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論文まとめ290回目 Nature 複雑すぎるサトウキビ品種R570のゲノム解読による育種の加速化!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

A figure of merit for efficiency roll-off in TADF-based organic LEDs
TADF型有機LEDにおける効率ロールオフの性能指標
「有機ELディスプレイは、電流を流すと光る有機物質を使った省エネ・高画質のディスプレイです。でも、明るくしようとすると急に効率が落ちる問題がありました。そこで、材料の特性を表す「性能指標」を新しく提案。これを使えば、効率が落ちにくい材料を設計できるようになります。有機ELの更なる高効率化・実用化に期待ですね!」

The complex polyploid genome architecture of sugarcane
サトウキビの複雑な倍数体ゲノムアーキテクチャ
「サトウキビは砂糖生産に欠かせない重要な作物ですが、ゲノムが非常に複雑なため品種改良が難しいという問題がありました。今回、代表的な品種「R570」の全ゲノムを解読することに成功!さらに、さび病耐性に関わる遺伝子も特定しました。この成果により、新品種の開発がスピードアップし、収量アップや病気に強いサトウキビ作りが加速すると期待されます。」

Targeting DCAF5 suppresses SMARCB1-mutant cancer by stabilizing SWI/SNF DCAF5を標的とすることで、SWI/SNFを安定化させ、SMARCB1変異がんを抑制する
「SMARCB1変異がんは、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体のサブユニットが不活性化されることで引き起こされる非常に致死性の高い悪性腫瘍です。この研究では、DCAF5というあまり研究されていない遺伝子が、SMARCB1変異がんの生存に必要であることを明らかにしました。DCAF5は、SMARCB1が欠損している場合、不完全に組み立てられたSWI/SNF複合体の分解を促進することで、SWI/SNF複合体の品質管理機能を担っていることが示されました。DCAF5を欠乏させると、SMARCB1欠損SWI/SNF複合体が再蓄積し、標的部位に結合してSWI/SNF媒介の遺伝子発現を十分なレベルまで回復させ、in vivoでもがん状態を逆転させることができました。つまり、がんはSMARCB1機能の喪失そのものではなく、DCAF5によるSWI/SNF複合体の分解によって引き起こされるのです。これらのデータは、ユビキチン化介在の品質管理因子を治療標的とすることで、腫瘍抑制複合体の破綻によって駆動される一部のがんの悪性状態を効果的に逆転できる可能性を示唆しています。」

Climate velocities and species tracking in global mountain regions
世界の山岳地域における気候変動の速度と生物種の追随
「地球温暖化が進行する中、山岳地域の生物多様性がどのような影響を受けるかを正確に予測することは重要な課題です。本研究では、世界の山岳地域における気温減率(標高が上がるにつれて気温が下がる割合)を、人工衛星データと熱力学の法則を用いて高解像度で明らかにしました。その結果、乾燥地域や水蒸気圧が高い地域では、等温線(同じ気温の線)の移動速度が特に速いことがわかりました。さらに、多くの生物種が気候変動に追随できていないことが明らかになり、将来的な生物多様性の損失が懸念されます。本研究の成果は、気候変動に脆弱な山岳地域を特定し、保全策を立てる上で重要な情報を提供するものです。」

Revealing uncertainty in the status of biodiversity change
生物多様性の変化の状況における不確実性の解明
「生物多様性の変化を正確に把握することは、効果的な保全策を立てるために不可欠です。しかし、従来の生物多様性データの解析では、空間的、時間的、系統的な構造を十分に考慮していないため、傾向の不確実性が過小評価されていました。本研究では、10の大規模な生物多様性データセットを用いて、新しい統計的枠組み「correlated effect model」を適用したところ、既存のアプローチで示されていた増加や減少の傾向が消失することが明らかになりました。これは、生物多様性の変化について、広大な空間的・分類学的スケールでは実際にはほとんどわかっていないことを強調しています。一方で、新しいモデルは、局所的なスケールでの予測精度を向上させることができ、適応的な保全対策を導く希望を与えてくれます。本研究の成果は、生物多様性の変化をより正確に理解し、効果的な保全策を立てるための重要な一歩となるでしょう。」

Single-cell multiplex chromatin and RNA interactions in ageing human brain

ヒト脳の老化における単一細胞レベルの複数のクロマチンとRNAの相互作用
「ヒトの脳は加齢とともに複雑な変化を遂げますが、その詳細なメカニズムは不明な点が多く残されています。本研究では、新たに開発したMUSIC法を用いて、高齢者の前頭皮質の単一細胞から、複数のクロマチン相互作用、遺伝子発現、RNA-クロマチン会合を同時に解析しました。その結果、「老化」した転写シグネチャーやアルツハイマー病の病理と相関して、短距離のクロマチン相互作用が少ない核が存在することが明らかになりました。また、女性の皮質細胞では、XIST非コードRNAとX染色体の相互作用や、X染色体の空間的な配置に高い多様性が見られました。MUSIC法は、複雑な組織の単一細胞レベルでクロマチン構造と転写を探究するための強力なツールとなるでしょう。」

Heat and desiccation tolerances predict bee abundance under climate change
耐熱性と耐乾性が気候変動下でのハチの個体数を予測する
「地球温暖化が進む中、ハチなどの花粉媒介者が深刻な脅威にさらされています。本研究では、温暖化と乾燥化が進む地域で16年間にわたってハチの個体数を調査し、665種のハチの71%で乾燥度が個体数を強く予測することを明らかにしました。また、耐熱性と耐乾性の高いハチの種が時間とともに最も増加していました。将来予測モデルでは、46%の種で個体数の減少が予測され、耐乾性の高い種が優占する均一なコミュニティになると予測されました。多様なハチの集団は植物の受粉を最大化するため、このようなコミュニティの再編成は受粉サービスを低下させる可能性があります。本研究は、気候変動がハチの多様性を直接脅かすことを示しており、ハチの保全努力には乾燥ストレスを考慮する必要があります。」


要約

有機ELの高効率化に向けた材料設計指針の提案

この研究は、TADF型有機LEDの効率ロールオフ(電流密度増加に伴う効率低下)を低減するための材料設計指針を提案しました。一重項励起子と三重項励起子の動的平衡を考慮し、効率ロールオフを予測する新たな性能指標(FOM)を導出。従来の逆項間交差レート(kRISC)よりもFOMの方が効率ロールオフとの相関が高いことを実証し、材料設計の新たな指針を示しました。

事前情報
•有機ELは、電荷の再結合により一重項・三重項励起子が生成される。
•TADF材料では、一重項と三重項の間で逆項間交差(RISC)と項間交差(ISC)が起こり、発光に寄与。
•効率ロールオフ(電流密度増加に伴う効率低下)が実用上の課題。三重項励起子の関与する三重項-三重項消滅(TTA)や三重項-ポーラロン消滅(TPA)が主原因と考えられる。
•kRISCを上げることが、効率ロールオフ抑制の主戦略とされてきた。

行ったこと
•TADFのメカニズムに基づき、一重項励起子と三重項励起子の定常状態での動的平衡を記述する式を導出。
•kRISC、kISC、krSを用いた新たな性能指標(FOM)を提案。
•文献からTADF材料のデータを収集し、kRISCおよびFOMとJ90(効率ロールオフの指標)の相関を解析。

検証方法
•文献から収集したTADF材料のデータを用いて、kRISCとJ90の相関、FOMとJ90の相関を解析。
•相関の度合いをスピアマンの順位相関係数で定量評価。

分かったこと
•kRISCとJ90の相関は必ずしも高くない(スピアマン順位相関係数 ρ = 0.638)。
•提案したFOM(= (kRISC/kISC) × krS)は、J90との相関が高い(ρ = 0.700)。
•効率ロールオフ抑制には、kRISCを上げるだけでなく、kRISC/kISCを最大化し、krSを上げることが有効。

この研究の面白く独創的なところ
•TADF材料の一重項励起子と三重項励起子の動的平衡に着目し、定常状態での励起子密度を表す式を導出した点。
•kRISC、kISC、krSを組み合わせた新たな性能指標(FOM)を提案し、効率ロールオフをより良く説明できることを示した点。
•従来の材料設計指針(kRISC向上)の限界を示し、新たな指針を提案した点。

この研究のアプリケーション
•高性能TADF材料の開発指針への応用。
•高輝度・高効率な実用的TADF有機ELディスプレイの開発。
•有機ELディスプレイの省電力化・高性能化。

著者と所属
S. Diesing, L. Zhang, E. Zysman-Colman & I. D. W. Samuel

詳しい解説
有機ELディスプレイは、電流を流すと発光する有機物質を利用した次世代のディスプレイ技術です。省エネ・高画質・軽量・薄型といった利点から、スマートフォンやテレビへの応用が進んでいます。特に近年注目を集めているのが、TADF(熱活性化遅延蛍光)と呼ばれる発光メカニズムを利用した材料です。TADFでは、一重項励起子だけでなく三重項励起子からも発光に利用できるため、高い発光効率が期待できます。
しかし、TADF材料にも課題があります。それが「効率ロールオフ」と呼ばれる現象で、電流密度(単位面積あたりの電流)を上げて高輝度化しようとすると、急激に発光効率が低下してしまうのです。実用化に向けては、この効率ロールオフを抑制することが重要な課題となっています。
効率ロールオフのメカニズムとしては、三重項励起子の関与する「三重項-三重項消滅(TTA)」や「三重項-ポーラロン消滅(TPA)」などが主な原因と考えられています。そのため、三重項励起子の寿命を短くし、その密度を下げることが効率ロールオフ抑制の鍵を握ります。
これまでTADF材料の開発では、一重項励起子と三重項励起子のエネルギー差(ΔEST)を小さくし、逆項間交差レート(kRISC)を向上させることが主戦略とされてきました。しかし、本研究によって、kRISCと効率ロールオフの指標J90(効率が最大値の90%に低下する電流密度)との相関は必ずしも高くないことが明らかになりました。
そこで本研究では、TADF材料中の一重項励起子と三重項励起子の動的平衡に着目。定常状態における励起子密度を表す式を導出し、kRISCだけでなく項間交差レート(kISC)と一重項励起子の輻射失活レート(krS)も含めた新たな性能指標(Figure of Merit, FOM)を提案しました。
FOM = (kRISC/kISC) × krS
この FOM は、83% の TADF OLED の効率ロールオフをうまく説明できることが示されました。kRISC を上げるだけでなく、kRISC/kISC を最大化し、krS を上げることが、効率ロールオフ抑制に有効であることを意味しています。
本研究の成果は、TADF材料の分子設計に新たな指針を与えるものです。高いFOMを目指した材料開発が加速され、実用的な高輝度・高効率のTADF有機ELの実現が期待されます。ディスプレイの省電力化やさらなる高性能化に向けて、大きな一歩となるでしょう。


サトウキビ品種R570のゲノム解読による育種の加速化

この研究は、サトウキビの代表的な品種「R570」の全ゲノム配列を解読し、その複雑な倍数体ゲノムの構造を明らかにしました。R570のゲノムは、栽培種(S. officinarum)と野生種(S. spontaneum)の交雑により生じた複雑な構造を持ち、12倍体で約10ギガ塩基対の大きさです。今回、8.7ギガ塩基対の高品質なゲノムアセンブリを構築し、倍数性ゆえに生じる配列の重複や染色体間の構造変化を詳細に解析しました。さらに、さび病耐性に関わる遺伝子座(Bru1)の候補遺伝子として、一対のキナーゼ-偽キナーゼ遺伝子を同定しました。本研究の成果は、サトウキビの分子育種や遺伝子工学的改良を加速し、収量向上や環境ストレス耐性の付与に貢献すると期待されます。

事前情報
•サトウキビは、砂糖生産の80%を占める重要な作物である。
•サトウキビは、栽培種のS. officinarumと野生種のS. spontaneumの交雑により生じた異質倍数体である。
•サトウキビのゲノムは約10ギガ塩基対の大きさで、12倍体という高い倍数性を示す。
•ゲノムの複雑さゆえに、ゲノム情報を活用した育種が困難であった。
•さび病は主要な病害の一つで、Bru1座の単一優性遺伝子がその抵抗性に関わることが知られていた。

行ったこと
•サトウキビ品種「R570」を対象に、PacBio社のHiFiシーケンス技術を用いて全ゲノムシーケンスを行った。
•光学マップ、遺伝的連鎖地図、染色体ソーティングなど、複数の技術を組み合わせてゲノムアセンブリを構築した。
•RNA-seqデータを用いて遺伝子予測を行い、ゲノムアノテーションを行った。
•Bru1座周辺領域のBAC(バクテリア人工染色体)クローンを用いた解析を行った。

検証方法
•光学マップ、遺伝的連鎖地図、Hi-Cデータなどを用いて、ゲノムアセンブリの正確性を検証した。
•コリネアリティ解析により、祖先種ゲノム間の比較を行った。
•RNA-seqデータを用いて、遺伝子予測の正確性を検証した。
•BAC配列とゲノムアセンブリの比較により、Bru1座の領域を解析した。

分かったこと
•R570のゲノムは8.7ギガ塩基対の大きさで、S. officinarum由来の配列が73%、S. spontaneum由来の配列が27%を占める。
•祖先種間の染色体の入れ替わりや組換えが生じている。
•S. officinarum由来の配列の多くは重複しており、一方でS. spontaneum由来の配列の多くはヘテロ接合である。
•さび病抵抗性遺伝子座Bru1には、一対のキナーゼ-偽キナーゼ遺伝子(TKP7とTKP8)が存在する。

この研究の面白く独創的なところ
•高度に複雑な倍数体ゲノムの解読に成功した点。
•複数の最新技術を駆使してゲノムアセンブリを構築した点。
•長年の目標であったBru1遺伝子座の原因遺伝子候補を同定した点。
•倍数体ゲノムにおける祖先種間の染色体動態を明らかにした点。

この研究のアプリケーション
•サトウキビのマーカー選抜育種や遺伝子編集など、ゲノム情報を活用した育種への応用。
•さび病抵抗性など、重要形質に関わる遺伝子の同定と機能解析。
•ストレス耐性や糖含量など、収量に関わる遺伝子の探索と改変。
•倍数体ゲノムの進化プロセスの理解への貢献。

著者と所属
A. L. Healey, O. Garsmeur, J. T. Lovell, S. Shengquiang, A. Sreedasyam, J. Jenkins, C. B. Plott, N. Piperidis, N. Pompidor, V. Llaca, C. J. Metcalfe, J. Doležel, P. Cápal, J. W. Carlson, J. Y. Hoarau, C. Hervouet, C. Zini, A. Dievart, A. Lipzen, M. Williams, L. B. Boston, J. Webber, K. Keymanesh, S. Tejomurthula, S. Rajasekar, R. Suchecki, A. Furtado, G. May, P. Parakkal, B. A. Simmons, K. Barry, R. J. Henry, J. Grimwood, K. S. Aitken, J. Schmutz & A. D'Hont

詳しい解説
サトウキビは、世界で最も生産量の多い作物の一つであり、砂糖の80%を供給しています。しかし、近年、収量の伸びが停滞しており、その原因の一つとしてサトウキビのゲノムの複雑さが挙げられます。サトウキビは、栽培種のS. officinarumと野生種のS. spontaneumの交雑により生じた異質倍数体であり、ゲノムサイズは約10ギガ塩基対、倍数性は12倍体にも及びます。このような複雑なゲノム構造ゆえに、サトウキビでは他の作物で進んでいるゲノム情報を活用した育種が困難でした。
本研究では、サトウキビの代表的な品種「R570」を対象に、PacBio社のHiFiシーケンス技術を用いて高品質なゲノムアセンブリを構築しました。その結果、8.7ギガ塩基対の配列を決定し、倍数性ゆえに生じる配列の重複や染色体間の構造変化を詳細に解析することに成功しました。R570のゲノムは、S. officinarum由来の配列が73%、S. spontaneum由来の配列が27%を占めていました。また、両祖先種由来の染色体間で組換えが生じている様子も明らかになりました。
さらに、本研究では、サトウキビのさび病耐性に関わる主要な遺伝子座であるBru1の解析にも取り組みました。Bru1座は単一の優性遺伝子ですが、これまでその実体は不明でした。ゲノムアセンブリとBAC(バクテリア人工染色体)クローンを用いた解析により、Bru1座には一対のキナーゼ-偽キナーゼ遺伝子(TKP7とTKP8)が存在することが分かりました。キナーゼ-偽キナーゼはいくつかの植物で病害抵抗性への関与が報告されており、Bru1の原因遺伝子の有力候補と考えられます。
本研究により構築された高品質なゲノム情報は、サトウキビの基礎研究および育種の発展に大きく寄与するものです。倍数体ゲノムの複雑さを紐解くことで、サトウキビのゲノム進化や種間交雑の理解が深まるでしょう。また、ゲノム情報を活用することで、マーカー選抜育種や遺伝子編集など、新たな育種技術の適用が可能になります。さび病耐性遺伝子Bru1の同定は、耐病性品種の開発を加速すると期待されます。
本研究は、長年の国際的な共同研究の集大成であり、サトウキビ研究におけるマイルストーンとなる成果です。高品質なゲノム情報を武器に、サトウキビの品種改良が加速し、砂糖生産性の向上や環境ストレス耐性の強化が進むことが期待されます。


DCAF5を標的にすることで、SMARCB1変異がんを抑制できる可能性

SMARCB1変異がんにおいて、DCAF5がSWI/SNF複合体の品質管理に関与し、SMARCB1欠損時にSWI/SNF複合体の分解を促進することが明らかになった。DCAF5を阻害することで、SMARCB1変異がんを抑制できる可能性が示唆された。

事前情報
SMARCB1変異がんは、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体のサブユニットが不活性化されることで引き起こされる致死性の高い悪性腫瘍である。

行ったこと
SMARCB1変異がん細胞株14種類を用いて、ゲノムワイドCRISPRスクリーニングを行った。

検証方法
DCAF5をノックダウンし、SMARCB1欠損SWI/SNF複合体の再蓄積、標的部位への結合、遺伝子発現への影響を調べた。また、in vivoでのがん抑制効果も検証した。

分かったこと
DCAF5は、SMARCB1が欠損している場合、不完全に組み立てられたSWI/SNF複合体の分解を促進することで、SWI/SNF複合体の品質管理機能を担っている。DCAF5を阻害すると、SMARCB1変異がんを抑制できる可能性がある。

この研究の面白く独創的なところ
腫瘍抑制複合体の破綻によって引き起こされるがんにおいて、ユビキチン化介在の品質管理因子を治療標的とすることで、がんの悪性状態を逆転できる可能性を示したこと。

この研究のアプリケーション
DCAF5を標的とした新たながん治療法の開発に繋がる可能性がある。

著者と所属
Sandi Radko-Juettner, Hong Yue, Jacquelyn A. Myers, Raymond D. Carter, Alexis N. Robertson, Priya Mittal, Zhexin Zhu, Baranda S. Hansen, Katherine A. Donovan, Moritz Hunkeler, Wojciech Rosikiewicz, Zhiping Wu, Meghan G. McReynolds, Shourya S. Roy Burman, Anna M. Schmoker, Nada Mageed, Scott A. Brown, Robert J. Mobley, Janet F. Partridge, Elizabeth A. Stewart, Shondra M. Pruett-Miller, Behnam Nabet, Junmin Peng, Nathanael S. Gray, Eric S. Fischer & Charles W. M. Roberts

詳しい解説
SMARCB1変異がんは、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体のサブユニットであるSMARCB1が不活性化されることで引き起こされる非常に致死性の高い悪性腫瘍です。この研究では、DCAF5というあまり研究されていない遺伝子が、SMARCB1変異がんの生存に必要であることを明らかにしました。
研究チームは、SMARCB1変異がん細胞株14種類を用いて、ゲノムワイドCRISPRスクリーニングを行いました。その結果、DCAF5がSMARCB1変異がんの生存に必要であることが分かりました。さらに、DCAF5は、SMARCB1が欠損している場合、不完全に組み立てられたSWI/SNF複合体の分解を促進することで、SWI/SNF複合体の品質管理機能を担っていることが明らかになりました。
研究チームは、DCAF5をノックダウンすることで、SMARCB1欠損SWI/SNF複合体が再蓄積し、標的部位に結合してSWI/SNF媒介の遺伝子発現を十分なレベルまで回復させ、in vivoでもがん状態を逆転させることができることを示しました。つまり、がんはSMARCB1機能の喪失そのものではなく、DCAF5によるSWI/SNF複合体の分解によって引き起こされるのです。
これらの結果は、ユビキチン化介在の品質管理因子を治療標的とすることで、腫瘍抑制複合体の破綻によって駆動される一部のがんの悪性状態を効果的に逆転できる可能性を示唆しています。この研究は、DCAF5を標的とした新たながん治療法の開発に繋がる可能性があり、がん治療の新たな戦略を提示するものです。


世界の山岳地域における気候変動の速度を高解像度で明らかにし、生物多様性への影響を評価

本研究では、人工衛星データと熱力学の法則を用いて、世界の山岳地域における気温減率を高解像度で明らかにし、気候変動の速度を算出した。その結果、乾燥地域や水蒸気圧が高い地域で等温線の移動速度が特に速いことがわかった。また、多くの生物種が気候変動に追随できていないことが明らかになり、将来的な生物多様性の損失が懸念される。

事前情報
山岳地域は生物多様性のホットスポットであり、気候変動の影響を受けやすい。しかし、山岳地域の気象観測点は少なく、気候変動の速度を正確に把握することが難しかった。

行ったこと
人工衛星データ(MODIS)と気象観測データ(CRU TS4.05)を用いて、世界の山岳地域における気温減率を算出した。また、熱力学の法則を用いて、水蒸気圧を考慮した湿潤断熱減率(MALRT)を計算した。

検証方法
算出した気温減率と、実際の気象観測データから得られた気温減率を比較した。また、気候変動の速度と、生物種の分布変化の速度を比較した。

分かったこと
乾燥地域や水蒸気圧が高い地域では、気温減率が小さく、等温線の移動速度が速いことがわかった。また、多くの生物種が気候変動に追随できておらず、特に移動速度が速い地域で追随が困難であることが明らかになった。

この研究の面白く独創的なところ
人工衛星データと熱力学の法則を組み合わせることで、観測点の少ない山岳地域の気候変動を高解像度で明らかにした点が独創的である。また、気候変動の速度と生物種の分布変化を直接比較することで、生物多様性への影響を定量的に評価した点が面白い。

この研究のアプリケーション
気候変動に脆弱な山岳地域を特定することで、優先的に保全策を講じるべき地域を明らかにできる。また、生物種の分布変化を予測することで、効果的な保全策を立てることができる。

著者と所属
Wei-Ping Chan, Jonathan Lenoir, Guan-Shuo Mai, Hung-Chi Kuo, I-Ching Chen & Sheng-Feng Shen

詳しい解説
本研究では、人工衛星データ(MODIS)と気象観測データ(CRU TS4.05)を用いて、世界の山岳地域における気温減率を高解像度で明らかにしました。気温減率とは、標高が上がるにつれて気温が下がる割合のことで、一般的には100mあたり0.55℃下がるとされています。しかし、実際には地域によって大きく異なることが知られており、正確な値を把握することが難しいのが実情でした。
本研究では、人工衛星から得られる地表面温度データと、気象観測点のデータを組み合わせることで、世界の山岳地域における気温減率を0.05度(約5km)の解像度で算出することに成功しました。また、熱力学の法則を用いて、水蒸気圧を考慮した湿潤断熱減率(MALRT)を計算しました。MALRTは、大気中の水蒸気量が多いほど小さくなる性質があります。
その結果、乾燥地域や水蒸気圧が高い地域では、気温減率が小さく、等温線の移動速度が特に速いことがわかりました。具体的には、グリーンランドや北シベリアのプトラナ高原、カムチャッカ、モンゴル、アラスカ・ユーコン地域などの乾燥地域や、北スマトラ、ブラジル高地、南アフリカ、イラン・パキスタンなどの水蒸気圧が高い地域で、等温線の移動速度が速いことが明らかになりました。
次に、算出した気候変動の速度と、生物種の分布変化の速度を比較しました。その結果、多くの生物種が気候変動に追随できておらず、特に移動速度が速い地域で追随が困難であることが明らかになりました。例えば、気候変動の速度が年間11.67m(衛星データによる推定)または8.25m(MALRTによる推定)を超える地域では、ほとんどの生物種が追随できていませんでした。
本研究の成果は、気候変動に脆弱な山岳地域を特定し、優先的に保全策を講じるべき地域を明らかにするものです。また、生物種の分布変化を予測することで、効果的な保全策を立てることができます。例えば、移動速度が遅い生物種に対しては、コリドーの設置や生息地の拡大などの対策が効果的だと考えられます。
本研究は、観測点の少ない山岳地域の気候変動を高解像度で明らかにした点や、気候変動の速度と生物種の分布変化を直接比較した点が独創的であり、生物多様性保全に重要な情報を提供するものです。今後は、より多くの地域で気候変動と生物多様性の関係を明らかにしていくことが求められます。


既存の生物多様性の変化のモデルには不確実性が大きいことを明らかにし、新たな統計的枠組みを提案

本研究では、10の大規模な生物多様性データセットを用いて、既存のアプローチでは生物多様性の変化の傾向の不確実性が過小評価されていることを明らかにした。新たに提案された統計的枠組み「correlated effect model」を適用すると、従来示されていた増加や減少の傾向が消失し、広大な空間的・分類学的スケールでの生物多様性の変化については実際にはほとんどわかっていないことが示唆された。一方で、新しいモデルは局所的なスケールでの予測精度を向上させることができ、適応的な保全対策を導く可能性がある。

事前情報
生物多様性は急速な地球規模の変化によって前例のない脅威に直面しており、生物多様性の変化を示す信号は、何千もの種を対象とした大規模な時系列の個体数データから得られている。これらのデータの解析から、増加や減少を含む様々な傾向が示唆されてきた。

行ったこと
10の大規模な生物多様性データセットを用いて、空間的、時間的、系統的な構造を考慮した新しい統計的枠組み「correlated effect model」を適用し、既存のアプローチと比較した。

検証方法
「correlated effect model」と、階層的な非独立性のみを考慮する2つの混合効果モデリング枠組み(ランダム切片とランダムスロープ)を比較した。また、モデルの予測精度を評価するために、データの一部を除外して予測値と実測値を比較した。

分かったこと
既存のアプローチでは、生物多様性の変化の傾向の不確実性が過小評価されており、傾向の方向が誤って推定されている可能性がある。「correlated effect model」を適用すると、10のデータセットのいずれにおいても95%の信用区間で増加や減少の傾向は検出されなかった。一方で、「correlated effect model」は局所的なスケールでの予測精度を向上させることができた。

この研究の面白く独創的なところ
生物多様性データの空間的、時間的、系統的な構造を同時に考慮した新しい統計的枠組みを提案し、既存のアプローチの問題点を明らかにした点が独創的である。また、広大な空間的・分類学的スケールでの生物多様性の変化について実際にはほとんどわかっていないことを示した点が興味深い。

この研究のアプリケーション
「correlated effect model」を用いることで、局所的なスケールでの生物多様性の変化をより正確に予測できるようになり、適応的な保全策を立てることができる。また、この統計的枠組みは、他の生物多様性データタイプや指標にも適用可能であり、地球規模の生物多様性観測システムに組み込むことができる。

著者と所属
T. F. Johnson, A. P. Beckerman, D. Z. Childs, T. J. Webb, K. L. Evans, C. A. Griffiths, P. Capdevila, C. F. Clements, M. Besson, R. D. Gregory, G. H. Thomas, E. Delmas & R. P. Freckleton

詳しい解説
本研究では、生物多様性の変化を把握するために広く用いられている10の大規模なデータセットを用いて、既存のアプローチの問題点を明らかにし、新しい統計的枠組みを提案しました。
生物多様性データは複雑で、時間、空間、進化の軸に沿った非独立性を持つことが多くあります。これは解析における課題となります。なぜなら、これらの非独立性のうち1つでも統計モデルから除外すると、不確実性の過小評価、誤った傾向の推定、予測の解像度の低下につながり、最終的には野生生物の個体数の傾向に関する現在の解釈を損なうからです。
著者らは、既存の研究の共通点は、これらの依存性の1つ以上が解析から一貫して除外されていることであると指摘しています。このため、過去の個体数の変化の推定値(減少、純変化なし、回復を示すもの)は信頼性に欠ける可能性があるのです。
そこで著者らは、階層的な非独立性と3つの相関的な非独立性のすべてを組み込んだ「correlated effect model」を導入し、10の大規模な生物多様性データセットに適用しました。その結果、既存のアプローチで示されていた増加や減少の傾向が消失することが明らかになりました。これは、既存のアプローチでは傾向の不確実性が大幅に過小評価され、時には傾向の方向が誤って推定されていることの帰結です。
「correlated effect model」による修正された平均個体数の傾向では、10のデータセットのいずれにおいても、95%の信用区間で増加や減少の傾向は検出されませんでした。このことは、広大な空間的・分類学的スケールでの生物多様性の変化について実際にはほとんどわかっていないことを強調しています。
しかし、広大なスケールでの不確実性にもかかわらず、空間的、時間的、系統的な構造を考慮することで、局所的なスケールでの予測精度が向上することが明らかになりました。予測の改善は、政策的に関連するスケールで生物多様性の変化を推定し、適応的な保全対策を導くための希望を与えてくれます。
著者らは、この分析的な進歩により、予測生態学に新たな可能性がもたらされると述べています。しかし、生物多様性の損失の潜在的な影響の深刻さを考えると、これらの方法を拡張・改善し続けることが不可欠です。著者らは、空間的、時間的、系統的な非独立性に対処するための一般的な枠組みを提供していますが、時系列の長さ、バイアスと非確率、非線形性、環境変化に対する多様な反応、現代のデータ収集の哲学、厳密な分析アプローチなどの根本的な問題を考慮して、さらなる進歩が必要だと述べています。
この改良された方法とデータの組み合わせにより、生物多様性の変化のパターンを明らかにし、私たちの生態系を形作る複雑なプロセスを解明できる可能性があります。



ヒトの脳老化における複数のクロマチン/RNA相互作用を単一細胞レベルで明らかに

本研究では、新たに開発したMUSIC法を用いて、高齢者の前頭皮質の単一細胞から、複数のクロマチン相互作用、遺伝子発現、RNA-クロマチン会合を同時に解析した。その結果、「老化」した転写シグネチャーやアルツハイマー病の病理と相関して、短距離のクロマチン相互作用が少ない核が存在することが明らかになった。また、女性の皮質細胞では、XIST非コードRNAとX染色体の相互作用やX染色体の空間的な配置に高い多様性が見られた。

事前情報
クロマチンの3次元的な折り畳み構造は、細胞分化の過程で動的に変化し、最終分化した単一細胞間で不均一性を示すことが知られている。しかし、3次元ゲノム構造が遺伝子発現に及ぼす影響の程度については議論が続いている。

行ったこと
クロマチン構造と遺伝子発現を単一細胞レベルで同時に解析できる新しい多オミクス技術MUSICを開発し、59歳以上の14人のヒト前頭皮質の死後サンプルに適用した。

検証方法
MUSICで得られたデータを用いて、皮質の多様な細胞タイプと状態を明らかにした。また、クロマチン相互作用や遺伝子発現、RNA-クロマチン会合のパターンを解析した。

分かったこと
短距離のクロマチン相互作用が少ない核は、「老化」した転写シグネチャーとアルツハイマー病の病理の両方と相関していた。また、cis-eQTLとプロモーター間のクロマチン接触を示す細胞タイプは、そのcis-eQTLが標的遺伝子の発現に特異的に影響を与える細胞タイプである傾向があった。さらに、女性の皮質細胞では、XIST非コードRNAとX染色体の相互作用およびX染色体の空間的な配置に高い不均一性が見られた。

この研究の面白く独創的なところ
単一細胞レベルで、複数のクロマチン相互作用、遺伝子発現、RNA-クロマチン会合を同時に解析できる新しい手法MUSICを開発したこと。また、ヒトの脳老化における3次元ゲノム構造と遺伝子発現の関係を明らかにしたこと。

この研究のアプリケーション
MUSICは、複雑な組織のクロマチンアーキテクチャと転写を単一細胞レベルで探究するための強力なツールとなる。また、脳老化やアルツハイマー病のメカニズム解明や治療法開発に貢献する可能性がある。

著者と所属
Xingzhao Wen, Zhifei Luo, Wenxin Zhao, Riccardo Calandrelli, Tri C. Nguyen, Xueyi Wan, John Lalith Charles Richard & Sheng Zhong

詳しい解説
本研究では、新たに開発したMUSIC法を用いて、高齢者の前頭皮質の単一細胞から、複数のクロマチン相互作用、遺伝子発現、RNA-クロマチン会合を同時に解析しました。
クロマチンの3次元的な折り畳み構造は、細胞分化の過程で動的に変化し、最終分化した単一細胞間で不均一性を示すことが知られています。しかし、3次元ゲノム構造が遺伝子発現に及ぼす影響の程度については議論が続いています。そのため、クロマチン構造と遺伝子発現の関係を単一細胞レベルで包括的に理解するためには、クロマチン構造と遺伝子発現を同時に解析できる単一細胞マルチオミクス技術の開発が不可欠です。
著者らは、このような背景のもと、複数のクロマチン相互作用(共複合化されたDNA配列)、遺伝子発現、RNA-クロマチン会合を単一細胞レベルで同時にプロファイリングできる新しい手法「MUSIC」を開発しました。MUSICを59歳以上のヒト前頭皮質の14のサンプルに適用したところ、皮質の多様な細胞タイプと状態を明らかにすることができました。
興味深いことに、短距離のクロマチン相互作用が少ない核は、「老化」した転写シグネチャーとアルツハイマー病の病理の両方と相関していました。これは、局所的なクロマチン構造の喪失と細胞の「年齢」および病理との関連を示唆しています。また、cis-eQTLとそのターゲット遺伝子のプロモーター間のクロマチン接触を示す細胞タイプは、そのcis-eQTLが標的遺伝子の発現に特異的に影響を与える細胞タイプである傾向があることがわかりました。
さらに、女性の皮質細胞では、XIST非コードRNAとX染色体の相互作用およびX染色体の空間的な配置に高い不均一性が見られました。これは、女性の脳における性差の健康と疾患に関する将来の研究のための重要なリソースとなります。
以上のように、本研究で開発されたMUSIC法は、複雑な組織のクロマチンアーキテクチャと転写を単一細胞レベルで探究するための強力なツールとなります。また、得られた知見は、脳老化やアルツハイマー病のメカニズム解明や治療法開発に貢献する可能性があります。



ハチの耐熱性と耐乾性が気候変動下でのハチの個体数を予測する重要な指標であることが明らかに

本研究では、温暖化と乾燥化が進む地域で16年間にわたってハチの個体数を調査し、ハチの71%で乾燥度が個体数を強く予測することを明らかにした。また、耐熱性と耐乾性の高いハチの種が時間とともに最も増加していた。将来予測モデルでは、46%の種で個体数の減少が予測され、耐乾性の高い種が優占する均一なコミュニティになると予測された。このようなコミュニティの再編成は受粉サービスを低下させる可能性がある。

事前情報
気候変動は花粉媒介者に深刻な脅威をもたらし、生態学的・経済的に重大な影響を与える可能性がある。しかし、ほとんどの昆虫の花粉媒介者種については、気候変動による減少を特定し、将来の傾向を予測するために必要な長期データと機構的証拠が不足している。

行ったこと
温暖化と乾燥化が進む地域で、16年間にわたって超多様なハチの集団の個体数パターンを記録した。ハチの減少と実験的に決定された耐熱性と耐乾性を関連づけ、気候感受性モデルを使用してハチのコミュニティを将来に投影した。

検証方法
ハチの個体数と乾燥度の関係を調べ、耐熱性と耐乾性の高いハチの種の増加傾向を調べた。また、気候感受性モデルを用いて、将来のハチのコミュニティを予測した。

分かったこと
乾燥度は665種のハチの71%で個体数を強く予測した。耐熱性と耐乾性の高いハチの種が時間とともに最も増加した。モデルでは、46%の種で個体数の減少が予測され、耐乾性の高い種が優占する均一なコミュニティになると予測された。このようなコミュニティの再編成は受粉サービスを低下させる可能性がある。また、中程度から高い乾燥度では体の大きなハチが優占しており、ハチのコミュニティの気候変動に伴う変化が受粉に影響を与える上で、体のサイズが重要な形質であることが分かった。

この研究の面白く独創的なところ
長期的な野外調査と実験的に決定された耐熱性・耐乾性のデータを組み合わせ、気候変動がハチの多様性に与える直接的な影響を明らかにした点が独創的である。また、将来のハチのコミュニティを予測し、受粉サービスへの影響を示唆した点が興味深い。

この研究のアプリケーション
本研究は、気候変動がハチの多様性を直接脅かすことを示しており、ハチの保全努力には乾燥ストレスを考慮する必要があることを示唆している。また、ハチのコミュニティの変化が受粉サービスに与える影響を予測することで、農業や生態系管理に貢献する可能性がある。
著者と所属
Melanie R. Kazenel, Karen W. Wright, Terry Griswold, Kenneth D. Whitney & Jennifer A. Rudgers

詳しい解説
本研究では、温暖化と乾燥化が進む地域で16年間にわたってハチの個体数を調査し、ハチの71%で乾燥度が個体数を強く予測することを明らかにしました。つまり、乾燥度が高い年や場所では、多くのハチの種の個体数が減少していたのです。また、実験的に測定された耐熱性と耐乾性のデータを使って、耐熱性と耐乾性の高いハチの種が時間とともに最も増加していることを示しました。これは、気候変動に伴う乾燥化により、耐乾性の高いハチが優位になっていることを示唆しています。
さらに、気候感受性モデルを使って将来のハチのコミュニティを予測したところ、46%の種で個体数の減少が予測され、耐乾性の高い種が優占する均一なコミュニティになると予測されました。多様なハチの集団は植物の受粉を最大化することが知られているため、このようなコミュニティの再編成は受粉サービスを低下させる可能性があります。つまり、ハチの多様性の減少は、農作物を含む多くの植物の受粉に悪影響を与える可能性があるのです。
また、中程度から高い乾燥度では体の大きなハチが優占しており、ハチのコミュニティの気候変動に伴う変化が受粉に影響を与える上で、体のサイズが重要な形質であることが分かりました。これは、体の大きなハチが乾燥ストレスに耐えやすいためと考えられます。
本研究は、長期的な野外調査と実験的に決定された耐熱性・耐乾性のデータを組み合わせることで、気候変動がハチの多様性に与える直接的な影響を明らかにした点が独創的です。また、将来のハチのコミュニティを予測し、受粉サービスへの影響を示唆した点が興味深いと言えます。
本研究の結果は、気候変動がハチの多様性を直接脅かすことを示しており、ハチの保全努力には乾燥ストレスを考慮する必要があることを示唆しています。また、ハチのコミュニティの変化が受粉サービスに与える影響を予測することで、農業や生態系管理に貢献する可能性があります。例えば、耐乾性の高いハチを保護・育成することで、乾燥化が進む地域での受粉サービスを維持することができるかもしれません。
このように、本研究は気候変動が生物多様性に与える影響を理解する上で重要な知見を提供するものであり、ハチの保全と生態系サービスの維持に貢献すると期待されます。



最後に
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