【書評】『V字回復の経営』 三枝匡 / 田端大学2019年3月 課題図書

評価:

★★★★☆ :コンサルや経営企画部に勤務するビジネスマンの共通言語的な本として読んでおくべき一冊。
10年以上前に文庫で読んだが、当時から企業の経営層はこの本を読んでいた。改めて読んでみて、会社員時代から経営者に変わった今の僕が読んで得られる内容が危機感を持って読めるようになった変化を実感している。また単純に読み物として面白いので、頭にイメージが残りやすい。そして、「仕事の本質」についての意識をきちんと学ぶことができるという点で、この本は30年経っても色褪せない類の、年月の荒波を超える本の一冊だと思っている。高揚感を持ちながら一気に読むことをお勧めしたいので、3−4時間を確保できる時にがっつりと読んでほしい。読了時間は速い人で2時間半。ゆっくりな人だと6時間程度かかるかな?それなりに重厚な本だとは思います。

今後も利用していく僕なりの書評のスコアシート(ご参考):
★★★★★:読まなければいけない本。基礎教養として繰り返して体に染み込ませて記憶しておく本。
★★★★☆:読むべき本。読んでいないことでエリート層や時代に取り残される可能性のある本。
★★★☆☆:読む価値あり。情報としてきちんと得られるものが整理されている本。
★★☆☆☆:読む必要なし。1ジャンル20冊をガガガッと読んでポッと出の専門家になりたい時に読む本。
★☆☆☆☆:読む価値なし。時間の無駄。

おすすめの読者層:

日本企業に勤務している一般的なサラリーマン以上であれば全員が読者対象と言っても良い。年齢は社会に出てから若いうちに読めるほど良い。特に自分が仕事の絶対的な権限を持っておらず、会社を説得しないとある程度大きなインパクトのある意思決定ができない人には胸に響く内容があるはずだ。


簡単なまとめ(3分でサクッと):

この本を通して学ぶことは大きく3つ。
一つは「4つのタイプのリーダーシップ」。二つめは「組織変革に向けた9つのステップ」。そして三つめが「組織の危険信号50カ条(と50の改革の要諦)」である。以下、触りだけ解説する。

組織を変革するには強い4つ(力・智・動・権)のリーダーシップを駆使して、一気呵成にやらなければならない。本の中では別々の人がそれぞれのキャラクターに合ったリーダーシップを発揮しているが、それぞれのリーダーシップを受け持つメンバーが必要と言う話ではない。(ただし、どこまで行っても権限のリーダーシップを発揮するトップマネジメントをスポンサーに加えないと難しい点には注意が必要。)

この本の主題となる本質的なスキル「組織変革に向けた9つのステップ」は、そのまま個人の経営行動としての9ステップと同義であることに着目したい。全ての「競合を上回る成長を長期的に続ける企業・サービス・人材」には、このステップを危機が来る前から用意・遂行している特徴がある。違うのは時間軸。業績が悪化している中で、V字回復をしなければならないときの時間軸は極めて短いということがサブタイトルにもある「2年で会社を変えられますか?」の真意である。

ちなみに、作中では横書きのチャートになっているが、実はV字で示した方が本のタイトルと合わせて記憶に残りやすいと思う。(これは単純なデザインの話で、僕ならこうするよ。っていう部分。)

「組織の危険信号50カ条」は、企業で仕事をする人なら少なからず目にしたことがある会社が陥る症状のリストだ。どんな優良企業であっても、5個程度は当てはまるものがあると思われる。自分もコンサルタントとしての仕事を10年弱にわたって従事してきた経験からすると、10個以上「あてはまる」クライアントが大多数だろう。これが、20個以上になる場合は外部のコンサルタントまたは、社内の改革プロジェクトチームは大変苦労する。もちろん、改革がとん挫することなど多くあるので、自分の会社がどの程度の成績なのか?を一度チェックすることをおススメする。

折角なので、個人的な整理を兼ねて巻末付録から 不振事業の症状50のチェックリストをGoogleスプレッドシートで作成した。(3月25日追記:改革の要諦50の進捗チェックリストも追加しました!)尚、自分は物事を暗記するレベルで覚える時は写経のようにタイピングする癖があるので、記憶のための位置付け作業です。
利用に際しての注意書きは、スプレッドシート内に記載していますが、これを転用しての何かしらの創作および転載は三枝さんの素晴らしい仕事への敬意を欠くので、ご遠慮願いたい。

※写真をクリックするとスプレッドシートへ遷移できます!

本の中ではこれらのリーダーシップ、改革のステップ、各種危険症状への対処(要諦)を駆使して、主人公である黒岩莞太が事業再生を行うストーリーである。冒頭にも書いたが、高揚感を持ちながら一気に読むことをお勧めしたいので、3−4時間を確保できる時にがっつりと読んでほしい。


この本を読んで変えていきたい行動:

もし、三枝さんからこの本を読む若手にメッセージがあるとしたらここだろう。

「どんな企業であっても、優秀な気骨のある人材は必ず社内にいる。」

この一文を読んだ時、昔の熱い気持ちを思い出した。そう、これは若い人への応援の本なのだ。ひょっとしたらまだ光が当たっていない、会社のルールやしがらみ・学歴・政治で埋もれたくすぶっているあなたに向けた本なのだ。
もし、この書評を読んで本書を手に取っていただくならば、あなたにその気骨ある1人になって会社を、ひいては日本を支える側になってくれることを心から願っている。


気骨のある人材というのは一言で言うと「自分の会社の利益責任」を自分ごととして自覚している必要がある。ということだ。それをきちんとトップダウンで落として、現場の一人一人まで理解させるには、
①シンプルに描かれたストーリーと、
②圧倒的なデータ(数字とロジック)を
トップがリーダーシップを持って浸透させ続けなければならない。それを教えられてやるか、自分が常日頃から意識しているか?はストーリーの浸透率も全く違ってくるとイメージする方が素直だろう。


僕は常々「自分の給料を自分で稼げる環境は幸せだ」と思っている。もし、それが叶わないのなら、あなたは誰かに養ってもらっているのであり、今の現状に対して文句を言うべきではない。もし、不満があるなら自分から動いて環境を変えれば良い。職場を変えるのも一つだし、自分自身が輪の中心となって、現在の職場を変えるのもひとつの方法だ。是非、気骨ある人材になるために、3-4時間を確保して、この本で頭を横からひっぱたかれて、会社に対する責任を自分が感じるような働きかたに変えていって欲しい。


最後に:

この本の深い所にあるテーマは「日本型経営 vs 米国型経営」だと僕は理解している。事実、「米国」という言葉は本題から逸れるにも関わらず実に「120回」も登場する!!(こういう文言のカウント時にKindleは本当に便利だ。)


米国型経営が株主から見たときの短期的な価値最大化が賞賛されるなかで、日本型経営は30-40年とその企業の中で働く現場の人の価値最大化を考えることに主眼を置いた対比構造がある。どちらの経営が優れているか?を議論する本ではないが、現時点の日本においては日本型経営を進める中で「経営者人材の育成」が何よりも重要だと三枝さんは言っているのだろう。

あとがきに書いてる一文を僕はハイライトした。

「みなさん、なんとか日本を元気な国にしようではありませんか。」

僕はここに三枝さんが最高傑作として送り出したこの本の真の意図が隠れている。詳しくは、こちらのAmazonリンクから買って読んでね!

追伸2:不振事業のチェックリストだけでなく、改革の要諦についてもリスト化して追加しました!各種参照などにご用立てください〜♪

追伸1:個人的には、三枝匡さんの三部作として『戦略プロフェッショナル』『経営パワーの危機』と合わせて、どれも素晴らしいので是非読んで欲しい!!


コンサルタントとフォトグラファーのDUAL WORKer/株式会社INFINITY AGENTS代表取締役/®︎福業フォトグラファーのONE PHOTO代表/働き方改革や複業仕事術、カメラやデザインが中心でです。お仕事のご依頼は y.arai@00agents.jp までどうぞ。