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論文まとめ279回目 Nature APOE4遺伝子型がアルツハイマー病ミクログリアの有害な脂肪滴蓄積を引き起こす!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

The evolution of menopause in toothed whales
ハクジラにおける閉経の進化
「ハクジラの閉経の進化についての研究が、人間の閉経の理解にも役立つかもしれません。この研究では、ハクジラの5種で独立に閉経が進化したことが分かりました。ハクジラの閉経は、寿命を延ばすことで進化したようです。閉経したハクジラは、孫の世代と過ごす時間が長くなり、娘と同時に繁殖する期間が短くなります。これは、世代間の助け合いと競争のバランスが重要であることを示唆しています。ハクジラと人間では生態や社会構造が大きく異なりますが、閉経の進化には共通点があるようです。この研究は、閉経の進化的意義を理解する上で重要な知見を提供してくれます。」

Neural signatures of natural behaviour in socializing macaques
ニホンザルの社会的行動における自然な行動の神経シグネチャー
「私たちヒトを含む霊長類の脳は、自然な社会的行動を生み出すために進化してきました。しかし、これまでの研究の多くは、実験室の限られた環境下で行われており、自然な行動の神経基盤については不明な点が多く残されていました。この研究では、最新のテクノロジーを駆使して、自由に社会的交流をしているサルの脳活動を記録することに成功しました。その結果、24種類もの典型的な行動や、社会的文脈に応じた神経活動のパターンが見られました。特に、お互いの毛づくろいは、友情や同盟関係を支える重要な行動であり、その際の神経活動は、いわば「社会的投資の帳簿」のように機能していることが分かりました。また、攻撃的な他者に直面した時の行動と神経活動は、パートナーの存在によって緩和されるなど、共感性を反映していました。これらの発見は、霊長類の社会生活を支える計算基盤となる可能性があり、ヒトの社会性の理解にも繋がる重要な知見です。」

Self-enhanced mobility enables vortex pattern formation in living matter 自己増強型の移動性が生物の渦パターン形成を可能にする
「生物の世界では、細胞小器官の形成から胚発生に至るまで、自己組織化された構造の形成が特徴的です。通常、生物学における秩序だった空間パターンの出現は、細胞の行動や分化を調整する複雑な化学シグナルによって駆動されますが、純粋に物理的な相互作用によっても、精子や細菌の懸濁液中に見られる結晶性の渦列などの規則的な生物学的パターンが形成されることがあります。
今回の研究では、物理的相互作用によって駆動される新しい自己組織化パターン形成経路を発見しました。この経路では、マルチスケールの秩序を持つ大規模な規則的空間構造が形成されます。具体的には、高密度の細菌の生きた物質が自発的に中間スケールの高速回転渦の格子を形成し、これらの渦は約1万から10万個の運動性細菌細胞で構成され、1センチメートル以上の空間スケールで六角形の秩序を持って配置されていました。一方、渦の中の個々の細胞は、強い極性と渦状の秩序を持って協調的に移動していました。
単一細胞の追跡とシミュレーションから、この現象はシステム内の自己増強型の移動性、つまり、特定の細胞密度において、細胞が生成する集団的ストレスによって個々の細胞の速度が増加することによって可能になっていることが示唆されました。ストレス誘導による移動性の増強と流動化は、様々な長さのスケールで高密度の生物に広く見られます。
今回の発見は、自己増強型の移動性が生物システムにおけるパターン形成の単純な物理的メカニズムを提供し、より一般的には、流体と固体のような挙動の境界近くにある他のアクティブマターシステムにおいても同様であることを示しています。」

Anoxygenic phototroph of the Chloroflexota uses a type I reaction centre Chloroflexota門の無酸素性光合成細菌がタイプI反応中心を使用する
「光合成は、地球上のほぼすべての生命を支える重要なプロセスですが、その進化の過程には多くの謎が残されています。特に、光合成に使われる2種類の反応中心、タイプI(RCI)とタイプII(RCII)の関係性は長年の謎でした。一般的に、それぞれの反応中心は特定の細菌グループで独立に使われていると考えられてきました。
しかし、この研究では、カナダのボレアルシールド湖から、これまでにない新種の光合成細菌を発見しました。驚くべきことに、この細菌は、RCIIを使う細菌グループ(Chloroflexota門)に属しているにもかかわらず、RCIを使って光合成を行っていたのです。さらに、この細菌は、RCIを使う他の細菌グループ(Chlorobiales目など)と同様のクロロソームという特殊な光捕集装置を持っていました。
この発見は、RCIとRCIIが、これまで考えられていたよりもずっと密接に関連していることを示唆しています。遺伝子の解析から、この新種の細菌とRCIIを使うChloroflexota門の細菌は、共通の光合成能力を持つ祖先から進化したと考えられます。つまり、同じ祖先から、RCIを使う系統とRCIIを使う系統が分かれて進化した可能性があるのです。
この研究は、光合成の進化に新たな視点を与えるものです。RCIとRCIIが、別々の細菌グループで独立に進化したのではなく、密接に関連しながら進化してきたことを示唆しています。この発見は、酸素発生型光合成の起源や、光合成の多様性の理解にも繋がる重要な一歩となるでしょう。」

APOE4/4 is linked to damaging lipid droplets in Alzheimer's disease microglia
APOE4/4はアルツハイマー病ミクログリアの有害な脂肪滴と関連している
「アルツハイマー病の主な原因は、アミロイドβ (Aβ) とタウタンパク質の蓄積ですが、最近の研究では、脳内の免疫細胞であるミクログリアの機能不全も重要な役割を果たしていることが分かってきました。
この研究では、アルツハイマー病患者の脳を詳細に調べたところ、APOE4遺伝子型を持つ患者のミクログリアに、大量の脂肪滴が蓄積していることが明らかになりました。APOE4は、アルツハイマー病の最大の遺伝的リスク要因として知られています。
研究チームは、iPS細胞由来のミクログリアを用いて、AβがAPOE4の存在下で脂肪滴の蓄積を引き起こすことを確認しました。さらに、脂肪滴を蓄積したミクログリアが分泌する因子が、ニューロンにタウタンパク質の異常リン酸化や細胞死を引き起こすことも明らかにしました。
この発見は、APOE4がミクログリアの脂肪滴蓄積を介してアルツハイマー病の進行に関与していることを示唆しています。脂肪滴の蓄積を抑制することが、新たなアルツハイマー病の治療戦略になるかもしれません。
ミクログリアの脂肪滴という、これまであまり注目されていなかった要因が、アルツハイマー病の病態に深く関わっていたという発見は、とてもエキサイティングですね!」

Structures and activation mechanism of the Gabija anti-phage system Gabijaアンチファージシステムの構造と活性化メカニズム
「バクテリアは、ファージと呼ばれるウイルスに感染すると、ファージに遺伝情報を乗っ取られ、最終的には溶菌してしまいます。しかし、バクテリアは長い進化の過程で、ファージに対する防御システムを発達させてきました。その一つが「Gabija」と呼ばれるシステムです。
Gabijaシステムは、GajAとGajBという2つのタンパク質から構成されています。GajAはDNAを切断する酵素(ヌクレアーゼ)として機能しますが、ATPが存在すると不活性化されます。一方、ファージ感染によってATPが枯渇すると、GajAが活性化され、ファージのDNAを切断します。切断されたDNAによってGajBが活性化され、最終的にバクテリア自身を死滅させることで、ファージの増殖を防ぐのです。
この研究では、クライオ電子顕微鏡を用いて、Gabijaシステムの様々な状態の立体構造を明らかにしました。GajAは菱形の四量体で、中心にATPase領域、周辺にToprim領域があります。ATPが結合すると、Toprim領域が閉じた状態になり、ファージのDNAを切断できなくなります。しかし、ファージ感染によってATPが枯渇すると、Toprim領域が開いた状態になり、DNAを切断できるようになるのです。
こうした一連の構造変化によって、Gabijaシステムがファージ感染に応答し、バクテリアを守っていることが明らかになりました。この研究は、バクテリアとファージの長年の攻防の一端を明らかにしただけでなく、新たな抗菌剤開発への応用も期待されます。」

All-optical frequency division on-chip using a single laser
単一レーザーを用いたチップ上の全光学的周波数分割
「光の周波数を分割することで、高品質なマイクロ波信号を生成することができます。これまでは複数のレーザーや大型の光学・電子部品が必要でしたが、この研究では1台のレーザーとチップ上の特殊な光学素子だけで周波数分割を実現しました。光の性質を巧みに利用することで、コンパクトかつ安定した方法で高品質なマイクロ波を生成できるようになったのです。」



要約

ハクジラの閉経進化の謎を解明

ハクジラの一部の種では、人間と同様に閉経が見られる。この研究では、ハクジラにおける閉経の進化について、比較解析によって調べた。その結果、ハクジラでは閉経が5種で独立に進化したこと、閉経は寿命を延ばすことで進化したこと、閉経によって孫の世代と過ごす時間が長くなる一方で娘と同時に繁殖する期間が短くなることが分かった。これは、世代間の助け合いと競争のバランスが閉経の進化に重要であることを示唆している。ハクジラと人間は系統的に離れているが、閉経の進化プロセスには共通点があり、この研究は人間の閉経の理解にも役立つと考えられる。

事前情報
閉経は人間以外ではほとんど見られない rare な現象であり、野生下でのメス の閉経はヒトとハクジラでしか知られていない。ハクジラでは系統内で閉経が複数回独立に進化している。閉経の適応的意義については、世代間の助け合いと競争のバランスが重要だと考えられているが、比較研究が不足していた。

行ったこと
ハクジラ32種の寿命データと18種の繁殖寿命データを文献から収集し、ベイズ統計モデルを用いて解析した。系統関係を考慮しつつ、閉経の有無と体サイズ・寿命・繁殖寿命の関係を調べた。さらに、人口学的シミュレーションによって、閉経の進化が世代間の交流にどのように影響するかを予測した。

検証方法
ハクジラの年齢査定データから種ごとの寿命を推定し、卵巣の組織学的データから繁殖寿命を推定した。系統的に独立な閉経の進化を確認するため、ハクジラの系統樹を用いた比較解析を行った。さらに、推定された人口学的パラメータを用いて、閉経の有無による世代間の交流の違いをシミュレートした。

分かったこと
ハクジラでは少なくとも4系統5種で独立に閉経が進化していること、閉経種では寿命が延びている一方で繁殖寿命は変わっていないこと、閉経種では孫の世代と過ごす時間が長くなる一方で娘と同時に繁殖する期間は変わらないことが分かった。また、閉経種ではメスの寿命がオスよりも長く、local mateでない戦略によってメスからオスへの投資が増えている可能性が示唆された。

この研究の面白く独創的なところ
ヒト以外で閉経が進化した数少ない分類群であるハクジラにおいて、閉経の独立な進化を系統的に示し、寿命と繁殖寿命への影響を定量的に明らかにした点が独創的である。また、人口学的シミュレーションを用いて、閉経の進化が世代間の交流にどのように影響するかを予測したことで、閉経の適応的意義についての新しい視点を提供している。

この研究のアプリケーション
この研究は、人間の閉経の進化的意義を理解する上で重要な比較データを提供する。また、ハクジラの保全を考える上で、閉経というライフヒストリー特性の重要性を示唆している。さらに、世代間の助け合いと競争のバランスという視点は、ヒトを含む他の動物の社会進化を考える上でも示唆に富む。

著者と所属
Samuel Ellis, Daniel W. Franks, Mia Lybkær Kronborg Nielsen, Michael N. Weiss & Darren P. CroftUniversity of Exeter (Ellis, Croft), University of York (Franks), University of Southern Denmark (Nielsen), Dolphin Quest (Weiss)

この研究は、ハクジラの閉経の進化について、寿命と繁殖寿命への影響という観点から新しい知見を提供しています。閉経はヒトを除いてはほとんど見られない珍しい現象ですが、ハクジラでは複数の系統で独立に進化していることが明らかになりました。比較解析の結果、閉経種では寿命が延びている一方で繁殖寿命は変わっておらず、閉経は「長生きする」ことで進化したと考えられます。また、閉経種では孫の世代と過ごす時間が長くなる一方で、娘と同時に繁殖する期間は変わらないことが分かりました。これは、閉経が世代間の助け合いを増やしつつ、世代間の競争を避けるような形で進化したことを示唆しています。さらに、閉経種ではメスがオスよりも長生きで、メスからオスへの投資が増えている可能性も示されました。ハクジラと人間では生態や社会構造が大きく異なりますが、閉経の進化プロセスには共通点があり、この研究は人間の閉経の理解にも役立つと考えられます。今後は、他の動物群での閉経の有無や、閉経が社会進化に与える影響なども調べていく必要がありそうです。閉経というと個体の繁殖の終わりというネガティブなイメージがありますが、実は種の繁栄にとって重要な意味を持つのかもしれません。


自然な社会的行動中のサルの脳活動を解明

霊長類の行動の神経基盤に関する理解は、主に実験室の限られた環境下で行われた研究に基づいており、自然な行動については不明な点が多い。この研究では、自由に社会的交流をしているニホンザルのペアを対象に、行動分析、コンピュータビジョン、ワイヤレス記録技術を組み合わせて、自然な行動の神経シグネチャーを特定した。前頭葉と側頭葉の単一ニューロンとポピュレーション活動は、24種類の典型的な行動と社会的文脈を強固にコード化していた。オス-メスのペアは、友情や同盟関係を支える重要な行動であるグルーミングにおいて完全な互恵性を示し、神経活動はこれらの社会的投資の記録を維持していた。攻撃的な侵入者に直面した際の行動と神経ポピュレーションの反応は共感性を反映しており、パートナーの存在によって緩和されていた。これらの発見は、霊長類の社会生活を支える計算基盤となる可能性があり、ヒトを含む社会性の理解に繋がる。
事前情報

  • 霊長類の行動の神経基盤に関する理解は、主に実験室の限られた環境下で行われた研究に基づいている。

  • 霊長類の脳は、自然な社会的行動を生み出すために進化してきた。

  • 霊長類が日常生活で構築する多次元の社会関係や、生存と繁殖の成功に影響を与える要因については、単一ニューロンレベルでは不明な点が多い。

行ったこと

  • 自由に社会的交流をしているニホンザルのペアを対象に、行動分析、コンピュータビジョン、ワイヤレス記録技術を組み合わせて、自然な行動の神経シグネチャーを特定した。

検証方法

  • 自由に社会的交流をしているニホンザルのペアを対象とした。

  • 行動分析、コンピュータビジョン、ワイヤレス記録技術を組み合わせて、自然な行動中の神経活動を記録した。

分かったこと

  • 前頭葉と側頭葉の単一ニューロンとポピュレーション活動は、24種類の典型的な行動と社会的文脈を強固にコード化していた。

  • オス-メスのペアは、友情や同盟関係を支える重要な行動であるグルーミングにおいて完全な互恵性を示し、神経活動はこれらの社会的投資の記録を維持していた。

  • 攻撃的な侵入者に直面した際の行動と神経ポピュレーションの反応は共感性を反映しており、パートナーの存在によって緩和されていた。

この研究の面白く独創的なところ

  • 自由に社会的交流をしているサルの脳活動を記録することで、自然な行動の神経基盤を解明した点が独創的である。

  • グルーミングにおける互恵性と神経活動の関連性を示し、社会的投資の記録としての役割を明らかにした点が面白い。

  • 攻撃的な侵入者に対する行動と神経活動の反応が、共感性を反映しており、パートナーの存在によって緩和されることを示した点が興味深い。

この研究のアプリケーション

  • 霊長類の社会生活を支える計算基盤の理解に繋がる知見であり、ヒトの社会性の理解にも応用可能である。

  • 自然な行動の神経基盤の解明は、精神疾患や発達障害などの理解と治療に役立つ可能性がある。

著者と所属 
Camille Testard, Sébastien Tremblay, Felipe Parodi, Ron W. DiTullio, Arianna Acevedo-Ithier, Kristin L. Gardiner, Konrad Kording & Michael L. Platt

詳しい解説
この研究は、自由に社会的交流をしているニホンザルのペアを対象に、最新のテクノロジーを駆使して自然な行動中の脳活動を記録することで、霊長類の社会生活を支える神経基盤を解明しました。
これまでの研究の多くは、実験室の限られた環境下で行われており、自然な行動の神経基盤については不明な点が多く残されていました。しかし、この研究では、行動分析、コンピュータビジョン、ワイヤレス記録技術を組み合わせることで、自由に社会的交流をしているサルの脳活動を記録することに成功しました。
その結果、前頭葉と側頭葉の単一ニューロンとポピュレーション活動が、24種類もの典型的な行動や、社会的文脈に応じた神経活動のパターンを示すことが明らかになりました。特に注目すべきは、お互いの毛づくろい(グルーミング)の際の神経活動です。グルーミングは、友情や同盟関係を支える重要な行動であり、オス-メスのペアは完全な互恵性を示しました。そして、その際の神経活動は、いわば「社会的投資の帳簿」のように機能していることが分かりました。
また、攻撃的な他者に直面した時の行動と神経活動は、パートナーの存在によって緩和されるなど、共感性を反映していました。これは、サルたちが仲間の存在を感じ、それによってストレスが軽減されていることを示唆しています。
これらの発見は、霊長類の社会生活を支える計算基盤となる可能性があり、ヒトの社会性の理解にも繋がる重要な知見です。自然な行動の神経基盤を解明することで、精神疾患や発達障害などの理解と治療にも役立つかもしれません。
今後は、さらに多様な社会的状況下での脳活動の記録や、他の脳領域の関与についても調べることで、霊長類の社会性の神経基盤がより深く理解できるでしょう。この研究は、そのための重要な一歩を示したと言えます。


自己増強型の移動性が生物の渦パターン形成を可能にする

高密度の細菌の生きた物質が、自発的に中間スケールの高速回転渦の格子を形成し、これらの渦は約1万から10万個の運動性細菌細胞で構成され、1センチメートル以上の空間スケールで六角形の秩序を持って配置されていることが発見された。個々の細胞は、強い極性と渦状の秩序を持って協調的に移動していた。この現象は、特定の細胞密度において、細胞が生成する集団的ストレスによって個々の細胞の速度が増加する自己増強型の移動性によって可能になっていることが示唆された。この発見は、自己増強型の移動性が生物システムにおけるパターン形成の単純な物理的メカニズムを提供することを示している。

事前情報

  • 生物学における秩序だった空間パターンの出現は、通常、細胞の行動や分化を調整する複雑な化学シグナルによって駆動される。

  • 純粋に物理的な相互作用によっても、精子や細菌の懸濁液中に見られる結晶性の渦列などの規則的な生物学的パターンが形成されることがある。

行ったこと

  • 高密度の細菌の生きた物質における自己組織化パターン形成を観察し、物理的相互作用によって駆動される新しい経路を発見した。

検証方法

  • 高密度の細菌の生きた物質を観察し、自己組織化パターン形成を調べた。

  • 単一細胞の追跡とシミュレーションを行い、現象のメカニズムを探った。

分かったこと

  • 高密度の細菌の生きた物質が、自発的に中間スケールの高速回転渦の格子を形成し、これらの渦は約1万から10万個の運動性細菌細胞で構成され、1センチメートル以上の空間スケールで六角形の秩序を持って配置されていた。

  • 個々の細胞は、強い極性と渦状の秩序を持って協調的に移動していた。

  • この現象は、特定の細胞密度において、細胞が生成する集団的ストレスによって個々の細胞の速度が増加する自己増強型の移動性によって可能になっていることが示唆された。

この研究の面白く独創的なところ

  • 物理的相互作用によって駆動される新しい自己組織化パターン形成経路を発見し、マルチスケールの秩序を持つ大規模な規則的空間構造の形成を明らかにした点が独創的である。

  • 自己増強型の移動性が生物システムにおけるパターン形成の単純な物理的メカニズムを提供することを示した点が面白い。

この研究のアプリケーション

  • 生物システムにおけるパターン形成の理解に役立つ可能性がある。

  • 流体と固体のような挙動の境界近くにある他のアクティブマターシステムにおける自己組織化パターン形成の理解に応用できる可能性がある。

著者と所属
Haoran Xu & Yilin Wu

詳しい解説
この研究では、高密度の細菌の生きた物質における自己組織化パターン形成が、物理的相互作用によって駆動される新しい経路で起こることを発見しました。この経路では、マルチスケールの秩序を持つ大規模な規則的空間構造が形成されます。
具体的には、高密度の細菌の生きた物質が自発的に中間スケールの高速回転渦の格子を形成し、これらの渦は約1万から10万個の運動性細菌細胞で構成されていました。そして、これらの渦は1センチメートル以上の空間スケールで六角形の秩序を持って配置されていました。さらに、渦の中の個々の細胞は、強い極性と渦状の秩序を持って協調的に移動していました。
この現象のメカニズムを探るために、研究者らは単一細胞の追跡とシミュレーションを行いました。その結果、この現象は、特定の細胞密度において、細胞が生成する集団的ストレスによって個々の細胞の速度が増加する自己増強型の移動性によって可能になっていることが示唆されました。つまり、細胞密度が高くなると、細胞が集団的に生成するストレスが増加し、それが個々の細胞の移動速度を増加させるのです。
この自己増強型の移動性は、様々な長さのスケールで高密度の生物に広く見られる現象であり、ストレス誘導による移動性の増強と流動化として知られています。
今回の発見は、自己増強型の移動性が生物システムにおけるパターン形成の単純な物理的メカニズムを提供することを示しています。さらに、この発見は、流体と固体のような挙動の境界近くにある他のアクティブマターシステムにおける自己組織化パターン形成の理解にも応用できる可能性があります。
この研究は、生物システムにおけるパターン形成の理解に新たな視点を提供するものであり、今後の発展が期待されます。


新種の光合成細菌が光合成の進化の謎を解明

カナダのボレアルシールド湖から、新種の無酸素性光合成細菌 "Candidatus Chlorohelix allophototropha" が発見された。この細菌は、RCIIを使う細菌グループ(Chloroflexota門)に属しているが、RCIを使って光合成を行っていた。また、RCIを使う他の細菌グループと同様のクロロソームを持っていた。遺伝子解析から、この新種の細菌とRCIIを使うChloroflexota門の細菌は、共通の光合成能力を持つ祖先から進化したと考えられる。この発見は、RCIとRCIIが密接に関連しながら進化してきたことを示唆し、光合成の進化に新たな視点を与えるものである。
事前情報

  • 光合成の進化には多くの謎が残されており、特にRCIとRCIIの関係性は不明な点が多かった。

  • 一般的に、RCIとRCIIは特定の細菌グループで独立に使われていると考えられてきた。

行ったこと

  • カナダのボレアルシールド湖から、新種の無酸素性光合成細菌 "Ca. Chlorohelix allophototropha" を発見・培養した。

  • この細菌の光合成システムを生理学的、ゲノム的、環境メタトランスクリプトーム的に解析した。

検証方法

  • 培養により、この細菌の光合成の特徴を生理学的に解析した。

  • ゲノム解析により、この細菌の光合成関連遺伝子を同定し、他の光合成細菌と比較した。

  • 環境メタトランスクリプトーム解析により、この細菌の光合成遺伝子の発現を確認した。

分かったこと

  • "Ca. Chlorohelix allophototropha" は、Chloroflexota門に属するが、RCIを使って光合成を行っていた。

  • この細菌は、RCIを使う他の細菌グループと同様のクロロソームを持っていた。

  • 遺伝子解析から、この新種の細菌とRCIIを使うChloroflexota門の細菌は、共通の光合成能力を持つ祖先から進化したと考えられる。

この研究の面白く独創的なところ

  • RCIとRCIIを使う細菌が同じ細菌門内に存在することを発見した点が画期的。

  • この発見により、RCIとRCIIが密接に関連しながら進化してきたことが示唆された。

この研究のアプリケーション

  • 光合成の進化の理解に新たな視点を与える。

  • 酸素発生型光合成の起源や、光合成の多様性の理解にも繋がる可能性がある。

著者と所属
J. M. Tsuji, N. A. Shaw, S. Nagashima, J. J. Venkiteswaran, S. L. Schiff, T. Watanabe, M. Fukui, S. Hanada, M. Tank & J. D. Neufeld

詳しい解説
この研究では、カナダのボレアルシールド湖から、新種の無酸素性光合成細菌 "Candidatus Chlorohelix allophototropha" を発見しました。この細菌は、RCIIを使う細菌グループ(Chloroflexota門)に属しているにもかかわらず、RCIを使って光合成を行っていました。さらに、この細菌は、RCIを使う他の細菌グループ(Chlorobiales目など)と同様のクロロソームという特殊な光捕集装置を持っていました。
クロロソームは、一般的にRCIを使う細菌グループで見られる構造体で、バクテリオクロロフィルcを大量に含み、光を効率よく集めることができます。一方、RCIIを使う細菌グループは、通常クロロソームを持ちません。したがって、RCIIを使う細菌グループに属しながら、RCIとクロロソームを持つ "Ca. Chlorohelix allophototropha" の発見は、非常に驚くべきものでした。
この細菌のゲノムを解析したところ、RCIを使う他の細菌グループのRCI遺伝子とは異なる、新しいタイプのRCI遺伝子が見つかりました。また、クロロソーム関連遺伝子や、バクテリオクロロフィルa・c合成遺伝子なども確認されました。これらの遺伝子の系統解析から、"Ca. Chlorohelix allophototropha" とRCIIを使うChloroflexota門の細菌は、共通の光合成能力を持つ祖先から進化したと考えられます。つまり、同じ祖先から、RCIを使う系統とRCIIを使う系統が分かれて進化した可能性があるのです。
さらに、環境メタトランスクリプトーム解析により、"Ca. Chlorohelix allophototropha" の近縁種が、実際のボレアルシールド湖の環境中で、RCIを使った光合成を行っていることが確認されました。
以上の結果から、この研究は、RCIとRCIIが、これまで考えられていたよりもずっと密接に関連していることを示唆しています。この発見は、光合成の進化に新たな視点を与えるものです。RCIとRCIIが、別々の細菌グループで独立に進化したのではなく、密接に関連しながら進化してきたことを示唆しています。この知見は、酸素発生型光合成の起源や、光合成の多様性の理解にも繋がる重要な一歩となるでしょう。
今後は、"Ca. Chlorohelix allophototropha" のような、RCIとRCIIの間をつなぐような細菌を さらに探索・研究することで、光合成の進化の全容解明に近づくことができると期待されます。



APOE4遺伝子型がアルツハイマー病ミクログリアの有害な脂肪滴蓄積を引き起こす

アルツハイマー病患者の脳を単一核RNA-seqで解析したところ、APOE4/4遺伝子型の患者では、ACSL1を発現する脂肪滴蓄積ミクログリア (LDAM) が多く見られた。iPS細胞由来ミクログリアでは、Aβ線維がAPOE依存的に脂肪滴蓄積を誘導した。また、LDAM由来の因子がAPOE依存的にタウのリン酸化とニューロン毒性を引き起こした。これらの結果は、アルツハイマー病の遺伝的リスク因子とミクログリアの脂肪滴蓄積およびニューロン毒性因子との関連を示唆している。

事前情報

  • アルツハイマー病の遺伝的リスク因子には、脂質代謝や自然免疫に関わる遺伝子が多い。

  • これらの脂質関連遺伝子の多くは、グリア細胞で高発現している。

  • しかし、グリアの脂質代謝とアルツハイマー病の病理との関係は不明な点が多い。

行ったこと

  • アルツハイマー病患者の脳組織を単一核RNA-seqで解析し、APOE4/4遺伝子型との関連を調べた。

  • iPS細胞由来ミクログリアを用いて、Aβ線維がAPOE依存的に脂肪滴蓄積を誘導するかを検証した。

  • LDAMの培養上清がニューロンにタウのリン酸化と細胞死を引き起こすかを調べた。

検証方法

  • アルツハイマー病患者の脳組織を単一核RNA-seqで解析。

  • iPS細胞由来ミクログリアを用いた in vitro 実験。

  • LDAMの培養上清をニューロンに添加し、タウのリン酸化と細胞死を評価。

分かったこと

  • APOE4/4遺伝子型のアルツハイマー病患者では、ACSL1を発現するLDAMが多く見られた。

  • Aβ線維はAPOE依存的にミクログリアの脂肪滴蓄積を誘導した。

  • LDAMの培養上清はAPOE依存的にニューロンのタウリン酸化と細胞死を引き起こした。

この研究の面白く独創的なところ

  • ミクログリアの脂肪滴蓄積とアルツハイマー病の遺伝的リスク因子との関連を明らかにした点。

  • ミクログリアの脂肪滴蓄積が、ニューロン毒性因子の分泌を介してアルツハイマー病の病態に関与している可能性を示した点。

この研究のアプリケーション

  • ミクログリアの脂肪滴蓄積を抑制することが、アルツハイマー病の新たな治療戦略になる可能性がある。

著者と所属
Michael S. Haney, Róbert Pálovics, Christy Nicole Munson, Chris Long, Patrik K. Johansson, Oscar Yip, Wentao Dong, Eshaan Rawat, Elizabeth West, Johannes C. M. Schlachetzki, Andy Tsai, Ian Hunter Guldner, Bhawika S. Lamichhane, Amanda Smith, Nicholas Schaum, Kruti Calcuttawala, Andrew Shin, Yung-Hua Wang, Chengzhong Wang, Nicole Koutsodendris, Geidy E. Serrano, Thomas G. Beach, Eric M. Reiman, Christopher K. Glass, Monther Abu-Remaileh, Annika Enejder, Yadong Huang & Tony Wyss-Coray

詳しい解説
この研究は、アルツハイマー病におけるミクログリアの脂肪滴蓄積と、最大の遺伝的リスク因子であるAPOE4との関連を明らかにしたものです。
研究チームは、まずアルツハイマー病患者の脳組織を単一核RNA-seqという手法で詳細に解析しました。その結果、APOE4/4遺伝子型を持つ患者では、ACSL1という脂肪滴形成に関わる酵素を発現するミクログリアが多く見られることが分かりました。このようなミクログリアは脂肪滴蓄積ミクログリア (LDAM) と名付けられました。
次に、iPS細胞から分化誘導したミクログリアを用いて、アルツハイマー病の病理学的特徴であるアミロイドβ (Aβ) 線維がLDAMを誘導するかを検証しました。すると、Aβ線維はAPOEの存在下でミクログリアの脂肪滴蓄積を引き起こすことが明らかになりました。この効果はAPOE4/4遺伝子型で特に顕著でした。
さらに、LDAMが分泌する因子が、ニューロンに及ぼす影響を調べたところ、APOE依存的にタウタンパク質の異常リン酸化と細胞死を引き起こすことが分かりました。
以上の結果から、APOE4がAβ線維によるミクログリアの脂肪滴蓄積を促進し、LDAMが分泌する神経毒性因子を介してアルツハイマー病の病態に関与している可能性が示唆されました。
この研究の面白いところは、ミクログリアの脂肪滴というこれまであまり注目されていなかった要因が、アルツハイマー病の遺伝的リスク因子と密接に関連していたという点です。また、LDAMが分泌する因子がニューロンに直接作用することで、アルツハイマー病の主要な病理学的特徴であるタウの異常リン酸化や神経細胞死を引き起こすという発見も、とても興味深いものでした。
今後、ミクログリアの脂肪滴蓄積を抑制することが、アルツハイマー病の新たな治療戦略になるかもしれません。例えば、この研究では、PI3キナーゼ阻害剤がLDAMの脂肪滴蓄積を抑制することが示されています。このような薬剤の開発が進めば、アルツハイマー病の進行を遅らせたり、症状を改善したりできる可能性があります。
この研究は、アルツハイマー病の病態メカニズムの理解に新たな視点を与えるものであり、今後の研究の進展が期待されます。


バクテリアのファージ防御システム「Gabija」の構造と活性化メカニズムを明らかにした研究

本研究は、バクテリアのファージ防御システムであるGabijaの構造と活性化メカニズムを明らかにした。GabijaはGajAとGajBの2つのタンパク質から成り、GajAはATPの存在下で不活性型となるDNAヌクレアーゼである。クライオ電子顕微鏡解析により、GajAの立体構造が明らかになり、ATPの結合によってDNA切断活性が抑制されるメカニズムが解明された。ファージ感染によるATP枯渇でGajAが活性化され、ファージDNAが切断される。切断されたDNAがGajBを活性化し、最終的にバクテリアを死滅させることでファージの増殖を阻止する。本研究は、バクテリアの巧妙なファージ防御メカニズムを解明しただけでなく、新たな抗菌薬開発への応用も期待される。

事前情報
・バクテリアはファージ感染に対する防御システムを持つ。
・Gabijaは2つのタンパク質GajAとGajBから成るファージ防御システムである。
・GajAはATPの存在下でDNA切断活性が抑制される。

行ったこと
・クライオ電子顕微鏡を用いて、GabijaシステムのGajAとGajBの立体構造を5つの状態で解析した。
・GajAの構造からATP結合によるDNA切断活性の抑制メカニズムを明らかにした。
・GajBがGajAに結合し、切断されたDNAによって活性化されることを示した。

検証方法
クライオ電子顕微鏡解析

分かったこと
・GajAは菱形の四量体で、中心にATPase領域、周辺にToprim領域がある。 ・ATPがATPase領域に結合すると、Toprim領域が閉じた状態になりDNAを切断できなくなる。
・ファージ感染によるATP枯渇でToprim領域が開いた状態になり、DNAを切断できるようになる。
・GajBはGajAに結合し、切断されたDNAによって活性化され、バクテリアを死滅させる。

この研究の面白く独創的なところ
・GabijaシステムのATP依存的な活性制御メカニズムを構造レベルで明らかにした点。
・ファージ感染によるATP枯渇を感知し、防御システムを活性化するという巧妙なメカニズムを解明した点。
・バクテリアの自爆によるファージ増殖阻止という、究極の防御戦略を明らかにした点。

この研究のアプリケーション
・新たな抗菌薬や抗ウイルス薬の開発に応用できる可能性がある。
・Gabijaシステムをバイオテクノロジーに応用し、ファージ耐性を持つ有用バクテリアの開発に役立てられるかもしれない。

著者と所属
Jing Li, Rui Cheng, Zhiming Wang, Wuliu Yuan, Jun Xiao, Xinyuan Zhao, Xinran Du, Shiyu Xia, Lianrong Wang, Bin Zhu, Longfei Wang

さらに詳しく解説
バクテリアとファージの戦いは、何億年もの間続いてきた進化の産物です。バクテリアはファージの感染から身を守るために、様々な防御システムを発達させてきました。中でも、Gabijaシステムは非常に興味深い防御メカニズムを持っています。
Gabijaシステムの主要プレイヤーは、GajAとGajBという2つのタンパク質です。GajAは、DNAを切断する酵素(ヌクレアーゼ)として機能します。しかし、通常の状態ではATPが結合しているため、GajAは不活性な状態に保たれています。ところが、ファージが感染すると、ファージの増殖にATPが大量に消費され、細胞内のATP濃度が低下します。
今回の研究で明らかになったのは、このATP濃度の低下がGabijaシステムを活性化するトリガーになっているということです。クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析により、GajAのATPase領域にATPが結合していない状態では、DNA切断を担うToprim領域が開いた状態になることが分かりました。つまり、ファージ感染によるATP枯渇が、GajAを活性化し、ファージのDNAを切断可能な状態にするのです。
しかし、Gabijaシステムの防御はこれだけでは終わりません。切断されたファージDNAは、もう一方のタンパク質であるGajBを活性化します。活性化されたGajBは、バクテリアの自爆プログラムのようなものを引き起こし、感染したバクテリアを死滅させます。これにより、ファージの増殖を阻止するのです。
このように、Gabijaシステムは、ファージ感染というストレスを巧みに感知し、ATPレベルの低下というシグナルを利用して防御システムを起動させる、非常に洗練されたメカニズムを持っているのです。この研究は、バクテリアとファージの長年の攻防の一端を明らかにしただけでなく、新たな抗菌剤開発への道を開く可能性を秘めています。バクテリアの生存戦略の妙を垣間見ることができる、興味深い研究だと言えるでしょう。



単一レーザーを用いたチップ上の全光学的周波数分割の実現

この研究は、単一のレーザーを用いて光の周波数を分割し、高品質なマイクロ波信号を生成する方法を開発しました。光パラメトリック発振器の信号とアイドラー場の間のテラヘルツビート周波数の安定性を、カー・ソリトンコムのマイクロ波周波数に転送することで、電子的なロックを必要とせずに同期を実現しています。この手法により、16GHzのソリトンコムで46dBの位相雑音低減を達成し、集積フォトニクスプラットフォームで観測された最低のマイクロ波ノイズを実現しました。

事前情報
高品質なマイクロ波信号の生成は、基礎科学や応用科学において重要な機能であり、計測や通信などの分野で活用されています。光周波数コムを用いた光周波数分割(OFD)は、最高品質のマイクロ波発振を生成する強力な技術ですが、現在の実装では複数のレーザーや大型の光学・電子部品が必要であり、コンパクトで堅牢なフォトニクスプラットフォームへの統合が困難でした。

行ったこと
この研究では、単一の連続波レーザーでポンピングされたカー・マイクロレゾネータの2つの異なる動的状態を同期させることにより、フォトニックチップ上で全光学的なOFDを実現しました。光パラメトリック発振器の信号とアイドラー場の間の安定したテラヘルツビート周波数を、カー・ソリトンコムのマイクロ波周波数に転送し、結合導波路を介して電子的なロックを必要とせずに同期を達成しています。

検証方法
227GHzと16GHzのソリトンコムに対して、それぞれN=34とN=468のOFD因子を達成しました。特に、16GHzのソリトンコムでは、OFDにより46dBの位相雑音低減を実現し、集積フォトニクスプラットフォームで観測された最低のマイクロ波ノイズを達成しました。

分かったこと
この研究は、OFDを実行するためのシンプルで効果的なアプローチを示しており、計測研究所で生成される最高純度の音に匹敵するマイクロ波周波数を生成できるチップスケールデバイスへの道を開くものです。

この研究の面白く独創的なところ
この研究の独創的な点は、単一のレーザーとチップ上の光学素子だけを用いて、高品質なマイクロ波信号を生成する方法を開発したことです。従来の方法では複数のレーザーや大型の光学・電子部品が必要でしたが、この研究ではそれらを必要とせずに、コンパクトかつ安定した方法でOFDを実現しています。光の性質を巧みに利用することで、電子的なロックを必要とせずに高品質なマイクロ波を生成できる点が非常に面白いです。

この研究のアプリケーション
この研究で開発された技術は、高品質なマイクロ波信号を必要とする様々な分野で応用が期待されます。例えば、高精度な時間・周波数標準の実現、高速・大容量の無線通信システムの開発、レーダーやセンシング技術の高度化などが考えられます。また、チップスケールのデバイスで高品質なマイクロ波を生成できるようになることで、ポータブルな計測機器や通信機器の開発にも貢献すると期待されます。

著者と所属
Yun Zhao, Jae K. Jang, Garrett J. Beals, Karl J. McNulty, Xingchen Ji, Yoshitomo Okawachi, Michal Lipson, Alexander L. Gaeta

詳しい解説
この研究は、光の周波数を分割して高品質なマイクロ波信号を生成する新しい方法を開発しました。従来の方法では、複数のレーザーや大型の光学・電子部品が必要であり、コンパクトなフォトニクスプラットフォームへの統合が困難でした。しかし、この研究では単一のレーザーとチップ上の特殊な光学素子だけを用いて、全光学的な周波数分割を実現しています。
具体的には、単一の連続波レーザーでポンピングされたカー・マイクロレゾネータの2つの異なる動的状態(光パラメトリック発振器とカー・ソリトンコム)を同期させることで、光周波数分割を行っています。光パラメトリック発振器の信号とアイドラー場の間の安定したテラヘルツビート周波数を、カー・ソリトンコムのマイクロ波周波数に転送し、結合導波路を介して電子的なロックを必要とせずに同期を達成しているのです。
この手法により、227GHzと16GHzのソリトンコムに対して、それぞれN=34とN=468の周波数分割因子を達成しました。特に、16GHzのソリトンコムでは、光周波数分割により46dBもの位相雑音低減を実現し、集積フォトニクスプラットフォームで観測された最低のマイクロ波ノイズを達成しています。
この研究は、光周波数分割を実行するためのシンプルで効果的なアプローチを示しており、計測研究所で生成される最高純度の音に匹敵するマイクロ波周波数を生成できるチップスケールデバイスへの道を開くものです。高品質なマイクロ波信号を必要とする様々な分野で応用が期待され、高精度な時間・周波数標準の実現、高速・大容量の無線通信システムの開発、レーダーやセンシング技術の高度化などに貢献すると考えられます。
この研究の独創的な点は、光の性質を巧みに利用して、単一のレーザーとチップ上の光学素子だけで高品質なマイクロ波を生成できる点にあります。従来の方法とは異なるアプローチで、コンパクトかつ安定した光周波数分割を実現した点が非常に面白く、今後の応用展開が楽しみな研究成果だと言えるでしょう。

最後に
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