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Surrender the fate

ありんごです

かつて予備校にて、受験生どうしでお互いにメッセージを書き合うことがあって、そんな時私はSurrender the fateといつも書いていた。これから挑戦し、受験を乗り越えるはずの受験生にこんなメッセージを書くのは、自分も受験生とはいえどうなんだ?と今なら思うし、あの頃も少しよぎったけれど、たとえあの頃に戻るとしてもメッセージはSurrender the fateしかあり得ない。

努力をしていた。当たり前だ。抜きん出て、権利を掴み取るために。別に努力をしたかったわけじゃない。苦しいことは嫌いだし、面倒なことは嫌いだ。今も昔も同じ。何度も何度も先が見えないことに、100%の合格はないのに限りある時間をほぼすべて投じて挑戦していることに、心が折れそうになった。講師にも「こんなに勉強してても100%うかるかわかんないですもんね」と言っては苦笑いされていた。

それでも、頑張ったその先にある権利が欲しくて欲しくて仕方なかった。それを得て今の場所から抜け出して、より広い場所へと出て行きたかった。たとえ得られるかわからなくても、得るために最上の道を選んだと信じて、時間とお金を注ぎ込んで、前に進んだ。その道を選べる自分の巡り合わせにありがたいと思いながら。

受験っていうのは絶対はない、そういう戦いだ。ぱっと見周りとの戦いだけど、相対的な比較を定期的に行いつつも、真に勝たねばならないのは自分自身だった。これをやれば100%に近づくとわかっていても、それでも100%はなくて、それでもあらゆる誘惑を退け、100%に限りなく近づける道を選べるか。良い選択を積み重ねられるか。毎日がその繰り返しだ。

極限状態において、「人事を尽くして天命を待つ」の真の意味を知る。そして、100%はないことの本当の意味を知る。打ちのめされる。あの時ああしていれば、なんて一瞬よぎるけれど、一瞬で打ち消す。これが精一杯だ。本当にやるだけやったから何ももう、出てこない。出てこないよと乾いた心で思う。少し涙が出たけど、もう一度とは到底思えなかった。真っ白ではないけれどまっさらな気持ちで、新しい道を見つめる。天命に降参するのだ。でも、天命に降参することは、やり尽くしたもののみの特権なのだ。

そして知る。頑張り続けるかどうかという迷いを。一度報われなかった結果を抱き締めながら。「高い目標を掲げて全てを捧げて頑張ったこと」に後悔はなくても、それを一生続けることに戦慄する。身体も心も捧げて頑張ることは何となくいいこととされているけれど、一体自分は1人の人間として、大切でかけがえのない人生をどう過ごしたいだろうかと。

一度頑張りきった人にとって「もう頑張りたくない」と口にすることはおそろしく苦しい。頑張れない自分なんて自分も周りも受け入れてくれないんじゃないかと思うから。でも口に出した瞬間それが本音であることを知る。自分でわかってしまうのだ。身体も心も捧げて行きたい道ではないことに気づいてしまう。いや、そんな道などないことに気づいてしまう。そして周りがどう言おうと本心なのだから自分が受け止めないといけないし、そんな自分を認めて愛せるのも、まずは自分しかいないのだが、簡単なプロセスではなかった。

そうして抜け殻のようになる時期がやってくる。それを解決するのは時間のみであり、過去に引っ張られてとりあえず何か頑張ってみてしまうけれども、うまくいかないことが続く。そしてやっと、頑張ろう!!と思うこと自体が間違いだったと気づく日が来る。そんな自分を認めて愛せる時が来る。

あの頃は若かった。頑張ったことは誇りとして残り、記憶は美化される。それでも本当はあの頃からわかっていた。人は天命に降参するべきだと。人それぞれの生きる道を見つけて、真摯に生きる必要はあっても、「全てを捧げて頑張る」必要があるかというとそれは違うということ。私は自分でSurrender the fateと書いておきながら、自分がそう書いていた意味が後にならないと腑に落ちなかった。

私はまだ、自分の道を見つけきれていない。でも身体も心も魂もずいぶん研ぎ澄まされて、「こっちじゃないよ」ということだけは教えてくれるようになった。今でも見つけなきゃ頑張らなきゃって焦る日はあるけれど、そういう時はロクなことが起きないからすぐ気づける。あの頃の私も「Surrender the fateだよ。見つけようと躍起にならないで。生きて」と言ってくれるようになった。

私は私を生きるんだと常々思ってきたけれど、その本当の意味だって、もしかしたらだんだんとわかってくるものなのかもしれない。だから私は生きる。とにかく生きる。この命が絶たれる瞬間まで。


ありんご

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