どんな紅葉を美しいと思うか
ここ数年、この季節になると紅葉(黄葉)の色集めを行っている。
やることは綺麗な落ち葉を拾って、グラデーションになるよう並べなおして記録するだけなのだが、これを大げさに言うと色集めになる。
論文を書くために行っているわけではないので、科学的根拠としては乏しいのだが、やってみるとジワジワと楽しい。
例えば、紅葉の代表種イロハモミジを色集めするとこうなる↓
モミジといえば紅葉(こうよう)。
紅葉(こうよう)といえばモミジ。
紅葉(こうよう)と書いて紅葉(モミジ)と読ませるほどに紅葉(こうよう)の代表格である。レペゼン紅葉(こうよう)といっても過言ではない。
その紅葉(こうよう)っぷりはやはり美しく、どの葉も発色が良い。
次は、モミジと並んで紅葉(こうよう)が美しいドウダンツツジの紹介↓
この種もとても綺麗に発色し、
様々な緑地で植えられているので、紅葉を楽しめる最も身近な種のひとつである。
最後に、オオシマザクラ↓
オオシマザクラといえば、最も有名なサクラ「ソメイヨシノ」の片親で、この種もソメイヨシノと並んで多く植栽されているサクラである。
サクラの中では珍しく、潮風にも強いため、沿岸部でのサクラの植栽では第一候補としてよく名前が挙がる。
このオオシマザクラの紅葉は真っ赤にはならないが、発色がよく、黄色やオレンジ色になる葉はとても綺麗。
上記のように、葉っぱ1枚の紅葉のクオリティはモミジやドウダンツツジに引けを取らない。
では、なぜサクラが紅葉の代表種になりきれないのか?
紅葉の代表種といえば、モミジ。そして黄葉(こうよう)の代表種といえばイチョウと相場が決まっている。
サクラとモミジ、イチョウの間にどんな差があるのか、気になったので調べてみた。
まずはサクラの落葉する期間に注目した。
上記の写真は12月初旬のサクラの枝ぶりである。
ちらほら葉っぱがついているが、そのほとんどが落葉してしまっている。
右奥のイチョウが黄葉全盛期を迎えているなか、もうスッカスカ。
カラッカラのペランペランである。
この落葉っぷりは、たまたまこのサクラに限ったことではなく、
サクラの他の品種でも早くから落葉する傾向があるように感じる。
この肌感覚は多分あっているのだが、科学的に正しいかどうかを知りたかったので、論文を探してみたが、全然見つからない。紅葉の生理的な作用に関する論文はたくさん見つかるんだけどなぁ…
お供として爆食いしていたカレ・ド・ショコラ(カカオ70%)の数がどんどん減っていく。
そして、箱の最後の列のチョコに手を差し伸べ、糖尿病のことが頭をよぎったあたりで、こんな昔の論文を発見した。
その名も
「庭園樹木の落葉期及び期間」(丹羽,1939)
これだ。
こんな題名の論文を待っていた。まさにジャスト。ほとばしる期待。
しかも、庭の樹木を調べてるのが丹羽さんなのもとてもステキ。
ありがとうカレ・ド・ショコラ。きっと君がいなかったら早々に諦めていたよ。
早速内容を見ると、この論文は、東大構内の庭園樹70種について、落葉の開始日、落葉の完全終了日及びその期間を調査したものであった。調べたかったサクラ、モミジ、イチョウも調査対象となっている。
まずはサクラについて、下記の記述があった。
加えて、その落葉の開始日は10/16。落葉の完全終了日は11/15、落葉期間は30日との記録がある。
それに対し、モミジ、イチョウについては
【(ヤマ)モミジ】落葉開始日11/5、落葉完全終了日11/27、落葉期間22日。
【イチョウ】 落葉開始日10/28、落葉完全終了日11/22、落葉期間25日。
と記述されている。
温暖化が進んだ現在の環境と単純比較はできないが、サクラは、モミジ・イチョウに比べ、落葉開始日、落葉終了日ともに当時から早かったようだ。
しかし、この情報だけでは、「紅葉の代表種としてサクラを挙げる人が少ない」理由にはならない。単純にサクラの落葉が早いだけで、他の樹種よりも紅葉が劣る理由にはならない。
僕は論文PDFを穴が開くほど見つめ、他の項目をくまなく探した。
…ら、下記の記述を見つけた。
これだ。
この記述だ。探し求めていたものがここにあった。
そう、紅葉(黄葉)が美しいと言われる樹木は、紅葉が始まっても葉を落としにくいのだ。上記によれば、全体の8~9割の葉が紅(黄)葉した後、落葉が始まるという。
単純に落葉が始まってから終わるまでの期間だけを比べると、
サクラは30日、モミジは22日、イチョウは25日なので、むしろサクラの方が長いという結果がでているが、ここで大事なのは、この期間の中でどれだけ葉っぱを保持するかだ。
葉っぱを保持する力が強いと、色づいた葉っぱが樹幹全体に広がるまで落葉しないため、全体で美しく見えるのだ。一方、保持力が弱いと、紅葉した葉っぱがすぐ落葉してしまうため、一つ一つの葉は綺麗だが、樹幹全体として目立つ紅葉にはならない。
これがサクラが紅葉という面でモミジ、イチョウに劣る理由だと思う。
ただ、残念ながらこの論文でも、「なぜこの現象が起こるのか」ということや、「実験の細かい環境設定」などの記載はなかった。
それに加え、約80年前の論文を現在の環境に置き換えて話してもよいかどうか検討の余地がある。
ひとつ謎が解けたような気がするが、逆に謎が深まったような気もしている…
もしかしたらこの研究のあとたくさんの論文がでていて、私の調査が甘くてこの論文しか見つけることができなかった可能性も大いにありえる。
(もし関連論文あればご教示下さい)
最後にたくさんの課題を抱えてしまったが、僕は生憎、保持力が弱いので、いつの間にか忘れてる可能性が高い。
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