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極貧詩 330             旅立ち⑮

卒業式の余韻が残る別れの坂道
こんな風にゆっくり坂を下りるのもこれが最後
万感胸に迫りさっきから熱いものが胸にこみあげている

3人で一緒に耐えてきた「明るい」貧困
9年間の「苦しい楽しい」思い出が去来する
口に出さずともお互いの心情が共有できた

俺の思いはさらに口からほとばしり出る
「着ているモノとか持ちモノでずいぶん陰口言われたよな」
「継ぎ当てだらけだよなあ」
「ツンツルテンだよなあ」
「いつもおんなじモノだよなあ」
「ちょっとくせえよなあ」
「鉛筆あんなになるまで使ってるで」
「カスみてえな消しゴムだよな」
「絵の具全部そろってねえじゃねえか」
「習字の筆1本だけしか持ってねえのかよ」
「俺達、へッ、て言って気にしなかったよな」
「一言でもいうと10倍になって返ってきたからな」
「言わせておけよ、って無視してたよな」
「本当は悔しかったけど言ってもしょうがなかったしな」
「給食費とか遠足のバス代なんかの徴収日が一番きつかったよな」
「もろに貧乏を証明するようなもんだったよな」
「でもヤッちゃんもシゲちゃんも平気な顔してたよな」
「俺も2人の真似してたけど内心はすごく傷ついてたんだよ」
「俺よりも2人の方がずっと精神的に強かったよな」
「2人から強い気持ちを持つことの大切さ教えてもらったよ」
「本当にありがとうな」
「3人でやった夏の下草狩りのアルバイト楽しかったよな」
「特に弁当の時間は忘れられないよ」
「お互いに貧しさの象徴のような弁当だったよな」
「おかずを見せっこして交換したっけなあ」
「コーコ、梅干し、野菜の煮物、イナゴの佃煮がメインだったよな」
「ハチに刺されたり蝮に出会ったりイチゴを見つけたりしたよな」
「もうそんなことも一緒にできないのかと思うと寂しいよ」
「俺たちの貧乏なんて一生続きゃあしねえよ」
「俺も貧乏から抜け出るためにこれからもっと頑張るよ」
「どうなるかわからねえけど今よりか絶対よくなると思って頑張るべえ」
「俺達には貧乏に耐えてきたド根性があるもんな」
「今よりか下はねえよ、これから絶対よくなるよ絶対な」
「ヤッちゃん、シゲちゃん、頑張るべえな」

俺の話の終わりの方は涙声になっていた
ヤッちゃんの目からは大粒の涙がこぼれていた
シゲちゃんは顔を背けて肩を震わせていた
3人の気持ちがもう何も言わなくても一つになっていた


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