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論文まとめ289回目 Nature 地球温暖化による極地の氷の融解が、地球の自転速度に影響を与える!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Copper-catalyzed dehydrogenation or lactonization of C(sp3)−H bonds C(sp3)-H結合の銅触媒脱水素化またはラクトン化反応
「この研究は、生体内で働く酵素の一種であるシトクロムP450が行う反応を、金属触媒を用いて人工的に再現しようとするものです。シトクロムP450は、脂肪酸などの分子内のC-H結合を選択的に酸化する反応を触媒しますが、その際、ヒドロキシル化(水酸基の付加)と脱水素化(水素の引き抜き)という2つの経路が競合しています。この研究では、銅触媒を用いることで、アミド基を持つ基質から遠く離れたC-H結合を選択的に変換する反応の開発に成功しました。反応条件を変えることで、脱水素化とラクトン化(環状エステルの生成)を切り替えることもできます。さらに、基質自身が酸化剤としても働くため、触媒量の銅を用いるだけで反応が進行し、副生成物としてメタノールのみが生じる、非常に効率的で環境にやさしい反応系の構築に成功しました。この反応は、医薬品や天然物を含む様々な脂肪酸誘導体に適用可能であり、酸化に敏感な官能基を持つ基質にも適用できる点で優れています。」

A global timekeeping problem postponed by global warming
地球温暖化によって先延ばしされた世界の時間管理問題
「地球の自転速度は一定ではなく、少しずつ変化しています。そのため、世界標準時(UTC)を地球の自転に合わせるために、時々「うるう秒」を追加しています。しかし、近年のグリーンランドと南極の氷の融解が、地球の自転速度に予想以上の影響を与えていることが明らかになりました。衛星で測定された重力データを分析したところ、氷の融解によって地球の角速度が減少していることがわかったのです。この影響を除いて分析すると、地球の液体コアの角速度が一定の割合で減少し、地球の残りの部分の角速度が増加していることが明らかになりました。この傾向を将来に外挿すると、2029年までにUTCに負の調整が必要になると予測されます。これはコンピュータネットワークのタイミングに前例のない問題を引き起こし、UTCの変更を予定よりも早く行う必要があるかもしれません。興味深いことに、極地の氷の融解が最近加速していなければ、この問題は3年早く発生していたことになります。つまり、地球温暖化はすでに世界の時間管理に影響を与えているのです。」

CGRP sensory neurons promote tissue healing via neutrophils and macrophages
CGRP感覚神経は好中球とマクロファージを介して組織修復を促進する
「CGRPという神経ペプチドを分泌する感覚神経は、皮膚や筋肉の損傷後に損傷部位に伸長し、好中球やマクロファージなどの免疫細胞に作用します。CGRPは免疫細胞上のRAMP1受容体を介して、好中球の動員を抑制し、アポトーシスを促進し、マクロファージによる貪食を亢進させ、マクロファージを組織修復に有利なM2型に分化させます。これらの効果は、CGRPによって誘導されるTSP-1の発現を介して起こります。感覚神経を欠損したマウスや糖尿病マウスでは組織修復が遅延しますが、CGRP投与によって回復が促進されました。本研究は、感覚神経と免疫系のクロストークが組織修復に重要な役割を果たすことを示しており、末梢神経障害を伴う難治性創傷の新たな治療戦略につながる可能性があります。」

Formation of memory assemblies through the DNA-sensing TLR9 pathway
DNA感知TLR9経路を介した記憶アセンブリの形成
「リソソームは細胞内の分解工場ですが、その形と機能を維持するために分裂と融合を繰り返しています。この研究では、HPO-27というタンパク質がリソソームの分裂に重要な役割を果たしていることを発見しました。HPO-27が働かないと、リソソームが異常に伸びて最終的に崩壊してしまうのです。」

The HEAT repeat protein HPO-27 is a lysosome fission factor
HPO-27というHEATリピートタンパク質はリソソーム分裂因子である
「トポロジーと電子相関の融合は、新しい量子物質状態を探求する上で非常に魅力的な領域です。量子スピンホール(QSH)絶縁体に電子相関を導入すると、分数トポロジカル絶縁体やその他のエキゾチックな時間反転対称トポロジカル秩序が出現する可能性があります。これは量子ホール系やチャーン絶縁体系では実現不可能なものです。
今回、TaIrTe4の本質的な単層結晶内で、単一粒子トポロジーと密度調整された電子相関の相互作用から生じる新しい二重QSH絶縁体が報告されました。電荷中性点では、TaIrTe4単層はQSH絶縁体を示し、非局所輸送の増強とヘリカルエッジ伝導の量子化が現れます。電荷中性点から電子を導入した後、TaIrTe4は電荷密度のごく狭い範囲でのみ金属的な振る舞いを示しますが、すぐに新しい絶縁状態に移行します。これは、TaIrTe4の単一粒子バンド構造からは全く予期されないものです。
この絶縁状態は、ファンホーブ特異点近傍での強い電子的不安定性から生じている可能性があり、おそらく電荷密度波(CDW)につながります。驚くべきことに、このCDWギャップ内でQSH状態の再出現が観測されました。CDWギャップ内でのヘリカルエッジ伝導の観測は、スピン物理学と電荷秩序を橋渡しする可能性があります。
二重QSH絶縁体の発見は、CDW超格子を介してトポロジカルフラットミニバンドを作成するための新しい方法を導入し、時間反転対称分数量子相と電磁気を探索するための有望なプラットフォームを提供します。この研究は、トポロジカル物質と強相関電子系の融合によって、新しい量子物質相を探索する上で重要な一歩となるでしょう。」

Five million years of Antarctic Circumpolar Current strength variability
南極周極流の強さの変動の500万年
「南極周極流は世界最大の海流で、地球の気候や南極の氷床に大きな影響を与えています。この研究では、南極周極流の強さが過去530万年の間にどのように変化したのかを、太平洋の海底堆積物から明らかにしました。その結果、全体的な傾向はなく、むしろ100万年スケールで強弱が反転していたことがわかりました。この変動は、地球の公転軌道の変化に伴う気候変動と関連していると考えられます。将来の地球温暖化によって、南極周極流がさらに強まる可能性が示唆されました。」

Optomechanical realization of the bosonic Kitaev chain
ボソン版キタエフチェーンの光機械的実現
「ナノスケールの光機械ネットワークを使って、ボソン版キタエフチェーンという新しい物質相を実現しました。キタエフチェーンはトポロジカルな性質を持ち、エキゾチックな物理現象を示します。この研究では、ボソン版特有の動力学や輸送現象を観測し、非エルミート性とトポロジーが生み出す新しい物理を明らかにしました。この成果は、信号処理やセンシングへの応用が期待され、量子物理学の新しい扉を開くものです。」


要約

銅触媒を用いた新しいC-H結合の変換反応の開発

銅触媒を用いて、アミド基を持つ脂肪酸誘導体の遠位C-H結合を選択的に脱水素化またはラクトン化する新しい反応を開発した。

事前情報

シトクロムP450は、脂肪酸の脂肪族C-H結合の酸化を触媒し、ヒドロキシル化と脱水素化の2つの経路が競合する。
遠位C-H結合の選択的な官能基化は合成化学的に重要な課題である。

行ったこと

N-メトキシアミドを基質とし、銅触媒を用いてγ位脂肪族C-H結合からのラジカル的な脱水素化およびラクトン化反応を開発した。
反応条件を変えることで、脱水素化とラクトン化を切り替えることができる。
基質自身が酸化剤としても働くため、触媒量の銅を用いるだけで反応が進行し、副生成物としてメタノールのみが生じる。

検証方法

各種N-メトキシアミド基質を合成し、様々な反応条件下で銅触媒反応を行った。
生成物の構造を各種機器分析により同定した。

分かったこと

銅触媒を用いることで、N-メトキシアミドのγ位C-H結合から選択的にラジカルを発生させ、脱水素化またはラクトン化反応を行うことができる。反応条件を適切に選ぶことで、脱水素化とラクトン化を制御できる。アミド基質が酸化剤としても働くため、触媒量の銅で反応が進行し、メタノール以外の副生成物を与えない効率的な反応系である。本反応は、医薬品や天然物を含む様々な脂肪酸誘導体に適用可能であり、酸化に敏感な官能基を持つ基質にも適用できる。

この研究の面白く独創的なところ

生体内酵素の反応を金属触媒で再現するという発想が独創的である。
アミド基質を酸化剤としても利用する点が効率的で環境調和性に優れている。
反応条件の制御により、脱水素化とラクトン化を切り替えられる点が興味深い。

この研究のアプリケーション

本反応は、医薬品や天然物の合成に利用できる可能性がある。
酸化に敏感な官能基を持つ化合物の選択的変換に応用できる。

著者と所属
Shupeng Zhou, Zi-Jun Zhang, Jin-Quan Yu

詳しい解説
この研究は、生体内で重要な役割を果たすシトクロムP450酵素に着目し、その特徴的な反応を金属触媒で再現しようとするものです。シトクロムP450は、脂肪酸などの分子内の特定のC-H結合を酸化する反応を触媒しますが、その際、水酸基が付加されるヒドロキシル化と、水素が引き抜かれる脱水素化の2つの反応経路が競合します。この酵素の働きを参考に、Zhou らは、アミド基を持つ脂肪酸誘導体を基質として、その遠位にあるC-H結合を選択的に変換する銅触媒反応の開発に取り組みました。
彼らは、N-メトキシアミドを基質として用い、触媒量の銅錯体存在下、ラジカル的な機構でγ位のC-H結合から水素を引き抜き、脱水素化またはラクトン化(環状エステル形成)を行うことに成功しました。興味深いことに、反応条件を適切に選ぶことで、脱水素化とラクトン化を切り替えられることも見出しています。
さらに、この反応系の大きな特長は、基質であるアミドが酸化剤としても働くことです。つまり、触媒量の銅錯体のみで反応が進行し、副生成物としてメタノールのみが生じる、非常に効率的で環境調和性の高い反応系の構築に成功したと言えます。
この反応の基質適用性は広く、医薬品や天然物を含む様々な脂肪酸誘導体に適用可能であることが示されました。また、酸化に敏感な官能基を持つ基質にも適用できる点は、本反応系の優れた特長の一つです。
本研究は、生体内酵素の反応を金属触媒で再現するという独創的な発想に基づいており、基質自身を酸化剤として利用する効率的で環境調和性の高い反応系の開発に成功した点で、有機合成化学における重要な進展であると言えます。今後、医薬品や天然物の合成への応用が期待される他、酸化に敏感な化合物の選択的変換法の開発にも貢献すると期待されます。


地球温暖化による極地の氷の融解が、地球の自転速度に影響を与え、世界標準時の調整に問題を引き起こす可能性

地球温暖化による極地の氷の融解が地球の自転速度に影響を与え、世界標準時(UTC)の調整に問題を引き起こす可能性があることが明らかになった。

事前情報
世界標準時(UTC)は地球の自転に密接に関連している。
地球の自転速度は一定ではないため、UTCには不連続性(うるう秒)が含まれている。
1972年以降、すべてのUTCの不連続性ではうるう秒を追加する必要があった。

行ったこと
衛星重力データを用いて、グリーンランドと南極の氷の融解が地球の角速度に与える影響を測定した。
観測された角速度からこの影響を取り除き、地球の液体コアと残りの部分の角速度の変化を分析した。
コアとその他の関連現象の傾向を外挿して、将来の地球の方向を予測した。

検証方法

衛星重力データの分析
地球の角速度の観測データの分析
コアとその他の関連現象の傾向の外挿

分かったこと

グリーンランドと南極の氷の融解が、以前よりも急速に地球の角速度を減少させている。
1972年以降、地球の液体コアの角速度が一定の割合で減少し、地球の残りの部分の角速度が着実に増加している。
現在の定義のままでは、2029年までにUTCに負の不連続性が必要になる。
極地の氷の融解が最近加速していなければ、この問題は3年早く発生していた。

この研究の面白く独創的なところ

地球温暖化が世界の時間管理に影響を与えるという予想外の結果を示している。
衛星重力データを用いて、地球の自転速度に対する極地の氷の融解の影響を定量化している。

この研究のアプリケーション

コンピュータネットワークのタイミングに対する影響の理解と対策
UTCの将来の定義と調整方法の検討

著者と所属
Duncan Carr Agnew

詳しい解説
この研究は、地球温暖化による極地の氷の融解が、地球の自転速度に予想以上の影響を与えていることを明らかにしました。地球の自転は一定ではなく、わずかに変動するため、世界標準時(UTC)を地球の自転に合わせるために、時々「うるう秒」を追加する必要があります。1972年以降、すべてのUTCの調整ではうるう秒を追加してきました。
しかし、衛星で測定された重力データを分析したところ、近年のグリーンランドと南極の氷の融解が地球の角速度を以前よりも急速に減少させていることがわかりました。この影響を観測データから取り除いて分析すると、1972年以降、地球の液体コアの角速度が一定の割合で減少し、地球の残りの部分の角速度が着実に増加していることが明らかになりました。
この傾向を将来に外挿すると、2029年までに現在の定義のままではUTCに負の調整が必要になると予測されます。これはコンピュータネットワークのタイミングに前例のない問題を引き起こし、UTCの変更を予定よりも早く行う必要があるかもしれません。
興味深いことに、極地の氷の融解が最近加速していなければ、この問題は3年早く発生していたことになります。つまり、地球温暖化はすでに世界の時間管理に影響を与えているのです。
この研究は、地球温暖化が予想外の形で世界の時間管理に影響を与えるという面白い結果を示しており、衛星重力データを用いて極地の氷の融解の影響を定量化するという独創的な手法を用いています。この結果は、コンピュータネットワークのタイミングに対する影響の理解と対策、およびUTCの将来の定義と調整方法の検討に役立つと期待されます。


感覚神経が免疫系を介して組織修復を促進することを明らかに

CGRPを分泌する感覚神経が免疫細胞を介して組織修復を促進することを明らかにした。

事前情報
組織の修復や再生における免疫系の重要性が知られている一方で、感覚神経の役割については不明な点が多かった。

行ったこと
感覚神経を欠損したマウスや感覚神経由来のCGRPシグナルを遮断したマウスを用いて、皮膚および筋肉の損傷モデルにおける組織修復を評価した。また、CGRPが免疫細胞に与える影響を解析した。

検証方法
組織学的解析、フローサイトメトリー、RNA-seq、細胞培養実験、siRNAを用いた遺伝子発現抑制実験など。

分かったこと
CGRP感覚神経は損傷部位に伸長し、CGRPを分泌して好中球やマクロファージの機能を制御することで組織修復を促進する。CGRPは好中球の浸潤を抑制し、アポトーシスを誘導するとともに、マクロファージによる貪食を亢進させ、M2型への分化を促進する。これらの効果はTSP-1の発現誘導を介している。

この研究の面白く独創的なところ
感覚神経と免疫系のクロストークによる組織修復メカニズムを多角的に解明した点。末梢神経障害を伴う難治性創傷の新たな治療戦略につながる可能性を示した点。

この研究のアプリケーション
感覚神経機能不全を伴う難治性創傷に対するCGRP補充療法の開発。再生医療における感覚神経-免疫系クロストークの活用。

著者と所属
Yen-Zhen Lu, Bhavana Nayer, Shailendra Kumar Singh, Yasmin K. Alshoubaki, Elle Yuan, Anthony J. Park, Kenta Maruyama, Shizuo Akira & Mikaël M. Martino 所属: Monash University, 他

更に詳しく
本研究は、組織の損傷後に感覚神経から分泌されるCGRPというタンパク質が、免疫細胞である好中球やマクロファージの働きを調節することで、皮膚や筋肉の修復を促進するメカニズムを明らかにしました。CGRPは好中球の浸潤を抑え、細胞死を誘導する一方、マクロファージによる死んだ細胞の除去を促進し、組織修復に有利なタイプへの分化を促します。これらの効果は、CGRPによって誘導されるTSP-1というタンパク質を介して起こることも分かりました。感覚神経を欠損したマウスや糖尿病マウスでは組織修復が遅れますが、CGRPを投与することで回復が早まったことから、末梢神経障害を伴う難治性の創傷に対する新たな治療法の開発につながる可能性があります。本研究は、感覚神経と免疫系の巧みな連携が組織の修復に重要な役割を果たすことを示した意義深い成果です。


記憶形成における炎症シグナル伝達の重要性が明らかに


この研究は、マウスの海馬CA1領域の興奮性ニューロンの一部で、学習後にDNA損傷と炎症性の変化が起こり、TLR9シグナル伝達を介して記憶回路に組み込まれることを明らかにしました。TLR9の機能不全は、ゲノムの不安定性や認知機能障害につながることが示唆されました。

事前情報

記憶は、海馬や大脳皮質の神経回路におけるニューロンアセンブリに表現される。
ニューロンは、記憶に関連する活動の際にエネルギー集約的な分子適応を受け、時にDNA損傷を引き起こす。

行ったこと

マウスの海馬CA1領域のニューロンにおけるDNA損傷、核膜の破裂、ヒストンとDNA断片の核周辺への放出を調べた。
TLR9シグナル伝達の活性化と中心体におけるDNA損傷修復複合体の蓄積を調べた。
Tlr9のニューロン特異的なノックダウンが記憶と遺伝子発現に与える影響を調べた。
TLR9の中心体機能への関与を調べた。

検証方法

免疫組織化学による海馬CA1ニューロンのDNA損傷、核膜の破裂、TLR9の局在の可視化
RNA-seqによる海馬の遺伝子発現プロファイルの解析
Tlr9fl/flマウスへのアデノ随伴ウイルスを用いたTlr9のニューロン特異的ノックダウン
行動実験による記憶の評価
単一核RNA-seq解析によるニューロン集団の遺伝子発現変化の解析

分かったこと

学習後、海馬CA1の興奮性ニューロンの一部で持続的なDNA損傷、核膜の破裂、ヒストンとDNA断片の核周辺への放出が起こる。
これらのニューロンは炎症性の表現型を獲得し、TLR9シグナルの活性化と中心体におけるDNA損傷修復複合体の蓄積が見られる。
Tlr9のノックダウンは記憶を損ない、特定のCA1ニューロンクラスターでの遺伝子発現変化を鈍化させる。
TLR9は中心体機能、DNA損傷修復、繊毛形成、ニューロン周囲ネットの構築に重要な役割を果たす。
DNA損傷を受けてTLR9を介した修復を行うニューロンクラスターが記憶回路に組み込まれる。
TLR9機能の低下は、ゲノムの不安定性や認知機能障害につながる。

この研究の面白く独創的なところ
この研究は、記憶形成におけるDNA損傷と炎症シグナル伝達の役割を明らかにした点で独創的です。特に、学習後のニューロンにおけるDNA損傷と核膜の破裂、TLR9シグナルの活性化と中心体におけるDNA損傷修復複合体の蓄積という一連のイベントを発見したことは、記憶形成の新しいメカニズムを示唆しています。また、TLR9が中心体機能を介して記憶に関与することを示したことも興味深い発見です。

この研究のアプリケーション
この研究は、TLR9炎症シグナル伝達の完全性を維持することが、加速された老化、精神疾患、神経変性疾患に関連する神経認知障害の予防につながる可能性を示唆しています。したがって、TLR9を標的とした治療戦略が、これらの疾患の予防や治療に役立つかもしれません。また、記憶形成における炎症シグナル伝達の役割を理解することは、記憶のメカニズムを解明し、記憶障害の治療法を開発するための基盤となるでしょう。

著者と所属 Vladimir Jovasevic, Elizabeth M. Wood, Ana Cicvaric, Hui Zhang, Zorica Petrovic, Anna Carboncino, Kendra K. Parker, Thomas E. Bassett, Maria Moltesen, Naoki Yamawaki, Hande Login, Joanna Kalucka, Farahnaz Sananbenesi, Xusheng Zhang, Andre Fischer & Jelena Radulovic 所属: Northwestern University, Aarhus University, Albert Einstein College of Medicine

詳しい解説
この研究は、マウスの海馬CA1領域の興奮性ニューロンに着目し、学習後のDNA損傷と炎症性の変化が記憶形成に重要な役割を果たすことを明らかにしました。
まず、学習後のニューロンでは、DNA二本鎖切断、核膜の破裂、ヒストンとDNA断片の核周辺への放出が起こることが観察されました。これらのイベントの後、一部のニューロンではTLR9シグナル伝達の活性化と中心体におけるDNA損傷修復複合体の蓄積を伴う炎症性の表現型を獲得しました。
次に、Tlr9のニューロン特異的なノックダウンを行ったところ、記憶が損なわれ、文脈的恐怖条件付けによって誘導される遺伝子発現の変化が特定のCA1ニューロンクラスターで鈍化することが分かりました。また、TLR9は中心体機能、DNA損傷修復、繊毛形成、ニューロン周囲ネットの構築に不可欠な役割を果たしていることが示されました。
これらの結果から、DNA損傷を受けてTLR9を介した修復を行うニューロンクラスターにおける一連の学習誘導性の分子イベントが、それらのニューロンの記憶回路へのリクルートにつながることが示唆されました。一方で、TLR9機能が損なわれると、このような記憶メカニズムがゲノムの不安定性や認知機能障害の入り口となり、加速された老化、精神疾患、神経変性疾患に関与することが考えられます。
したがって、この研究は、TLR9炎症シグナル伝達の完全性を維持することが、神経認知障害の有望な予防戦略として浮上することを示しています。記憶形成における炎症シグナル伝達の役割を理解することは、記憶のメカニズムを解明し、記憶障害の治療法を開発するための重要な基盤となるでしょう。


リソソームの分裂を制御するタンパク質HPO-27の発見

この研究は、線虫とヒトの細胞において、HPO-27とそのヒトホモログであるMROH1というタンパク質がリソソームの分裂に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。HPO-27/MROH1はRAB-7によってリソソームに集積し、自己集合によってリソソーム管状構造の収縮と切断を引き起こします。HPO-27の欠損は、リソソームの形態、機能、分解活性に影響を与え、動物の発生と寿命を損なうことが示されました。

事前情報
リソソームは細胞内の分解・シグナル中枢であり、恒常性、発生、老化に重要である。リソソームは融合と分裂を繰り返すことで形態と機能をリモデリングしているが、分裂の分子基盤についてはほとんど分かっていない。

行ったこと
線虫において、HPO-27というHEATリピートタンパク質がリソソーム分裂因子として同定された。HPO-27とそのヒトホモログであるMROH1は、RAB-7によってリソソームに集積し、分裂部位に濃縮することが示された。超解像イメージング、ネガティブ染色電子顕微鏡、in vitro再構成アッセイにより、HPO-27とMROH1は自己集合し、それぞれ線虫と哺乳類細胞におけるリソソーム管状構造の収縮と切断を媒介し、in vitroで支持された膜チューブを切断することが明らかになった。

検証方法
線虫とヒト細胞を用いて、HPO-27/MROH1の局在と機能を蛍光顕微鏡、電子顕微鏡、生化学的手法により解析した。また、精製したHPO-27/MROH1タンパク質を用いて、in vitroでの膜チューブ切断活性を検証した。

分かったこと
HPO-27/MROH1は、リソソームの分裂に必須のタンパク質であり、その欠損はリソソームの形態と機能に大きな影響を与える。HPO-27/MROH1は、RAB-7依存的にリソソームに集積し、自己集合によってリソソーム管状構造の収縮と切断を引き起こす。この機能は、動物の発生と寿命維持に重要である。

この研究の面白く独創的なところ
リソソーム分裂の分子メカニズムが初めて明らかにされた点が画期的である。HPO-27/MROH1が自己集合によってリソソーム管状構造を物理的に切断するという新しいコンセプトは、他のオルガネラ分裂メカニズムとは異なる独創的な発見である。また、線虫からヒトまで保存された機能を明らかにした点も興味深い。

この研究のアプリケーション
リソソーム機能の異常は、様々な疾患の原因となる。HPO-27/MROH1の機能解明は、リソソーム関連疾患の理解と治療法開発に貢献すると期待される。また、リソソーム分裂の制御は、細胞老化や寿命制御にも関わる可能性があり、応用範囲は広い。

著者と所属
Letao Li, Xilu Liu, Shanshan Yang, Meijiao Li, Yanwei Wu, Siqi Hu, Wenjuan Wang, Amin Jiang, Qianqian Zhang, Junbing Zhang, Xiaoli Ma, Junyan Hu, Qiaohong Zhao, Yubing Liu, Dong Li, Junjie Hu, Chonglin Yang, Wei Feng & Xiaochen Wang

詳しい解説
リソソームは細胞内の分解工場であり、様々な物質を分解して再利用するために重要な役割を果たしています。しかし、リソソームの形と機能を維持するためには、分裂と融合のバランスが適切に保たれる必要があります。この研究では、線虫とヒトの細胞を用いて、HPO-27とそのヒトホモログであるMROH1というタンパク質が、リソソームの分裂に必須の役割を果たしていることを明らかにしました。
HPO-27/MROH1は、リソソーム膜上のRAB-7というタンパク質によって認識され、リソソームに集積します。そして、HPO-27/MROH1は自己集合することで、リソソームが管状に伸長した部分を物理的に収縮・切断し、分裂を引き起こします。この機能は、線虫からヒトまで進化的に保存されていました。
HPO-27/MROH1の欠損は、リソソームの過剰な伸長と最終的な崩壊を引き起こし、リソソームの形態と機能に大きな影響を与えました。線虫では、HPO-27の欠損が発生異常と寿命短縮を引き起こすことも分かりました。
この研究は、リソソーム分裂の分子メカニズムを初めて明らかにした画期的な発見です。HPO-27/MROH1による自己集合を介したリソソーム管状構造の切断という新しいコンセプトは、他のオルガネラ分裂メカニズムとは異なる独創的な発見であり、リソソーム生物学に新しい視点をもたらしました。また、リソソーム機能の異常は様々な疾患の原因となるため、HPO-27/MROH1の機能解明は、リソソーム関連疾患の理解と治療法開発にも貢献すると期待されます。


過去530万年間の南極周極流の変動が明らかに

この研究は、過去530万年間の南極周極流の強さの変動を、南太平洋の海底堆積物コアから復元しました。その結果、南極周極流の強さには長期的な傾向はなく、むしろ100万年スケールで強弱が反転していたことが明らかになりました。この変動は、地球の公転軌道の変化に伴う気候変動、特に40万年周期の地球の離心率の変化と関連していると考えられます。また、南極周極流の強さは、南極の氷床の拡大・縮小とも関連していました。将来の地球温暖化によって、南極周極流がさらに強まる可能性が示唆されました。

事前情報
南極周極流は、南極大陸を取り巻く世界最大の海流系である。南極周極流は、全球の海洋循環や気候、南極の氷床の安定性に影響を及ぼす。現在、南極周極流のダイナミクスは、大気の強制力、海洋の密度勾配、渦活動によって制御されている。更新世の氷期—間氷期サイクルにおける南極周極流の位置と強さの復元には地域的な不均一性が見られるが、南極周極流の長期的な進化についてはよくわかっていない。

行ったこと
南太平洋の堆積物コアから、過去530万年間の南極周極流の強さの変化を記録した。全球的な寒冷化や氷床量の増加とは対照的に、南極周極流の流れには長期的な線形トレンドは見られなかった。むしろ、鮮新世の全球的寒冷化の間は南極周極流が強まり、その後の前期更新世の寒冷化では逆に弱まるという、100万年スケールでの反転が観察された。この南極周極流のレジームのシフトは、大気と海洋の強制力に対する南極周極流の感度を変化させた南大洋の再配置と一致した。南極周極流の強さの変化は、熱帯太平洋の温度変動に関連した南太平洋ジェット気流の歳差変化の変調に由来する、40万年の離心率サイクルと密接に関連していることがわかった。

検証方法
主に国際深海掘削計画383次研究航海で採取された2つの堆積物コア(IODP Site U1540とSite U1541)を用いて、過去530万年間の南極周極流の強さの変化を復元した。これらのサイトは、亜南極前線の北側の亜南極周極流の流路下にある。さらに、代表性を検証するために、南北方向に並ぶ3つの更新世コア(PS75/76、PS75/79、PS75/83)の記録も示した。南極周極流の強さは、粒度分析によって得られた選別可能シルトの平均粒径から推定した。

分かったこと
過去530万年間、南極周極流の強さには全体的な線形トレンドは見られず、鮮新世の全球的寒冷化の間は強まり、前期更新世には逆に弱まるという、100万年スケールでの反転が観察された。この変動は、北半球の氷床の拡大に伴う全球的な気候再編成と関連していた。南極周極流の強さの変化は、40万年周期の地球の離心率の変化に伴う南太平洋ジェット気流の変調と密接に関連していた。南極周極流の弱まりは、オパールの沈積帯の赤道側へのシフトと大気中のCO2濃度の低下を伴っていた。鮮新世や更新世の間氷期の暖かい時期には、現在のレベルを超える南極周極流の強化が見られた。

この研究の面白く独創的なところ
この研究は、過去530万年間という長期にわたる南極周極流の強さの変動を初めて明らかにした点で画期的である。南極周極流の強さに全体的な傾向がなく、むしろ100万年スケールで強弱が反転していたという発見は、従来の予想とは異なる独創的な成果である。また、南極周極流の変動が地球の公転軌道の変化に伴う気候変動と関連していることを示した点も興味深い。現在よりも暖かい時期に南極周極流が強化されていたという結果は、将来の地球温暖化の影響を考える上で重要な知見といえる。

この研究のアプリケーション
南極周極流は、全球の海洋循環や気候、南極の氷床の安定性に大きな影響を及ぼすため、その変動メカニズムの理解は将来の気候変動を予測する上で重要である。この研究の結果は、気候モデルの検証や改良に役立つと期待される。また、南極周極流の変動が海洋の二酸化炭素吸収に与える影響の解明にも貢献すると考えられる。さらに、南極周極流の変動と南極氷床の拡大・縮小の関連性は、将来の海水準変動を予測する上でも重要な知見となるだろう。

著者と所属
Frank Lamy, Gisela Winckler, Helge W. Arz, Jesse R. Farmer, Julia Gottschalk, Lester Lembke-Jene, Jennifer L. Middleton, Michèlle van der Does, Ralf Tiedemann, Carlos Alvarez Zarikian, Chandranath Basak, Anieke Brombacher, Levin Dumm, Oliver M. Esper, Lisa C. Herbert, Shinya Iwasaki, Gaston Kreps, Vera J. Lawson, Li Lo, Elisa Malinverno, Alfredo Martinez-Garcia, Elisabeth Michel, Simone Moretti, Christopher M. Moy, Ana Christina Ravelo, Christina R. Riesselman, Mariem Saavedra-Pellitero, Henrik Sadatzki, Inah Seo, Raj K. Singh, Rebecca A. Smith, Alexandre L. Souza, Joseph S. Stoner, Maria Toyos, Igor M. Venancio P. de Oliveira, Sui Wan, Shuzhuang Wu & Xiangyu Zhao

詳しい解説
この研究は、南極大陸を取り巻く世界最大の海流である南極周極流の強さが、過去530万年の間にどのように変化したのかを明らかにしました。南極周極流は、全球の海洋循環や気候、南極の氷床の安定性に大きな影響を及ぼすため、その長期的な変動を理解することは重要です。
研究チームは、国際深海掘削計画383次研究航海で南太平洋から採取された海底堆積物コアを分析しました。その結果、南極周極流の強さには、過去530万年の間に全体的な増加や減少といった線形的な傾向はないことがわかりました。むしろ、鮮新世(530万年前〜260万年前)の全球的な寒冷化の間は南極周極流が強まり、前期更新世(260万年前〜78万年前)には逆に弱まるという、100万年スケールでの強弱の反転が観察されました。
この南極周極流のレジームのシフトは、北半球の氷床の拡大に伴う全球的な気候再編成と時期が一致していました。これは、南極周極流が大気と海洋の強制力に対する感度を変化させた南大洋の再配置と関連していると考えられます。
また、南極周極流の強さの変化は、地球の公転軌道の変化、特に40万年周期の離心率の変化と密接に関連していることがわかりました。これは、離心率の変化が南太平洋ジェット気流の変調を通じて南極周極流に影響を及ぼしているためと考えられます。
さらに、南極周極流の弱まりは、オパールの沈積帯が赤道側にシフトすること、および大気中の二酸化炭素濃度の低下を伴っていました。一方、鮮新世や更新世の間氷期の暖かい時期には、現在のレベルを超える南極周極流の強化が見られました。
この研究は、過去530万年間という長期にわたる南極周極流の強さの変動を初めて明らかにした点で画期的です。南極周極流の強さに全体的な傾向がなく、むしろ100万年スケールで強弱が反転していたという発見は、従来の予想とは異なる独創的な成果といえます。また、南極周極流の変動が地球の公転軌道の変化に伴う気候変動と関連していることを示した点も興味深いです。
現在よりも暖かい時期に南極周極流が強化されていたという結果は、将来の地球温暖化によって南極周極流がさらに強まる可能性を示唆しています。南極周極流は海洋の二酸化炭素吸収に大きな影響を与えるため、その変動メカニズムの理解は将来の気候変動を予測する上で重要です。この研究の成果は、気候モデルの検証や改良に役立つと期待されます



ボソン版キタエフチェーンの光機械的実現

この研究では、ナノスケールの光機械ネットワークを用いて、ボソン版キタエフチェーンを実験的に実現しました。パラメトリック相互作用により、ナノ機械モード間にビームスプリッター結合と2モードスクイージングが誘導され、これがフェルミオン版のホッピングとp波ペアリングに相当します。この特有の構造により、ボソン版の動力学と輸送現象に特異な現象が現れます。我々は、quadrature依存のカイラル増幅、システムサイズに対する利得の指数関数的スケーリング、境界条件への強い感度を観測しました。これらはすべて、ボソン版キタエフチェーンの独特の非エルミートトポロジカルな性質に関連しています。相互作用の位相と振幅を制御することで、トポロジカル相転移を探索し、豊かな動的相図を明らかにしました。最後に、小さな摂動に対する指数関数的に増強された応答の実験的デモンストレーションを行いました。これらの結果は、フェルミオン版に類似のない独特のボソン動力学を示す新しい合成物質相の実証であり、非エルミートトポロジーとその信号操作やセンシングへの応用を研究するための強力なシステムを確立しました。

事前情報
フェルミオン版キタエフチェーンは、トポロジカルなマヨラナゼロモードを特徴とする標準的なモデルである。ボソン版キタエフチェーンは、フェルミオン版のホッピングとp波ペアリングに相当するビームスプリッター結合と2モードスクイージングを持つ。

行ったこと
ナノスケールの光機械ネットワークを用いて、ボソン版キタエフチェーンを実験的に実現した。パラメトリック相互作用により、ナノ機械モード間にビームスプリッター結合と2モードスクイージングを誘導した。相互作用の位相と振幅を制御することで、トポロジカル相転移を探索し、動的相図を明らかにした。小さな摂動に対する指数関数的に増強された応答を実験的に示した。

検証方法
ナノスケールの光機械ネットワークを用いて、ボソン版キタエフチェーンを実験的に実現し、その動力学と輸送現象を測定した。相互作用の位相と振幅を制御し、トポロジカル相転移と動的相図を探索した。小さな摂動に対する応答を測定し、指数関数的な増強を確認した。

分かったこと
ボソン版キタエフチェーンにおいて、quadrature依存のカイラル増幅、システムサイズに対する利得の指数関数的スケーリング、境界条件への強い感度などの特異な現象が観測された。これらは、ボソン版キタエフチェーンの独特の非エルミートトポロジカルな性質に関連している。相互作用の位相と振幅を制御することで、トポロジカル相転移と豊かな動的相図が明らかになった。小さな摂動に対する指数関数的に増強された応答が実験的に示された。

この研究の面白く独創的なところ
ボソン版キタエフチェーンという新しい合成物質相を実験的に実現し、そのフェルミオン版に類似のない独特のボソン動力学を明らかにした点が革新的である。非エルミートトポロジーに由来する特異な現象を観測し、その豊かな物理を実証した点も独創的である。光機械ネットワークという新しいプラットフォームを用いて、トポロジカル物理と非エルミート物理を融合した点も面白い。

この研究のアプリケーション
ボソン版キタエフチェーンの独特の非エルミートトポロジカルな性質は、信号操作やセンシングへの応用が期待される。例えば、指数関数的に増強された応答は、高感度センサーの開発につながる可能性がある。また、この研究で確立された光機械ネットワークは、非エルミートトポロジーとその応用を研究するための強力なプラットフォームとなる。

著者と所属
Jesse J. Slim, Clara C. Wanjura, Matteo Brunelli, Javier del Pino, Andreas Nunnenkamp & Ewold Verhagen

詳しい解説
この研究は、ナノスケールの光機械ネットワークを用いて、ボソン版キタエフチェーンという新しい合成物質相を実験的に実現したものです。キタエフチェーンは、トポロジカルな性質を持つ物理系として知られており、フェルミオン版ではマヨラナゼロモードなどのエキゾチックな現象が現れます。一方、ボソン版キタエフチェーンは、フェルミオン版とは異なる独特の物理を示すことが理論的に予測されていました。
研究チームは、パラメトリック相互作用を用いて、ナノ機械モード間にビームスプリッター結合と2モードスクイージングを誘導しました。これらの相互作用は、フェルミオン版キタエフチェーンのホッピングとp波ペアリングに相当します。この特有の構造により、ボソン版の動力学と輸送現象に特異な現象が現れます。
実験では、quadrature依存のカイラル増幅、システムサイズに対する利得の指数関数的スケーリング、境界条件への強い感度などが観測されました。これらの現象は、ボソン版キタエフチェーンの独特の非エルミートトポロジカルな性質に起因しています。非エルミート性とは、系のハミルトニアンが非エルミート行列で記述される性質のことで、通常のエルミート系とは異なる物理を生み出します。
さらに、相互作用の位相と振幅を制御することで、トポロジカル相転移を探索し、豊かな動的相図を明らかにしました。トポロジカル相転移は、系のトポロジカルな性質が変化する際に起こる特殊な相転移です。また、小さな摂動に対する指数関数的に増強された応答を実験的に示しました。これは、ボソン版キタエフチェーンの非エルミートトポロジカルな性質に由来する現象です。
この研究の意義は、ボソン版キタエフチェーンという新しい合成物質相を実験的に実現し、そのフェルミオン版に類似のない独特のボソン動力学を明らかにした点にあります。非エルミートトポロジーに由来する特異な現象を観測し、その豊かな物理を実証したことは、量子物理学の新しい扉を開くものです。また、光機械ネットワークという新しいプラットフォームを用いて、トポロジカル物理と非エルミート物理を融合したことも、この研究の独創的な点といえます。
ボソン版キタエフチェーンの独特の非エルミートトポロジカルな性質は、信号操作やセンシングへの応用が期待されます。例えば、指数関数的に増強された応答は、高感度センサーの開発につながる可能性があります。また、この研究で確立された光機械ネットワークは、非エルミートトポロジーとその応用を研究するための強力なプラットフォームとなるでしょう。




最後に
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