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極貧詩 332             旅立ち⑰

坂道を下って木造橋を渡れば3人の別れが待っている
小学校低学年から中学3年生終了の今までの友情関係
各地域では誰もが知る貧困家庭に育った貧乏三羽烏

同じ境遇を切り抜けてきた3人の結束は固いものがあった
1人だけだったらプレッシャーに打ちひしがれていただろう
恥ずかしさも屈辱もことあるごとに3人で分け合ってきた

今日がじっくり言葉を交わせる最後の機会になるかもしれない
ヤッちゃんがシゲちゃんにお互いへのエールを込めて話し出す

「シゲちゃん色々とありがとな、ほんとうに楽しかったよ」
「俺の方こそヤッちゃんがいてくれて心強かったよ、ありがとな」
「イヤなこともいっぺえあったけどお互い励まし合ったけなあ」
「そうだよな、聞えよがしの陰口が多かったよな」
「そうだよな、貧乏っつうことだけでいろいろ言われたよな」
「でもおめえが我慢してるのを見て俺も我慢できたんだよ」
「俺だってそうさ、何でそんなこと言われなきゃいけねえんだって何度も思ったよ、でも言い返したってしょうがねえもんな」
「そうだな、余計図に乗るしな」
「俺はなんつったって、俺の父ちゃんの悪口言われるのが一番悔しかったよ、仕事もろくにできねえ穀潰しだってな、病気がちだっただけなんにな」
「そうだよ、人ん家のことはどうだっていいじゃねえかよなあ、知りもしねえでよく言うよな、良く我慢したよな」
「シゲちゃんも弟のことでいろいろ言われてたけど、良く我慢したよな」
「そうだったなあ、弟の障害は誰のせいでもねえのに、母ちゃんが悪い、父ちゃんが悪い、挙句の果てにゃあ先祖が悪いなんて言ってな、本当に悔しかったよ、ぶんなぐってやるべえって思ったけど、そんなことしたって誰も喜ばねえからな、かえって家族に迷惑かけるだけだもんな」
「そうだよ、遊び半分で言ってるだけだから無視するのが一番だよな」
「ヤッちゃんのそういうとこすげえなって思うよ」
「俺な、シゲちゃんにいくら感謝してもしきれねえことがあるんだよ」
「何だい?俺何かヤッちゃんにいいことしたかなあ」
「シゲちゃんが東京の工場に就職決まったんべ?その後シゲちゃんガラって変わったんべ?授業はちゃんと聞くしノートは真面目に取るし、どうかしちゃったんじゃねえかって思ったんだよ」
「ああ、そりゃあ工場の社長さんがいろいろと話をしてくれて励ましてくれたからだよ、俺も頑張らなきゃあって思ったからだよ」
「でもすげえよ、思ったからっつったって実行できるわけじゃねえのに、シゲちゃんはちゃんとやり始めたんべ」
「何でも頑張ればどうにかなるんだって気がついたからだよ」
「本当ににすげえよ、だから俺も真似すべえって思ったんだよ、早く気がついてよかったよ」
「そういえば、ちょっと経ってからヤッちゃんもずいぶん変わったよな」
「うん、おかげでいろんなこと考えるようになったんだよ、俺家に残って百姓やるけど、バカのままじゃあだめだって思たんだよ、もっと早く気がつけばよかったなあってちょっと後悔してるよ」
「気がついた時が始まりなんじゃねえかなあ、早いも遅いもねえよ、気がつくかどうかだんべ」
「気づかせてくれてホントにありがとうな」
「俺だってヤッちゃんの根性には恐れ入ってるんだぜ、だって一番遠いところから毎日走って学校に通って小学校も中学校も無遅刻無欠席だんべ、こりゃあ誰にもできることじゃあねえよ、すげえよ、マラソンもダントツだしな」
「シゲちゃん、東京に行ってもこっちに帰ってくることはあるんだんべ?」
「もちろんだよ、そしたらまた会うべえな」
「うん、また3人で会うべえ、みんなで頑張んべえな」
「うん、俺たち貧乏三羽烏ゴーゴーだ!」

ヤッちゃんとシゲちゃんの目は充血していた
涙を我慢しているようだ
ここまでさんざん涙を流してきてもまだまだ足りないようだ
お互いのことをこれほどまでに思いやる2人に尊敬の念を抱かされた


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