アポロ3156

初めまして。 男です。 小説を投稿してますので読んでみて下さい。

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最近の記事

とある夜 短篇小説

「今どのくらい?」 「さあな~そんな高い山じゃないからもうすぐだと思うけどな」 他人事のように返す裕也は先ほどからずっと振り返ることなくすいすいと獣道のような道を歩いている。 「うわっ」 普段外で運動する習慣のないせいか、ぬかるみに足を取られるとそのまま引っ張られるように尻もちをついてしまった。 「なんだよほんと……」 冷たくて粘っこい泥が手のひらにまとわりつく。 最悪の気分だ。 何が楽しくてこんな遅い時間に山を登っているんだろうか。 久しぶりに家を訪ねてきたかと思

    • ちゃぱにい

      「最近この西山田区で不審者が出没しています。できる限り友達と集団で帰るように」 帰りホームルームで担任の岩田先生がそう言ったとき思い当たる人物が浮かんだ。 家の近所のアパートに住んでいる、ひょろっと細長い体系にいつもくたびれた黒のスウェット姿をしていて手を胸の前でもぞもぞと指遊びをしてにやにやと不気味な笑みを浮かべては近所を徘徊している人。 茶色い頭髪は人目を気にしない寝癖がいたるところについていて普通の人とは到底思えなかった。 ぱっと見若そうな顔つきに茶髪の頭髪をし

      • 新年

        「うぅ、寒っ」 吐いた白い息が街頭に惹かれるように昇る。 厚手の下着にニット帽を耳までかぶり父からもらったくすんだオレンジ色のモッズコートを着て僕はなけなしの温もりを持ったカイロをポケットの中で揉みしだきながら歩いていた。 毎年どうしてこんなことしているのかもわからないけど続けている恒例行事だ。 近所の海に行って初日の出を見る。毎年、年が明けると続けていることだった。 久しぶりに着たコートは流行りのものとは程遠いシルエットでぬいぐるみのようだった。 十代の頃に父が海外

        • 蝉と星12 終わりです。

          ただ黙って彼女の背中をさすっていた。 女性の背中に初めてちゃんと触れたかもしれい。 小さく震える彼女の背中は熱がこもっていた。 自分は震える小さな背中をいつまでもさすり続けた。 詩歩はそれを拒むこともなくひたすら大きな声で泣き続けていた。 静かな海に響く詩歩の泣き声にこたえるように日が昇り強い光が差し込んだ。 彼女の初めて見る泣いている姿にどうしようと考えることはなくただひたすらそばにいようと思った。 「よかったよほんと」 彼女の丸くなった背中に声をかける。 本当

        とある夜 短篇小説

          蝉と星11

          とても素敵な一日だった。 もし明日になっても覚えていたら…… ・ ・ ・ ・ ・ 「みえた!!」 星の瞬きが空を覆い、光の運動会が開かれた。 とても綺麗で心の奥から光を灯してくれる喜びがあった。 皆も一心に同じ空を見上げていた。 こんな綺麗なものがあったんだ。 やがて運動会は終わりを迎え星たちは動かなくなった。 今でも残像が残っているのか星が動いているように見えた。 (終わっちゃった……) どれだけ夜空を見上げ続けても星たちは動かない。 光希君が楽しそうに感想を

          蝉と星10

          八月二十四日 ピンポーン 「光希君きたで~」 「うん、もう出る言うといて」 夜八時、光希は大きめのリュックを担いで家の外で待っていた。自分はこれといった準備もないので手ぶらのまま家を出る。 「ほないこか」 「おう」 暫く二人で歩きつづけると光希はこちらを見ることなく話しだした。 「詩歩ちゃん来てよかったな」 「まあな」 「もうおわりやな~。あっという間やな」 「そうやな。光希は夏休み終わったらどうすんの」 「いつも通りのバイト三昧やな。車の免許取りたいし、

          蝉と星9

          「詩歩ちゃんもこれるの!でも体のことは大丈夫なん?」 「まぁなんともいえん。けど詩歩がそれでも行きたいって言ってるから俺は尊重したいかなって思う」 「詩歩ちゃんがそういうなら……わかったわ予定通り二十四日駅前で8時ね」 「おう」 電話で望に詩歩も行くことを伝えると心配そうにしていたがそれでも彼女たっての希望となると尊重してくれた。 「詩歩ちゃんのことどう思ってんの?」 突然望が訪ねてくる。 「どうって聞かれても、友達やろ」 「ふーん、ちゃんと考えてもいいんち

          蝉と星8

          八月二十日 それからは詩歩と四人で集まることが多くなった。 いろんなところに行って沢山の思い出を作った。 高校最後になる夏休みは自分でも想像つかないくらいに楽しかった。 「ふぅ……」 いつものように朝から走り海に向かう。肌に当たる風は走り始めた熱い風は今では穏やかな冷たさを持ち心地よかった。 海につきいつものベンチに座り今では当たり前のように両手には二つの缶ジュースを持ち約束のない待ち合わせをしていた。 プルタブを起こさずに薄暗い空を眺める。 あの日、光希から帰

          蝉と星7

          ・ ・ ・ ・ ・ 「ストレスによる記憶障害の可能性があります。 暫くストレスの原因になるものから遠ざけた方がいいかもしれません。 今の環境で彼女自身が再び精神的に追い詰められる状態になると悪化する恐れがあります」 二回目の記憶喪失、訳が分からなかった。 しかも今回の場合は何度も起きる。 記憶のなくなる条件が夜、外に出てはいけない。 「治る可能性はあるんでしょうか……?」 母が縋り付くよう声で尋ねると医者の方はゆっくりと答えてくれた。 「具体的な治療法は確立されてい

          蝉と星6

          「詩歩、昨日のドラマみた?」 「みたよ~〇〇君めっちゃかっこよかった!美樹の好みそうだね」 「やばかった!マジでかっこいいわ。あ、私今日バイト休みだしこの後マックいこうよ」 「いこいこ~」 東京では放課後によく友人の美樹と遊びに行ってたらしい。 スマホの画面には何か日記らしきものが書かれていた。 どうして始めたのかは覚えていないけど。 小さな粒みたいな記憶は掘り起こしてかき集めても美樹という人物に心当たりはなかった。 どうして私はここにいるんだろう。 いつからだっけ

          蝉と星5

          ・ ・ ・ ・ ・ 「記憶喪失か……まぁ明はええことしたんちゃう?詩歩ちゃんも喜んでたんやろ?ちゃんと喜ばせたいって思ってしたことならええことやと思うで」 家に着くとすぐに光希に電話をかけ、詩歩の事情を相談すると深刻に考えてくれた。 「そうやな……それでさ、また遊ぶときに詩歩も呼んでいい?」 「もちろんええに決まってるやん!望にもいうとくわ!あいつやったらなんかまた提案してくれるやろ」 「ありがとう、頼むわ」 「おう!とりあえず受験勉強頑張れよ俺も空けるようにしとくわ」

          蝉と星4

          翌朝、いつもより早くに目が覚めるとだるい体をねぎらうことなくいつもより早くに走り出す。 雲に覆われた薄い鈍色の空は日も出ていないことと相まって薄暗かった。 自分の気分を表してくれているようで少し心地がよかった。 一人でいることがどこか許されるような気分になる。 自分は一人の方が好きだし。 『自分は一人が好きだ』自分はそんな人、人との距離は離れたままでいい、踏み込むことの勇気がない自分を素直に認めようとせず自分自身にも嘘をついているのかもしれないとよぎる。 臆病な自分を間

          蝉と星3

          昼間の喧騒は鳴りを潜め、浜辺にいた人の数は気づけばぽつぽつと減り女バスの部員たちが帰宅の準備をするなか、先に着替えを済ませた望が二人が座るベンチの横に腰掛け話しかけた。 「今年最後やしなにかしようよ」 突拍子に出てきた提案に光希と明は驚く素振りはなかった。 高校最後の夏休み。 彼らにとってそれがどれだけ貴重なものというのを少なからず意識しているのだろう。 望の提案に光希が身を乗り出して答える。 「せやな!明はどこ行きたいよ」 すっかり疲れ切って置物のようにぼんやりと夕日

          蝉と星2 

          「お帰り、昨日はごめんね~今日も遅くなりそうやからまた晩御飯は自分でお願いね」 「大丈夫やで。いつもお疲れ」 「あら!どしたん、なんかええことあったん。お母さんうれしいわ~」 「別になんもないわ。シャワー浴びてくる」 忙しなく朝の支度をしている母の陽子は早くに旦那を亡くしたがそれを感じさせぬように気丈にふるまっており、そのおかげか明も父がいないことについて特に気にすることはなかった。 「私はそろそろ行くからあとはお願いね。じゃあいってきます」 「行ってらっしゃい」 いつ

          蝉と星2 

          蝉と星 小説です。

          ジジジジジジ…… すっかり空は明るくなり先ほどまでの静かな世界は今では蝉が鳴き始め賑やかな朝が始まる。 坂の上の入道雲が白くなるころにはぽつぽつとスーツを着た人や大きな荷物を背負った他校の学生が歩いている。みんなが駅に向かう中、自分は家に向かって逆方向に歩いている。 「ただいまー」 「お帰り、どこまで走ってきたん?」 「隣の駅まで遠回りしながら走ってきた」 「部活も引退してんのにえらいやないの、シャワー浴びちゃい。私もう仕事行くからお昼ご飯の分冷蔵庫おいてるからね。あ、そ

          蝉と星 小説です。

          (小説です 13)終わりです。

          「お疲れどしたん……おぉそうなん……うん……うん……まあええんちゃう優がきめたことやし。また聞かせてや。来月なら余裕あるわ。おっけ、じゃあまた連絡するわ」 「いいですね~人生の夏休み」 「満喫してくるわ。とりあえず引継ぎはこんな感じやからわからんことあったらまたいつでも連絡してな」 「わかりました。ばんばん数字上げますよ~」 「流石やわまたなんかあったら教えてな」 「はい!」 近所の桜が散り、木々に緑が色づいていきた。 この時期になると真新しい人をよく見る。 シワひとつな

          (小説です 13)終わりです。