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認知症にならない方法

今日、脳卒中の患者さんと話していて「認知症の予防ってありますか?」と聞かれた。

「ほとんどの人はできないですけど、予防法ありますよ」

と、答えると患者さんは目を輝かせた。

しかし、私はこの質問が苦手だ。なぜなら、答えを言ったときの患者さんの残念な顔が浮かぶからだ。

「ほとんどの人はできない」と前置きしているのだから、困難極まりないミッションであることを私はちゃんと暗示している。

しかし、ほとんどの患者さんは「聞きたい」という顔をする。

本当は言いたくない。ケチンボで言っているわけではない、

「そんなのできるわけがない」

と、以前ノートで書いた、「しなくてもいい」という報酬を得るためのできないバイアスがかかり患者さんのやる気が萎えるからである。

「認知症にならない方法はないです」

と言えばいいのだがそれは嘘になる、予防法はある。エビデンスもある。ただ、難しいのである。それに、いくら予防をしたところで絶対に認知症にならないわけではない。

タバコも吸わず酒飲まず、太らず、塩分控えめで軽度の運動。をずっとやってきた人でも脳梗塞になったり心筋梗塞になったりする。つまり、予防なんてものは、確率を下げるに過ぎない。病気はなるときにはなるのである。運である。

病気は交通事故みたいなものである。いくら安全に気を付けて青信号で歩道を歩いていても、車が突っ込んでくることはあるのである。

それをふまえたうえでの予防である。

「そんなことはわかっているから、答えを早く言え」

と言う患者さんの圧が強まる。

患者さんたちは認知症になりたくないという恐怖心がある人が多い。脳卒中の人で認知症になる人は全認知症の半数以上である。つまり、脳卒中患者の二人に一人は認知症なのである。恐怖するのも無理はない。

しかし、「できない」を連呼されるのが分かっているのにしゃべるべきかしゃべらざるべきかを0コンマ数秒で判断しないといけない。いつもここで頭を悩まされる。

「やっぱり、やめておきましょう。難しいから」

と言えないような空気が患者さんから放出される。

いたし方なし。

「言っておきますがあくまでも予防法です。それをやったからと言って絶対に認知症にならないわけではありません。なぜなら、認知症医療の第一人者である長谷川和夫先生も年を取って認知症になったのですから。年を重ねれば、しわが増えるのと同じように認知機能も低下するのです。あくまでもアンチエイジングの一環と思って聞いてください」

と、そこまで、ことこまかに前置きしていると「早く」という患者さんの無言の圧がさらに強まる。

私は覚悟を決めて「予防方法」患者さんに教えた。

・外出を週に4日以上すること
・歯の八〇二〇を目指すこと。
・目が悪いと認知症になる可能性が高くなるので眼医者にすぐにいくこと。
・毎日、しなければならない用事を作って、出かけること。
・毎日、家族以外の人と出会って話をすること。
・数独やクロスワードをやってる人はしっかりしてる方が多いですね

ここまで話したところで患者さんの表情が早くも曇る。ほら、きた、きた。

「ね、難しいでしょ。ほとんどの人はできないんです。だから多くの人が認知症になるんですよ」

と、言っても、もう患者さんの不満の声は止まらない。

「そんなの脳卒中で手足が動きにくいのに週に4日外出なんてできない」
「歯だってもう数本しか残ってない」
「白内障だって言われたけど手術なんて怖いからいやだ」
「年取って用事なんてないよ」
「家族以外なんてどうやって話するのさ」
「私は昔から頭を使うことが嫌いなんだ」

怒涛の言い訳が返ってくる。いつものことだ。だから、嫌だったのに・・・。

その他にもたくさん、ネット上には認知症にならない方法として沢山書かれている。
散歩して恋してトランプして囲碁して友達作って、生きがいを持ちなさい。的なことをいろんなサイトで言っている。勉強会でもそんなことをどこに行っても聞かされる。

どれもこれも、ハードルがとてつもなく高いものばかりである。やれば、そりゃ、効果はあるだろう。しかし、確実に

「膝も痛いし、脳卒中だし散歩なんてできない!」
「恋ってバカじゃないの。いくつだと思ってるの!」
「トランプや囲碁なんてやったことがない!」
「この年になって友達なんてできるはずがない!」
「あと死ぬだけなのに生きがいなんて作れるわけがない!」

と、患者さんから言われるのが落ちである。(実際言われたことがある)

ダイエットと同じである。カロリー取らず運動すれば痩せますよ。といっているようなものだ。そんなのは百も承知だができないよ。ってのと一緒だ。
やり方はわかっていてもできないのである。

だから、激動の昭和の時代を生き抜いてきた気丈な方々が認知症になっているのである。

認知症予防は難しい。でもやり方はある。

あなたはやってみますか?



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