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論文まとめ284回目 Nature SNSの有害な言葉は、増殖する!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Persistent interaction patterns across social media platforms and over time
ソーシャルメディアプラットフォームと時間を超えて持続するインタラクションパターン
「私たちの日常に深く浸透しているソーシャルメディアですが、そこでの会話は建設的なものばかりではありません。この研究では、異なるプラットフォームや時代を超えて、オンライン上の有害な会話パターンがどのように持続し、一貫しているかを明らかにしています。驚くべきことに、有害な言葉が会話を萎縮させるとは限らず、議論が白熱するほど有害性が高まる傾向があるそうです。私たちの行動そのものが、オンライン・ディスコースの形成に大きな影響を与えているのかもしれません。ソーシャルメディアを健全なコミュニケーションの場とするために、この研究の知見は重要な示唆を与えてくれます。」

Cryo-EM structures of RAD51 assembled on nucleosomes containing a DSB site
RAD51がDSB部位を含むヌクレオソーム上で会合体を形成する様子のクライオ電子顕微鏡構造
「タンパク質であるRAD51は、DNAが損傷を受けた際に重要な役割を果たします。特に、二本鎖切断と呼ばれる深刻な損傷が起きた時、RAD51は損傷部位に集まり、DNAを修復する過程で中心的な働きをします。しかし、私たちの細胞の中では、DNAはヌクレオソームと呼ばれる構造体に巻きつけられています。そのため、RAD51がどのようにしてヌクレオソーム上のDNA損傷部位を見つけ出し、修復のために結合するのかは謎でした。
この研究では、クライオ電子顕微鏡という技術を用いて、RAD51とヌクレオソームの複合体の構造を原子レベルで解明しました。その結果、RAD51はまず、リング状の構造をとってヌクレオソームに結合し、損傷部位を探索することがわかりました。そして、損傷部位を見つけると、リング状かららせん状のフィラメントへと構造を変化させ、DNAを覆うように結合します。この構造変化によって、ヌクレオソームからDNAが引き剥がされ、RAD51がDNA修復のために必要な構造をとれるようになるのです。
この研究は、RAD51という分子が、ヌクレオソームというDNAが詰まった構造体の中で、どのようにして損傷部位を見つけ出し、修復のための構造変化を起こすのかを、原子レベルで明らかにした点で画期的です。DNA修復メカニズムの理解が深まったことで、将来的にはガンなどの疾患の治療法の開発にもつながる可能性があります。」

Non-reciprocal topological solitons in active metamaterials
アクティブメタマテリアルにおける非相反トポロジカルソリトン
「トポロジカルソリトンは、タンパク質のモチーフからブラックホールまで、あらゆる場所に存在する非線形の励起状態です。これまでは、ソリトンとアンチソリトンを反対方向に加速させる駆動メカニズムしか知られていませんでした。しかし、この研究では、非相反的な結合を持つ振動子を二安定ポテンシャルの中に置くことで、ソリトンとアンチソリトンを同じ方向に加速させる新しいメカニズムを発見しました。
非相反的な結合とは、AからBへの影響とBからAへの影響が異なるような結合のことです。例えば、二人の人がシーソーに乗っている時、片方が強く押せばもう片方は高く上がりますが、逆に弱く押せば低く上がります。このように、作用と反作用が異なる結合を非相反的な結合と言います。
一方、二安定ポテンシャルとは、ボールが安定して存在できる位置が二つあるようなポテンシャルのことです。例えば、ボールを二つの山の間に置くと、どちらかの谷底に落ち着きます。このような二つの安定状態を持つポテンシャルを二安定ポテンシャルと言います。
この研究では、非相反的な結合を持つ振動子を二安定ポテンシャルの中に置くことで、本来は不安定な非エルミート・スキン波を、ソリトンやアンチソリトンに変換することに成功しました。このメカニズムを使えば、一方向にのみ情報を伝達したりフィルタリングしたりできる能動的な導波路を作ることができます。さらに、超対称性が破れた別のクラスのメタマテリアルでは、アンチソリトンのみが駆動されることも明らかになりました。
このように、非相反性とトポロジカルソリトンの間には微妙な相互作用があり、ソリトンが材料を局所的に歪ませることで自分自身の駆動力を生み出していることがわかりました。この非相反的なソリトンは、ロボットの移動や、量子力学、光学、ソフトマターなど、様々な分野への応用が期待されます。」

Adaptive foraging behaviours in the Horn of Africa during Toba supereruption
トバ超大噴火時のアフリカの角地域における適応的な食料獲得行動
「この研究は、約7.4万年前に起きたトバ超大噴火という大きな火山噴火の時期に、アフリカの角地域にいた人類がどのように生活していたかを調べたものです。エチオピア北西部の低地にあるシンファ・メテマ1遺跡から発見された、当時の人類の活動の痕跡を分析しました。
その結果、人類は川沿いで集中的に食料を獲得していたことがわかりました。おそらく弓矢を使って、陸上や水中の様々な動物を狩猟していたようです。化石の分析から、遺跡が占拠されていた時期は季節的に非常に乾燥していたことが明らかになりました。
乾季の間、川の水たまりが小さくなり浅くなっていく中で、人類は魚を大量に捕獲していました。これは、厳しい気候条件に対する柔軟な適応力を示しています。乾季の水たまりに沿って適応的に食料を獲得することで、季節河川が「青の高速道路」のような回廊になり、アフリカからの分散を促進した可能性があります。
この研究は、人類が季節的な乾燥条件や、トバ超大噴火の短期的な影響に適応するために必要な行動の柔軟性を持っていたことを示唆しています。これらの適応力が、人類の最も最近の分散と、その後の世界的な拡大の鍵となった可能性が高いと考えられます。」

A distinct Fusobacterium nucleatum clade dominates the colorectal cancer niche
大腸がんの環境を支配する独特なフソバクテリウム・ヌクレアタムのクレード
「私たち人間の腸内には、たくさんの細菌が住んでいます。その中には、私たちの健康を維持するのに役立つ善玉菌もいれば、病気を引き起こす悪玉菌もいます。今回の研究では、大腸がんに関連する細菌であるフソバクテリウム・ヌクレアタムに注目しました。
これまでの研究で、フソバクテリウム・ヌクレアタムが大腸がんの患者さんの腸内に多く存在することがわかっていましたが、どのような種類のフソバクテリウム・ヌクレアタムが大腸がんに関わっているのかは明らかではありませんでした。
そこで研究チームは、大腸がんの患者さんと健康な人の口内と腸内からフソバクテリウム・ヌクレアタムを集めて、そのゲノム(遺伝情報)を詳しく調べました。すると、フソバクテリウム・ヌクレアタムのアニマリス亜種の中に、大腸がんに特異的に集積する新しいグループ(クレード2)が存在することを発見したのです。
このクレード2は、健康な人の口内には存在するものの、健康な人の腸内にはほとんど存在しませんでした。一方、大腸がんの患者さんの腸内には多く存在していました。さらに、マウスを使った実験では、クレード2を投与したマウスは、投与しなかったマウスに比べて腸にがんができやすくなることもわかりました。
この発見は、大腸がんの発症メカニズムの解明や、新しい診断法・治療法の開発につながる可能性があります。私たちの腸内細菌と健康の関係を理解するうえでも重要な一歩といえるでしょう。」

Disease-associated astrocyte epigenetic memory promotes CNS pathology
疾患関連アストロサイトのエピジェネティック記憶が中枢神経系の病理を促進する
「私たちの脳内には、ニューロンと呼ばれる神経細胞以外にも、アストロサイトと呼ばれる重要な細胞が存在します。アストロサイトは、脳の恒常性維持や神経細胞のサポートなど、様々な役割を担っています。しかし、最近の研究で、特定のアストロサイトががんや自己免疫疾患などの病気の進行に関与していることがわかってきました。
今回の研究では、多発性硬化症という自己免疫疾患に着目し、病気の進行に関与するアストロサイトの特徴を調べました。研究チームは、マウスの多発性硬化症モデルを用いて、アストロサイトの遺伝子発現や、エピジェネティックな変化を詳細に解析しました。
その結果、病気の進行に関与するアストロサイトは、一度炎症性の刺激を受けると、その記憶を長期間保持し、再び同じ刺激を受けた時に過剰な炎症反応を引き起こすことがわかりました。つまり、これらのアストロサイトは、炎症の記憶を持つ「記憶アストロサイト」とも呼ぶべき性質を持っていたのです。
さらに、この記憶アストロサイトの形成には、ACLY という代謝酵素が重要な役割を果たしていることも明らかになりました。ACLY は、クロマチンのアクセス性を調節することで、炎症に関連する遺伝子の発現を制御していました。
興味深いことに、多発性硬化症の患者の脳内でも、記憶アストロサイトが増加していることが確認されました。これらの結果から、記憶アストロサイトが多発性硬化症の病態形成に重要な役割を果たしている可能性が示唆されました。
本研究は、アストロサイトのエピジェネティックな記憶が、脳の病気の進行に関与するという新しい概念を提唱するものです。今後、記憶アストロサイトをターゲットとした新たな治療法の開発が期待されます。私たちの脳の健康を守るために、アストロサイトの働きをさらに理解することが重要だといえるでしょう。」

Motor neurons generate pose-targeted movements via proprioceptive sculpting
運動ニューロンは固有感覚による調整を介して姿勢を標的とした動きを生成する
「私たちが日常的に行っている動作、例えば歩いたり、物を掴んだりするとき、脳は体の動きを巧みに制御しています。この制御の最終的な実行役は運動ニューロンですが、一つの運動ニューロンがどのように自然な動作に貢献しているのかは明らかではありませんでした。
今回の研究では、ショウジョウバエの頭部の動きを制御する個々の運動ニューロンの役割を解剖学的、機能的に特徴づけました。驚くべきことに、一つの運動ニューロンの活性化は、頭部の開始姿勢によって頭部を異なる方向に回転させることがわかりました。つまり、頭部は刺激を受けた運動ニューロンの種類によって決まる特定の姿勢に向かって収束するのです。
この収束行動は、運動ニューロンの駆動と固有感覚フィードバックの相互作用によって生じると、フィードバックモデルは予測しています。研究チームは、このモデルの予測通りに運動ニューロンによる収束を変化させる単一の固有感覚ニューロンを特定し、遺伝的に抑制しました。
これらのデータは、脳が動きを制御する方法の新しい枠組みを示唆しています。脳は、固定された運動ニューロンの集合を活性化することで特定の方向への動きを直接生成するのではなく、継続的な固有感覚-運動ループにバイアスを加えることで動きを制御しているのです。
この発見は、脳が複雑な動作をどのように制御しているのかを理解する上で重要な手がかりとなるでしょう。また、将来的にはリハビリテーションや運動障害の治療など、医療分野への応用も期待されます。ショウジョウバエの小さな頭の動きから、私たちの体の動きを司る脳の仕組みが明らかになろうとしています。」


要約

ソーシャルメディアにおける有害な会話パターンの持続性と一貫性

オンライン上の有害な会話が公共の言論に与える影響への懸念が高まっています。先行研究では、ソーシャルメディアが社会に及ぼす影響の多面的な性質が明らかにされています。しかし、プラットフォームのデザインの影響と本来の人間の行動を区別することは難しく、データへのアクセスの制限もあって、プラットフォームが人間の行動に与える影響を理解することは困難でした。

行ったこと
この研究では、Usenetから現代のソーシャルメディアまで34年間にわたる8つのプラットフォームから約5億件のコメントを分析し、オンライン会話における有害なコンテンツのパターンの一貫性を調べました。有害性の定義には、最先端の自動検出ツールであるPerspective APIを採用し、他のツールとの整合性も確認しました。

検証方法
会話の長さ、ユーザーの参加、有害性の関係を分析するため、会話をサイズ別にグループ化し、構造的な違いを調べました。また、会話の進行に伴う有害性の変化を追跡し、ユーザーの参加との関連性を評価しました。議論の白熱度を測る指標として、参加者の政治的立場の多様性や感情の分散度を用いました。

分かったこと
長い会話ほど有害性が高くなる傾向がありますが、有害な言葉が必ずしも人々の参加を妨げるわけではなく、議論が進むにつれて有害性がエスカレートするとは限りません。むしろ、ユーザー間の意見の多様性と感情の対立が、より激しく敵対的な議論に大きく寄与している可能性があります。これらのパターンが30年以上にわたって持続していることは、オンラインディスコースの形成における人間の行動の重要性を浮き彫りにしています。

この研究の面白く独創的なところ
34年間にわたる膨大なデータセットを用いて、プラットフォームや時代を超えたオンライン会話のパターンを明らかにした点が革新的です。有害性とユーザーの参加の関係についての一般的な仮定に疑問を投げかけ、意見の対立こそが有害性を生む可能性を示唆した点も興味深いです。オンラインディスコースの形成における人間の行動の重要性を浮き彫りにした点も印象的です。

この研究のアプリケーション
この研究の知見は、より効果的なコンテンツモデレーションツールの開発に役立ちます。単に有害なコメントを削除するだけでは不十分であり、議論のダイナミクスを考慮した早期介入が重要であることが示唆されました。また、プラットフォームを超えた一貫したパターンの存在は、あるプラットフォームで訓練されたモデルが他のプラットフォームにも適用可能であることを示唆しています。さらに、意見の対立と有害性の関係についての理解を深めることで、より建設的なオンラインスペースの創造につながる可能性があります。

著者と所属
Michele Avalle, Niccolò Di Marco, Gabriele Etta, Emanuele Sangiorgio, Shayan Alipour, Anita Bonetti, Lorenzo Alvisi, Antonio Scala, Andrea Baronchelli, Matteo Cinelli & Walter Quattrociocchi


ソーシャルメディア上の会話は、私たちの日常生活に欠かせない存在となっています。しかし、そこでのやり取りが常に建設的とは限りません。有害な言葉が飛び交い、議論が過熱することも少なくありません。この研究では、異なるプラットフォームや時代を超えて、そうした有害な会話のパターンがどのように持続し、一貫しているかを明らかにしました。
驚くべきことに、有害な言葉が会話を萎縮させるとは限らず、むしろ議論が白熱するほど有害性が高まる傾向があるそうです。ユーザー間の意見の対立や感情の食い違いが、より激しく敵対的な議論を生み出しているのかもしれません。こうしたパターンが30年以上にわたって続いているという事実は、オンラインでのやり取りにおける私たち自身の行動の重要性を物語っています。
この研究の知見は、ソーシャルメディアをより健全なコミュニケーションの場とするために重要な示唆を与えてくれます。単に有害なコメントを削除するだけでは不十分で、議論のダイナミクスを考慮した早期の介入が必要だということです。また、意見の対立と有害性の関係をより深く理解することで、建設的な対話を促すオンライン空間の設計につなげることができるでしょう。


ネズミの脳が新しい記憶を形成し、現在の環境に再び集中する過程を解明

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07192-8

この研究は、ネズミの海馬で発生する特定の脳波パターンが、新しい記憶の形成や現在の環境への注意の再集中を助けることを明らかにしました。

事前情報
海馬では、シャープウェーブリップルと呼ばれる脳波が記憶の再生と関連していますが、この研究ではそれとは異なる脳波パターンに焦点を当てています。

行ったこと
研究チームは、海馬歯状回スパイクと呼ばれる別の脳波パターンが現在の空間位置の認識や新しい記憶の形成にどのように関与するかを調べました。

検証方法
ネズミの海馬からの電気生理学的記録と行動分析を組み合わせて、歯状回スパイク中の神経活動と行動の変化を詳細に調査しました。

分かったこと
歯状回スパイクは、ネズミが現在の位置を認識し、新しい記憶を形成する際に重要な役割を果たしており、これらのスパイク中に神経活動を阻害すると、記憶形成が妨げられることがわかりました。

この研究の面白く独創的なところ
ネズミの脳が記憶を再生するだけでなく、外部世界への注意を切り替える独自の方法を持っていることを発見した点です。

この研究のアプリケーション
記憶や注意のメカニズムを理解することで、認知症や注意欠如障害の治療法の開発につながる可能性があります。

著者と所属
Jordan S. Farrell, Ernie Hwaun, Barna Dudok & Ivan Soltesz

更に詳しく
この研究では、ネズミの海馬における特定の脳波パターン、具体的には「海馬歯状回スパイク」と呼ばれる現象に焦点を当てています。これらのスパイクは、ネズミが静止している間や非REM睡眠中に、不規則な間隔で短期間発生する大振幅の同期した集団ニューロン活動として記録されます。海馬のCA1領域では「シャープウェーブリップル」という異なるパターンが支配的ですが、歯状回スパイクは特に海馬歯状回のヒルスで観察され、その持続時間は50ミリ秒未満、振幅は1ミリボルトを超えることが特徴です。
重要なのは、これらのスパイクがネズミの低覚醒状態で約0.5Hzの頻度で発生し、シャープウェーブリップルとは時間的に重ならないことです。これは、それぞれが異なる脳と行動状態に対応している可能性を示唆しています。シャープウェーブリップルは過去や未来の経路を表す「オフライン」メモリの再生に関連しているのに対し、歯状回スパイクはネズミが現在位置を認識し、新しい記憶を形成するプロセスに重要な役割を果たしていることがこの研究で示されました。
実験では、歯状回スパイクが発生すると、ネズミの脳全体の発火率が顕著に上昇し、特に高次ネットワークでこれが観察されました。これらのスパイク期間中には、ネズミの空間的位置を正確に符号化する場所細胞の活動が現在のネズミの位置と一致しており、シャープウェーブリップル期間中の記憶再生とは異なる振る舞いを示しました。さらに、この期間にニューロン活動を阻害することで、関連する記憶の形成が妨げられることも明らかになりました。
つまり、この研究は、ネズミの脳が新しい記憶を形成し、現在の環境への注意をどのように切り替えるかについての理解を深めました。歯状回スパイクは、ネズミが「思い出しモード」から「今ここにいるモード」へと神経活動の焦点を切り替えるのに役立つ、重要な脳内メカニズムであることが示されています。


非相反的な駆動力によって、ソリトンとアンチソリトンを同じ方向に加速させる新しいメカニズムを発見

本研究では、非相反的な結合を持つ振動子を二安定ポテンシャルの中に置くことで、ソリトンとアンチソリトンを同じ方向に加速させる新しいメカニズムを発見した。このメカニズムを使えば、一方向にのみ情報を伝達したりフィルタリングしたりできる能動的な導波路を作ることができる。さらに、超対称性が破れた別のクラスのメタマテリアルでは、アンチソリトンのみが駆動されることも明らかになった。非相反性とトポロジカルソリトンの間には微妙な相互作用があり、ソリトンが材料を局所的に歪ませることで自分自身の駆動力を生み出していることがわかった。この非相反的なソリトンは、ロボットの移動や、量子力学、光学、ソフトマターなど、様々な分野への応用が期待される。

事前情報

  • トポロジカルソリトンは、外部場によって駆動される頑健な非線形励起である。

  • 既存の駆動メカニズムでは、ソリトンとアンチソリトンは反対方向に加速される。

行ったこと

  • 非相反的に結合された振動子を二安定ポテンシャルに配置したアクティブメカニカルメタマテリアルを構築した。

  • 非エルミート・スキン波を頑健な一方向の(アンチ)ソリトンに変換できることを発見した。

  • 一方向の情報伝達とフィルタリングが可能なアクティブ導波路を構築した。

  • 超対称性が破れたメタマテリアルではアンチソリトンのみが駆動されることを示した。

検証方法

  • アクティブメカニカルメタマテリアルの構築と観察

  • 非相反的なソリトンの駆動の数値シミュレーション

  • アクティブ導波路の情報伝達とフィルタリング性能の評価

  • 超対称性の破れたメタマテリアルにおけるソリトンとアンチソリトンの振る舞いの解析

分かったこと

  • 非相反的な結合と二安定ポテンシャルの組み合わせにより、ソリトンとアンチソリトンを同じ方向に駆動できる。

  • 非エルミート・スキン波は、非線形性によってロバストな一方向の(アンチ)ソリトンに変換される。

  • 非相反的なソリトンを利用して、一方向の情報伝達とフィルタリングが可能なアクティブ導波路を構築できる。

  • 超対称性の破れたメタマテリアルでは、アンチソリトンのみが駆動される。

  • ソリトンは材料を局所的に歪ませることで自分自身の駆動力を生み出している。

この研究の面白く独創的なところ

  • 非相反的な結合と非線形性を組み合わせることで、ソリトンとアンチソリトンを同じ方向に駆動する新しいメカニズムを発見した。

  • 不安定な非エルミート・スキン波を、頑健な一方向の(アンチ)ソリトンに変換できることを示した。

  • 非相反的なソリトンを利用して、一方向の情報伝達とフィルタリングが可能なアクティブ導波路を実現した。

  • 超対称性の破れによって、アンチソリトンのみを選択的に駆動できることを明らかにした。

この研究のアプリケーション

  • 非相反的なソリトンを利用した、効率的なロボットの移動メカニズムの開発

  • 量子力学、光学、ソフトマターなどの分野における非相反的なソリトンの応用

  • 一方向の情報伝達とフィルタリングが可能なアクティブ導波路の設計と実装

  • 超対称性の破れを利用した、アンチソリトンの選択的な制御と操作

著者と所属 Jonas Veenstra, Oleksandr Gamayun, Xiaofei Guo, Anahita Sarvi, Chris Ventura Meinersen & Corentin Coulais University of Amsterdam, The Netherlands
詳しい解説 トポロジカルソリトンとは、位相的に安定な非線形の波動のことで、外部場によって駆動されると移動することが知られています。これまでは、ソリトンとアンチソリトン(ソリトンの反粒子)を反対方向に加速させる駆動メカニズムしか知られていませんでした。しかし、この研究では、非相反的な結合を持つ振動子を二安定ポテンシャルの中に置くことで、ソリトンとアンチソリトンを同じ方向に加速させる新しいメカニズムを発見しました。
非相反的な結合とは、AからBへの影響とBからAへの影響が異なるような結合のことで、例えば、シーソーのように作用と反作用が異なる場合が該当します。一方、二安定ポテンシャルとは、ボールが安定して存在できる位置が二つあるようなポテンシャルのことで、二つの山の間にボールを置くと、どちらかの谷底に落ち着くような状況を指します。
この研究では、非相反的な結合を持つ振動子を二安定ポテンシャルの中に配置したアクティブメカニカルメタマテリアルを構築しました。その結果、本来は不安定な非エルミート・スキン波が、非線形性によって頑健な一方向の(アンチ)ソリトンに変換されることがわかりました。このメカニズムを利用して、一方向にのみ情報を伝達したりフィルタリングしたりできる能動的な導波路を作ることにも成功しました。
さらに、超対称性が破れた別のクラスのメタマテリアルでは、アンチソリトンのみが駆動されることも明らかになりました。超対称性とは、ソリトンとアンチソリトンの対称性のことで、これが破れるとソリトンとアンチソリトンが異なる振る舞いをするようになります。
この研究では、非相反性とトポロジカルソリトンの間に微妙な相互作用があることがわかりました。ソリトンが材料を局所的に歪ませることで自分自身の駆動力を生み出しているのです。この非相反的なソリトンは、ロボットの移動のための効率的な駆動メカニズムとして利用できる可能性があります。また、量子力学、光学、ソフトマターなど、様々な分野への応用も期待されます。
例えば、量子力学では、非相反的なソリトンを用いて量子状態を制御したり、量子情報を伝達したりすることができるかもしれません。光学では、非相反的なソリトンを利用した一方向の光伝送や、光のフィルタリングが実現できる可能性があります。また、ソフトマターでは、非相反的なソリトンを用いて、柔らかい材料の変形や流動を制御できるかもしれません。
このように、非相反的なソリトンは、様々な分野で新しい可能性を開く興味深い現象です。この研究は、トポロジカルソリトンの新しい駆動メカニズムを発見しただけでなく、非相反性と非線形性の組み合わせによって、これまでにない新しい現象が生み出されることを示しました。今後、非相反的なソリトンがどのような分野でどのように応用されていくのか、楽しみです。


約7.4万年前のトバ超大噴火時に、アフリカの角地域で人類が適応的な食料獲得行動を示したことを明らかにした画期的な研究

この研究は、約7.4万年前のトバ超大噴火時に、エチオピア北西部の低地にあるシンファ・メテマ1遺跡で人類が示した適応的な食料獲得行動を明らかにしました。季節的に非常に乾燥した環境下で、人類は川沿いで集中的に食料を獲得し、おそらく弓矢を使って陸上や水中の様々な動物を狩猟していました。乾季の水たまりに沿って適応的に食料を獲得することで、季節河川が「青の高速道路」のような回廊になり、アフリカからの分散を促進した可能性があります。この研究は、人類が厳しい環境条件に適応するために必要な行動の柔軟性を持っていたことを示唆しています。

事前情報

  • 現生人類は10万年以上前に複数回アフリカを出たが、非アフリカ人の祖先となった集団は10万年以内に分散した。

  • 多くのモデルでは、これらの移動は湿潤期に形成された緑の回廊を通って起こったとされ、乾燥期は人口移動を制限したとされている。

行ったこと

  • エチオピア北西部の低地にあるシンファ・メテマ1遺跡で、約7.4万年前のトバ超大噴火時の人類の活動痕跡を発見し、分析した。

検証方法

  • 遺跡から出土した化石動物の歯とダチョウの卵殻の安定酸素同位体比を分析し、遺跡が占拠されていた時期の気候条件を推定した。

分かったこと

  • 人類は川沿いで集中的に食料を獲得しており、おそらく弓矢を使って陸上や水中の様々な動物を狩猟していた。

  • 遺跡が占拠されていた時期は季節的に非常に乾燥していた。

  • 乾季の間、川の水たまりが小さくなり浅くなっていく中で、人類は魚を大量に捕獲していた。

この研究の面白く独創的なところ

  • 厳しい気候条件下での人類の適応的な食料獲得行動を、考古学的証拠と安定同位体分析を組み合わせて明らかにした点。

  • 乾季の水たまりに沿った適応的な食料獲得が、季節河川を「青の高速道路」のような回廊に変え、アフリカからの分散を促進した可能性を示唆した点。

この研究のアプリケーション

  • 人類の移動と拡散のメカニズムの理解に貢献する。

  • 過去の気候変動に対する人類の適応戦略の理解に役立つ。

著者と所属
John Kappelman, Lawrence C. Todd, Christopher A. Davis, Thure E. Cerling, Mulugeta Feseha, Abebe Getahun, Racheal Johnsen, Marvin Kay, Gary A. Kocurek, Brett A. Nachman, Agazi Negash, Tewabe Negash, Kaedan O'Brien, Michael Pante, Minghua Ren, Eugene I. Smith, Neil J. Tabor, Dereje Tewabe, Hong Wang, Deming Yang, Solomon Yirga, Jordan W. Crowell, Matthew F. Fanuka, Teshager Habtie, Sierra Yanny

詳しい解説
この研究は、エチオピア北西部の低地にあるシンファ・メテマ1遺跡から、約7.4万年前のトバ超大噴火時の人類の活動痕跡を発見し、分析したものです。トバ超大噴火は、インドネシアのスマトラ島にあるトバ火山で起きた大規模な火山噴火で、地球規模での気候変動をもたらしたと考えられています。
研究チームは、遺跡から出土した化石動物の歯とダチョウの卵殻の安定酸素同位体比を分析することで、当時の気候条件を推定しました。その結果、遺跡が占拠されていた時期は季節的に非常に乾燥していたことがわかりました。
そのような厳しい環境下にもかかわらず、遺跡からは人類が川沿いで集中的に食料を獲得していた証拠が見つかりました。出土した動物の骨は、陸上や水中の様々な動物が含まれており、人類がおそらく弓矢を使って狩猟していたことを示唆しています。特に、乾季の間に川の水たまりが小さくなり浅くなっていく中で、人類が魚を大量に捕獲していたことは注目に値します。
この適応的な食料獲得行動は、人類が厳しい気候条件に柔軟に対応していたことを示しています。さらに、乾季の水たまりに沿って食料を獲得することで、季節河川が「青の高速道路」のような回廊になり、アフリカからの分散を促進した可能性があるとも考えられます。
これらの発見は、従来の「緑の回廊」仮説とは異なり、人類が湿潤期だけでなく乾燥期にも移動していた可能性を示唆しています。また、トバ超大噴火のような短期的な環境変動にも適応できる行動の柔軟性が、人類の世界的な拡大の鍵となった可能性が高いと考えられます。
この研究は、考古学的証拠と安定同位体分析を組み合わせることで、過去の人類の適応戦略に新たな光を当てた画期的な成果といえるでしょう。


大腸がんに特異的に集積するフソバクテリウム・ヌクレアタムの新しい亜種を発見

本研究では、大腸がんに関連する細菌であるフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fn)に着目し、大腸がん患者と健康な人から分離したFn株のゲノム解析を行った。その結果、Fnのアニマリス亜種(Fna)の中に、大腸がんに特異的に集積する新しいクレード(Fna C2)を発見した。Fna C2は、健康な人の口内には存在するが腸内にはほとんど存在せず、大腸がん患者の腸内に多く存在していた。また、マウス実験でFna C2を投与すると腸の腺腫が増加した。本研究は、大腸がんの発症メカニズムの解明や新しい診断・治療法の開発に貢献すると期待される。

事前情報
・フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fn)は、健康な人の口内に存在するが、腸内にはほとんど存在しない細菌である。
・Fnは大腸がん患者の腫瘍内に濃縮されており、高いFn量は再発、転移、予後不良と関連している。
・Fnには株間で遺伝的・表現型的な多様性があり、すべての株が発がん性を持つわけではないと考えられている。

行ったこと
・大腸がん患者51名の腫瘍から55株、健康な人の口内から80株のFnを分離し、それらのゲノムを解読した。
・得られたゲノム情報を用いて、比較ゲノム解析を行った。
・Fnaクレード1(Fna C1)とクレード2(Fna C2)の代表株を用いて、ヒト大腸がん細胞株との共培養実験やマウス実験を行った。

検証方法
・Fnゲノムのパンゲノム解析により、大腸がん特異的な遺伝子群を同定した。
・16S rRNA遺伝子の系統解析により、FnaがC1とC2の2つのクレードに分かれることを明らかにした。
・ヒト大腸がん細胞株HCT116とFna C1またはC2株を共培養し、細胞内侵入率を比較した。
・ApcMin+/-マウスにFna C1またはC2株を経口投与し、腸の腺腫数を比較した。また、腸管の代謝物を質量分析により網羅的に解析した。
・大腸がん患者116名の腫瘍組織と62名の正常組織、および627名の患者と619名の健康な人の糞便メタゲノムデータを用いて、Fna C1とC2の存在比を比較した。

分かったこと
・FnaはC1とC2の2つの異なるクレードに分かれ、C2のみが大腸がんに特異的に集積していた。
・Fna C2はC1よりもヒト大腸がん細胞株への侵入率が高く、マウスの腸管内で腺腫の形成を促進した。
・Fna C2が存在すると、腸管内の代謝物プロファイルが酸化ストレスや炎症、がん細胞の増殖を促進する方向に変化した。
・ヒトの大腸がん組織や糞便中でもFna C2はC1よりも有意に多く存在していた。

この研究の面白く独創的なところ
・健康な人の口内に存在するFnの中から、大腸がんに特異的に集積する新しいクレードを発見した点。
・Fna C1とC2の比較解析により、C2に特徴的な遺伝子群や表現型を明らかにした点。
・マウス実験と代謝物解析により、Fna C2が腸管内の代謝を変化させ、発がんを促進することを示した点。
・ヒトの臨床検体を用いた解析により、Fna C2の大腸がんにおける臨床的意義を裏付けた点。

この研究のアプリケーション
・Fna C2の検出による大腸がんのリスク評価や早期診断への応用。
・Fna C2をターゲットとした大腸がんの予防法や治療法の開発。
・Fna C2が産生する代謝物やそれが誘導する宿主の代謝変化を指標とした大腸がんの診断・モニタリング。
・Fna C2に特徴的な遺伝子や代謝経路を標的とした新しい抗菌薬や抗がん剤の開発。

著者と所属
Martha Zepeda-Rivera, Samuel S. Minot, Heather Bouzek, Hanrui Wu, Aitor Blanco-Míguez, Paolo Manghi, Dakota S. Jones, Kaitlyn D. LaCourse, Ying Wu, Elsa F. McMahon, Soon-Nang Park, Yun K. Lim, Andrew G. Kempchinsky, Amy D. Willis, Sean L. Cotton, Susan C. Yost, Ewa Sicinska, Joong-Ki Kook, Floyd E. Dewhirst, Nicola Segata, Susan Bullman & Christopher D. Johnston

詳しい解説
フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fn)は、健康な人の口内に存在する細菌ですが、健康な人の腸内にはほとんど存在しません。しかし、大腸がんの患者さんの腫瘍内では、Fnが濃縮されていることがわかっています。また、腫瘍内のFn量が多いほど、がんの再発や転移のリスクが高く、予後も悪いことが報告されています。
ただし、Fnにはさまざまな株が存在し、それぞれの株で遺伝的・表現型的な特徴が異なることが知られていました。そのため、すべてのFn株が大腸がんの発症に関与しているわけではなく、特定の株のみががんを引き起こす可能性が考えられていました。
今回の研究では、大腸がん患者の腫瘍から分離したFn株と、健康な人の口内から分離したFn株のゲノムを比較解析しました。その結果、Fnのアニマリス亜種(Fna)の中に、大腸がんに特異的に集積する新しいクレード(グループ)が存在することが明らかになりました。この新しいクレードは「Fna クレード2(Fna C2)」と名付けられ、もう一方のグループは「Fna クレード1(Fna C1)」と名付けられました。
興味深いことに、Fna C1とC2は健康な人の口内には同程度存在していましたが、健康な人の腸内ではほとんど検出されませんでした。一方、大腸がん患者の腫瘍内では、Fna C2が優勢に存在していました。また、ヒトの大腸がん細胞株を用いた実験では、Fna C2株はC1株よりも細胞内に侵入しやすいことがわかりました。
さらに、大腸がんのマウスモデルを用いた実験でも、Fna C2を投与されたマウスは、C1を投与されたマウスよりも腸内の腺腫(がんの前段階の病変)が増加していました。加えて、Fna C2が存在する腸管内では、酸化ストレスや炎症、がん細胞の増殖を促進する代謝物が増加していることも明らかになりました。
これらの結果から、研究チームは、Fna C2が大腸がんの発症や進行に重要な役割を果たしている可能性が高いと結論づけました。実際に、大腸がん患者の腫瘍組織や糞便中でもFna C2はC1よりも有意に多く存在していました。
本研究の成果は、大腸がんの発症メカニズムの解明に大きく貢献すると期待されます。また、Fna C2の検出が大腸がんのリスク評価や早期診断に役立つ可能性があります。さらに、Fna C2をターゲットとした新しい予防法や治療法の開発にもつながるかもしれません。
今後は、Fna C2がどのようにして大腸がんを引き起こすのか、そのメカニズムをより詳細に解明していくことが重要な課題となるでしょう。また、ヒトを対象とした臨床研究により、Fna C2の検出が大腸がんの診断や予後予測に有用かどうかを検証する必要もあります。
本研究は、がんと腸内細菌叢の関係を理解するうえで重要な知見を提供するものです。今回発見されたFna C2は、大腸がんの新しいバイオマーカーや治療標的となる可能性を秘めており、今後の研究の進展が大いに期待されます。



病気に関連するアストロサイトは、エピジェネティックな記憶を通じて中枢神経系の病理を促進する

本研究は、多発性硬化症などの神経疾患の病態に寄与する疾患関連アストロサイトに着目し、これらのアストロサイトがエピジェネティックな記憶を有することを明らかにした。疾患関連アストロサイトは、一度炎症性刺激を受けると、その記憶を長期間保持し、再刺激時に過剰な炎症反応を示した。この記憶アストロサイトの形成には、代謝酵素ACLYとヒストンアセチル化酵素p300が重要な役割を果たしていた。また、多発性硬化症患者の脳内でもACLY+p300+アストロサイトが増加していることが確認された。本研究は、アストロサイトのエピジェネティック記憶が中枢神経系の病理に関与するという新しい概念を提唱するものである。

事前情報
・アストロサイトは中枢神経系の主要なグリア細胞であり、神経細胞の支持や恒常性維持に重要な役割を果たしている。
・多発性硬化症などの神経疾患では、特定のアストロサイト集団が病態に寄与することが報告されている。
・エピジェネティクスは、DNAの塩基配列の変化を伴わずに遺伝子発現を制御する機構であり、細胞の記憶や適応に関与する。

行ったこと
・マウスの多発性硬化症モデル(EAE)を用いて、疾患関連アストロサイトの特性を解析した。
・シングルセルRNA-seq、ATAC-seq、ChIP-seq、FiNS技術を用いて、アストロサイトのエピジェネティック制御機構を調べた。
・in vivoでのCRISPR-Cas9を用いた細胞特異的な遺伝子改変により、記憶アストロサイトの機能を検証した。
・ヒトのアストロサイトを用いて、記憶アストロサイトの炎症性表現型を確認した。
・多発性硬化症患者の脳サンプルを用いて、記憶アストロサイトの存在を検証した。

検証方法
・シングルセルRNA-seqによるアストロサイトの遺伝子発現プロファイリング
・ATAC-seqによるクロマチンアクセシビリティの解析 ・ChIP-seqによるヒストン修飾の解析
・FiNS技術による特定の細胞集団の遺伝子発現解析 ・CRISPR-Cas9を用いたin vivoでの細胞特異的な遺伝子改変
・ヒトのアストロサイト培養系を用いた機能解析
・多発性硬化症患者の脳サンプルを用いた免疫組織化学的解析とシングルセルRNA-seq

分かったこと
・疾患関連アストロサイトは、一度炎症性刺激を受けると、その記憶を長期間保持し、再刺激時に過剰な炎症反応を示す「記憶アストロサイト」の性質を有する。
・記憶アストロサイトの形成には、代謝酵素ACLYとヒストンアセチル化酵素p300が重要な役割を果たしている。ACLYはアセチルCoAを産生し、p300がクロマチンアクセシビリティを制御することで炎症関連遺伝子の発現を調節する。
・ACLY+p300+記憶アストロサイトは、急性および慢性EAEモデルで増加しており、これらの細胞の遺伝的不活性化によりEAEが軽減された。
・ヒトのアストロサイトにおいても記憶アストロサイトの炎症性表現型が確認され、多発性硬化症患者の慢性病変部位ではACLY+p300+アストロサイトが増加していた。

この研究の面白く独創的なところ
・アストロサイトがエピジェネティックな記憶を有し、過去の刺激イベントを統合して炎症反応を増強するという新しい概念を提唱した点。
・代謝酵素ACLYとエピジェネティック制御因子p300の連携により、記憶アストロサイトの形成が制御されることを明らかにした点。
・in vivoでのCRISPR-Cas9を用いた細胞特異的な遺伝子改変により、記憶アストロサイトの機能的重要性を証明した点。
・ヒトの多発性硬化症患者の脳内でも記憶アストロサイトが増加していることを示し、トランスレーショナルな意義を示した点。

この研究のアプリケーション
・記憶アストロサイトをターゲットとした新たな多発性硬化症の治療戦略の開発。
・ACLYやp300の阻害薬を用いた、記憶アストロサイトの形成抑制による神経疾患の治療法の開発。
・記憶アストロサイトの特異的マーカーを用いた、神経疾患の病態評価や診断法の開発。
・記憶アストロサイトの概念を他の神経疾患や炎症性疾患に応用し、病態メカニズムの解明や新規治療法の開発に活用。

著者と所属
Hong-Gyun Lee, Joseph M. Rone, Zhaorong Li, Camilo Faust Akl, Seung Won Shin, Joon-Hyuk Lee, Lucas E. Flausino, Florian Pernin, Chun-Cheih Chao, Kilian L. Kleemann, Lena Srun, Tomer Illouz, Federico Giovannoni, Marc Charabati, Liliana M. Sanmarco, Jessica E. Kenison, Gavin Piester, Stephanie E. J. Zandee, Jack P. Antel, Veit Rothhammer, Michael A. Wheeler, Alexandre Prat, Iain C. Clark & Francisco J. Quintana

詳しい解説
本研究は、多発性硬化症などの神経疾患の病態に関与する疾患関連アストロサイトに着目し、これらの細胞がエピジェネティックな記憶を有することを明らかにしました。エピジェネティクスとは、DNAの塩基配列の変化を伴わずに遺伝子発現を制御する機構のことで、細胞の記憶や適応に重要な役割を果たしています。
研究チームは、マウスの多発性硬化症モデル(EAE)を用いて、疾患関連アストロサイトの特性を詳細に解析しました。その結果、これらのアストロサイトは、一度炎症性の刺激を受けると、その記憶を長期間保持し、再び同じ刺激を受けた時に過剰な炎症反応を引き起こすことがわかりました。つまり、疾患関連アストロサイトは、炎症の記憶を持つ「記憶アストロサイト」とも呼ぶべき性質を持っていたのです。
さらに、記憶アストロサイトの形成には、代謝酵素であるATP-citrate lyase(ACLY)とヒストンアセチル化酵素であるp300が重要な役割を果たしていることが明らかになりました。ACLYは、アセチルCoAを産生する酵素で、p300はアセチルCoAを用いてヒストンをアセチル化し、クロマチンのアクセシビリティを制御することで炎症関連遺伝子の発現を調節していました。
研究チームは、マウスのEAEモデルにおいて、ACLY+p300+記憶アストロサイトが急性期および慢性期で増加していることを見出しました。さらに、これらの細胞を遺伝的に不活性化すると、EAEの症状が軽減されることも確認されました。これらの結果は、記憶アストロサイトがEAEの病態形成に重要な役割を果たしていることを示唆しています。
興味深いことに、ヒトの培養アストロサイトにおいても、記憶アストロサイトの炎症性表現型が確認されました。また、多発性硬化症患者の脳サンプルを解析したところ、慢性病変部位ではACLY+p300+アストロサイトが増加していることが明らかになりました。これらの結果は、記憶アストロサイトが多発性硬化症の病態にも関与している可能性を示唆しています。
本研究は、アストロサイトのエピジェネティックな記憶が、中枢神経系の病理に重要な役割を果たすという新しい概念を提唱するものです。今後、記憶アストロサイトをターゲットとした新たな治療戦略の開発が期待されます。例えば、ACLYやp300の阻害薬を用いて記憶アストロサイトの形成を抑制することで、多発性硬化症をはじめとする神経疾患の治療に役立つ可能性があります。
また、記憶アストロサイトの特異的マーカーを同定することで、神経疾患の病態評価や診断にも応用できるかもしれません。さらに、記憶アストロサイトの概念を他の神経疾患や炎症性疾患に応用することで、病態メカニズムの解明や新規治療法の開発にも貢献すると期待されます。
本研究は、アストロサイトの新たな役割を明らかにし、神経疾患の病態理解と治療法開発に重要な知見を提供するものです。アストロサイトのエピジェネティック制御機構のさらなる解明が、中枢神経系の健康維持と疾患克服に役立つことが期待されます。



運動ニューロンは、固有感覚フィードバックを介して姿勢を調整し、標的姿勢に向けた動きを生成する

https://www.nature.com/articles/s41586-024-04645-z

本研究では、ショウジョウバエの頭部運動を制御する個々の運動ニューロンの役割を解明した。一つの運動ニューロンの活性化は、頭部の開始姿勢に応じて頭部を異なる方向に回転させ、最終的に運動ニューロンの種類によって決まる特定の姿勢に収束させることがわかった。この収束行動は、運動ニューロンの駆動と固有感覚フィードバックの相互作用によって生じると予測され、単一の固有感覚ニューロンの遺伝的抑制がこの収束を変化させることが確認された。これらの結果は、脳が継続的な固有感覚-運動ループにバイアスを加えることで動きを制御していることを示唆している。

事前情報
・運動ニューロンは、脳が体の動きを制御するための最終共通経路である。
・運動ニューロンは、すべての動作の基本的な要素を形成する。
・単一の運動ニューロンが自然な動作の制御にどのように貢献しているかは不明である。

行ったこと
・ショウジョウバエの頭部運動を制御する個々の運動ニューロンの解剖学的、機能的特徴づけを行った。
・単一の運動ニューロンの活性化が頭部の回転方向に与える影響を調べた。
・運動ニューロンの駆動と固有感覚フィードバックの相互作用をフィードバックモデルで予測した。
・単一の固有感覚ニューロンを特定し、遺伝的に抑制してその影響を調べた。

検証方法
・個々の運動ニューロンの解剖学的、機能的特徴づけ
・単一の運動ニューロンの活性化実験
・フィードバックモデルによる予測
・単一の固有感覚ニューロンの遺伝的抑制実験

分かったこと
・単一の運動ニューロンの活性化は、頭部の開始姿勢に応じて頭部を異なる方向に回転させる。
・頭部は、刺激を受けた運動ニューロンの種類によって決まる特定の姿勢に収束する。
・この収束行動は、運動ニューロンの駆動と固有感覚フィードバックの相互作用によって生じると予測される。
・単一の固有感覚ニューロンの遺伝的抑制は、フィードバックモデルの予測通りに運動ニューロンによる収束を変化させる。

この研究の面白く独創的なところ
・単一の運動ニューロンの活性化が、頭部の開始姿勢に応じて異なる方向の回転を引き起こすという counterintuitive な発見。
・運動ニューロンの駆動と固有感覚フィードバックの相互作用による収束行動の予測とその実験的検証。
・脳が固定された運動ニューロンの集合を活性化するのではなく、固有感覚-運動ループにバイアスを加えることで動きを制御しているという新しい枠組みの提案。

この研究のアプリケーション
・脳による複雑な動作の制御メカニズムの理解に貢献。
・運動制御の基礎研究に新しい視点を提供。
・リハビリテーションや運動障害の治療法開発への応用の可能性。
・ロボット工学における運動制御システムの設計への応用。

著者と所属
Benjamin Gorko, Igor Siwanowicz, Kari Close, Christina Christoforou, Karen L. Hibbard, Mayank Kabra, Allen Lee, Jin-Yong Park, Si Ying Li, Alex B. Chen, Shigehiro Namiki, Chenghao Chen, John C. Tuthill, Davi D. Bock, Hervé Rouault, Kristin Branson, Gudrun Ihrke & Stephen J. Huston

詳しい解説
この研究は、ショウジョウバエの頭部運動を制御する個々の運動ニューロンの役割を解明し、脳が動きを制御する新しい枠組みを提案しています。
まず、研究チームは、ショウジョウバエの頭部運動を制御する運動ニューロンを一つ一つ解剖学的、機能的に特徴づけました。そして、驚くべき発見がありました。一つの運動ニューロンを活性化すると、頭部の開始姿勢によって頭部が異なる方向に回転するのです。つまり、頭部は刺激を受けた運動ニューロンの種類によって決まる特定の姿勢に向かって収束するということがわかったのです。
この一見直感に反する収束行動は、運動ニューロンの駆動と固有感覚フィードバックの相互作用によって生じると、フィードバックモデルは予測しました。固有感覚とは、体の位置や動きを感知する感覚のことです。研究チームは、このモデルの予測を検証するため、単一の固有感覚ニューロンを特定し、遺伝的に抑制しました。すると、運動ニューロンによる収束が変化したのです。これは、フィードバックモデルの予測と一致する結果でした。
これらの発見は、脳が動きを制御する方法について新しい考え方を示唆しています。従来は、脳が特定の方向への動きを直接生成するために、固定された運動ニューロンの集合を活性化すると考えられていました。しかし、この研究では、脳は継続的な固有感覚-運動ループにバイアスを加えることで動きを制御しているという新しい枠組みが提案されました。
つまり、脳は運動ニューロンを直接制御するのではなく、固有感覚フィードバックを介して間接的に制御しているというのです。この制御方式は、状況に応じて柔軟に動作を調整できる優れた方法だと考えられます。
本研究の成果は、脳による複雑な動作の制御メカニズムを理解する上で重要な手がかりとなります。また、運動制御の基礎研究に新しい視点を提供するだけでなく、将来的にはリハビリテーションや運動障害の治療法開発など、医療分野への応用も期待されます。さらに、ロボット工学における運動制御システムの設計にも応用できる可能性があります。
ショウジョウバエの小さな頭の動きから、私たちの体の動きを司る脳の仕組みが明らかになろうとしています。この研究は、脳科学と運動制御研究に新しい地平を開くものであり、今後のさらなる発展が期待されます。



最後に
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