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Frank Zappa「The Mothers 1970」レビュー

「死せるフランク、生けるザッパ家を走らす」とでも言うべきか、死後20年以上に渡って未発表音源がリリースされ続ける男、フランク・ザッパ。2020年初の「新譜」となる「The Mothers 1970」は、タイトル通り1970年のフロ&エディ期(タートル・マザーズ期)のスタジオ&ライブ音源がCD4枚に渡って収録されている。Spotifyでも全曲公開されたので、感想をざっくり書いていこうと思う。


Disc 1

Trident Studios, London, UK
June 21-22, 1970

 スタジオ音源。1970年6月21日~22日にトライデント・スタジオで行われたセッションを収録。公式盤では「Sharleena」(「Chunga's Revenge」)と「Wonderful Wino」のベーシックトラック(「Zoot Allures」「The Lost Episodes」)のみが日の目を浴びていた。

「Red Tubular Lighter」「Lola Steponsky / Giraffe」は恐らく初出の曲(少なくとも自分は聴いたことがない)。「Lola Steponsky」は前半のクラシカルな響きが新鮮で、きちんと仕上げていたら面白かったと思う。この辺の作風は後の「200 Motels」に繋がっていったのだろうか。

「Wonderful Wino (FZ Vocal)」はタイトル通りザッパがボーカルを取っているが、「Zoot Allures」収録版のネチャっとした歌い方ではなく割合素直に歌っており、個人的にはこちらの方が断然好み。

「Envelopes」は本作の目玉の一つで、あの現代音楽チックな曲の原型がこの時点ですでに出来上がっていることに驚く(本曲は1970年5月15日のロサンゼルス・フィルハーモニックとの共演で断片的に演奏されているが、ライブで本格的に取り上げられるのは1977年から)。演奏自体もキーボードがどことなくプログレ調で非常に格好良い。


Disc 2

Piknik, VPRO
Uddel, Netherlands
June 18, 1970
+
Pepperland, San Rafael, CA
September 26, 1970

 ライブ音源。1曲目~13曲目はオランダの公共放送局VPROのテレビ番組「Piknik」での演奏。この音源は前々から非公式に出回っており、「Beat The Boots」シリーズの「At The Circus」にも「Mother People」「Wonderful Wino」が収録されていた。音質は正直あまり良くなっているようには思えないが、恐らく補正の余地が殆どなかったのだろう。演奏自体はテレビ番組での演奏ということもあってか手堅くまとまっており、最初期のフロ&エディ期の記録としては貴重か。

 14曲目~17曲目は1970年9月26日のライブの一部がボーナストラック的に収録されている。内容は「Fillmore East - June 1971」でも聴ける「グルーピーとヒットソング」を巡る寸劇で、最後はフロ&エディの古巣であるThe Turtlesの代表曲「Happy Together」で締める流れも同じ。音質は先の「Piknik」ライブよりも良く、個人的には後述する3枚目のライブよりもこちらの方を全編収録して欲しかった(録音がこれしか残っていなかったのだろうか……)。


Disc 3

Civic Auditorium, Santa Monica, CA
August 21, 1970
+
Coliseum, Spokane, WA
September 17, 1970

 ライブ音源。1970年8月21日と9月17日のライブを繋いで一つのショウを組み立てている。9月17日の方はブートレグでも流出しておらず完全に初出。音質自体はそれほど悪くはないが、前半の音の定位がやや右に寄っていて違和感を覚える。そもそも二つのライブを使っていることからして、1970年に限定するとこのレベルの録音しか残っていないということだろうか。演奏についてはフロ&エディ期のライブと聴いて想像する音そのままという感じで、特筆すべき点はあまりない。

 この時期の「Trouble Every Day」は何気に初めて聴いたが、基本的にはオリジナル・マザーズ期に準拠した演奏で、後年の「More Trouble Every Day」に慣れた身としては逆に新鮮だった。ギターソロが格好良い。

「200 Motels」収録の隠れた名曲「What Will This Morning Bring Me This Evening?」は壮大なスケールの演奏で素晴らしいが、続く「What Kind Of Girl Do You Think We Are?」が途中で切れる形で尻切れトンボに終わるのは不満点で、そこは仮にも「編集の鬼」ザッパの名を冠する作品なのだから何か適当な曲を繋いで綺麗に締めるべきだったのでは……と思ってしまう。


Disc 4

FZ Tour Tape Recordings

 4枚目にはザッパが各所で個人的に録音したライブ音源やフィールドレコーディングが収録されている。個人の録音だけあって音質はそれなりだが、ステレオ感は3枚目よりも広く、自分はこちらの方が聴きやすいと思った。選曲は2、3枚目とは異なりインストが主体で、ザッパお得意のソロの抜粋と思しき曲も散見される。

「Another M.O.I. Anti-Smut Loyalty Oath」はタイトルが示すように、「You Can't Do That On Stage Anymore Vol. 6」収録曲「The M.O.I. Anti-Smut Loyalty Oath」の「私達は(卑猥な言葉)をステージ上で決して言わないことをここに誓います!!」と観客に向かって宣言する下りをやっている。どうやらこの時期の持ちネタだった模様。

 先行公開されていた「Portuguese Fenders」はザッパのギターソロとエインズレー・ダンバーのドラムが濃厚に絡むインスト。ザッパのギターソロはフロ&エディ期で一段上のステージに進んだ印象があるが、そこにはやはり卓越したテクニックの持ち主であるダンバーの貢献が大きかったのではないかと思う。

「Guitar Build '70」は典型的な曲からギターソロのみを抜き出したトラックだが、録音場所が不明であり具体的にどの曲から取っているかは判然としない。1分28秒からギターが「Inca Roads」のギターソロ後のメロディの原型を奏でる点、そこに至るまでの流れがやや唐突な点から、中盤以降は「Holiday In Berlin」のソロで、冒頭に別の曲のソロを繋げているのではないかと推測しているが、断定はしにくい。

「Easy Meat」は「Tell Me You Love Me」を連想させる粘ついた雰囲気の演奏。これはこれで完成していると言えなくもないし、当時のアルバムに収録される可能性もあったのではないかと思う。実際はライブ盤「Tinsel Town Rebellion」に1980年の演奏が収録されたわけだが、「Stick It Out」といい、フロ&エディ期に演奏されていた曲が70年代後半以降に再び取り上げられたのは興味深い。

 唐突気味に始まる「Turn It Down!」はジョージ・デュークが快速で飛ばすキーボードソロ。これは「King Kong」からの抜粋だろうか?

「Kong Solos Pt. I」「Igor's Boogie」「Kong Solos Pt. II」は20分以上の熱演。ドラムソロの途中にキーボードとベースがキメのフレーズを放り込む展開が凄まじく格好良い。カットインに始まりフェードアウトで終わるのがもったいないと思ってしまう。

「Gris Gris」はドクター・ジョンの「Gris-Gris Gumbo Ya Ya」のカバー、というかパロディ(?)。ドクター・ジョンの物真似をしているのは確かジェフ・シモンズで、ツアー中の彼の持ちネタだったという話をどこかで聞いたことがある(うろ覚えなので違っていたら申し訳ない)。


総括

 個人的には未発表のスタジオ音源の蔵出しよりもライブ盤の方が好きなので、その意味では4枚中3枚がライブ音源の本作は自分のニーズに合っていると思っていたが、冷静に考えるとフロ&エディ期のライブ演奏は公式盤でも結構な数を聴けるし、ザッパの没後も「Carnegie Hall」「Road Tapes, Venue #3といった本作と近い時期のライブ盤がリリースされていることもあり、新鮮味という点ではそこまででもないというのが正直な所。この時期のセットリストの中では一番好きな「Little House I Used To Live In」と「Holiday In Berlin」のメドレーが収録されていないのも少し残念。

 とはいえ、ファンとしては新譜がリリースされればそれなりに楽しんでしまうのが性というもので、今回も何だかんだでワクワクしながら聴いたし、特に4枚目の「You Can't Do That On Stage Anymore Vol. 5」の1枚目を思わせる雑多な雰囲気はかなり好みなので、今後も折に触れて聴いていくことになりそう。

 とりあえず、フロ&エディ期の録音の蔵出しはこれでしばらくは打ち止めだと思うが、次は年代を進めてまだあまり手が付けられていない時期、具体的には1975年の「Bongo Fury」期辺りを取り上げてくれると嬉しい。

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