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AIはPRの仕事を凌駕するのか? VOL.4

ブルーワーカーの仕事より、ホワイトワーカーの仕事が先にAIに置き換えられる

その言葉に現実味を抱いたところで、総論に入ります。
実験編では、プレスリリース、メディアリスト、戦略立案、メディアFAQをChatGPTで作成していますので、興味がある方はそちらもチェックしてみてくださいね。

さて、このシリーズの完結編となる今回はこれらの4項目から見える特徴を分析し、全体的な傾向を考え、今後どのように広報やPRの方々がAIに影響されていくのか考えてていきたいと思っていました。ただ考察してみると、どの職種でも共通するインサイトが見えてきて、広報やPRに限らずAIと付き合っていく方法としてまとめました。

4項目の分析は細かいので総論だけで十分、という方もお気軽にどうぞ。

1. ChatGPT作成のプレスリリース考察

プレスリリースはメディアに興味を持ってもらえそうな情報(メディアアングル)を公式文書として提供し、メディアに取り上げてもらうことが本来の目的です。
まだメディアに取り上げられていない新しい情報をニュースとして盛り込むことが有効ですが、ChatGPTはインターネット上に存在している情報をベースに何かを生成するだけで、存在しないものをアウトプットすることはまだできません。ただ情報の正確性は判断しないようで、事実ではないことも入れ込んでくることもあります。

そしてプレスリリースは、人間のサーチ力、創造性、トレンドをキャッチする力、記者やメディアに対する洞察力など複雑なスキルを必要とする書物でしたが、現時点でChatGPTが作成するプレスリリースはよくある形式に倣って文章作成するだけと言っても過言ではありません。

プレスリリース作成からChatGPTの特徴を考える

  • 基本的には与えた情報を、プレスリリースの一般的なフォーマットに倣って文章化する

  • インターネット上にある情報をクロールして生成するため、正しくない情報が含まれることがある

  • ChatGPTはメディアが興味ありそうな切り口を考えて生み出すことはできない

  • 人間が作成するプレスリリースでは読みやすさを優先し、漢字よりひらがなを意図的に使う言葉があるが、ChatGPTは意図を持たず、細やかな配慮はない

  • 日本語に対応はしているものの、インターネット上の多言語の資料も参照しているようで、表現が欧米寄りになる場合がある

プレスリリースのクオリティを担保するなら、現時点では圧倒的に人間が多く時間を割く方が良いことは間違いないと言えるでしょう。しかし、今後のことを考えるとどうでしょうか?

知識がなくプレスリリースを書いている人たちと、AIが作成したプレスリリースが増えたことにより、ChatGPTがそれらの低〜中レベルのプレスリリースから学習して、似たレベルのものアウトプットしています。これが今日の状況です。

そして、プレスリリースが氾濫し全体的にクオリティが高くないものがマジョリティとなって、企業側が求めるクオリティ基準も下がる可能性があると思います。なぜなら、文章の好き嫌いはあっても、そのクオリティがビジネスに対してどう影響するのか、証明や説明するのは簡単ではないからです。

またChatGPTは文章作成を行うことから、使い方によっては時間短縮ができることは疑いようもありません。人間がどのくらい手を入れるかは企業によりますが、今までより短時間でプレスリリースの作成を求められると推測さできます。

2. ChatGPT作成のメディアリスト考察

プレスリリース配信システムが多く広がる前は、企業は独自に記者コンタクトリスト(メディアリスト)を持って、自分達でプレスリリースを送付するか、PR代理店に依頼してプレスリリースを送付するかどちらかの方法でプレスリリースを送付することが多かったのですが、最近はプレスリリース配信システムを使用して配信するだけの企業も多いと聞きます。

そのような企業からすると、あまり必要性を感じないかもしれませんが、プレスリリース配信システムが汎用されたことによって、メディア側は日々多くのプレスリリースを受信することになり、全てに目を通していられない現状もあります。それゆえ、広報部が適切に機能している企業は、プレスリリース配信システムでの送付と、メディアリストへの送付を並行して行っています。これは、メディアへのアプローチをより確実にするためですが、その工数をリターンとして証明することは難しく、メディアリストの必要性については企業側の意見は二極化されるのではないでしょうか。

メディアリスト作成からChatGPTの特徴を考える

  • そもそも記者や編集者の個人情報のリストであること、またこのリストはPRや広報、PR会社にとっては重要な商売道具であることから、コンタクト先まで含んだメディアリストはインターネット上に流出しにくい

  • プレスリリース送付先のメールアドレスをインターネット上で掲示しているメディアもあるが、メディアリストの作成をChatGPTに命じても検索対象にはならない

  • ChatGPTの場合は2021年9月までの情報をベースにしていることから、廃刊や休刊のメディアも含まれる

結論としては、媒体名の選定及びコンタクト先の担当者メールアドレスの入手は、人間の作業によってなされる必要がありそうです。メディアリストの作成は、メディアへ直接電話したりする「単純作業」が大部分を占めるのですが、この部分は引き続き人間に依存します。

3. ChatGPT作成の戦略立案考察

多くの企業で大まかなフォーマットを有し、そこから緻密に練り上げて作り上げていく戦略立案ですが、他のPRの業務と同様にクオリティの可視化が難しい分野だと思います。

戦略立案から考えるChatGPTの特徴

  • ベーシックなフレームは数秒で作る

  • そのフレームの中も、ChatGPTは役に立つソリューションを提供することもある(例えばSNSキャンペーンの概要など)

  • 商品、サービス、企業、業界への深い理解と創造性の融合が必要

  • その戦略を実現可能かを調べる作業は人間に委ねられる

他の提案書と比べて頭一つ突き抜けるクオリティの立案するのはそもそも簡単ではありません。一見ありふれた提案に対して、高い報酬を払う必要性をなくしてしまい、また、大枠(フレーム)が身近になったことから、驚きを与えることへのハードルはより高くなったように思います。

4. ChatGPTが作成したメディアFAQ考察

何かを発表する時や、何らかなの理由でメディアに対応しなければならない時、広報やPRはあらかじめ質問内容を予測し、回答を用意しておきます。

メディアは、回答者の本音を引き出すことに長けています。一方メディアに対して回答することが最初から長けている人などおりません。聞かれたことに対して回答するだけでは、良い記事、もしくはネガティブ回避の記事にするのは難しいことも多いのです。
それゆえメディアトレーニングなるものが存在し、広報の重要性を理解している企業は、限られた人しかメディアに対して話をすることはできず、それらの方々は専門的なトレーニングを受けていることが多いのですが、中小企業やスタートアップではそこまで手もコストも回らないのではないでしょうか?

実際、Covid-19(コロナ)が流行り始めた2020年春には、駆け込みの広報支援依頼が多くありました。「接客業で従業員が感染していることに気が付かず、接客を続けてしまった」「以前より計画していたイベントをキャンセルすると損害が大きく、このまま実行したいが、メディアに聞かれた場合どうすれば良いのか」など。緊迫していた時代では、舵の取り方一つで破綻する企業もありました。
メディアFAQは単なる参考資料でしかないのですが、非常に重要であること多いのです。

メディアFAQから考えるChatGPTの特徴

  • 類似事例があれば、メディアFAQの大枠はアウトプットできる

  • 日本語のみならず外国語で作られている資料を参考にしてくるケースもある

  • 海外の資料も参照にしていることから、日本の風習や文化などにマッチする資料なのかは人間が考える必要がある

  • 細かな質問や回答の準備は、サービス、企業、業界などの深い理解と、クライシスやM&Aなどのその分野のプロフェッショナルの目が必要

重要なことを先に書きますが、メディアに回答するのが人間である以上、声のトーン、話し方や態度などが印象を左右するので、資料の独り歩きは避けるべきです。

しかし、人間に大きく依存する業務ではあるものの、ChatGPTが適切な指針になれば時間短縮が期待できる分野であります。

総論:
AIと付き合っていくために知っておきたい7つのポイント

多くの広報やPRを見てきましたが、これらの仕事に従事している人は、データやAIに対し肯定的ではない人が多い気がしています。

これには、大きく分けて二つの理由があると考察していて、一つはこの仕事のリターンは数字だけでなくクオリティで測る仕事だという自負があること、もう一つは言語系の能力とトレードオフなのか、そもそも数字やデータが苦手であることに起因していると考えています。

ただ現実的にこの分野でAIの使用を法律で禁止することはあり得ないので、AIと付き合っていく方法を模索するか、凡庸の域から遥か上のレベルの一握りのハイパフォーマーになるのか、どちらかだと思います。

AIにアレルギーを起こしそうな人たちに知ってもらいたい、AIと付き合っていくために知っておきたい7つのポイントをまとめました。

  1. 人間に依存する仕事も多く、完全にAIが人間に置き換わることはない

  2. 多くの業務で時間短縮は想定でき、特にコンテンツや文章の作成においてはAIが力を発揮する

  3. 全体的に労働時間が削減されるため、今の仕事と報酬をそのままキープするのは容易ではなくなり、対応する仕事の幅を広げる可能性が高くなる

  4. 人間がAIのアウトプットのクオリティ及び真偽をチェックできる能力が不可欠となる

  5. 仕事のクオリティが全体的に平均化されると、企業にとって便利な人が生き残りやすくなる傾向がある

  6. これまで重要であったものが、AIが力をつけてくる世の中において、その効力がどこまで活かされるかは不明である(例えば、人脈は大切だが人の配置転換のスピードが速くなることは予測できる)

  7. 世の中にあるものはAIが提示できるので、世の中にないもの、及びそれは何かを考えることが重要

以上です。

私自身は、積極的にAIを用いて、クオリティを維持もしくは上げる方法を模索し、肯定的に受けとめています。

おそらく、外資系企業勤めが長く、本国と日本の橋渡しとして資料のチェック、事実確認、日本向けに変換および転換することに慣れていたため、AIと人間の橋渡しだと思えば今までの経験が活きるような気がしています。次に広報、PR職の全般の幅広い経験があること、最後に数学が得意であったことからAIの攻略法や、取り入れる仕組み作りを考えることが苦痛でないことが挙げられます。

一点危惧しているのは、広報やPRをよくわかっていないAI屋さんが、広報、PRツールを開発することです。

AIはあくまでツールなので、この話はここで終わりにし、次回からはESGのPRをテーマにして、つづっていきます。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!

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