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ずっとあなたが好きだった

本当の愛とは?本当に強い女とは?

<登場人物>

有村美咲(40)スナックママ・シングルマザー
有村誠(15)美咲の一人息子
山口和也(カズネエ)(35)ガールズバー和楽店長
片山誠司(40)外科医・美咲元恋人

〇神楽坂全景(夜)
   江戸情緒を残す風情のある通りに様々
   な飲食店や雑貨屋が立ち並ぶ。少し品
   のあるビジネスマンやOLで賑わってい
   る。

○「スナック2005」の看板
   雑居ビルの入り口に置かれた看板には
   ”当ビル3階”と書かれている。

○「スナック2005」(中)
   品のいいスーツを着た男性客と
   若い女性客がカウンターで飲んでいる。
   カウンターの中で飲み物を作っている
   有村美咲(40)。
   そこへやたら姿勢のいい、
   ぴったりとしたシルクのシャツと、
   細みの革のパンツを履いた、
   オネエのような動きの山口和也(カズネエ)
   (40)が入って来る。

カズネエ「美咲ママ、アタシにも一杯ちょうだ
     い!」

   カズネエ、カウンターの高椅子に座りな
   がら、カウンターの中にいる美咲に話し
   かける。

美咲「カズネエ、お疲れさま。
   お店の方大丈夫なの?」 

   そう言いながら美咲、テーブルを滑らす
   ように二本指で水割りを
   カズネエに出す。
   カズネエ、小指を立てながら水割りを一
   気に飲み干して、小声で、

カズネエ「今、べろんべろんに酔ってる太い客 
     が既にウチの一週間分ぐらいの売り
     上げ使ってくれそうだから、
     あとはウチの女の子たちに任せとけ
     ば大丈夫よ!」

美咲「あら、そう。こっちにその方、後で回し
   てくれない?」

カズネエ「ったく、ママは抜け目ないわねぇ」 

美咲「共存共栄でしょ?」

   美咲、爽快に笑う。

   ×××

○「スナック2005」看板前
   タクシーに泥酔した客をカズネエと二人
   で乗せる美咲。

美咲「これ、持って行って!」

   ペットボトルに入った水を客に渡す。

泥酔客「わー!ホント、気が利くなー!
    最初からこっちに来ればよかったよ!
    美咲ママー!」

   泥酔客泣いている。
   タクシーが出発する。そのタクシーに
   優しい笑顔で手を振る美咲。
   カズネエ、ビルの壁に寄りかかり小指を
   立てながら電子煙草を吸っている。

カズネエ「お疲れ!
     一緒に大鵬でラーメン食べて
     帰んない?」
美咲「ありがとう!カズネエのおかげで今日
   の売り上げもなんとか行ったわ!
   さて、
   これから始発まで支払い伝票の
   整理しなきゃ!
   ハイハイ、現実に戻って、
   節約、節約!」

  美咲、せかすようにカズネエの顔の前で手
  を叩く。

カズネエ「美咲ママ、まじめよねぇ!」
美咲「だって、誠の留学費のために頑張ん
   なきゃ!」
カズネエ「もう、身体壊さないでよ!
     お疲れさま」
   カズネエ、
   電子タバコをケースにしまう。

○「スナック2005」(中)
   カウンターに座りカップラーメンの汁  
   を飲み干しながら、アイスバケツに立て
   掛けたスマホの画面を見て喋っている
   美咲。
   カメラには有村誠(15)が写ってい 
   る。

美咲「それで、みんなとはうまくやってる?」 誠「うん!うまくやってるよ。
  スペイン語も
  最近はちょっと慣れたかな?」
美咲「すごいじゃない」
誠「ただ、食べ物だけがなー。
  またカップラーメン送ってよ」
美咲「いいけど。カップラーメンじゃサッカー
   するのに力入んないでしょ?」
誠「母さんこそ、あんま節約しないで、
  もっとイイもん食べろよ」

   美咲、カップラーメンを隠す仕草をし、

美咲「きょ、今日だけよ!」

   二人の笑い声が店内に響く。

   ×××

   美咲、真剣な顔で伝票を見ながら電卓
   を叩いている。美咲、大きなため息を
   つく。ふと、スマホのニュース画面を
   見て、突然、驚いた顔をする。

美咲「国立病院の外科医、片山誠司、大麻所持 
   で逮捕・・え?誠司?」

○渋谷警察署全景

○同留置所中
   緊張した面持ちで座っている美咲。
   アクリル板で仕切られた部屋に、
   警察官に付き添われて
   片山誠司(40)が入ってくる。
   やせこけた顔に無精髭、
   白髪が目立つ。片山、美咲の方を見もせ
   ずに椅子に座る。美咲、大きく息を吸い
   込み、元気な声と笑顔で思い切ったよう 
   に話しかける。

美咲「誠司!お久しぶり!」

   片山、無言のまま下を向いている。 

美咲「突然来ちゃってごめんね!」

   片山、しばらく沈黙した後、下を向い
   たままの姿勢で、

片山「…いや、いいよ。っていうか、美咲だけ
   だから、面会来たの」

   美咲、涙ぐみ、口を両手で押さえる。

片山「何年ぶりかな?」

   片山、おそるおそる顔を上げて美咲を上
   目遣いで見る。
   美咲、涙ぐみながら笑っている。

美咲「15年ぶりだよ」
片山「美咲、全然変わんないな!」
   片山、少し笑顔になる。
美咲「ふふふ」

   美咲、満足げに微笑む。

片山「俺さ、家族に見捨てられたよ」

   美咲、無言で頷く。

美咲「お子さんいくつ?」

片山「11歳。一人娘だよ。嫁に持ってかれた、
   あ、まあ当たり前だよな、
   医師免許も剥奪だろうし」 

   美咲、無言で頷く。

片山「家も全部取られたし、帰るとこもない  
   し。
   まあ、あいつらは実家が金持ちだから
   なんの心配もないんだけどな。
   俺なんかいなくても・・・」

   美咲、無言で頷く。

片山「美咲、15年間もなんで消えてたんだよ」

   美咲、遮るように

美咲「こっちだって色々大変だったんだよ」
片山「なんで俺なんかに会いに来た?
   昔みたいにオマエに色々ねだられたって 
   買ってあげることなんて、
   なんも出来ない、俺なんもないんだぜ」
美咲「だから誠司はバカなんだよ」
   
   美咲、満面の笑みで笑う。
   片山、不思議そうな顔をする。

警察官「面会時間終了です」

   片山、不思議そうな顔でずっと美咲を
   見つめたま部屋から出て行く。 
   その瞬間に 

美咲「誠司!大丈夫だから!」

   美咲、立ち上がりアクリル板に
   両手をつけて片山に向かって叫ぶ美咲。

○留置室内
   金網の張られた殺風景な小さな部屋で
   畳に体育座りをしてぼーっとしている
   片山。

○神楽坂全景・夜

○ガールズバー和楽(中)
   カウンター越しに
   短い丈の着物のようなコスチュームを着
   た若い女子たちがビジネスマンに
   お酌をしたり話したりしている。
   その横で
   カクテルを作っているカズネエ。
   そこへ美咲が入ってくる。

カズネエ「あら!美咲ママどうしたのよ?」 

   美咲、ビジネスマン風の客の横に座り、

美咲「今日は私、お客さんよ!カズネエ、
   ジントニック一杯ちょうだい」

   美咲、ジントニックを一口飲む。

カズネエ「あら、
     なんかお願いごとかしらぁ?」
美咲「ふふ。まあね。
   和楽のいつもの弁護士さん、
   今日いらっしゃる?」
カズネエ「いつもこのぐらいの時間
     ウチの子の同伴出勤に付き合って来るはずなんだけど…って、ちょっと美咲ママ、
     なんか訳ありな感じ?」
美咲「うん・・実はね・・・」

   ×××

カズネエ「え?じゃあ、誠ちゃん、
     そのお医者さまの子なの?」

   カズネエ、素っ頓狂な声で言う。

美咲「うん」
カズネエ「なんで?
     なんでアンタ黙って産んだのよ!
     なんで彼に言わなかったのよ!」
美咲「だって私、高校中退のキャバ嬢だった
   んだよ。釣り合わないよ。
   将来有望な医大生の誠司の未来を奪
   うことなんか出来なかった。
   でも生みたかったの!好きだったから」
カズネエ「まったくアンタってオンナは!」

   カズネエ、後ろを振り向き、
   マスカラをよけながら人さし指で
   涙を拭いている。

○渋谷警察署全景
   片山が手提げ袋を下げて弱々しい足取り
   で出てくる。美咲、満面の笑みで駆け寄
   る。片山しっかりと美咲を抱きしめる。

○ラーメン屋・大鵬(外)
   昭和を感じる古びたラーメン屋。

○大鵬(中)
   店に置かれたテレビからは
   ワイドショーが流れ、
   作業着を着た男達がラーメンを
   食べながらテレビを見ている。
   そこへ片山と美咲が入ってくる。

片山「ごめんな、こんなとこで」
美咲「うううん。ここの味噌バターラーメン
   大好物だから」
片山「そうか。よかった」
店員「はい、味噌バターラーメン、お待ち!」      

   二人の間にラーメンが置かれる。箸を
   割りながら

美咲「いただきまーす」

   片山、真剣な顔で

片山「美咲、医師免許…
   ホント、ありがとう、俺、俺」
美咲「とりあえず、美容整形の先生かなんか      
   でなら、出直せそうじゃない?」 

   美咲、愛おしそうに片山を見つめ、
   微笑む。

片山「オマエと再会出来たなら、俺の人生も
   捨てたもんじゃないな」

   片山、照れくさそうに笑う。

片山「俺、一生懸命がんばるよ!」

   美咲、照れくさそうに

美咲「早く食べなよ!伸びちゃうよ」

   片山、幸せそうな顔をしてラーメンを
   勢いよく食べる。

片山「うまい!ああ、生きててよかった!」

   テレビでは日本人サッカー選手、
   最年少、レアルマドリード入団との
   見出しでスペインで現地の仲間と
   サッカーをしている日本人少年の
   映像が映し出されている。
   その下に有村誠(15)の文字。
               終わり    

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