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【フェスの思い出】THE 1975@サマーソニック2019 (東京)

2019年8月16日から、THE 1975のライブを目撃したあの日からもう8日も経っているけど、あの日の体験が自分にとって大き過ぎて、その日見た夢の中に今でも自分がいるんじゃないかとふと思う。

「去年出たアルバムの出来がめちゃくちゃよくて、そこからが何曲もやってくれたのが嬉しかった」「2014年のサマソニの時も観たけど、あの時に比べて驚くほど音の迫力がしなやかに強化されててビビった」「茜色に染まった空が段々暮れていく雰囲気が良かった」などなど良かったポイントはいくつか挙げられるけど、それらの観点では捉えきれない、言葉にできない貴重な瞬間に居合わせることができたと思う。

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開演前、茜色に染まるスタジアム

メンバーがステージに登場すると「Give Yourself a Try」「TOOTIMETOOTIMETOOTIME」「She’s American」「Sincerity is Scary」が演奏された。この4曲の並びがとっても素晴らしくて、バンド: THE 1975から始まって、どんどん情報量が増えていって、総合演出的ステージとしてTHE 1975の世界が出来上がるようになっていた。

「Give Yourself a Try」はメンバー4人だけの演奏で成立するようになっていて、「TOOTIME〜」のタイミングでダンス&コーラスの2人がステージに登場して、「She’s American」で流麗なサックスソロが炸裂して、「Sincerity〜」では背景の精彩な映像が滑らかに動き出していた。すなわち1曲ごとにTHE 1975が大きな現象として構築されていく様を私たちは目撃していた。

一方で曲のBPMについていうと、4曲を通してどんどんテンポが下がっていく並びになっている。だから曲が進むにつれて単純にボルテージが上がっていくのではなくて、ゆっくりと懐に抱かれていくような、世界観にじんわりと引き込まれていくような体験になっていた。そして5曲目の「It’s Not Living (If It’s Not With You)」で感情が堰を切って溢れ出すように一気にテンポを上げてきた。ここまでの5曲だけでも完全にノックアウトされていた。

ライブを現場で一緒に観ている観客みんなの反応がとっても素敵で、1曲終わる毎に緊張感に満ちた静寂が広がっていた。フロントマンのマッティはMCで、自分が何かをステージで話そうとするときに静かに聞いてくれるオーディエンスの礼儀正しさや謙虚さに大きな感銘を受けていることを語ってくれた。そこにいたオーディエンスの1人としてとってもとっても嬉しい。

それってきっと「Sincerity is Scary」の歌詞に出てくる "Instead of calling me out, you should be pulling me in" の哲学に通じていて、ワイワイ盛り上がることでアーティストにエールを贈ることもできる一方、静かに集中することでアーティスト側の心を掴んでみせたことになる。やったね。というかあの曲間の静けさには、この貴重で圧倒的なライブから決して目を離してはならないという緊迫感が伝播して共有された、厳かな雰囲気が宿っていたように思う。

マッティはステージで日本酒 (大吟醸)をボトルでラッパ飲みし、ポカリで水分補給し、フラフラになり、最後の方ではギターのアダムやベースのロスに寄りかかるようにして歌っていた。正直、マッティがギブアップして、予定していた曲を全部演奏できないんじゃないかという懸念が心をよぎった。それでもいいよ、また来て観たいよ、と素直に思えるくらいに、ずっと濃密な時間を届けてくれていた。

それでも舞台に立ち続け、歌い続けるマッティには鬼気迫るような凄みが宿っていた。「LOVE IT IF WE MADE IT」で歌われているように世界はめちゃくちゃで、さらに自分だってどこか壊れているかもしれない。だけどそれでも今目の前にあることに立ち向かい続ける。絶対に辞めない ( 「Chocolate」 で歌われているように "Never gonna quit it, no!!" だね!!)。そんな姿勢が本当に感動的だった。最後の「The Sound」でみんなでFucking jumpしているとき、ここに集まった人たちでこの瞬間を体験できて本当にうれしい、終わらないでほしいと強く願った。その後潔く暗転するところまで、美学が貫かれていてカッコ良かった。


2014年にサマソニ大阪で彼らを観た時、スタイリッシュでファンサービスも良くて (※)素敵なバンドだけど、今後超大物になることが約束されてる感じではないなぁ、あくまでこれからに期待だなぁと思った (その日のトリはアークティック・モンキーズだった)。

2016年のサマソニの時点では、「2010年以降にデビューしたバンドのうち、サマソニのヘッドライナーにまで育つ希望を託せる唯一の存在は彼らに他ならない」という印象で、クリエイティブマン清水社長が当時「ぷらナタ」に出たときもそんな風に語っていた (THE 1975が出た日のトリはレディオヘッドだった。僕はこの年、サカナクションとレディへに浮気してTHE 1975を見逃した)。その年に出た彼らの2ndアルバムはとっても好きになり、「次作がこれ以上の大傑作だったら本当にヘッドライナーにまで育ってくれるかもしれない」と思った。

そして去年の11月に出た「ネット上の人間関係に関する簡単な調査」を聴いて、これなら間違いない、彼らなら堂々と日本のフェスで大トリを務めてくれる、と思った。実際に今年のサマソニで目撃した彼らは圧巻のパフォーマンスを繰り広げるだけでなく、危うさをも湛え、そしてそれすら美しさとして昇華できる立ち位置にいた。

この夏に彼らを目撃できたことを、一生の宝物にしたい。

※2014年のサマソニ大阪公演のとき、最前列でオリジナルTシャツ (確か表にTHE 1975のロゴと日の丸、裏にメンバーの名前が入っていた)を持って旗のようにフェンスの前で振っている女性ファンがいて、マッティはステージ前方に身を乗り出して「投げてくれ!」とジェスチャーで示し、女性が投げたオリジナルTシャツは見事にマッティの手に収まり、マッティは元々着ていた衣装を脱いでそのオリジナルTシャツを着てあげてそして歌うという心温まる一幕があった。Tシャツを用意してきた女性が感極まって顔を覆って泣くところがビジョンに抜かれていた。そういう特別な瞬間をくれるバンドだった。

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