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Interview早稲田宝生会対談企画〜学生能の今昔〜

十月ごろ、早稲田宝生さんに対談企画を依頼したいと、さらさ係の倉藤さんからお話を頂きました。そこで、十一月五日に数年振りに開催された早稲田大学能楽連盟秋季公演へ足を運んで頂いた先輩方に、スケジュールの間を縫って対談をお願いし、急遽実現に至りました。対談記事を執筆するに際して、対談に協力して下さった稲門宝生会の諸兄に改めて感謝申し上げます。
・日時・令和五年十一月十二日十一時
・場所・宝生能楽堂前ニューヨーカーズ・カフェ
(宝生会定例能前後に能楽ファンが集う)
・対談の御相手
•崎井重信さん…七十二年卒
•遠藤憲秋さん…七十三年卒
•桜井厚二さん…・九十五年卒
・司会進行等・西田晃(早稲田宝生会三年)

🟢早稲田宝生会のかつての風景を教えて下さい!

崎井:
昔は渡辺三郎先生が舞を指導されていて、謡の方は渡部良吉先生という嘱託の先生が指導されていました。
毎週学生会館の和室でおうむ返しに稽古してました。
記録に残っている限り、早稲田宝生会が発足したのは昭和十一年、そこから戦争を経て二十一年に再興し、佐野巌先生に指導して頂いていたそうです。
かつて夏目漱石が覗いて行ったとか、そんな伝説があります。

西田:
渡辺三郎先生とは面識がありませんが、わんや書店の江島社長が寄贈して下さった扇のなかに、渡辺三郎先生の記念がありまして…秋季公演の復活公演のうちの部員が有り難く使わせて頂きました。そういった意味では、現役世代も渡辺先生の恩恵を受けております。


崎井:
そうだったんですね、気付きませんでしたが、一年生ながら皆さん素敵な舞だなあと、
私自身の学生時代の稽古風景を思い出しながら鑑賞していました。

1971.6.19 連吟「富士太鼓」全宝連 金剛能楽堂
2023.11.5  素謡「鶴亀」早稲田大学能楽連盟秋季公演 川崎能楽堂


昔は学生会館に能舞台が丁度造られたそうなのですが、学生紛争の際、鏡板がバリケードとして剥がされたそうで、結局使えずじまいでした。

現在はどのように稽古されているのですか?

西田:
現在は月に四・五回、葛西舞台にて當山淳司先生に稽古をつけていただいております。金欠で有名な部員達のため、新入生からはお月謝を一切受け取らずに稽古をつけて下さっています。更に稽古後にはご飯(という名の飲み)までご馳走して下さいます。
本当に淳司先生にはお世話になっております・・・お稽古も基本一対一で、各々に合った指導をして下さいます。
また普段は、毎週水曜に学生で集まって、学生会館地下の能舞台で稽古をしています。
最近時計が壊れた事以外は充実した設備の能舞台です。


部室は、下掛宝生さんと金春会さんと共同で使っています。東京の夜景を一望出来る部室でお菓子パーティーをする事もしばしば…という感じです。
昔も飲み会とかってやっていたんですか?(笑)


崎井:
充実した設備でのお稽古、しかも無料で…・素晴らしい先生ですね。私達の代は和室で円陣を組んで、皆でお酒を飲んでいました。お金のある先輩が一升瓶を持ってきて、大きなお菓子の入っていたお盆にお酒を満々と注いで、みんなで回して飲んでいました。
コロナなんて関係ないですからね(笑)
先濯に安い居酒屋に連れて行ってもらって、そこで銀杏を焼いて食べたりもしてたかな?たまーに先濯が焼き鳥を奢ってくれた時はみんな喜んで食べてましたね(笑)

遠顔:
稽古風景の一つとして忘れてはいけないのが、合宿。
東京からなるべく
遠く離れた所・・・例えば天草や岩手県の山奥などに行って何泊か。
民宿に治まったりもしましたね。

桜井:
私も合宿の時、OBの方々が応援に米て下さったり、酔っ払った部員を介抱してくださったり、付きっきりで皆さんにはお世話になりました。

西田:
現在全員金欠なので、合宿をやりたいと叫ぶ部員は居ますが、出来ていないのが現状です。
皆様の頃のように、何とか復活させたいものです。

🟢昔の関宝連の様子を教えて下さい!

崎井:
当時関宝連は二日間開催でした。
二日間の自演会の後、毎回宗家や宝生流シテ方職分による鑑賞能が開催されていました。
料金は、一般が三百円、学生二百円、当日二五〇円だったかな?
早稲田も毎回何番か舞囃子や連吟を出していました。早稲田も國學院もお能をちょくちょく出してました。
私達の世代ですと、「黒塚」や「経政」を出しました。
今回当時の番組を持ってきたので、どうぞご覧下さい。


西田:
わ、、貴重な資料をわざわざありがとうございます...私の憧れの先生方がズラリ...
一度舞台に立ってみたかった...
能の舞台は楽しかったですか?

崎井:
ただただ足が痺れて辛かった。けどいま思えば、貴重で楽しい経験でした。
当時は中央大、成城大、横浜市立、東洋大、理科大、跡見学園など、連盟校も多かったです。
自演会後の反省会、それが終わると皆でコンパでした。🍻...出逢いの多い関宝連、横にいらっしゃる遠藤さんのように...

西田:
遠藤さん、その件深掘りしてお伺いしても...気になります(笑)

遠藤:
家内とは、早稲田宝生会で出会いました。
関宝連内でも恋愛がありました。
家内も私も、今でも能を愛して続けています。
家内は囃子も習っています。家内は大鼓、私は藤田次郎先生に笛を習っています。
囃子は能楽をつくるとても重要な構成要素ということを実感しますよ。
理解の深みも増しますし...どんどんのめり込んでいきましたね(笑)

西田:
能の魅力を教えてくださいという質問をしようと思っていたのに、先に語られてしまいました(笑)
素敵なエピソードを教えて頂きありがとうございます。
私も金沢で小さい頃から小鼓の住駒幸英先生にお世話になっているので...機会があれば始めてみたいです。

🟢改めて、能楽の魅力を教えてください!

崎井:
いま思うに、学生を卒業してすぐお稽古を再開できるかといえばそうでない方が多い。
私は銀行に就職して地方転勤で名古屋に行った際、そこで再開することができました。
能の魅力、そうですね...
能は連綿と続いている舞台芸術です。そのテーマは現代社会にそぐわないが、そこに描かれる夫婦愛や親子の心情などは、現在にも共通するものだと思います。
舞台を観ることで体感し、色んな思い出を思い出すことができます。
また、能を稽古していると、大変なボケ防止になります。
記憶力が西田さんのような若い方の十分の一になってしまうので、みんな必死に稽古をします。
周りにもボケている人が一人も居ませんし...(笑)

西田:
現役世代ですら暗記が大変なのに...
お年を召されても能を愛し努力を続ける先輩方、尊敬致します。
遠藤さん、如何でしょうか。

遠藤:
先程申し上げたことに付け加えるとすれば、地元の公民館で能楽の会を催していることですね。
家内と僕が唯一一緒に舞台に上がれる機会なので、お囃子も稽古することで、能への理解が深まり人生を通してのめり込んでいけることが魅力、ですかね。

西田:
ありがとうございます。
桜井さん如何でしょうか。

桜井:私は普段、自分の出演する会に知り合いを呼ぶということはあまりしないんです。
というのも、素人の舞台を観てもらったところで、下手なカラオケを聞かされているのと同じであまり楽しくないんじゃないかと考えておりまして…最近私は、浪曲にハマったんですよ。

その思い手が浪曲の名人でして…これまで浪曲に全く興味が無かったのに何でハマったんだろうと考えた時に、「芸は人次第」と気づいたんですよ。上手な人に感化されて、どうすれば上手になるのか考えていくうちに、能の稽古が続いている。
魅力、という質問への答えになっていたかは分かりませんが...

西田:
桜井さんらしいご解答ありがとうございます。
私も同感です。私も中学時代から、観世寿夫先生や高橋章先生、亀井忠雄先生といった名人方の芸を、寿夫先生の場合はビデオですが、この目でじっくり観て学び、感化されました。
どうしたらあんなおが出来るのだろうかと考え始めたことで、稽古への向き合い方が変わりました。
最近では、近蔵乾三先生や高橋進先生の音源を聴き込んで、宝生流の謡を研究するのにハマっています。
自分の芸に活きてくるかは分かりません(笑)


崎井:
素晴らしい取り礼みですね。
芸に熱心な皆様の様子を舞台でも対談でも感じられて嬉しい限りです。

🟢思い出の演目・舞台を教えて下さい!

崎井:
大学二年の時初めて能の地謡に入った、「経政」です。脚が痺れて辛かったですが、良い経験になりました。
後は、社会人になり銀行に入社した時研修の場で、いきなり舞えと言われて、「箙」の仕舞を舞ったことですね。

遠藤:
謡で言うと、辰巳孝先生の強吟の「花月」、渡部良吉先生の「善知島」、二年前居様子でうたった「通小町」ですね。
能では、シテを務めた「俊覚」が忘れられません。
稽古の時は宝生流らしく、抑えめな芸ができたのですが、歌舞伎等を観て自分なりの俊覚像が完成した結果、本番は抑え切れず…・
和久先生に、「素人は良いですね。」と言われました(笑)

桜井:
私は一年生の最初の連吟で出した、「胡蝶」です。
未だに六割くらい頭にこびりついています。後は同門会で地謡に入った、能「東北」です。

西田:皆様エピソードと共に、思い出の演目を話して下さりありがとうございます。
私は初舞台が、金沢でお世話になっている島村明宏先生の記念舞台で、能「鞍馬天狗」の沙那王(義経)として出演した時でして、強いて言うならそれが一番思い出のある舞台です。
今後、先輩方のように、先生の愛ある指導の下、早稲田宝生会の仲間と思い出の舞台をつくっていきたいと思っています。

崎井:
素敵な想い、私達も応援していきたいと思います。

西田:
ありがとうございます。

🟢最後に、学生へヒトコト!

崎井:稽古も本番も、真っ直ぐ力一杯やって下さい!
仲間との交流を大切に!どこかで能の虫が疼きますよ(笑)

遠藤:
学生の間に学生という特権を使って、色んな能を観て下さい!
また、他校との交流をプライベートでも是非大切に!

桜井:
皆さんにとっても、来年入ってくる後輩にとっても、常に居心地のよいサークルであることを祈ります。

西田:
皆様、この度は本当に貴重なお話を聞かせて下さりありがとうございました。これからも部員一同精進を重ねますので、関宝連の舞台にお越しだき、御感想をお聞かせくださると幸いです。
今後とも宜しくお願い申し上げます。

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