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論文まとめ286回目 SCIENCE 植物は香りでコミュニケーション!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなSCIENCEです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Volatile communication in plants relies on a KAI2-mediated signaling pathway
植物における揮発性物質を介したコミュニケーションは、KAI2を介したシグナル伝達経路に依存している
「植物は、お互いにコミュニケーションを取り合っていることをご存知ですか?植物は、空気中に揮発性の化合物を放出することで、他の植物や微生物とメッセージをやり取りしているのです。でも、植物がどのようにしてこれらの化合物を感知し、情報交換しているのかは、あまりよくわかっていませんでした。
この研究では、ペチュニアの花を使って、植物が揮発性のテルペノイドという化合物をどのように感知するのかを調べました。すると、PhKAI2iaという受容体が、(−)-ゲルマクレンDという特定の揮発性物質を立体特異的に感知し、シグナル伝達を引き起こすことが明らかになったのです。
つまり、植物には特定の揮発性物質を感知する「鼻」のようなものがあり、それを使って他の植物とコミュニケーションを取っているということです。この発見は、植物の嗅覚や、植物同士のコミュニケーションのメカニズムを理解する上で、大きな一歩となるでしょう。」

Overcoming limitations in propane dehydrogenation by codesigning catalyst-membrane systems
触媒-膜システムの協調設計によるプロパン脱水素反応の限界の克服
「プロパンからプロピレンを作る反応は、高温を必要とし、効率が悪いという問題がありました。そこで、この研究では、プラチナとスズを組み合わせた高選択性触媒と、シリカ・アルミナ製の中空糸状水素膜を組み合わせたシステムを開発しました。この触媒-膜システムでは、反応で生成した水素を膜で取り除くことで、プロパンの転化率を平衡転化率の140%以上に向上させることができ、しかも98%以上の高い選択性を維持できました。さらに、膜の外側で水素を酸素と反応させて水を生成することで、熱を発生させ、内側の吸熱反応を促進することもできました。つまり、触媒と膜を巧みに組み合わせることで、効率的かつ環境にやさしいプロピレン製造が可能になったのです。」

Stable quantum-correlated many-body states through engineered dissipation
エンジニアリングされた散逸による安定な量子相関多体状態の生成
「量子コンピュータは、従来のコンピュータでは困難な複雑な問題を解くことができる可能性を秘めています。この研究では、量子コンピュータを使って、多数の量子ビットからなる系を制御し、量子力学特有の相関を持つ状態を作り出すことに成功しました。
通常、量子ビットを操作するには、精密な制御が必要で、ノイズの影響を受けやすいという問題がありました。しかし、この研究では、量子ビットを適切に設計された環境と相互作用させることで、自然と目的の状態に近づけるという、エンジニアリングされた散逸という手法を用いています。
これにより、1次元では18個の量子ビットで長距離の量子相関を、2次元でも近接する量子ビット間を超えた相関を観測することに成功しました。また、異なる化学ポテンシャルを持つ環境と相互作用させることで、量子伝導の研究にも応用できることを示しました。
この研究は、ノイズの多い量子コンピュータでも、エンジニアリングされた散逸を用いることで、量子シミュレーションに有用な多体量子もつれ状態を生成できることを実証しており、量子コンピュータの実用化に向けた重要な一歩となっています。」

The propensity for covalent organic frameworks to template polymer entanglement
共有結合性有機構造体によるポリマー絡み合いの誘導傾向
「分子レベルで織り込まれた特殊な構造体(COF)を、プラスチックの一種であるポリマーに混ぜ込むことで、強度や靭性などの性能が大幅に向上した新しい材料が開発されました。この材料は、COFの細かい孔にポリマーの鎖が入り込むことで、両者が絡み合い、強固な結合を形成しているのが特徴です。まるで、ラーメンの麺が絡まって一つになっているようなイメージですね。この絡み合いによって、材料に力が加わった時に、ポリマーの鎖が引き抜かれながらエネルギーを吸収し、材料の割れや破壊を防ぐことができるのです。ちょうど、クモの巣が外力に対して粘り強く耐えられるのと同じ原理ですね。この研究は、少量のCOFを添加するだけで、プラスチック材料の性能を飛躍的に高められる可能性を示しており、今後の材料開発に大きな影響を与えそうです。」

Efficient formation of single-copy human artificial chromosomes
ヒト人工染色体の単一コピーを効率的に形成する手法
「染色体は、生物の遺伝情報を担う重要な構造体です。バクテリアや酵母では、人工的な染色体を作ることができますが、ヒトを含む高等生物では、染色体の構造がより複雑なため、人工染色体の作製は困難でした。この研究では、ヒトの細胞内で安定して維持され、複製できる単一コピーの人工染色体を効率的に作製する新しい方法を開発しました。この手法は、内部と外部でそれぞれ異なるクロマチン構造を持つ約75万塩基対の大きな構造体を用いることで、導入時の多量体化を回避しています。さらに、酵母の細胞融合を利用することで、ヒト細胞への導入を簡便化しました。この研究は、ヒトを含む多細胞生物における染色体工学の発展に大きく貢献するものです。」



要約

植物における揮発性物質を介したコミュニケーションの新しいメカニズムの発見

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adl4685

本研究は、ペチュニアの生殖器官の発達をモデルとして、植物における揮発性物質の感知と下流のシグナル伝達のメカニズムを明らかにしました。ペチュニアのKAI2ホモログであるPhKAI2iaが、(−)-ゲルマクレンDという揮発性物質を立体特異的に感知し、KAI2を介したシグナル伝達カスケードを引き起こすことが示されました。この経路の一部を阻害すると、揮発性物質を介したコミュニケーションや植物の適応度に影響が出ることも明らかになりました。

事前情報

  • 植物は、植物間コミュニケーション、植物内のセルフシグナリング、植物-微生物相互作用の際に、揮発性有機化合物(VOC)を放出している。

  • VOCの感知と下流のシグナル伝達は、植物における情報交換のメカニズムを解明する上で重要だが、ほとんど解明されていない。

行ったこと

  • ペチュニアの生殖器官の発達をモデルとして、揮発性テルペノイドの感知と下流のシグナル伝達のメカニズムを調べた。

  • 遺伝学的、生化学的実験により、PhKAI2ia受容体と下流のシグナル伝達タンパク質、転写ターゲットとの関連を明らかにした。

  • これらの因子の一部の機能を阻害し、揮発性物質を介したコミュニケーションや植物の適応度への影響を調べた。

検証方法

  • ペチュニアのPhKAI2ia受容体が、(−)-ゲルマクレンDを立体特異的に感知することを、遺伝学的、生化学的実験により示した。

  • PhKAI2iaと下流のシグナル伝達タンパク質、転写ターゲットとの関連を明らかにした。

  • これらの因子の一部の機能を阻害し、揮発性物質を介したコミュニケーションや植物の適応度への影響を調べた。

分かったこと

  • ペチュニアのPhKAI2ia受容体が、(−)-ゲルマクレンDを立体特異的に感知し、KAI2を介したシグナル伝達カスケードを引き起こす。

  • このシグナル伝達経路が、揮発性物質を介したコミュニケーションや植物の適応度に関与している。

  • KAI2の中間クレードの受容体の役割が明らかになった。

  • 植物の嗅覚と、KAI2の内因性リガンドの性質に関する新しい洞察が得られた。

この研究の面白く独創的なところ

  • 植物の生殖器官の発達をモデルとして、揮発性物質の感知と下流のシグナル伝達のメカニズムを明らかにした点。

  • 特定の揮発性物質を立体特異的に感知する受容体を同定した点。

  • 植物の嗅覚と、植物間コミュニケーションのメカニズムに新しい洞察を与えた点。

この研究のアプリケーション

  • 植物の揮発性物質を介したコミュニケーションのメカニズムの理解に役立つ。

  • 植物の嗅覚と、植物-微生物相互作用の理解に役立つ。

  • 植物の適応度向上につながる可能性がある。

著者と所属
Shannon A. Stirling, Angelica M. Guercio, Ryan M. Patrick, Xing-Qi Huang, Matthew E. Bergman, Varun Dwivedi, Ruy W. J. Kortbeek, Yi-Kai Liu, Fuai Sun, W. Andy Tao, Ying Li, Benoît Boachon, Nitzan Shabek, Natalia Dudareva

詳しい解説
植物は、空気中に揮発性有機化合物(VOC)を放出することで、植物間のコミュニケーション、植物内のセルフシグナリング、植物-微生物相互作用を行っています。しかし、植物がどのようにしてこれらのVOCを感知し、情報交換しているのかは、あまりよくわかっていませんでした。
この研究では、ペチュニアの生殖器官の発達をモデルとして、揮発性テルペノイドという化合物の感知と下流のシグナル伝達のメカニズムを調べました。遺伝学的、生化学的実験により、ペチュニアのKAI2ホモログであるPhKAI2iaが、(−)-ゲルマクレンDという特定の揮発性物質を立体特異的に感知し、KAI2を介したシグナル伝達カスケードを引き起こすことが明らかになりました。
さらに、このシグナル伝達経路の一部の因子の機能を阻害すると、揮発性物質を介したコミュニケーションや植物の適応度に影響が出ることも示されました。
この発見は、植物の嗅覚や、植物同士のコミュニケーションのメカニズムを理解する上で大きな一歩となります。また、KAI2の中間クレードの受容体の役割や、KAI2の内因性リガンドの性質に関する新しい洞察も得られました。
この研究は、植物の揮発性物質を介したコミュニケーションのメカニズムの理解に役立つだけでなく、植物の嗅覚や、植物-微生物相互作用の理解にも役立つでしょう。さらに、この知見は植物の適応度向上につながる可能性もあります。
植物の世界には、まだまだ私たちが知らないコミュニケーションの方法があるのかもしれません。この研究は、植物の隠れた能力を明らかにする興味深い一歩だと言えるでしょう。


触媒と膜を組み合わせることで、プロパン脱水素反応の効率を大幅に向上させることに成功

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adh3712

この研究では、プロパン脱水素反応の効率を向上させるために、高選択性のPt-Sn/SiO2触媒とSiO2/Al2O3中空糸状水素膜を組み合わせたシステムを開発しました。この触媒-膜システムにより、平衡転化率の140%以上のプロパン転化率と98%以上のプロピレン選択性を達成し、システムの劣化もありませんでした。さらに、膜の外側で水素を酸素と反応させることで、内側の吸熱反応を促進し、システムの熱中立な操作も可能になりました。

事前情報
プロピレンは高分子合成の重要な原料であり、需要を満たすための代替供給源が必要とされています。従来のプロパン脱水素反応では、高温が必要なため、選択性が低く、炭素析出による触媒の劣化が深刻な問題となっています。

行ったこと Pt1Sn1/SiO2選択性触媒をSiO2/Al2O3中空糸状水素膜の内側に充填し、管側から水素が拡散して殻側に移動する触媒-膜システムを開発しました。また、殻側で酸素を導入し、管側の吸熱性PDH反応と殻側の発熱性水素酸化反応を連携させました。

検証方法
開発した触媒-膜システムを用いて、プロパン転化率、プロピレン選択性、システムの劣化の有無を評価しました。また、殻側での水素酸化反応による水素輸送速度の向上と、システムの熱中立な操作の可能性を検証しました。

分かったこと
触媒-膜システムにより、平衡転化率の140%以上のプロパン転化率と98%以上のプロピレン選択性を達成し、システムの劣化もありませんでした。さらに、殻側での水素酸化反応により、水素輸送速度が向上し、プロパン転化率がさらに向上しました。また、システムの熱中立な操作も可能になりました。

この研究の面白く独創的なところ
触媒と膜を巧みに組み合わせることで、従来の反応の限界を克服し、高効率かつ高選択性のプロパン脱水素反応を実現した点が独創的です。さらに、吸熱反応と発熱反応を連携させることで、システムの熱中立な操作を可能にした点も面白いアイデアだと思います。

この研究のアプリケーション
この研究で開発された触媒-膜システムは、プロピレンの効率的かつ環境にやさしい製造方法として、工業的に応用可能です。また、この概念は他の吸熱性反応にも適用できる可能性があり、幅広い化学プロセスの効率化に貢献すると期待されます。

著者と所属
Rawan Almallahi, James Wortman, Suljo Linic 所属: Department of Chemical Engineering, University of Michigan, Ann Arbor, MI, USA

詳しい解説
プロピレンは、プラスチック、繊維、医薬品など様々な製品の原料として非常に重要な化学物質です。従来、プロピレンは主に石油の分留によって得られていましたが、シェールガス革命以降、安価で豊富に供給されるプロパンを原料とするプロパン脱水素反応(PDH)によるプロピレン製造が注目されています。しかし、PDH反応は吸熱反応であり、高温(600〜700℃)を必要とするため、エネルギー効率が低く、副反応による選択性の低下や炭素析出による触媒の劣化が問題となっています。
この研究では、これらの問題を解決するために、高選択性のPt-Sn/SiO2触媒とSiO2/Al2O3中空糸状水素膜を組み合わせた革新的な触媒-膜システムを開発しました。この システムでは、触媒層で生成した水素を膜で選択的に取り除くことで、平衡転化率の限界を超えるプロパン転化率を達成することができます。実際に、開発したシステムでは、平衡転化率の140%以上のプロパン転化率と98%以上のプロピレン選択性を達成し、しかも長時間の運転でもシステムの劣化は見られませんでした。
さらに、この研究では、膜の外側(殻側)で水素を酸素と反応させて水を生成することで、熱を発生させ、内側(管側)の吸熱性PDH反応を促進するという、もう一つの画期的なアイデアを提案しています。この方法により、水素輸送速度がさらに向上し、プロパン転化率の一層の向上が可能になりました。また、吸熱反応と発熱反応を連携させることで、システム全体の熱中立な操作も可能になり、エネルギー効率の大幅な改善が期待できます。
この研究で開発された触媒-膜システムは、プロピレンの効率的かつ環境にやさしい製造方法として、工業的に大きな可能性を秘めています。また、この概念は他の吸熱性反応にも適用できる可能性があり、幅広い化学プロセスの効率化に貢献すると期待されます。今後、実用化に向けたスケールアップや長期安定性の検証などが進められることで、この技術が化学産業に革新をもたらすことが期待されます。


量子コンピュータを用いた、エンジニアリングされた散逸による多体量子系の量子相関状態の生成

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adh9932

この研究では、超伝導量子ビットを用いて、エンジニアリングされた散逸により、多体量子系の低エネルギー状態を生成することに成功しました。1次元では18量子ビットで長距離の量子相関が、2次元でも近接を超えた相互情報が観測されました。また、異なる化学ポテンシャルを持つ環境と結合させることで、量子ハイゼンベルグモデルにおける輸送現象の研究も行われました。これらの結果は、ノイズの多い量子プロセッサ上でも、エンジニアリングされた散逸が量子もつれ多体状態を生成するためのスケーラブルな方法であることを示しています。

事前情報

  • 多体量子系の量子相関状態は、高温超伝導や量子磁性の量子シミュレーションに有用である。

  • 量子コンピュータや量子シミュレータを用いて多体量子物理を研究するには、量子相関多体状態の生成が必要。

  • 系から励起を繰り返し取り除く外部リザーバを用いる散逸冷却は有望だが、実験的に難しい。

行ったこと

  • 最大49個の超伝導量子ビットを用いて、散逸的な補助量子ビットと結合させることで、横磁場イジングモデルの低エネルギー状態を生成。

  • 1次元では18量子ビットで臨界点における基底状態の忠実度0.86を達成し、長距離量子相関を観測。

  • 2次元では最近接を超えた相互情報を発見。

  • 異なる化学ポテンシャルを模擬した環境に系を結合させ、量子ハイゼンベルグモデルにおける輸送現象を探索。

検証方法

  • 超伝導量子ビットを用いた量子プロセッサを使用。

  • 散逸的な補助量子ビットと結合させることで、横磁場イジングモデルの低エネルギー状態を生成。

  • 1次元、2次元の系で量子相関を測定。

  • 異なる化学ポテンシャルを模擬した環境との結合による輸送現象の探索。

分かったこと

  • エンジニアリングされた散逸により、ノイズの多い量子プロセッサ上でも、量子もつれ多体状態を生成できる。

  • 1次元では長距離量子相関、2次元では近接を超えた相互情報が観測された。

  • 異なる化学ポテンシャルを持つ環境との結合により、量子ハイゼンベルグモデルにおける輸送現象の研究が可能。

この研究の面白く独創的なところ

  • エンジニアリングされた散逸という手法を用いて、ノイズの多い量子プロセッサ上でも量子もつれ多体状態を生成できることを実証した点。

  • 1次元、2次元の系で量子相関を観測し、散逸冷却の有効性を示した点。

  • 異なる化学ポテンシャルを持つ環境との結合により、量子輸送現象の研究への応用可能性を示した点。

この研究のアプリケーション

  • 高温超伝導や量子磁性の量子シミュレーション。

  • 量子コンピュータや量子シミュレータを用いた多体量子物理の研究。

  • 量子輸送現象の研究。

著者と所属
X. MI, A. A. Michailidis, S. Shabani, K. C. Miao, P. V. Klimov, J. Lloyd, E. Rosenberg, R. Acharya, I. Aleiner, T. I. Andersen, M. Ansmann, F. Arute, K. Arya, A. Asfaw, J. Atalaya, J. C. Bardin, A. Bengtsson, G. Bortoli, A. Bourassa, J. Bovaird, L. Brill, M. Broughton, B. B. Buckley, D. A. Buell, T. Burger, B. Burkett, N. Bushnell, Z. Chen, B. Chiaro, D. Chik, C. Chou, J. Cogan, R. Collins, P. Conner, W. Courtney, A. L. Crook, B. Curtin, A. G. Dau, D. M. Debroy, A. Del Toro Barba, S. Demura, A. Di Paolo, I. K. Drozdov, A. Dunsworth, C. Erickson, L. Faoro, E. Farhi, R. Fatemi, V. S. Ferreira, L. F. Burgos, E. Forati, A. G. Fowler, B. Foxen, É. Genois, W. Giang, C. Gidney, D. Gilboa, M. Giustina, R. Gosula, J. A. Gross, S. Habegger, M. C. Hamilton, M. Hansen, M. P. Harrigan, S. D. Harrington, P. Heu, M. R. Hoffmann, S. Hong, T. Huang, A. Huff, W. J. Huggins, L. B. Ioffe, S. V. Isakov, J. Iveland, E. Jeffrey, Z. Jiang, C. Jones, P. Juhas, D. Kafri, K. Kechedzhi, T. Khattar, M. Khezri, M. Kieferová, S. Kim, A. Kitaev, A. R. Klots, A. N. Korotkov, F. Kostritsa, J. M. Kreikebaum, D. Landhuis, P. Laptev, K.-M. Lau, L. Laws, J. Lee, K. W. Lee, Y. D. Lensky, B. J. Lester, A. T. Lill, W. Liu, A. Locharla, F. D. Malone, O. Martin, J. R. McClean, M. McEwen, A. Mieszala, S. Montazeri, A. Morvan, R. Movassagh, W. Mruczkiewicz, M. Neeley, C. Neill, A. Nersisyan, M. Newman, J. H. Ng, A. Nguyen, M. Nguyen, M. Y. Niu, T. E. O'Brien, A. Opremcak, A. Petukhov, R. Potter, L. P. Pryadko, C. Quintana, C. Rocque, N. C. Rubin, N. Saei, D. Sank, K. Sankaragomathi, K. J. Satzinger, H. F. Schurkus, C. Schuster, M. J. Shearn, A. Shorter, N. Shutty, V. Shvarts, J. Skruzny, W. C. Smith, R. Somma, G. Sterling, D. Strain, M. Szalay, A. Torres, G. Vidal, B. Villalonga, C. V. Heidweiller, T. White, B. W. K. Woo, C. Xing, Z. J. Yao, P. Yeh, J. Yoo, G. Young, A. Zalcman, Y. Zhang, N. Zhu, N. Zobrist, H. Neven, R. Babbush, D. Bacon, S. Boixo, J. Hilton, E. Lucero, A. Megrant, J. Kelly, Y. Chen, P. Roushan, V. Smelyanskiy, D. A. Abanin

詳しい解説
量子コンピュータは、量子力学の原理を利用して計算を行うことで、従来のコンピュータでは困難な複雑な問題を解くことができる可能性を秘めています。しかし、量子コンピュータを実現するためには、多数の量子ビットを精密に制御し、量子力学特有の相関を持つ状態を作り出す必要があります。
通常、量子ビットを操作するには、レーザーやマイクロ波などを用いた精密な制御が必要で、環境からのノイズの影響を受けやすいという問題がありました。この研究では、量子ビットを適切に設計された環境と相互作用させることで、自然と目的の状態に近づけるという、エンジニアリングされた散逸という手法を用いています。
具体的には、超伝導量子ビットを用いた量子プロセッサを使用し、散逸的な補助量子ビットと結合させることで、横磁場イジングモデルの低エネルギー状態を生成しました。1次元では18個の量子ビットで臨界点における基底状態の忠実度0.86を達成し、長距離の量子相関を観測することに成功しました。2次元でも、近接する量子ビット間を超えた相互情報を観測しました。
さらに、異なる化学ポテンシャルを持つ環境と量子ビットを相互作用させることで、量子ハイゼンベルグモデルにおける輸送現象の研究にも応用できることを示しました。
この研究は、ノイズの多い量子コンピュータでも、エンジニアリングされた散逸を用いることで、量子シミュレーションに有用な多体量子もつれ状態を生成できることを実証しており、量子コンピュータの実用化に向けた重要な一歩となっています。高温超伝導や量子磁性の解明、量子輸送現象の研究など、様々な分野への応用が期待されます。


共有結合性有機構造体(COF)とポリマーの複合化による高性能材料の開発

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adf2573

共有結合性有機構造体(COF)とポリマーを複合化することで、両者の界面に特殊な結合(ポリマー-COFジャンクション)が形成され、複合材料の力学特性が向上することが明らかになった。

事前情報

  • 共有結合性有機構造体(COF)は、分子レベルで織り込まれた多孔質の結晶性材料である。

  • COFは、その規則的な構造と高い比表面積から、ガス吸着や触媒、センサーなどへの応用が期待されている。

行ったこと

  • 分子レベルで織り込まれた3次元COFを、異なるタイプのポリマー(非晶性・脆性のポリメチルメタクリレートと液晶性ポリイミド)と複合化した。

  • 複合材料の構造と力学特性を評価し、COFとポリマーの相互作用様式が及ぼす影響を調べた。

検証方法

  • 複合材料の構造解析:走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、X線回折(XRD)など

  • 力学特性評価:引張試験、破壊靭性試験など

分かったこと

  • 液晶性ポリイミドとCOFの複合化では、ポリマー鎖がCOFの細孔に入り込み、ポリマー-COFジャンクションが形成された。

  • このジャンクションにより、応力下でポリマー鎖が引き抜かれ、高アスペクト比のナノフィブリルが生成し、破壊の際のエネルギー散逸に寄与した。

  • 一方、非晶性・脆性ポリマーであるポリメチルメタクリレートとCOFの複合化では、表面的な相互作用のみが観察された。

  • ポリマー-COFジャンクションの形成には、ポリマー鎖とCOFの親和性が重要であることが示唆された。

この研究の面白く独創的なところ COFとポリマーの複合化において、ポリマー鎖がCOFの細孔に入り込むことで形成されるポリマー-COFジャンクションという新しい相互作用様式を見出し、それが複合材料の力学特性向上に重要な役割を果たすことを明らかにした点が独創的である。
この研究のアプリケーション

  • 少量のCOF添加で高性能化が達成できることから、構造材料や機能材料への応用が期待される。

  • ポリマー-COFジャンクションの形成メカニズムを理解することで、さらなる材料設計の指針が得られる可能性がある。

著者と所属
S. Ephraim Neumann, Junpyo Kwon, Cornelius Gropp, Le Ma, Raynald Giovine, Tianqiong Ma, Nikita Hanikel, Kaiyu Wang, Tiffany Chen, Shaan Jagani, Robert O. Ritchie, Ting Xu, Omar M. Yaghi

詳しい解説
この研究では、共有結合性有機構造体(COF)とポリマーを複合化することで、両者の界面に特殊な結合(ポリマー-COFジャンクション)が形成され、複合材料の力学特性が向上することが明らかになりました。
COFは、有機分子が共有結合で規則的に連結された多孔質の結晶性材料で、その細孔構造や高比表面積から、様々な応用が期待されています。一方、ポリマーは、プラスチックの主成分であり、軽量で加工性に優れた材料として広く使用されています。
研究グループは、分子レベルで織り込まれた3次元COFを、非晶性・脆性のポリメチルメタクリレート(PMMA)と液晶性ポリイミド(PI)という性質の異なる2種類のポリマーと複合化し、その構造と力学特性を評価しました。
PMMACOFの複合材料では、COF表面でのポリマーとの相互作用のみが観察されました。一方、PICOFの複合材料では、ポリマー鎖がCOFの細孔内に入り込み、ポリマー-COFジャンクションが形成されていました。このジャンクションにより、応力下でポリマー鎖が引き抜かれる際に、高アスペクト比のナノフィブリルが生成し、破壊の際のエネルギー散逸に寄与することが明らかになりました。
また、ポリマー-COFジャンクションの形成には、ポリマー鎖とCOFの親和性が重要であることが示唆されました。PIは液晶性ポリマーであり、COFと化学的に類似した構造を持つため、COFの細孔内に入り込みやすいと考えられます。
この研究は、COFとポリマーの複合化において、ポリマー-COFジャンクションという新しい相互作用様式を見出し、それが複合材料の力学特性向上に重要な役割を果たすことを明らかにしました。さらに、少量のCOF添加で高性能化が達成できることから、構造材料や機能材料への応用が期待されます。



ヒト人工染色体の効率的な単一コピー形成を可能にする新手法の開発

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adj3566

この研究では、ヒト細胞内で安定して維持され、複製できる単一コピーの人工染色体を効率的に作製する新しい方法を開発しました。約75万塩基対の大きな構造体を用いることで、導入時の多量体化を回避し、酵母の細胞融合を利用してヒト細胞への導入を簡便化しました。

事前情報

  • バクテリアや酵母では、人工染色体の作製が可能だが、ヒトを含む高等生物では染色体構造がより複雑なため、人工染色体の作製が困難である。

  • 従来のヒト人工染色体(HAC)は、導入時に多量体化が起こるという問題があった。

行ったこと

  • 内部と外部でそれぞれ異なるクロマチン構造を持つ約75万塩基対の大きな構造体を設計し、単一コピーのHACを作製した。

  • 酵母の細胞融合を利用して、ヒト細胞へのHAC導入を簡便化した。

検証方法

  • 作製したHACがヒト細胞内で安定して維持され、複製されることを確認した。

分かったこと

  • 約75万塩基対の大きな構造体を用いることで、導入時の多量体化を回避できる。

  • 酵母の細胞融合を利用することで、ヒト細胞へのHAC導入が簡便化できる。

  • この手法により、ヒト細胞内で安定して維持され、複製できる単一コピーのHACを効率的に作製できる。

この研究の面白く独創的なところ

  • 従来のHAC作製の問題点である多量体化を、大きな構造体を用いることで回避した点が独創的である。

  • 酵母の細胞融合を利用してHACのヒト細胞への導入を簡便化した点が面白い。

この研究のアプリケーション

  • この手法は、ヒトを含む多細胞生物における染色体工学の発展に大きく貢献する。

  • HACを用いた遺伝子治療や、ヒト細胞における遺伝子機能の解析などへの応用が期待される。

著者と所属
Craig W. Gambogi, Gabriel J. Birchak, Elie Mer, David M. Brown, George Yankson, Kathryn Kixmoeller, Janardan N. Gavade, Josh L. Espinoza, Prakriti Kashyap, Chris L. Dupont, Glennis A. Logsdon, Patrick Heun, John I. Glass, Ben E. Black 

詳しい解説
染色体は、生物の遺伝情報を担う重要な構造体であり、その構造と機能を理解することは、生命科学における重要な課題の一つです。バクテリアや酵母では、人工的な染色体を作製することが可能であり、遺伝子工学や合成生物学の分野で広く利用されています。一方、ヒトを含む高等生物では、染色体の構造がより複雑であるため、人工染色体の作製は困難でした。
従来のヒト人工染色体(HAC)の作製では、セントロメアのエピジェネティクスを利用することで、染色体の継承を可能にしていましたが、導入時に多量体化が起こるという問題がありました。多量体化とは、導入したDNA分子が複数結合してしまう現象で、これにより染色体の安定性が低下してしまいます。
この研究では、約75万塩基対の大きな構造体を設計することで、この問題を解決しました。この構造体は、内部と外部でそれぞれ異なるクロマチン構造を持っており、セントロメア領域に存在する異なるクロマチンタイプを収容するのに十分な大きさを持っています。これにより、多量体化を回避する必要がなくなります。
また、この研究では、酵母の細胞融合を利用することで、HACのヒト細胞への導入を簡便化しました。従来の方法では、HACをヒト細胞に導入する際に、特殊な技術や装置が必要でしたが、この手法では、酵母の細胞融合を利用することで、簡便かつ効率的にHACをヒト細胞に導入することができます。
この研究で開発された手法は、ヒト細胞内で安定して維持され、複製できる単一コピーのHACを効率的に作製することを可能にします。これにより、ヒトを含む多細胞生物における染色体工学の発展に大きく貢献すると期待されます。例えば、HACを用いた遺伝子治療や、ヒト細胞における遺伝子機能の解析などへの応用が考えられます。
今後、この手法がさらに発展し、ヒトを含む様々な生物種で人工染色体の作製が可能になれば、生命科学研究や医療分野に大きなインパクトを与えることでしょう。


最後に
本まとめは、フリーで公開されている範囲の情報のみで作成しております。また、理解が不十分な為、内容に不備がある場合もあります。その際は、リンクより本文をご確認することをお勧めいたします。