見出し画像

WRA 12-4 川崎フロンターレ - ガンバ大阪 (R 荒木 友輔さん)

今回はFUJI XEROX SUPER CUP 川崎フロンターレ対ガンバ大阪 の試合を分析していきます。

このゼロックススーパーカップは、Jリーグ開幕を告げる試合です。審判業界においてはその年の判定基準(レフェリングスタンダード)を示すということで大きな意味を持つ試合です。そういうこともあるので、初心に帰って各ハーフを飲水タイムで区切った全4回+荒木さんのポジショニング+2人の副審に特化した全6回で分析していきます。

この「クオーター制」にするのは、レフトークで話していて、飲水タイム前後で試合の様相が違ってくるというここ1年のサッカーのトレンドに合わせていかないと感じたことにあります。いろいろな天啓が様々な参加者の皆さんからもらえるので本当に助かってます!ありがとうございます!

それでは後半の飲水タイムから後半終了までの「4th quarter」について分析をしていきます!

それぞれの冒頭に★をつけて重要度を表していますので、目次からジャンプしてみてください!

公式記録

川崎フロンターレ 3-2 ガンバ大阪
得点 川崎 三笘 薫 (29'・32') 小林 悠 (90'+6) 
得点 G大阪  矢島 慎也(60') パトリック(67’)
15SH7
8CK4
13FK7
主審 荒木 友輔 副審1 渡辺 康太 副審2 浜本 祐介 第4の審判員 中村 太 VAR/AVAR 木村 博之 / 野村 修
https://data.j-league.or.jp/SFMS02/?match_card_id=26074 より作成)

分析シーン

★ 69:33 G大阪32 チアゴ・アウベス選手のチャージはファウルか?

G大阪の攻撃です。裏へのラフなボールに対し、チアゴ・アウベス選手と川崎47旗手怜央選手が競走します。若干旗手選手の方が先に行っていましたが、チアゴ・アウベス選手も追いかけ、接触が起こって旗手選手が倒れます。

このシーン接触箇所としては側面同士ですし、ボールへのプレーイングディスタンスにあったことを考えるとこの日の基準からするとノーファウルは妥当な判断だったと思います。ただ、荒木さんも予測より早くボールが入ったため25mほど離れた位置から接触もそこまで見やすい角度ではないところからの判定を余儀なくされたため、非常に難しかったと感じます。

ただ、これはJリーグの判定基準ですぐに下のカテゴリーに猿真似で応用するのは危険だといえるかと思います。ある程度フィジカルがある年代(大学・高校・社会人など)だとこの程度の接触を統一して取らない基準設定もできるかもしれませんが、それより下の世代や選手のレベルによっては反則を取った方がいいかと思います。

競技規則で判定基準が厳密に明文化されていないことのメリットの一つは「選手のレベルに合わせられるところ」だと思っています。「Jで吹いていなかったから」ではなく、目の前の選手に向き合う大切さを感じるシーンでした。

★★★ 70:12 川崎4ジェジエウ選手のプレーはハンドか?

G大阪の攻撃です。 G大阪4藤春廣輝選手の放ったシュートが川崎4ジェジエウ選手の腕に確かに当たっています。しかし、腕に当たった時全てがハンドになるわけではありません。

ジェジエウ選手の腕は走っている動きをしている中での腕の動きであり、競技規則的に考えると「手や腕は体の近くにあるが、手や腕を用いて競技者の体を不自然に大きくしていない」(画像③)の解釈もできますし、距離が1mくらいの早いシュートであったこともあり「近くにいた別の競技者の頭または体(足を含む)から直接触れる」(画像②)の解釈もできます。

私は③の理由でノーハンドとすると考えます。もちろんVARもしっかりとチェックしていますが、荒木さんの説明と実際の映像に齟齬がなかったため荒木さんのノーハンド判定を尊重しました。(VARはこの場面「はっきりとした、明白な間違い」であった時にしか介入できません。)

荒木さんもジェジエウ選手の後方10mほどのベストな角度で見ており、ナイスジャッジであったといえるかと思います。素晴らしい判定です。

中村憲剛選手はこのシーンではハンドの解説もしっかりされていて、本当に冷静で聞きやすかったなと感じます。

★ 75:08 G大阪15 井手口 陽介選手のファウル

ファウル G大阪15井手口陽介選手⇒川崎22橘田健人選手(不用意なキッキング)

川崎の攻撃で後方から橘田選手に縦パスが入ったシーンです。井手口選手が後方から橘田選手を蹴ってしまい、反則となりました。

コンタクトの順番が「橘田選手⇒ボール」だったため妥当な判定だと思います。

★ 76:54 ファウル 川崎3 塚川 孝輝選手

スライド7

ファウル  川崎3塚川孝輝選手⇒G大阪9レアンドロ・ペレイラ選手(不用意なジャンピングアット)

G大阪1東口順昭選手のロングボールに競り合ったレアンドロ・ペレイラ選手と塚川選手の接触です。

空中の競り合いの判定については難しいですが、「ストーリー」が判定において大事だと思っています。

競り合いの瞬間の接触の強度も大事ですが、先にどちらが落下点に入っていたのかであったり、ジャンプの「ベクトル」はどうだったのかであったり、接触の前の「ストーリー」は大切にしたいと感じます。

今回の場合先に落下点に入っており、ほぼ垂直にジャンプしたレアンドロ・ペレイラ選手に対し、塚川選手は遅れて後方からレアンドロ・ペレイラ選手に向かったベクトルのあるジャンプをしています。その結果接触したということは塚川選手のファウルが妥当だと考えます。

空中での競り合いは危険ですので、荒木さんもプレー再開まで間を取って塚川選手に注意をします。このようなシーンではしっかりとマネジメントすると事も大切ですし、交代して入ってきた選手はたまに試合の温度とずれたまま試合に入ってくることもあるので、交代して入った選手へのマネジメントは大切だといえます。

★ 78:46 G大阪32チアゴ・アウベス選手のファウル

ファウル G大阪32チアゴ・アウベス選手⇒川崎16長谷川竜也選手(不用意なプッシング)

センターサークル付近でチアゴ・アウベス選手が長谷川選手を後ろから押すような形になり、ファウルです。不用意なプッシングで非常に妥当な判定かと思います。

★ 79:22 G大阪18 パトリック選手のファウル

ファウル G大阪18パトリック選手⇒川崎41家長昭博選手(不用意なチャージorチャレンジ)

G大阪陣内ゴールから35mほどの位置でパトリック選手が家長選手を後方から倒す形になり反則。妥当な判定です。また、このシーン荒木さんは川崎がセットされた形のフリーキックをすると予測し、近づこうとしました。しかし、家長選手がすぐに再開したため危うくボールに当たりそうになりました。

クイックリスタートをするか否かしっかり予測し、正しく再開されたか監視することの大切さを感じるシーンとなりました。(私もまさかクイックリスタートをすると思っていませんでした。いつでもありうると頭に入れなければならないと感じるシーンでした。)

★★ 82:05 難しい競り合いの判定+ドロップボールの使い方

スライド8

先ほどの競り合いより今回は難易度が高くなった空中の競り合いの判定です。

先ほどと同じ組み合わせで川崎3塚川孝輝選手とG大阪9レアンドロ・ペレイラ選手の競り合いです。

今回の競り合いで最も難しかったのは、タイミング・ベクトルの面で「どちらも優位ではなかった」ということです。両選手の落下点に入ったタイミングはほぼ同時で、同時に入ったということもあり両者のベクトルは相手選手に向かっていました。

その中で唯一レアンドロ・ペレイラ選手が優位だった点は「ボールにコンタクトした」ことです。荒木さんは上のタイミング・ベクトルの面で差がなかったことから「アクシデンタルな接触」としてノーファウルとしたことが考えられますが、ボールのコンタクトがレアンドロ・ペレイラ選手だったことを考えると結果的には塚川選手の反則の方が正しかったかと思われます。

しかしながら、これは映像を自在に見れる「後出しじゃんけん」だからこそ言えることです。映像を見てあーだこーだ言うのは本当に簡単ですが、実際にやるのは難しいのです。言うは易く行うは難しの典型例かと思います。

そんな中、荒木さんはボールが転がってガンバ大阪の選手の足元に行ったのを見届けてから試合を止めました。現行ルールではドロップボールは最後に触った競技者のいた位置からそのチームにドロップできるので、試合を止めてドロップにする選択は、頭をケガする可能性も高いシーンだったため非常に素晴らしい判断だったと思います

止めるタイミングとしてもボールコンタクトが分かりづらい競り合いのシーンだったことから、片方のチームのマイボールになったことを確認してから止めたのは冷静な判断だったと感じます。

86:51にも塚川選手と川崎4ジェジエウ選手が味方同士でぶつかってしまったシーンでもボールが落ち着くとすぐにプレーを停止していた荒木さんの選手の安全を守ろうとする姿勢は本当に勉強になります。

★★★ 88:07 脳振盪の疑いのあった川崎3塚川孝輝選手への対応

Jリーグでは今シーズンからJリーグ主催の全試合で「脳振盪による交代」を試行しています。ルールとしては、脳振盪の疑いがある選手が出た場合、そのチームの交代枠を一つ追加することが可能なルールです。プレミアリーグなどで試行されているプロトコルでは相手チームに1回使用するごとに交代枠が1つ追加されますが(最大2回・相手の交代はどのような理由でも可)、Jリーグのプロトコルでは相手チームには交代枠が追加されません。

その交代導入試合で残念ながら脳振盪の疑いのある選手が出てしまいました。先ほどから3度にわたって激しい空中戦を見せた川崎3塚川孝輝選手の様子がおかしいと判断した川崎キャプテン5谷口彰悟選手・ 47旗手怜央選手が荒木さんに伝えて、メディカルスタッフが呼ばれました。そして、川崎のチームの判断により、脳振盪による交代が行われることになりました。

(川崎はこの日5枚の交代枠を使っていましたが、仮に使っていない場合でも脳振盪による交代を行うことはできます。)

下記は私がプレミアリーグがファン向けに脳振盪による交代について説明した記事を訳したものですが、基本的には脳振盪による交代を行うか判断するのはチーム側です。ただ、審判員も「競技者の安全を守る」ことは重要な任務の一つですので、最低限の知識を付ける必要があると痛感しました。

塚川選手のインスタグラムによれば大事には至らなかったようで、そこは一安心です。メディカルスタッフの指導の下復帰へのプロセスが踏まれるかと思いますが、Jリーグで今後活躍する姿を見れることを期待しています。

★ 90+2:30 ファウル G大阪27 髙尾 瑠選手

ファウル G大阪27髙尾瑠選手⇒川崎16長谷川竜也選手 (不用意なチャージング)

タッチライン際で髙尾選手が後方から長谷川選手にチャレンジしましたが、反則となりました。最初はノーファウルにしようとしたようにも見えましたが、総合的に判断してファウルをとったように見えます。妥当な判定といえると感じます。

★ 90+3:21 G大阪27 髙尾 瑠選手 2回目のファウル

ファウル G大阪27髙尾瑠選手⇒川崎7車屋紳太郎選手 (ホールディング)

髙尾選手は投入されてすぐに2回目の反則でした。ボールに対し身体を入れた車屋選手に対して腕をつかんだためA1渡辺康太さんがファウルサポートし、ファウルをとりました。ボールが出ていたことからスローインでも良かったような気もしますが、ファウルはあったため妥当な判定といえると感じます。

★ 90+4:18 ファウルは正しかったのか?

ファウル 川崎11小林悠選手⇒G大阪5三浦弦太選手(プッシング?)

映像をしっかり見ると三浦弦太選手は味方のG大阪13菅沼駿哉選手の手が顔面に入り、傷んでいるように見えます。本来はノーファウルだったとは思いますが、菅沼選手と三浦選手の角度が串になってしまっており非常に難しい判定だったと思います。

これも言うは易く行うは難しという典型例です。

★★ 90+5:35 川崎11小林悠選手の劇的ゴール

スライド8

こちらは第6回の副審編で詳しく見ますが、極めてタイトかつフラッシュラグの起こりやすいシーンでA2の浜本祐介さんがしっかりと認めて、ゴールを認めました。スーパージャッジだったと思います。

まとめ

この日の荒木さんをはじめとする審判団は完璧だったといえるかと思います。細かな判定に関しては全てあっているということは普通あり得ません。その中でごく微細なエラーに抑え、全体的に基準をタフでフェアな基準で統一しており、非常に勉強になりました。

そして、ゲームとしても非常に面白く、Jリーグが始まった喜びを感じる試合でした。今シーズンタフでエキサイティングなJリーグが展開されることを楽しみにしています!

ポジショニングや副審のお二人を特集するを2回特集したいと思います!

本日もお読みいただき、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

もしよろしけれサポートいただけると幸いです いただいたサポートは、自身の審判活動の用具購入に使わせていただきます。