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論文まとめ283回目 Nature 骨髄中の造血幹細胞から血液ができあがる過程を明らか!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

The hidden fitness of the male zebra finch courtship song
オスのゼブラフィンチの求愛歌に隠された適応度
「多くの鳴禽類のオスは、メスを魅了するために複雑で多様な歌を歌います。しかし、一部の種では、一生涯でたった一つの歌しか学習しません。この研究は、シンプルな歌がどのようにしてメスに魅力的になるのかを解明しました。
ゼブラフィンチのオスの歌を分析したところ、歌を構成する音節が、音響的・時間的に明確に区別されている場合、メスはその歌を好むことがわかりました。また、若いオスにとって、そのような歌を習得することは難しいことも判明しました。つまり、シンプルな歌でも、質の高さがメスに伝わり、オスの適応度を示すシグナルとして機能するのです。
この発見は、鳴禽類の歌の進化を理解する上で重要な手がかりとなります。また、性淘汰が音声学習に与える影響の多様性も示唆しています。」

Evidence of the fractional quantum spin Hall effect in moiré MoTe2
モアレMoTe2における分数量子スピンホール効果の証拠
「量子スピンホール絶縁体は、内部は絶縁体でありながら、端にはスピンの向きが反対の特殊な伝導チャネルを持つ不思議な2次元物質です。これまでは、端に上向きスピンと下向きスピンが1対ずつ流れる「整数」量子スピンホール効果しか見つかっていませんでした。
ところが今回、MoTe2の2層構造を特殊な角度でねじることで、端に上向きスピンと下向きスピンが1.5対ずつ流れる「分数」量子スピンホール効果を発見しました。これは、端の伝導チャネルがスピンの向きによって分数の値を取ることを意味します。
さらに、ねじり角を変えることで、端に流れるスピンの対の数を1対、2対、3対と自在に制御できることも分かりました。この発見は、新しいタイプのトポロジカル物質の実現に道を開くものです。」

Venous-plexus-associated lymphoid hubs support meningeal humoral immunity
静脈叢関連リンパハブが髄膜の液性免疫を支える
「脳と脊髄を覆う硬い膜「硬膜」に、血管やリンパ管が集まる特別な場所があることを発見しました。この場所には、免疫細胞が集まってリンパ組織を形成しており、「硬膜関連リンパ組織(DALT)」と名付けられました。
特に、脳の前部にある静脈の合流点周辺のDALTは、「吻側鼻静脈リンパハブ」と呼ばれ、頭蓋骨の骨髄やリンパ管とつながっていました。このハブには、B細胞という免疫細胞が集まり、ウイルスなどの侵入者に対する抗体を素早く作り出すことができます。
鼻から侵入したウイルスに対しても、このハブのB細胞が活性化され、抗体を産生することが確認されました。また、このハブへの免疫細胞の流入を阻害すると、抗体産生が抑えられることも分かりました。」

Resilient anatomy and local plasticity of naive and stress haematopoiesis ナイーブおよびストレス下の造血における堅牢な解剖学と局所的な可塑性
「私たちの体の中で、血液細胞は骨の中心部にある骨髄で作られています。造血幹細胞という特殊な細胞が分裂と分化を繰り返し、赤血球、白血球、血小板などを生み出すのです。
この研究では、マウスの骨髄を丸ごと観察できる特殊な顕微鏡技術を使って、骨髄内で造血幹細胞から成熟した血液細胞ができあがっていく過程を、3次元的に可視化することに成功しました。
その結果、造血幹細胞は骨髄内で巨核球という大型の細胞の近くに集まっていること、血液細胞の種類ごとに決まった場所で産生されていること、感染や出血などのストレスに応じて産生場所の数や働きが変化することなどが明らかになりました。
さらに驚くべきことに、骨の種類によってストレスへの反応が異なることも分かりました。例えば、G-CSFという薬を投与すると、脚の骨では好中球が増えるのに、胸骨では逆に減少したのです。」

Transcription–replication conflicts underlie sensitivity to PARP inhibitors 転写-複製の衝突がPARP阻害剤の感受性の基盤となる
「がん治療において重要な進歩の一つが、PARP阻害剤の開発です。PARP阻害剤は、DNAの修復に関わるPARP酵素の働きを阻害します。特に、DNA修復の一種であるホモロガス組換え(HR)が欠損しているがん細胞に対して、PARP阻害剤が効果的であることが知られています。
本研究では、PARP阻害剤がHR欠損のがん細胞に対して効果的である理由を探りました。その結果、PARP1というタンパク質が、TIMELESSやTIPINというタンパク質と協働して、DNAの複製と転写の衝突(TRC)を防いでいることが分かりました。PARP阻害剤は、PARP1の酵素活性を阻害することでTRCを引き起こし、その結果生じるDNA損傷がHR欠損細胞では修復されず、細胞死に至ることが示唆されました。
この発見は、PARP阻害剤の作用機序の理解を深めるだけでなく、将来的にはPARP阻害剤の効果を最大化し、副作用を最小化するための新たな戦略の開発にもつながる可能性があります。例えば、PARP1に選択的な阻害剤の開発や、PARP1のDNAへのトラップを最小限に抑える阻害剤の設計などが考えられます。
本研究は、がん治療におけるPARP阻害剤の重要性を再確認するとともに、その作用機序の新たな側面を明らかにした意義深い研究であると言えます。」

Proteome-scale discovery of protein degradation and stabilization effectors プロテオーム規模でのタンパク質分解および安定化因子の発見
「タンパク質は生命活動に不可欠な分子ですが、その量は厳密に制御される必要があります。この研究では、人工的に作成したプロテオーム(タンパク質の総体)を用いて、標的タンパク質の分解や安定化を引き起こす因子を網羅的に探索する新しい実験系を開発しました。その結果、既知の因子以外にも多くの新規因子が存在することが明らかになりました。これらの因子は、様々な標的タンパク質に対して異なる活性を示し、将来の創薬への応用が期待されます。」


要約

シンプルな鳴き声の進化の謎を解明

ゼブラフィンチのオスは一生で一つの歌しか学習しないが、その歌の音節が音響的・時間的に明確に区別されている場合、メスに好まれる。このシンプルな歌は、オスの適応度を示す正直なシグナルとして機能している。

事前情報

  • 多くの鳴禽類のオスは、性淘汰によって複雑で多様な歌を進化させてきたと考えられている。

  • しかし、一部の種では一生涯でたった一つの歌しか学習しない。

  • シンプルな歌がどのように性淘汰によって進化したのかは不明だった。

行ったこと

  • ゼブラフィンチのオスの歌行動を次元削減手法で分析した。

  • 歌の音節が特徴空間内でどれだけ広がっているかを定量化した。

  • メスの歌の好みと、オスの歌習得の難易度を調べた。

検証方法

  • ゼブラフィンチのオスの歌を録音し、音響特徴を抽出した。

  • 次元削減手法を用いて、歌の音節を低次元の特徴空間上に表現した。

  • 特徴空間内での音節の広がりを定量化し、メスの好みとの関連を調べた。

  • 若いオスが、特徴空間内で長いパスを描く歌を習得できるかを検証した。

分かったこと

  • ゼブラフィンチの歌の音節が、特徴空間内で広く分散している場合、メスはその歌を強く好む。

  • この音節の広がりは、歌の音節が音響的・時間的に明確に区別されていることを反映している。

  • 若いオスにとって、特徴空間内で長いパスを描く歌を習得することは難しい。

  • つまり、シンプルな歌でも、質の高さがメスに伝わり、オスの適応度を示す正直なシグナルとして機能する。

この研究の面白く独創的なところ

  • 次元削減手法を用いて、歌行動の隠れた特徴を抽出した点が独創的である。

  • シンプルな歌の適応的意義を、音節の特徴空間内での広がりという新しい指標で説明した点が面白い。

  • 性淘汰が音声学習に与える影響の多様性を示唆した点も興味深い。

この研究のアプリケーション

  • 鳴禽類の歌の進化を理解する上で重要な知見を提供する。

  • 音声学習の神経メカニズムを解明する手がかりになる可能性がある。

  • 性淘汰が行動の進化に与える影響を理解する上で示唆に富む。

著者と所属

  • Danyal Alam

  • Fayha Zia

  • Todd F. Roberts 所属: Nature誌

詳しい解説 鳴禽類の歌の進化は、性淘汰、特にメスの好みによって駆動されてきたと考えられています。多くの種では、オスが複雑で多様な歌を歌うことで、メスを魅了し、繁殖成功度を高めてきました。しかし、一部の種では、オスは一生涯でたった一つの歌しか学習しません。このようなシンプルな歌がどのようにして性淘汰によって進化したのかは、これまで謎でした。
今回の研究では、ゼブラフィンチを対象に、オスの歌行動を次元削減手法で分析することで、この謎に迫りました。具体的には、歌を構成する音節の音響特徴を抽出し、低次元の特徴空間上に表現しました。そして、特徴空間内での音節の広がりを定量化し、メスの好みとの関連を調べました。
その結果、歌の音節が特徴空間内で広く分散している場合、つまり、音節が音響的・時間的に明確に区別されている場合、メスはその歌を強く好むことがわかりました。また、若いオスにとって、そのような歌を習得することは難しいことも判明しました。
これらの結果は、シンプルな歌でも、質の高さがメスに伝わり、オスの適応度を示す正直なシグナルとして機能することを示唆しています。つまり、複雑な歌を進化させるのとは異なる戦略で、性淘汰がシンプルな歌の進化を促してきたのです。
この研究は、鳴禽類の歌の進化を理解する上で重要な知見を提供するだけでなく、性淘汰が行動の進化に与える影響の多様性を示す点でも興味深い結果です。また、次元削減手法を用いて行動の隠れた特徴を抽出するアプローチは、他の行動研究にも応用可能であり、様々な分野に影響を与える可能性を秘めています。


分数量子スピンホール効果の発見

2.1°ねじれ2層MoTe2において、端に上向きスピンと下向きスピンが1.5対ずつ流れる分数量子スピンホール効果を発見した。また、ねじり角を変えることで、端に流れるスピンの対の数を1対、2対、3対と制御できることも分かった。

事前情報

  • 量子スピンホール絶縁体は、内部は絶縁体だが、端には反対向きのスピンが流れる特殊な伝導チャネルを持つ。

  • これまでは、端に上向きスピンと下向きスピンが1対ずつ流れる整数量子スピンホール効果しか見つかっていなかった。

  • ねじれ2層MoTe2は、スピンを保存し、スピンの向きによって異なるフラットバンドを持つことが知られていた。

行ったこと

  • 2.1°ねじれ2層MoTe2の輸送特性を測定した。

  • モアレバレンスバンドの占有率を変化させ、端の伝導度とホール伝導度を調べた。

  • ねじり角を変えて、端に流れるスピンの対の数を制御した。

検証方法

  • ホール棒形状のデバイスを作製し、電気伝導度とホール伝導度を測定した。

  • モアレバレンスバンドの占有率を変化させるためにゲート電圧を印加した。

  • ねじり角を変えるために、異なる角度でMoTe2の2層を積層した。

分かったこと

  • モアレバレンスバンドの占有率が3の時、端の伝導度は3/2 G0(G0は量子化コンダクタンス)で、ホール伝導度はゼロだった。これは分数量子スピンホール効果の証拠である。

  • 占有率が2、4、6の時、端の伝導度はそれぞれG0、2G0、3G0だった。これは整数量子スピンホール効果である。

  • ねじれ角を変えることで、端に流れるスピンの対の数を制御できる。

この研究の面白く独創的なところ

  • 分数量子スピンホール効果を初めて実験的に発見した点が画期的である。

  • モアレ物質を用いて、スピンの流れを自在に制御できる点が独創的である。

  • 時間反転対称性を持つ非可換エニオンなど、新奇なトポロジカル相の実現の可能性を開いた点が面白い。

この研究のアプリケーション

  • スピントロニクスデバイスへの応用が期待される。

  • 量子コンピュータの実現に向けた新しいプラットフォームになる可能性がある。

  • トポロジカル物質の物理の理解を深め、新しい物質設計の指針を与える。

著者と所属

  • Kaifei Kang, Bowen Shen, Yichen Qiu, Yihang Zeng, Zhengchao Xia, Jie Shan, Kin Fai Mak: コーネル大学

  • Kenji Watanabe, Takashi Taniguchi: 国立材料科学研究所(日本)

詳しい解説
量子スピンホール絶縁体は、トポロジカル絶縁体の一種で、内部は絶縁体でありながら、端には特殊な伝導チャネルを持つ2次元物質です。これまでに発見されていた量子スピンホール絶縁体では、端に上向きスピンと下向きスピンが1対ずつ流れる「整数」量子スピンホール効果が観測されていました。つまり、端の伝導度は量子化コンダクタンス(G0 = e^2/h)の整数倍の値を取ります。
今回の研究では、MoTe2の2層構造を2.1°の特殊な角度でねじることで、端に上向きスピンと下向きスピンが1.5対ずつ流れる「分数」量子スピンホール効果を発見しました。具体的には、モアレバレンスバンドの占有率が3の時、端の伝導度が3/2 G0となり、ホール伝導度がゼロになることを確認しました。これは、端の伝導チャネルがスピンの向きによって分数の値を取ることを意味します。
さらに、ねじれ角を変えることで、端に流れるスピンの対の数を制御できることも明らかにしました。占有率が2、4、6の時、端の伝導度はそれぞれG0、2G0、3G0となり、整数量子スピンホール効果が観測されました。
この発見は、スピンの流れを自在に制御できる新しいタイプのトポロジカル物質の実現に道を開くものです。また、時間反転対称性を持つ非可換エニオンなど、新奇なトポロジカル相の実現の可能性も示唆しています。
今後は、この分数量子スピンホール効果の発現メカニズムの解明や、他のモアレ物質での探索が期待されます。また、スピントロニクスデバイスや量子コンピュータへの応用も視野に入ってくるでしょう。この研究は、トポロジカル物質の物理の理解を深め、新しい物質設計の指針を与える重要な一歩となります。


脳を守る硬膜のリンパ組織を発見

脳と脊髄を覆う硬膜に、免疫細胞が集まるリンパ組織「硬膜関連リンパ組織(DALT)」があることを発見した。特に脳の前部にある「吻側鼻静脈リンパハブ」は、頭蓋骨の骨髄やリンパ管とつながり、鼻から侵入したウイルスに対する抗体産生に重要な役割を果たしていた。

事前情報

  • 脳と脊髄を覆う髄膜、特に外側の硬膜には免疫細胞が存在することが知られていた。

  • 硬膜はB細胞の発生の場としても機能することが報告されていた。

  • しかし、硬膜内の免疫細胞がどのように組織化され、機能しているかは不明だった。

行ったこと

  • マウスの硬膜を詳細に観察し、免疫細胞の分布と組織構造を調べた。

  • 特に elaborate な構造を持つ DALT を同定し、「吻側鼻静脈リンパハブ」と名付けた。

  • このハブの構造と、頭蓋骨の骨髄やリンパ管との関係を調べた。

  • 加齢や抗原刺激に対するDALTの変化を観察した。

  • 鼻からのウイルス感染に対するDALTの役割を調べた。

検証方法

  • 蛍光顕微鏡を用いて、硬膜の免疫細胞と血管・リンパ管を可視化した。

  • 電子顕微鏡により、DALTの微細構造を観察した。

  • 鼻からウイルスを感染させ、DALTでのB細胞の応答を調べた。

  • リンパ球の硬膜への流入を阻害し、ウイルス感染に対する影響を調べた。

分かったこと

  • 硬膜には、血管やリンパ管が集まる場所にリンパ組織(DALT)が形成されていた。

  • 吻側鼻静脈リンパハブは、頭蓋骨の骨髄やリンパ管とつながっていた。

  • DALTは加齢や抗原刺激に応じて拡大した。

  • 鼻からのウイルス感染に対して、DALTのB細胞が抗体を産生した。

  • リンパ球のハブへの流入を阻害すると、抗体産生が抑えられた。

この研究の面白く独創的なところ

  • 硬膜内に組織化されたリンパ構造を発見した点が画期的である。

  • 特に吻側鼻静脈リンパハブの構造と機能を明らかにした点が独創的である。

  • 鼻からの感染に対する硬膜のリンパ組織の役割を示した点が面白い。

この研究のアプリケーション

  • 中枢神経系の感染症や自己免疫疾患の理解に役立つ可能性がある。

  • 硬膜のリンパ組織を標的とした新たな治療法の開発につながるかもしれない。

  • 脳の免疫監視機構の解明に貢献すると期待される。

著者と所属

  • Zachary Fitzpatrick, Nagela Ghabdan Zanluqui, Jared S. Rosenblum, Zewen Kelvin Tuong, Colin Y. C. Lee, Vikram Chandrashekhar, Maria Luciana Negro-Demontel, Andrew P. Stewart, David A. Posner, Monica Buckley, Dragan Maric, Danielle Donahue, John R. Ferdinand, Anais Portet, Ana Peñalver, Eleanor Gillman, Dorian B. McGavern: National Institute of Neurological Disorders and Stroke, National Institutes of Health, USA

  • Kieren S. J. Allinson: Cambridge Brain Bank, Department of Pathology, University of Cambridge, UK

  • Panagiotis Mastorakos, Prashant Chittiboina: Surgical Neurology Branch, National Institute of Neurological Disorders and Stroke, National Institutes of Health, USA

  • Adel Helmy, Tamara Tajsic: Division of Neurosurgery, Department of Clinical Neurosciences, University of Cambridge, UK

  • Zhengping Zhuang: National Institute of Neurological Disorders and Stroke, National Institutes of Health, USA

  • Menna R. Clatworthy: University of Cambridge, Molecular Immunity Unit, Department of Medicine, MRC Laboratory of Molecular Biology, UK

詳しい解説
脳と脊髄を覆う髄膜は、これまで物理的なバリアとしての役割が注目されてきましたが、近年、免疫細胞が存在し、中枢神経系の恒常性維持や疾患に関与している可能性が指摘されています。特に、髄膜の外側に位置する硬膜には、自然免疫細胞と獲得免疫細胞の両方が存在し、B細胞の発生の場としても機能することが報告されていました。
今回の研究では、マウスの硬膜を詳細に観察することで、免疫細胞が集まって組織化されたリンパ構造「硬膜関連リンパ組織(DALT)」を発見しました。DALTは、硬膜内の血管やリンパ管が集中する場所に形成されており、加齢や抗原刺激に応じて拡大することが分かりました。
特に、脳の前部にある静脈の合流点(吻側鼻静脈洞)周辺のDALTは、「吻側鼻静脈リンパハブ」と名付けられました。このハブは、頭蓋骨の骨髄や硬膜内のリンパ管とつながっており、リンパ球が行き来できる構造をしていました。
さらに、鼻からウイルスを感染させる実験により、吻側鼻静脈リンパハブがウイルスに対する抗体産生に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。ハブ内のB細胞は、ウイルス感染に応答して活性化し、抗体を産生する形質細胞へと分化しました。また、リンパ球のハブへの流入を阻害すると、抗体産生が抑えられることも確認されました。
これらの結果は、硬膜のリンパ組織が、中枢神経系の免疫監視に重要な役割を果たしていることを示唆しています。特に、吻側鼻静脈リンパハブは、鼻からの感染に対する防御の最前線として機能していると考えられます。
今後、硬膜のリンパ組織の機能をさらに解明することで、中枢神経系の感染症や自己免疫疾患の理解が深まり、新たな治療法の開発につながる可能性があります。また、この発見は、脳の免疫システムの全容解明に向けた重要な一歩になると期待されます。


骨髄における血球産生の立体的な地図を作製

マウスの骨髄を3次元的に可視化し、造血幹細胞から成熟血液細胞ができあがる過程を明らかにした。造血幹細胞は巨核球の近くに集まり、血液細胞の種類ごとに決まった場所で産生されていた。感染や出血などのストレスに応じて産生場所の数や働きが変化し、骨の種類によってストレスへの反応が異なることも分かった。

事前情報

  • 血液細胞は骨髄内の造血幹細胞から作られる。

  • 骨髄は様々なストレスに応答して血球産生を調整する。

  • これまで、骨髄内の正常およびストレス下の造血の空間的な組織化は不明だった。

行ったこと

  • マウスの骨髄を丸ごと観察できる特殊な顕微鏡技術を開発した。

  • 造血幹細胞から赤血球、リンパ球、骨髄球系細胞ができあがる過程を可視化した。

  • 感染、出血、G-CSF投与、加齢などのストレスが造血に与える影響を調べた。

  • 骨の種類による造血反応の違いを比較した。

検証方法

  • 蛍光標識した抗体を用いて、骨髄内の様々な種類の造血細胞を可視化した。

  • 共焦点顕微鏡を用いて、骨髄の3次元画像を取得した。

  • 細胞の位置関係や血管との距離を定量的に解析した。

  • 異なる骨(胸骨、脛骨、上腕骨、頭蓋骨など)で造血反応を比較した。

分かったこと

  • 造血幹細胞と多能性前駆細胞は骨髄内に散在し、巨核球の近くに集まる。

  • 系統決定した前駆細胞は血管の近くに集まり、系統特異的な微小解剖学的構造(産生の場)を形成する。

  • この基本的な解剖学的構造は、ストレス下でも維持される。

  • 産生の場の数と働きがストレスに応じて変化し、造血の可塑性を担う。

  • ストレスへの反応は骨の種類によって異なる(例:G-CSFへの反応が胸骨と脛骨で正反対)。

この研究の面白く独創的なところ

  • 骨髄を丸ごと3次元的に可視化する技術を開発した点が画期的。

  • 血球産生が系統特異的な微小解剖学的構造で行われていることを明らかにした点が独創的。

  • ストレスへの造血反応が骨の種類によって異なることを初めて示した点が面白い。

この研究のアプリケーション

  • 正常およびストレス下の造血の仕組みの理解が深まる。

  • 血液の病気の発症メカニズムの解明につながる可能性がある。

  • 骨髄移植や再生医療など、新しい治療法の開発に役立つかもしれない。

著者と所属
Qingqing Wu, Jizhou Zhang, Sumit Kumar, Siyu Shen, Morgan Kincaid, Courtney B. Johnson, Yanan Sophia Zhang, Raphaël Turcotte, Clemens Alt, Kyoko Ito, Shelli Homan, Bryan E. Sherman, Tzu-Yu Shao, Anastasiya Slaughter, Benjamin Weinhaus, Baobao Song, Marie Dominique Filippi, H. Leighton Grimes, Charles P. Lin, Keisuke Ito, Sing Sing Way, J. Matthew Kofron & Daniel Lucas: シンシナティ小児病院医療センター、マサチューセッツ総合病院、コーネル大学など

詳しい解説
この研究は、マウスの骨髄における血球産生の立体的な地図を作製することに成功しました。研究チームは、蛍光標識した抗体を用いて様々な種類の造血細胞を可視化し、共焦点顕微鏡で骨髄の3次元画像を取得しました。
解析の結果、造血幹細胞と多能性前駆細胞は骨髄内に散在しながらも、巨核球という大型の細胞の近くに集まっていることが分かりました。一方、系統が決定した前駆細胞は、赤血球、リンパ球、骨髄球系細胞などの血液細胞の種類ごとに、血管の近くの決まった場所に集まっていました。研究チームは、これらの場所を「産生の場」と名付けました。
さらに、感染、出血、G-CSFという薬剤の投与、加齢など、様々なストレスが造血に与える影響を調べたところ、産生の場の数や働きが変化することで、骨髄が血球産生を調整していることが明らかになりました。しかし、骨髄の基本的な解剖学的構造は、ストレス下でも維持されていました。
もう一つの重要な発見は、ストレスへの造血反応が骨の種類によって異なるということです。例えば、G-CSFを投与すると、脚の骨では好中球が増えるのに、胸骨では逆に減少したのです。このように、骨髄は全身に分布する臓器でありながら、部位によって特殊な機能を持っていることが示唆されました。
本研究は、骨髄における血球産生の仕組みを細部まで明らかにしただけでなく、骨の種類によって造血反応が異なるという新事実を世界で初めて示した画期的なものです。これらの知見は、血液のがんや再生不良性貧血などの病気の発症メカニズムの解明や、骨髄移植や再生医療など新しい治療法の開発に役立つと期待されます。


PARP阻害剤とホモロガス組換え欠損の合成致死性は、転写と複製の衝突によって引き起こされる

本研究は、PARP阻害剤がホモロガス組換え(HR)欠損のがん細胞に対して効果的である理由を探った。その結果、PARP1がTIMELESSやTIPINと協働して、DNAの複製と転写の衝突(TRC)を防いでいることが分かった。PARP阻害剤は、PARP1の酵素活性を阻害することでTRCを引き起こし、その結果生じるDNA損傷がHR欠損細胞では修復されず、細胞死に至ることが示唆された。この発見は、PARP阻害剤の作用機序の理解を深め、将来的には効果を最大化し副作用を最小化する新たな戦略の開発につながる可能性がある。

事前情報

  • PARP阻害剤は、ホモロガス組換え(HR)欠損のがん細胞に対して効果的である。

  • PARP阻害剤は、PARP酵素をDNAにトラップすることで、複製フォークの進行を阻害し、DNA二本鎖切断(DSB)を引き起こすと考えられてきた。

  • DSBの修復にはHRが必要であるため、HR欠損細胞ではPARP阻害剤による細胞死が引き起こされる。

行ったこと

  • PARP1、TIMELESS、TIPINのノックダウンによる DNA損傷応答の評価

  • PARP阻害剤処理による DNA損傷応答と転写-複製衝突(TRC)の評価

  • PARP1、TIMELESS、TIPINの複製フォーク進行への影響の評価

  • PARP阻害剤とHR欠損の合成致死性におけるTRCの役割の評価

検証方法

  • siRNAを用いたタンパク質のノックダウン

  • 免疫蛍光染色によるDNA損傷マーカー(γH2AX、53BP1、RAD51)の検出

  • Proximity Ligation Assay (PLA)によるPCNAとRNAポリメラーゼIIの近接の検出

  • EdUラベルとシークエンシングによる複製フォーク進行の評価

  • コロニー形成アッセイによる細胞生存率の評価

分かったこと

  • PARP1、TIMELESS、TIPINは、転写-複製衝突(TRC)を防ぐ役割を果たしている。

  • PARP阻害剤は、TRCを引き起こし、それによって生じるDNA損傷がHR欠損細胞では修復されず、細胞死に至る。

  • PARP阻害剤の効果は、PARP酵素活性の阻害と相関しており、PARPのDNAへのトラップとは相関しない。

  • PARP1のノックダウンは、HR欠損細胞の生存率を低下させる。

この研究の面白く独創的なところ

  • PARP阻害剤の作用機序として、PARPのDNAトラップではなく、転写-複製衝突(TRC)の誘導が重要であることを示した点。

  • PARP1、TIMELESS、TIPINという複数のタンパク質の協働作用によるTRCの防御機構を明らかにした点。

  • PARP阻害剤の効果が、PARP酵素活性の阻害と相関することを示し、PARPのDNAトラップとは相関しないことを明らかにした点。

この研究のアプリケーション

  • PARP1選択的阻害剤の開発によるPARP阻害剤の効果の最大化と副作用の最小化。

  • PARPのDNAトラップを最小限に抑える阻害剤の設計による治療効果の向上。

  • TIMELESS、TIPINを標的とした新たながん治療戦略の開発。

著者と所属
Michalis Petropoulos, Angeliki Karamichali, Giacomo G. Rossetti, Alena Freudenmann, Luca G. Iacovino, Vasilis S. Dionellis, Sotirios K. Sotiriou & Thanos D. Halazonetis Department of Molecular Biology, University of Geneva, Geneva, Switzerland

詳しい解説
本研究は、がん治療において重要な役割を果たすPARP阻害剤の作用機序に新たな洞察を与えるものです。PARP阻害剤は、DNA修復の一種であるホモロガス組換え(HR)が欠損しているがん細胞に対して特に効果的であることが知られていました。これまでは、PARP阻害剤がPARP酵素をDNAにトラップすることで、複製フォークの進行を阻害し、DNA二本鎖切断(DSB)を引き起こすと考えられてきました。DSBの修復にはHRが必要であるため、HR欠損細胞ではPARP阻害剤による細胞死が引き起こされると説明されてきたのです。
しかし、本研究では、PARP阻害剤の作用機序としてPARPのDNAトラップではなく、転写と複製の衝突(TRC)の誘導が重要であることが示されました。研究チームは、PARP1というタンパク質が、TIMELESSやTIPINというタンパク質と協働して、TRCを防ぐ役割を果たしていることを明らかにしました。PARP阻害剤は、PARP1の酵素活性を阻害することでTRCを引き起こし、その結果生じるDNA損傷がHR欠損細胞では修復されず、細胞死に至るというメカニズムが示唆されたのです。
さらに、PARP阻害剤の効果は、PARP酵素活性の阻害と相関しており、PARPのDNAへのトラップとは相関しないことも明らかになりました。このことは、PARP阻害剤の設計や開発において重要な示唆を与えるものです。例えば、PARP1に選択的な阻害剤を開発することで、PARP阻害剤の効果を最大化し、副作用を最小化できる可能性があります。また、PARPのDNAトラップを最小限に抑える阻害剤を設計することで、治療効果を向上させることができるかもしれません。
本研究は、PARP阻害剤の作用機序の理解を深めるだけでなく、将来的な治療戦略の開発にも大きな示唆を与えるものです。PARP1、TIMELESS、TIPINという複数のタンパク質の協働作用によるTRCの防御機構を明らかにしたことで、これらのタンパク質を標的とした新たながん治療法の開発も期待されます。
がん治療におけるPARP阻害剤の重要性は広く認識されていますが、本研究はその作用機序の新たな側面を明らかにした意義深い成果であると言えるでしょう。今後のさらなる研究の進展により、より効果的で副作用の少ないPARP阻害剤の開発や、新たながん治療戦略の確立につながることが期待されます。



タンパク質の分解と安定化に関与する新しい因子を網羅的に同定する合成プロテオーム規模のプラットフォームを確立

この研究では、人工的に作成したプロテオーム規模のプラットフォームを用いて、標的タンパク質の分解や安定化を引き起こす因子を網羅的に探索しました。その結果、既知のE3リガーゼやデユビキチン化酵素以外にも、多くの新規因子が存在することが明らかになりました。これらの因子は、様々な標的タンパク質に対して異なる活性を示し、中には現在創薬に用いられているE3リガーゼよりも強力な活性を持つものも存在しました。本研究の成果は、標的タンパク質の分解や安定化を利用した新たな創薬アプローチの開発に役立つと期待されます。

事前情報
・標的タンパク質の分解や安定化は、創薬において有望なアプローチである。
・しかし、現在利用されているE3リガーゼやデユビキチン化酵素は限られており、アプローチの可能性が制限されている。
・タンパク質の安定性を制御する新たな因子が存在する可能性があるが、それらを網羅的に同定する方法がなかった。

行ったこと
・人工的なプロテオーム規模のプラットフォームを構築し、標的タンパク質の近傍で作用することで分解や安定化を引き起こす因子を網羅的に探索した。
・ヒトのE3リガーゼとデユビキチン化酵素の活性を比較した。
・非古典的なタンパク質分解因子と安定化因子を同定し、その特性を調べた。
・様々な標的タンパク質に対する因子の活性を評価した。

検証方法
・人工的なプロテオーム規模のプラットフォームを用いて、標的タンパク質の分解や安定化を引き起こす因子を網羅的に探索した。
・同定した因子の活性を、様々な標的タンパク質に対して評価した。
・既知のE3リガーゼやデユビキチン化酵素の活性と比較した。

分かったこと
・ヒトのプロテオームには、標的タンパク質の安定性を制御する多くの新規因子が存在する。
・同定された因子は、様々な標的タンパク質に対して異なる活性を示す。
・中には、現在創薬に用いられているE3リガーゼよりも強力な活性を持つ因子も存在する。
・本研究のアプローチは、近接依存的なタンパク質制御因子の発見に有用である。

この研究の面白く独創的なところ
・人工的なプロテオーム規模のプラットフォームを構築することで、標的タンパク質の安定性を制御する因子を網羅的に探索できるようになった。
・既知の因子だけでなく、多くの新規因子が同定されたことで、タンパク質の安定性制御メカニズムの理解が深まった。
・同定された因子の中には、現在の創薬アプローチで用いられている因子よりも強力な活性を持つものがあり、新たな創薬の可能性が示された。

この研究のアプリケーション
・同定された因子を利用することで、標的タンパク質の分解や安定化を誘導する新たな創薬アプローチの開発が期待される。
・特に、現在の創薬アプローチで用いられている因子よりも強力な活性を持つ因子は、より効果的な治療法の開発につながる可能性がある。
・本研究のアプローチは、近接依存的なタンパク質制御因子の発見に応用できる。

著者と所属
Juline Poirson, Hanna Cho, Akashdeep Dhillon, Shahan Haider, Ahmad Zoheyr Imrit, Mandy Hiu Yi Lam, Nader Alerasool, Jessica Lacoste, Lamisa Mizan, Cassandra Wong, Anne-Claude Gingras, Daniel Schramek & Mikko Taipale 所属: Nature

詳しい解説
タンパク質は生命活動に不可欠な分子ですが、その量は厳密に制御される必要があります。タンパク質の過剰な蓄積や不足は、様々な疾患の原因となることが知られています。そのため、標的タンパク質の分解や安定化を人為的に制御することは、創薬において有望なアプローチとして注目されています。
現在、このアプローチに用いられている主な因子は、E3リガーゼとデユビキチン化酵素です。E3リガーゼは、標的タンパク質にユビキチンを付加することで分解を促進し、デユビキチン化酵素は、ユビキチンを取り除くことで標的タンパク質を安定化します。しかし、ヒトのプロテオームには数百種類のE3リガーゼとデユビキチン化酵素が存在するにも関わらず、創薬に利用されているのはごく一部に限られています。また、E3リガーゼやデユビキチン化酵素以外にも、タンパク質の安定性を制御する因子が存在する可能性がありますが、それらを網羅的に同定する方法がなかったのが現状でした。
この研究では、人工的に作成したプロテオーム規模のプラットフォームを用いて、標的タンパク質の近傍で作用することで分解や安定化を引き起こす因子を網羅的に探索しました。その結果、ヒトのプロテオームには、既知のE3リガーゼやデユビキチン化酵素以外にも、多くの新規因子が存在することが明らかになりました。これらの因子は、様々な標的タンパク質に対して異なる活性を示し、中には現在創薬に用いられているE3リガーゼよりも強力な活性を持つものも存在しました。
本研究の成果は、標的タンパク質の分解や安定化を利用した新たな創薬アプローチの開発に役立つと期待されます。特に、現在の創薬アプローチで用いられている因子よりも強力な活性を持つ因子は、より効果的な治療法の開発につながる可能性があります。また、本研究のアプローチは、近接依存的なタンパク質制御因子の発見にも応用できると考えられます。
今後は、同定された因子のさらなる特性解析や、疾患モデルでの検証が進められることでしょう。これらの研究を通じて、標的タンパク質の分解や安定化を利用した新たな治療法の開発が加速することが期待されます。




最後に
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