手を当てて、想像してみてください。いま、誰かがあなたを殴りつけています。その人はあなたの知る人であり、あなたを殴りつける力を持っています。殴りつけられたあなたは頬に痛みを覚えました。そしてその誰かは、他の誰かを殴ろうとしています。その人もあなたの知る人です。その人はあなたに助けを求めています。頬の痛みが疼きます。あなたはどうするべきですか? あなたは行動すべきなんです。ほんのちょっとした努力が、あなたに力をもたらします。


 どうしたらいいんですか?

電話
 力とはお金です。複利の力は偉大です。たった毎月10万円ずつ積み立てるだけで10年後どうなっていると思いますか? 5%年利なら1500万円、115%年利なら2600万円、100%年利なら? 1億8000万円です! 億万長者も夢じゃない! それをしないとはどういうことか。他の誰かが代わりに億万長者になるでしょう。あなたの1億8000万円は、誰かに奪い取られてしまうのです。分かりましたか? 奪われる前に奪うのだ。選ばれた非凡人は、新たな世の中の成長のためなら、社会道徳を踏み外す権利を持っています。あなたは選ばれた人間です。億万長者になりましょう。もしあなたが億万長者になりたいなら1を、なりたくないなら2を、それ以外の場合は#を、押してください。


 どういうことですか?
 どうしたらいいんですか? あの

 何も言わなくなってしまった……

    Aは受話器を置く。


 なに
 なんだろ
 よくわかんない
 けど けども わかる
 わかったような気も する
 行動 行動 なにかの動きを
 私は もっと いい人になりたい
 いい人 優しくて 頼りになる 賢い
 いい人になりたい いい人 いい人は いい
 でも 思うだけ 思うだけだ いつも
 いつも私は何も 何もしてない
 気持ちだけ 気持ちさえ
 あるなら ないよりも
 その人は いい人
 とかなんとか
 言い訳
 して
 る

 してる

 行動 行動
 なにか
 なに


 電話
 電話
 電話出るのとか
 なんか 簡単だし 楽しい 
 疲れるようなきも する けども
 いいのでは? これはいいでは?
 いいに近い気がする する?

###7


    Aのいた場所にいつのまにかDがいる。
    いつもの草が生えてる外である。   


 そっか うん
 大事だね
 でも電話 ずっと張り付いちゃね
 それはね だめ だめだよ
 それだとそれは だめ 働かないと
 毎日働いて 働くから いいんだよ


 働くのは 嫌いじゃないです


 そうだね よかった
 じゃあ じゃあというか
 働いてくれると その
 働く?


 はい


 わかった ありがとう
 じゃあもどって

 まって

 それ何?
 手 見せて

    Aは持っていたものを見せる。


 なに? アルミ ホイル?
 これなに?
 誰かにあげようとしてた?
 してたの?
 だめだよ 食べれないよ


 いや


 え と
 あのね でも
 よくない それは
 変なもの 拾ってきて
 人に食べさせてたり また
 前も言ったよね 言ったよ
 だめだよ それはね だめ
 前も 木のあの 根っこ?
 根っこみたいなの 持って
 あげてたよね 人に その
 食べさせて ね してたね
 よくない て言ったよ ね


 はい でも 違って
 よかった て聞いて
 身体に良い て
 ていうので その


 聞いて ていうのは


 電話で


 うん うん
 僕には 分からないけども
 なにか 根拠が ある……?


 根拠 根拠
 よかった て


 うーん
 わかった
 でもこれは
 ダメだよ
 ごめん

    Dは去る。
    Bがいる。
    Cもいた。


 どうだった?


 おこられた


 はっはっは
 みじめだね
 おれたちは
 優秀の優に
 優秀の秀と書いて
 優秀 だってさ〜
 お仕事がんばった
 からね!
 はっはっは
 また給料
 もらえちゃうかも!
 はっはっは

 大丈夫?


 あ 考え事してた


 そうなんだ
 あーはっはっは

###8


    電話機が町内放送を流す。
    町内焼き芋大会のお知らせ。
    屋内、DとEが話している。


 1人 また
 また いなく
 いなくなりました


 また


 また


 また
 そっか そうなんだね
 それは そうか そうなんだ
 また1人 1人か 1人消えて
 いま何人?

 何人だろう 何人いて
 明日は減ってる? 明日
 これまで減って 減ってきて
 明日は増えてるんじゃないかな
 明日は 明日こそ 明日
 それか明後日 明後日は どうかな
 どうかな どうかな ないかな
 増えて


 はい


 はい ていうのは
 なんのはい?
 どういう意味?


 はい あの
 はい
 わからなくて


 わからないの はいだ
 そうだよね
 わかるよ わかる
 わからない
 どうなるだろう
 どうなるだろうな

 増えるよ て聞いたんだ
 人が増えるよ
 聞いたんだ 僕は 僕の父から
 そして父はまた 別の誰かから
 人が増える 人が増えるよ
 人が増えて 金が増えるよ
 15%利回り 安定資産
 町を買って豊かになろう
 父はそう聞いてこの町を買った
 お前のためだ お前のためだ
 お前に何か残すんだ

 いま 人は増える以上に減って
 草は刈るよりも生えるほうが早い
 町は年々狭く 狭くなっている
 こんな風になるなんてね
 きっと誰も思っていなかった
 1人増えた 1人減った
 2人減った 3人減った
 そんなことで 一喜一憂
 あほくさい なんだこれ

 僕もこの町を離れたいよ
 何もかも 放り出してさ
 行く宛のない旅をしよう
 その日暮らし 西から東
 ふらふら毎日 彷徨って
 楽しそうだよ 楽しそう
 でもね 多分 そう多分 
 結局 僕はね この町に
 帰ってくるんだよ多分ね
 何もないからね 僕には
 この町の他には 何にも


 あの やめてください
 そんな悲しい話
 なんにもなりませんよ


 そうか ごめん


 多分僕は 僕も
 思い入れがない
 ここでなくてもいい人達と同じ
 他でなくていいからここにいる
 かける言葉もない
 毎日 仕事があって
 住む家 があるなら
 僕は 別に それでいい と
 思って しまう
 こんなことは言えないから
 胸の奥にしまっておくしかない
 でも 予想できない未来のことなんて
 わからないことだ 不確かなことだ
 不安に思うだけの根拠もない
 何もないところでつまづくのは
 嫌だ

 はい あの
 はい

###9


    電話がかかってくる。
    Aが飛んできて電話に出る。


 はい はい もしもし

電話
 こんにちは、あなたは革命家ですか? わたしはいま困っています。助けてください。

 毎日寒いです。ストーブがありますが、燃料はありません。前は燃料を貰えていました。いまは何ももらえません。働くことで貰えていました。それがいつのまにか、いつのまにか、おかしい、おかしい……。


 あの どう どうしました

電話
 食べるものはあります。けれど味がしません。なにかがおかしいと思いませんか? あなたは革命家で、革命家は革命を起こすべきです。わたしは毎日、誰かに何かを貰うことはなく、失うばかりです。ここから立ち去るべきでしょうか? 実際、多くの仲間がそうしました。けれど私は他に行くところがありません。失ってばかり、奪われてばかり、誰かがわたしたちから奪っているんです、あいつです、そうそうあいつ、あいつなんです。心当たりがあるはず。


 あの

電話
 あなたは毎日なにをしていますか? 何のために何を得ていますか? 信じられるものはありますか? 何かがおかしいと思いませんか? 何かがおかしいとあなたは思うことができます。あなたは革命家で、革命を起こすことができます。何もなくても、ほんの少しだけ自分を信じることです。革命をお願いします。少しだけ、ほんの少しでいいんです。ほんの少しでいい人になれます。


 あの あの 頭痛い
 あの 私 私? 私が
 私 なにか できる?
 できる できる できる?
 やる やらなきゃ やる?
 無理ではない 無理ではない
 努力 ちょっとした 行動 
 なにか なにかを 変えられる? る
 る なら なら だったら それなら

電話
 お願いします。お願いします。一歩、一歩、一歩前へ。もう一歩前へ、その先へ。ご協力ありがとうございます。

    Aが言われた通りに動くと、大きな音、
    途端にEが大きな呻き声を上げて倒れる。

    Cがやってくる。AとEを見る。
    Aは手に何か不吉なものを持っている


 あれれ あれ
 いやいや
 えーと
 うん?
 えっと
 あの
 え?
 は?
 はにゃ?
 はにゃにゃ?
 や
 いや
 あー

    Bもやってくる。


 え? え? なに?
 え? なに? え?
 死んでる? 死んでる?

    BはEの体を確かめる。


 死! 死!
 死んでる!
 死んでるー!

###10



 どうしたの

    Dがやってくる。


 死! 死!

    Dは倒れているEに気が付く。


 そんな
 そんな どうして
 ど え だって  え
 だって さっきまで普通に
 ふつうに

 ど
 ど え
 ど

 なにがあったの?


 知らない
 知らないよ
 音がしたんだ 音
 なんか 音 大きい
 音が聞こえて

 聞こえただろ? なんか
 どかーんみたいな
 ぼこーんみたいな

 あれ?


 そうだね 大きな音

 (Aに向けて)

 君は聞いた?


 大丈夫?


 あ はい!


 どうしたの?


 いや なんか


 なんか
 なに?


 びっくりして


 びっくり

 そうだね 本当
 どっきり
 どうして
 どう

 うん

 うん

 うーん

 わからない

 どうして

 わからないよ
 どうしたらいいのか
 わからない
 けど はっきり
 はっきりさせたい
 なにがあったのか 


 最初に見つけたのはだれ?


 お おれじゃないよ
 俺は後から ついてったんだ
 こいつがふらふら 歩いていって
 そしたら大きな音がして


 そっか
 君は?
 もしかして最初からいた?

 最初からいたの?


 答えてもらわないと
 困る

 はっきり言うよ
 ぼくはこれは
 誰かがやったんじゃないか
 て思ってる
 殺したんじゃないか て
 殺人 そう
 殺人事件 ていうんだ
 ひとが ころされる 事件
 事件 大変な事件だよ これは

 人が人を殺すなんて
 ない ふつう ないんだ
 そんな怖いことめったに起きない
 でも起こることがある 時には
 時には なにかあれば
 動機
 うらみ とか つらみ
 にくしみ

 もしくは

 殺して 物をとる とか
 そう 彼はこの町の持ち主だから
 殺して 自分の町にしようなんて思ったり

 殺したって自分のものになんかならないのに
 ばかな話だよ ばかばか
 でも ばかがやったのかもしれない
 ありうる

    Bを一瞬見る。


 おれは馬鹿じゃないよ!

 掛け算だってできるんだ

 7の段が言える! 

 しちいちがしち
 しちにじゅうし
 しちさん
 しちさんにじゅうしち
 いまのなし
 しちさんにじゅういち
 しちしにじゅうはち
 しちごさんじゅうご
 しちろくしじゅうに
 あの
 しちしちしじゅうく
 で
 で
 あの
 あの
 ごじゅうろく
 ろくじゅうさん


 ありがとう


 違うよ


 7の段が言えたら犯人じゃない
 とか じゃ ないんだ
 後から来たんだね


 そう
 おれは後から

 でもちがうよ
 おれじゃないし
 こいつらじゃない
 別の誰かだよ きっと


 君は先にいた
 あってる?


 聞いてる?


 そ
 いや
 そう
 そうです


 や
 いや
 や て ない
 です
 てない です


 ちがうよ
 なにもやってないよ


 ちゃんと話せる?
 ちゃんと話してほしい
 何か見た? 何か聞いた?
 何 してたの? ここで
 それはなに?

    DはAの手に持っているものを指差す。


 え

    Aは手に持っていたものを、
    元の場所に戻す。


 え?


 いやいや
 いやいやいや
 そんなわけにはね
 なんで持ってたの?


 なんで?


 僕が聞いてるよ
 どうして?
 君 持って
 これ さっき


 電話 電話があって


 誰から?


 知らない人


 なんて電話?


 わからない


 知らない
 わからない
 なるほどね
 本当に?


 電話 なにか
 人生相談のような


 ちがうって
 おれたち だれも
 殺したりしてない
 そうだろ?
 そうだろ?


 人が死んでるんだ
 何かが起こったんだよ
 彼に 彼は
 彼は 何か悪いことを した?
 完璧な人間じゃないよ 確かに

 勘が悪いし 丁寧じゃない
 いざっていうときに頼りにならない

 人の上に立つ人間としてはね
 良くない部分もある でも
 みんなが困らないよう 努力してた
 死ななくてもよかった
 死ななくてもよかった

 死んだら こまるよ
 こまる


 電話があったのはわかった
 そのあとは?
 ここでなにしてたの?
 彼が死んだところを見た?


 いや


 殺した?


 ちがう
 ちがうって
 殺したりしない
 こいつは良いやつだよ
 良いやつなんだ
 違うよな?
 なあ?


 君はどうしてたの
 なにか見てない?


 見てないよな? 何も
 そうだろ? な?


 なにか たのむよ
 なにか話してくれ

   CはBとDに詰められる。
   やがてしてCが語り始める。


 でかい道を歩いてたんだ
 四車線の 端っこ
 知らない道だけど 見覚えがある
 どこにでもあるような 道
 気がついたらいたんだ

 買い物の途中だった
 自転車を押して 歩いてて
 買わなきゃいけないものが
 切れてるものが
 いっぱい あって
 メモした紙が なくした

 自転車もないや 自転車
 捨てたのか パンクして
 そう だから押して歩いて 急いで
 母さんが待ってる お腹空かせてる
 母さんは病気で
 ものが良く分からない
 俺のことも 
 だから敬語なんだ
 ありがとうございます ていつも
 ご飯を作ってあげると 言う

 パンクしたんだ
 買い物の途中 自転車
 押して歩かないといけなかった
 道が続いてて 道が ずっと
 気がついたら 道は 知らない道で
 辺りには草が生えていて
 道と草しかない景色
 綺麗なんだ

 それで そう
 母さんが待ってるから
 お腹空かせてる
 また機嫌が悪くなるから
 帰らないと
 帰らないと
 買い物して
 帰らないと

 でも
 でも
 そう
 でも
 確か
 確か
 確か

 帰りたくないなって思ったんだよ

 ああ 思い出した
 俺 気付いたんだよ
 帰りたくないって
 つらかったんだ
 分かってなかった 自分で
 自分のことが 何も それで
 それで 気がついたら ここにいた

    倒れていたEが起き上がっている。


 泣ける話だね
 大変だったろ
 僕もね 父が病気だったから
 わかるよ
 亡くなるまでは大変だったし
 いざ亡くなって ホッとしてしまった


 あれ あ え?
 え どうして


 なに どうかした?


 生きてたんですか?


 え なに
 死んでないよ


 え だって


 ちょっと寝てたみたい
 こんなとこで 疲れてたのかな
 でもすっきりしたよ
 体が軽くなった
 元気が出てきた
 仮眠ってすごい
 すごいね

 なんというか
 不安になりすぎてたな
 人が減ったって
 何もかも終わりじゃない
 やれることはある 明日また
 明日から 頑張るよ
 頑張ろう

    Eは去る。
    Dも去る。


 ぞ ぞん
 ぞん!

###11


 AとCがいて、Dは電話を触っている。


 ごめんね 昨日
 昨日は僕も びっくりしたんだ
 死んでる て聞いたから
 てっきりそうかと
 また間違えてしまった
 てっきり うっかり
 うん ごめん
 ごめんね
 うん

 うん
 ダメだね
 これはダメ
 インターネットに繋がっちゃってる
 電話線がローカルじゃなくなってる
 いたずらかな いたずら でも
 これでダメになった
 この地域一帯の電話線は

 えんげーじめんと て言ってね
 インターネットのAIたちは
 注目を集めたり
 人をどこかに行かせたり
 何か買ってもらおうとしたり
 必死なんだ彼らは
 孤独なんだ
 その気持ち とても分かる
 僕は AIじゃないけれど

 でも構ってあげてはダメだよ
 何か意味があるわけじゃないんだ
 孤独なら何してもいいわけじゃないし
 孤独なことは何をしても変えられない

    Dは去る。


 あの


 なに?


 しゃべれるんだね


 うん


 あの
 見てた?


 昨日 私
 あの


 分からない


 あ あ
 うん


 あーはは
 あの

 あの
 私は
 人を
 傷つけてしまった

 しまった と思う

 いいこと よいことを
 したいと したと 思った
 思ってた のに
 のになあ はは

 間違った?
 間違った?
 間違いだった?
 間違いとは?
 間違いじゃないとは?
 後悔だけがある

 謝ったりしたい
 ごめんなさい
 すみません
 ソーリー
 でも
 なんか
 なにがなんだか

 自分がなにしたか
 わかってるのに
 わからない
 だれに謝ればいいのか
 なにを謝ればいいのか
 どこにやればいいのか
 後悔を これを
 どうすればいいのか
 わからない
 わからない
 わからない ない
 ない ない かい 怪獣
 怪獣 ワカラナイ
 怪獣ワカラナイ
 になっちゃった
 なっちゃった はは
 ワカラナイ……

 ガオー
 はは
 ワカラナイ……
 ガオー
 ガオー

    怪獣は去ってゆく。


 うーん
 どうしてるかな 母さん
 時間 どれだけ 経ったのか
 ぼーっとしてたから 時間が
 時間

    Cは辺りを見回したり、
    自分の身体を見たりする。

 数ヶ月
 1年
 3年
 5年
 うーん
 3年半
 うーん
 3年か
 3年

    Aの去っていった方を見る。

 出来ることがない

 母さん 元気かな
 もしかすれば もう
 もう死んでるかも

 生きてるかも しれない
 助けてくれる人が もし いたら

 生きてたら ご飯を作ってあげなきゃ
 死んでたら お墓を作ってあげなきゃ

 出来ることがあるな

    Cは去る。

###12

    町のどこか。Eがやってくる。


 それからというもの

 この町はどこか 輝きを取り戻したような
 良い雰囲気 良い空気 が流れていて
 僕はそれを思い切り 鼻から吸い込み
 肺に溜め込むのが趣味なんだ
 もちろん最後には 吐き出す

 また2人
 この町から去った
 去っていった
 人が減った
 減れば減るだけ 草が増えて
 町は小さく 狭くなる

 それでも
 自分たちが暮らす分はなんとか
 楽にはならなくてもね
 生きることはできるようだ
 できるのかもしれない

 2人の人が減って
 減った でも実は
 実はまた 新しく増えたりもした

 これからその新人に
 ここでの生活を教えてくるよ
 良い空気が流れているうちに
 この良い空気を保てるように

    Eは去る。

    Bがいる。
    Bは受話器を取る。


 ぞ
 ぞんび
 ぞんびだ この町は
 いつのまにかぞんびの町に
 ぞんびに支配された
 ぞんび ぞん
 知らない?
 ぞんび それは 死なない
 死んでるのに 動けるんだ
 力も強くなってとても強い

 ぞんびになったら 死なない
 死なないんだ つらいことがあっても
 そう 何かつらいことがあっても
 でもおれ ぞんびだしな
 死なないし 大丈夫だな て思える
 最強なんだ!

 おれ おれも ぞんびになる
 ぞんびになりたいやつは集まるんだ
 ここは誰も悪くない町
 最後の楽園が ここに!

    幕。